フォーゼの言うことを聞きなさい!   作:1202155@

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修・行・料・理

月日と言うものはとても早いものだ。弦太朗は朝ご飯を作りながら、そう考えていた。何せ、夏休みの最中にこの三人を東京の都会から引き取り、既に1ヶ月の月日が流れた。賢吾の研究のバイトや仁村の紹介で始めた、花村製菓店のバイク販売のバイトと仮面ライダー部OBとしての活動をその合間に挟みつつ、弦太朗は空や美愛、ひなたちとの共同生活を送っていた。そんなある日のこと。

 

「いやぁ!弦太朗ちゃん!おかえり」

「弦太朗さん!おかえりなさい!」

「弦ちゃん!おかえりぃーっ!」

 

弦太朗が花村製菓店のバイトを終え、クタクタになって帰宅すると、いつくか見知った声が居間から聞こえて来た。

 

「おう!ただいま……はいいんだけど、なんで蘭が居るんだ?ユウキはともかくとして……」

 

弦太朗が驚くのも無理は無い。

仁村がここにいるのは、バイトやらライダー部の活動が忙しいため、弦太朗が料理を作ることが出来ないことや、何かあってはいけないため、料理の出来る大の男を一人でも、ということで、弦太朗は仁村にお願いしたのだ。仁村はそれを快く引き受けてくれた。同時に、こうも言ったのだ。『弦太朗ちゃんが、街の平和を守る間は、俺がこの娘達を守るよ。だから、弦太朗ちゃんは心置きなく、戦っておいで』。その言葉に弦太朗は涙して、お礼を言ったという。

ユウキがここにいるのは、幼馴染だから、という理由と空達を妹のように思っているからだ。現に、ひなをめちゃくちゃ可愛がっている。

 

「はぁ〜!!かわいいよぉおおおっ!ひなちゃん、かわいいよぉおおおっ!」

「ユウキねぇたん、くすぐったいお〜!!きゃっははは〜!」

「はは!ユウキは相変わらず、子供好きだなぁ。……っでー……蘭、どうしたんだ?」

 

弦太朗が小首を傾げて訊ねると、蘭は眉を潜めてムッとした表情を浮かべた。

 

「なんで、ユウキさんは来て当然!……みたいな反応なのに、私は驚かれてるんですか!?」

「え?ユウキは特に用事なくても、家に来てたしよ、仁村もこいつら来る前から、ちょくちょく家に来てたし……」

「あ……そういう……」

 

蘭は納得したのか、ふむふむと頷いていた。その後、すぐにハッとなった表情を浮かべ、紙袋を弦太朗に渡して来た。

 

「あ!あの、これ!作ってきたんです!よかったら食べて下さい!」

「へぇ〜!蘭が作ってきたのか!悪いな」

「いえ……」

 

蘭の顔が若干紅くなっている気がしたが、気のせいだと思い、渡された紙袋をガサゴソと開けると、中にはプラスチックのカップに入った、プリンが数個入っていた。それを見て、弦太朗は、ヘェ〜、と驚きの声を漏らした。

 

「ハルから聞いてたのと随分違うなぁ」

「へ?」

「いや、あいつから、料理出来ないって、聞いてたから」

「あはは!私も女の子なんですからー!これくらい……

「あれ?でも蘭ちゃん、こないだ友子ちゃんにおしえ……モガッ!モゴモガモゴ!?」

「?どうかしたのか?」

 

弦太朗がプリンを冷蔵庫にしまいに行こうとした瞬間、ユウキが漏らそうとした裏事情を蘭が何処からか取り出したスリッパを口に突っ込み黙らせる。その声に弦太朗は疑問に思いつつ、声をかけながらも、居間を後にした。

 

 

 

 

そんな弦太朗を見て、空が密かに溜息をついた。

 

(やっぱり、お兄ちゃん、女の人が料理の作れないと

幻滅しちゃうかな?)

 

空のイメージの中で、女の人は料理ができないとダメ、という絶対的なものがある。それは、育ての親が二人とも美味しい料理を作れたから、というのもあるが、それ以上に、弦太朗が料理を作れるところが大きい。

 

(お兄ちゃんの料理、おいしいからなぁ……)

 

実は弦太朗、この一ヶ月でかなり料理の腕を上げた。今までは、祖父が不在の場合、一人で食べることが多かった為、男飯というか、女の子から不評のものが多かった……のだが……

 

「男はラーメン!チャーハン!鍋!味噌汁!……だけじゃダメだ!

……デリカシーと配慮が足りねぇ……あれ、言われると答えるんだよなぁ……

うぉおおおっ!こうなりゃ、青春料理修行だぁあああっ!」

 

と叫んだ結果、多国籍コスプレ喫茶のクスクシエやら、ハカランダ、恐竜屋、などの様々な料理店で修行という名の短期バイトをした結果、弦太朗の料理の腕は、舌の肥えた美羽も唸らせるほどの、腕前になった。

閑話休題

 

(私も料理習おうかなぁ……)

 

空はこの先のことも考えて、料理を習っておいたほうがいいと考えていた。大学が始まれば、弦太朗もバイトで帰りが遅くなる。そうなると、誰も料理を作るものがいなくなってしまう。何より……

 

(お兄ちゃんの作る料理……美味しすぎて、ついついいっぱい食べちゃうから、最近、ただでさえ太ってきたのに……夜ご飯食べる時間が遅くなっちゃったら、ますます太っちゃう……)

 

個人的な理由もあるため、なんとか料理を習いたいと思う空であったが……。

 

「むむむ〜」

「?どうしたの?空ちゃん。眉にしわ寄せて」

「いやぁ、ユウキちゃん。眉間に皺ね?眉間……そうだよ。弦太朗ちゃんが、なんかしたの?」

 

ユウキが心配し、声をかける。仁村もユウキにツッコミを入れつつ、どうしたものかと、訊ねると、空は恥ずかしそうに呟いた。

 

「あ……えっと……」

「弦ちゃんめ!空ちゃんを何か困らせたでしょ!!」

 

ユウキが唇を尖らせて、キッチンから戻った弦太朗に非難を浴びせる。藪から棒な出来事に、彼はうぇ!?と素っ頓狂な声を上げる。

 

「弦ちゃん、デリカシー無いからなぁ……」

「弦太朗ちゃん、デリカシーという言葉を宇宙に置いてきたんじゃない?」

「あ。あながち間違ってないかもしれませんねー。仁村さん……ぷっくくく!」

「ちょっ!?まてよ!俺にもデリカシーはあるぞ!」

 

そう言って胸を張る弦太朗。空は言おうとしていたことを呑み込み、弦太朗をジト目で見つめる。その横では美愛が面白そうな口調で、とある複数の単語を述べていた。

 

「ドア、お姉ちゃん、下着、洗濯、お風呂」

「ふぐっ!」

 

強烈なボディブローが効いたかのように、腹を抑えて膝をつく弦太朗。その弦太朗を仁村とユウキ、蘭が首を傾げて見つめる。

空は美愛に顔を真っ赤にしながら、詰め寄る。

 

「ちょっと美愛!流石にお兄ちゃんが可哀想……

「でも、お姉ちゃんも今朝のは流石に怒髪天をついてたじゃん」

「え……と……まぁ……アレは……お兄ちゃんが悪いもん!」

「い、一体何があったんだよ……」

「仁村さんも、そのうち経験すると思いますよ?まぁ、ユウキさんと蘭さんには、今度教えますね!」

 

そう言って、スマイルと共にウィンクをする美愛。この家の権力者が誰なのかは、想像せずとも、容易く分かった。

 

「弦ちゃん……ドンマイ」

「ユウキぃ……俺は……俺は一生結婚できないかもしんねぇ……」

「いきなり結婚!?

まぁ……弦ちゃんらしいか……デリカシー無くても大丈夫だよ?弦ちゃん!?もしかしたら、蘭ちゃん貰ってくれるかもしれないし」

「「え!?」」

 

ユウキの発言にガタッと立ち上がった二人。空と蘭だ。結婚という言葉に反応したようだった。それを仁村と美愛が面白そうに見つめる。

 

「蘭が……アイツにはハルいるからいいや」

「いいや……って……いいやって……いいやって、なんですかァアアアアアッ!このスケコマシッ!」

 

横たわる弦太朗に合気をかけ、転がす蘭。そのまま、ドスドスと不機嫌そうな足取りで如月邸から出て行った。投げられた弦太朗は首を傾げながらこう呟いた。

 

「女心ってわからねぇ……」

「いやぁ、今のは流石に……ねぇ」

「同じ女として、蘭ちゃんに同情します!」

 

仁村があきれ、ユウキが去った蘭に向かって、敬礼を送る。空は先ほど、立ち上がったことに顔を紅く染め、静かに座っていた……

 

 

新学準備

 

 

翌日の朝。空はなんとも言えない寂しい気持ちで目が覚めた。隣を見ると、弦太朗はいない。四人で暮らすには十分な家なのだが、寝るときは四人川の字になって寝るのが、空は楽しみで仕方ない。それは、好きな兄が隣にいる、そして、彼女のプライドが彼に甘えることを許さないため、夜寝るときにこっそり、彼の腕に抱きついてみたりしていたのだ。

だが、朝起きてみると隣に弦太朗はいない。あるのは、綺麗に畳まれた布団のみ。ここ数日、そういったことが多くなったと、美愛が呟いていたのを、空は思い出した。

 

(寂しい気持ちはこれだったんだ……)

 

感慨深くそう思っていると、下で遠くで物音がした。

 

(?お兄ちゃんかな)

 

そう思った空は急いで服を脱ぎ、適当な外行きの服をタンスから引っ張り出し、着替えると、一階に降りていった。すると、そこには丁度今、出かけようとする弦太朗の姿があった。

 

「お兄ちゃん!」

「!おお、おはよさん。珍しく早いな」

「どこ行くの?」

「え?あー……っと、そのだな。ちょっくら、朝の散歩に……」

「散歩にヘルメットは必要?」

「あっ……やべ」

 

ジト目で空が睨むと、弦太朗はビックリした表情を浮かべると共に、ヘルメットを後ろに隠し、嘘バレバレの態度で、弦太朗は一頻り笑ったあとでこう答えた。

 

「あ!あれだ!松茸!」

「へ?」

「松茸取りに行ってくる!」

 

そう言って弦太朗は玄関を飛び出していった。空はそれを怪しく思ったのか、むーっと眉を潜めると、玄関を出た。その時には、弦太朗はその場にいなかった。あるのは、マッシグラーが吐いていった、白煙のみ。それを、見ながら空は小さく呟いた。

 

「お兄ちゃんのバカ……」

 

それは、夏の朝の爽やかな風に掻き消されてしまった………。

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