賢吾と流星との話し合いを終えた弦太朗は1限の時間にはまだ早いので、大学の外のベンチで渡されたスマートフォンをポチポチと弄りつつ、空や美愛の給食費や学用品にかかるお金をメモ帳に書き込んでいた。
「給食費が大体5千円だろ?んで、学用品に2万……んでもって……」
『かけいぼ』と辛うじて認識できるぐちゃぐちゃな文字でかかれたそれに書き込む。さて、ここで皆さんお気づきだろうか?普通、こういったものは、夏前に少なくとも書くものである。だが、彼は何故がそれを9月の半ばも過ぎた頃に書いているのか?その理由は、彼女らとのやり取りにある。
ー8月末日ー
「お兄ちゃん!学校を少し休ませて欲しいの」
慣れないバイトを終え、汗だく+クタクタで帰宅した弦太朗に、空が買ってきた店屋物を乗せた皿とご飯を机に並べながらそう言った。弦太朗は美愛が注いでくれた麦茶を一気飲みしながら、空の意見を聞いた。
「私たちも、いろいろ整理もついてないし、それにまだ、色々落ち着かないじゃない」
「んー。確かにな。引越の手続きとかも踏まなきゃいけないしな」
「それに、ひなの幼稚園も今のところだと、ここから遠いから、探さないといけないし……」
空の意見に弦太朗はご飯を頬張りながら、頷いた。正直な話、ひなの幼稚園についてはマッシグラーを飛ばせばすぐつく距離なのだが、賢吾曰く『二次成長を終えてる子ならいいが、幼子と二人乗りは幼子の首がもげるぞ……風圧で』ということだったので、無理だ。ちなみにそのことについては空には話してない。すぐにマッシグラー乗ることを禁止されそうだからだ。
「おじさんのマッシグラーに乗れれば良いんですけどねー」
「ははは。あれは『賢吾』から借りてる奴だからな。そうそう二人乗りは出来ねぇな。……まぁ、いいや。んで、ひなの新しい幼稚園は目星ついてんのか?」
「いくつかは付いてるよ?けど、実際にそこに入れるかが問題かな」
「あー?なんで?」
弦太朗が首を傾げると、空が呆れたように溜め息をついて説明した。
「はぁ……幼稚園も一応定員があるの。その定員に漏れちゃえば入れない。空いてたとしても、入園料が高い、お嬢様・お坊様幼稚園とかだし。保育園もあるけど、やっぱり、空いてるか微妙だしね」
「なるほど……そういう理由か」
弦太朗はふと、何かを思い出しかのようにマグフォンを取り出すと、そこに表記されているメールを見た。それを見て、彼はしゃぁねえ。と呟くと、マグフォンをポケットにしまう。その一連の動作に疑問を持った空と美愛は首を傾げる。弦太朗はニカッと笑うと、二人にこう告げた。
「ひなの幼稚園の件、俺に任せてくんねぇか?」
「お兄ちゃん、宛があるの?」
「宛はねえ。けど、ツテはある。というか、どうにかしてみせる!」
「……お兄ちゃんがそう言うなら……」
そう言われたら空は引き下がるしかない。空は弦太朗が嘘をつくのが苦手だと知っているからだ。美愛は、心配ですけどー、とからかうように言いながら、弦太朗の腕にしがみついた。
「ふふー!おじさんにおまかせしますねー!」
「おう!任せとけ!」
閑話休題
「とは言った物の……頼ることはないと思ったけど、頼るっきゃねぇよなぁ……」
弦太朗は取り出したマグフォンのメールの部分を眺めていた。そこには、小鳥遊信好の名前が映っていた。弦太朗は意を決して、電話することに決めた。とあるお願いをするために。それは、自分勝手な理由ではなく、彼女達のために。
「信好さんですか?俺っす。如月弦太朗です。実は相談したいことがあって……。はい。え?四十九日の時に話したい?……うっす。わかりました。じゃぁ、それでお願いします。んじゃあ」
弦太朗は静かに電話を切った……。
流星から話を聞いた賢吾はふむ……と考える素振りを見せた。暫くして賢吾は自分なりに答えを出した。
「実はな。ここ最近、天高付近のザ・ホールの活性化が進んでるらしいんだ。それも、小さいが四つ隕石が日本に落ちてからな」
そう言うと賢吾は日本地図を取り出してそれを流星に見せる。それには紅い印がつけられた県がいくつかあった。
「これは、先日落ちた隕石の落ちた場所だ。鳥取砂丘、浅間山、東京湾、日本海溝。これを繋いでいくと……」
賢吾は地図の紅い印を繋いでいく。すると、ザ・ホールがすっぽり入るほどの菱形の形が出来た。
「普通、隕石はこんな短期間に何度も落ちてこない。しかも、それら全てにSOLUが付着していたらしい。おかしいと思わないか?」
「確かにな。専門的なことはあまり分からないが……忘却星座の復活もある……何かあると思うな」
流星に備わっている知識は、メテオをタチバナ……もとい、江本から渡されたときに教わった基礎的なコズミックエナジーの知識とラビットハッチにおける、スイッチなどの整備方法のみ。なので、賢吾のように技術職ではないのだが、賢吾の言わんとしていることが分かったため、こう言った。
「三原博士は、この隕石と忘却星座の企てに巻き込まれた……かもな」
冷めたコーヒーを飲みながら、流星は冷たい声でそう言った。そこには、弦太朗とは違った、戦士としての冷たさと捜査官としての、冷静な推論が見てとれた。
真相の分からないまま、二人は黙ってコーヒーを飲んだ。
オフューカスはその日、日本海溝に来ていた。理由は一つ。落下した隕石の中から《ある物》を回収するためだ。
「ガルスの力で落とした隕石。その中に微量に含まれているSOLU。そいつを回収して、あの男に与え、同じ物を改修すれば、こちらとしてもどうにかなりそうだ……」
「急ぎましょう。下手に動きを荒立てれば、気づかれることになります」
オフューカスの隣で空気の泡を作り、オフューカスが水の中で活動できるようにしているのは、子蟹座の忘却星座のマイナーはオフューカスにそう告げる。オフューカスは、わかっていますよ、と言うと、隕石からSOLUの取り出しをやめると、マイナーを泡の中に引き入れる。そして、杖で泡の底を叩くと、海中からその姿を消した。