では、どうぞ。
空の通う私立中学。その一角にある合唱部の部室では一人の少年が腹立たしそうに空席の一つを眺めた。そこには本来、彼が気になってしょうがないとある女の子が座っているべき場所なのだが、その席に彼女はいない。何故なら、家庭の都合で学校に登校してきていないのだ。
彼はなんともなしにカレンダーを見る。学校が始まってから15日。もう9月の半ばを過ぎているのに来ていないことに、彼はどことなく不安を覚えていた。
「大機……そんなに焦ってたらまた岡江先輩に怒られるよ?」
前島大機に声を掛けてきたのは彼とは正反対の印象の少年。名前は谷修二。大機とは幼い頃から仲がいい。そんな彼は猪突猛進かつ熱血漢の彼を抑えることが多く、今回も彼の暴走を止める為に一声掛けたという次第だ。
大機はでも、と不満そうに唇を尖らせて文句を言う。
「小鳥遊が学校に来ないんだぜ?心配じゃねえのかよ」
「んー……確かに心配だね」
修二はカレンダーをチラリと見て、そう言った。そして、その後で、だけど、と付け加える。
「小鳥遊さんはご両親を亡くされて大変なんだから、心配する気持ちはわかるけど、僕たちに出来るのは、ただ待つことだけだよ」
「あ……ぁあ」
納得いかないという風に頷く大機を見て修二は、それも仕方ない、といった風に肩をすくめた。
大機が心配するのも無理はない。彼の言うとおり彼女がいつまでも来ないのはおかしい気がしたのだ。それに
(大機はまだ知らないみたいだけど、小鳥遊さんがリーゼント姿の不良と一緒にいたって噂もあったな……)
改造したダサいバイクに革ジャンを羽織ったリーゼントヘアの男が空を後ろに乗せて、走っていた、という噂が。
(ちょっと確認しに行くかな)
先日先生に頼まれた野暮用を思い出し、そう考えた。
ジョーカーは向かってくるダスタードを殴り倒してゆく。ダスタードの手裏剣型のエネルギー弾が放たれるが、美羽がそれらを全て撃ち落とす。
そのすきに彼は一気にダスタードの頭上へ飛び上がる。そして、バタフライキックを叩き込む。頭に攻撃を叩き込まれ、フラフラのダスタード。そこへ美羽がショックガンを放ち、ダスタードを倒していった。
「流石だぜ。レディ?」
「お褒めにあずかり光栄よ?ミスター?ふふっ!」
ジョーカーが軽い口調でそう言うと、美羽も軽口でスカートの裾を持って、一礼した。
ナイスコンビネーションを発揮した二人。その二人にノクトゥアが襲いかかる。
「ふふ!行くわよ!」
「あぁ……かかってこい!」
しゃがんだ状態から左手を振り払うように立ち上がると、身構える。ノクトゥアは両手にエネルギー弾を纏い、ジョーカーへ殴りかかる。ジョーカーも同じタイミングで拳を繰り出す。ぶつかった拳がスパークを起こした。二人はそこから、激しくぶつかり合う。
「オラァッ!」
「なんでっ!」
激しいぶつかり合いを征したのはジョーカーだった。強烈な右ストレートが、ノクトゥアの腹部に突き刺さった。その衝撃で吹っ飛んでゆくノクトゥア。そんな彼女にジョーカーは死刑宣告を言い渡す。
「さぁて……悪い子にはおしりペンペンだ。いくぜ?」
《Joker!Maximum-Drive!》
ジョーカーメモリをマキシマムスロットへ装填し、スイッチを叩くと、右脚にエネルギーをチャージ。そのまま、相手に跳び蹴りを叩き込んだ。
「……ライダーキック!」
それは真っ直ぐ、ノクトゥアの臀部めがけて向かってゆく。しかし、それは当たることはない。何故なら、ノクトゥアを守るように、巨大な触手のようなものが現れたからだ。
「ンなっ!」
「シャーッ!」
触手のようなものはジョーカーを叩き落とし、ライダーキックを不発に終わらせる。勢いよく地面に叩きつけられたジョーカーはヨロヨロと起き上がった。触手の正体は体長3メートルはある、大蛇だった。
「蛇か……」
「シャーッ!」
体を伸ばし、威嚇する大蛇。巨大な牙がうっすらと陽光を浴びて煌めく。ジョーカーはさて、どうしたものかと、言わんばかりに、短く息を吐き捨てる。
(フィリップがいりゃ、どうにかなるが……このままだとなぁ……)
ジョーカーはチラリと美羽を一瞥する。彼女はジョーカーとノクトゥアの戦闘を静かに見守っている。それに安堵しつつ、彼は大蛇を指さして、ノクトゥアに問う。
「こいつはお前のペットか?」
「違うよぉ。この子はー
「私の従者よ。左翔太郎」
声がした瞬間、周囲の風景が消えた。その光景に驚いていると、ノクトゥアと大蛇の隣に、ターバンとサリーを纏ったような、女性的な怪物が現れる。その手には十字架の大杖に三日月型の刃のついた武器が握られている。
「私はオフューカス。忘却星座のリーダーにして盟主。我望光明の意思を継ぐ者よ」
「俺の名前を知ってるってことは、財団Xの関係者か?」
「ええ。まぁ、当たらずとも遠からず……かしら?利害は一致しているわね」
「そうか……なら、あんたをとっ捕まえて、照井か後藤の奴に渡さないといけねぇな」
ジョーカーはそう言うと、左手をスナップし、ゆっくりとオフューカスに近づいてゆく。オフューカスは息を溢すように笑うと、ジョーカーに話しかけた。
「ねぇ?一つ、かけをしないかしら?」
「かけ?」
いきなり持ちかけられた話に訳が分からず、ジョーカーは歩みを止めた。オフューカスはどこからか、小さな小箱を取り出すと、それをジョーカーに投げ渡した。
突然投げられたそれをジョーカーは慌てながらも、器用にキャッチし、確認する。一見何の変哲もないただの小箱だった。
「それは、選ばれしものしか空かない小箱よ。箱は二つあるの」
そう言ってオフューカスは箱をもう一つ取り出した。ジョーカーの渡されたものとそっくりのものを。オフューカスはそれを指さしながら説明する。
「あなた方がそれを先に開けることが出来れば、私達は財団Xについて可能な限り話してあげる。でも、私達が先に開けたら……」
そこでオフューカスは一旦区切り、一息ついてから、話した。
「財団Xにあなた達のすべてを話すわ。覚えたおきなさい……仮面ライダー?」
そう言うと、オフューカスは大蛇とノクトゥアと共に姿を消した。それと同時に景色が元に戻った。ジョーカーは渡された木箱を手に、辺りを見渡した。
「逃げられたか……」
静かにそう呟くと、ドライバーからメモリを抜き取り、変身を解除した。その翔太郎の元に、美羽が駆け寄ってきた。翔太郎は木箱のことを説明するため、彼女と共にリムジンへ戻ってゆく。
……この時、翔太郎は気づかなかった。自分の身につけている時計と、街の時計に時間差があることに……。
弦太朗は重い足取りで家路についていた。家に帰ればよし子がいるとわかっているからだ。昼間も怒られた弦太朗は夜も怒られなきゃいけないのか、と考えると、自然と歩みが止まってしまう。それでも必死にそれをこらえて弦太朗は歩いていた。
「はぁ……嫌だなぁ……」
と呟いて、家の玄関の前に立つ弦太朗。扉に手を掛けようとしたその時、誰かがふっ、とやって来たのを感じた。後ろを振り返ると、そこにいたのは平々凡々な男の子。その手には通学鞄を持っており、学校帰りなのが見受けられた。男の子はポケットから紙を取り出し、表札と見比べていた。やがて、ここか、と呟くとそこで顔を上げ、弦太朗に気がついた。
「あの〜……すいません。ここは小鳥遊さんのお宅ですか?」
「ん?あぁ。そうだけど。お前、もしかして空の学校のクラスメイトか?」
「はい!谷修二って言います!実はですね、小鳥遊さんに渡したいものがあって……」
「おう。そうか。あ!ちょ、ちょっと待っとけ!」
弦太朗は空の友人?とおぼしき人物が来たことを喜び、玄関を開け、中に入った。
「おばさんは……二階か。空と美愛も同じ……っと」
「あ!おいたん!おかえいなしゃーい!」
「おう!ひな!元気にしてたか?」
スーパマリオ64のBGMと共にひなが弦太朗を出迎えた。弦太朗はひなを抱きかかえると、扉を開けて空の友人?である、修二に声をかけた。
「中入ってくれ。空は今、ちょっと野暮用で上にいるけどよ」
「え?あ、でも、お邪魔なんじゃ……」
「空の友達は、俺の友達みたいなもんだ。それに、わざわざこの暑い中、遠くから届けに来てくれたんだろ?折角来たんだ。飯でも食ってけよ」
弦太朗がニッコリ笑ってそう言うと、修二はポカーンと口を開けて、ゆっくり頷いた。