また、お通夜みたいな空気が流れてしまっている、実際俺が死にかけなのであながち間違っていないのが、よりいっそう空気を重くしていた。
「あ、あ〜ちょっと飲み物取ってくるわ」
「私は紅茶で構わないわ」
「小町コーラで」「あたしもあたしも〜」
「我はサイダーだ」
「あっ八幡、僕も手伝うよ。蒲生先輩は何にしますか?」
「……コーヒーで」
「あっ僕と同じですね。嬉しいなぁ」
何この子めっちゃ天使なんですけど!
八幡達が気を遣ってくれたおかげで、なんとか誕生日パーティーらしい空気に戻ってきた。
「そういえば小町気になってたんですけど、なんで誕生日パーティーをカラオケでやったんですか?」
「一番の理由は個室だからだな。騒いでも怒られないし世間の目に晒されることもない。それに、この人数で家に押しかけるのもなぁ」
「あ〜なるほど。でも、お兄ちゃんの誕生日会はうちでやっても大丈夫ですよ? お母さんとかお兄ちゃんの誕生日に友達が来てくれただけで泣いちゃいますよ」
「それを聞くと、尚更行きたくないのだけど……」
まぁ家族総出で歓迎されるとボッチには行くのを躊躇う理由になってしまうよな。
「え〜良いじゃんヒッキーの誕生日パーティー、ゲームとかで盛り上がれそうだし」
「由比ヶ浜さん、比企谷くんがパーティーゲームの類いを持っている筈がないでしょう、やる相手がいないのだから。もっと気を使いましょう?」
いや、ね? じゃないわ。可愛いらしく首を傾げながら毒を吐くんじゃない。
「あながち間違っていないんですよね。一応、お父さんが買ってきたパーティー用ゲームがあるんですけど、もっぱら小町が相手をしてましたね……お兄ちゃんは一人で出来るゲームばっかやってますし」
うっなんでこう地雷ばっかしなんだ。
「えと、確か8月だったよねヒッキーの誕生日! またみんなで集まれたらいいねー」
「ですです♪ あっお兄ちゃん帰ってきた。開けてあげないと」
カチャ
「おー持って来たぞ。材木座はカレーだっけ?」
「我をデブキャラ扱いする気か!」
いや、まずドリンクバーにカレー無いだろ。
「お兄ちゃんありがとー。ではでは〜せっかくカラオケに来たんですから歌っちゃいましょー!」
「私は遠慮しとくわ」
「え〜雪乃さん歌いましょうよ〜それとも、自信無かったり?」
挑発の仕方が八幡そっくりだ、やっぱ兄妹なんだな。
「……別に歌うこと自体に抵抗はないわ。ただ、一曲歌いきるだけの体力があるか自信が無いだけよ」
「そりゃ体力無さすぎだろ。スプーン持てないぶりっ子女子じゃねぇんだから」
すると、ちょいちょいと結衣が雪乃の袖を引いた。
「ゆきのん、それじゃ二人で歌おうよ。二人なら体力半分で済むよ?」
「……はぁ一曲だけよ」
ほんと結衣には甘いよな〜それじゃお先に歌わせて貰おっかな。ピピッとリモコンを操作するとすぐにメロディが流れ始める。
「福山○治!? 渋いっ!」
小町ちゃんがびっくりしてるけど、好きなんだから良いじゃないか。
♪ 〜♪ ~
「96点……上手すぎだろ……」
そんな事ないよ八幡……ヒトカラで鍛えてただけさ。
「ほれ雪乃の番、点数なんて気にしなくて良いからな」
マイクを受け取った雪乃の目が一瞬でガチになる。
「いくわよ由比ヶ浜さん」
「結構ノリノリだっ!」
アリガトーゴザイマシター
フリータイムで入ったとはいえ、随分長くいてしまったな。もうすっかり夜になってしまった。
「ちょっとゆきのん大丈夫? 声ガラガラだよ?」
結衣に支えられながらゆっくり歩く雪乃、十曲は歌いすぎだろう。
「くっ! あと0.256なのよ! もう少しだったのに……」
「どんだけ負けず嫌いなんだよ。蒲生先輩も雪ノ下が点数抜いた瞬間抜き返すしよ」
それはしょうがない。真剣勝負だからね!
「あはは……最後の方は雪乃さんマイク独占してましたね」
まぁ楽しく過ごせたんだから良いじゃないか。
ん? いま自動ドアから出てきたのって、まさか平塚先生?
「はぁ、一人でこんな時間まで過ごしてしまった……まぁ帰っても一人なんだけど……ふふっ」
うわぁまた婚活失敗したのか? 負のオーラ全開じゃん。
「あれ? 平塚先生、今日はパーティーじゃ無かったんですか?」
「ゆ、由比ヶ浜!? 君たちまだいたのか!?」
あれ? 誰かに会ってたのか? 可能性があるとしたら、ドリンク取りに行った八幡達かな?
あわあわしてる平塚先生をみかねたのか、結衣が慰めるように話しかけた。
「せ、せんせ? あの、別に結婚がすべてじゃないですよ! あれですキャリアウーマンとか、先生強いから一人でも生きていけますよ! だから元気出してください!」
結衣……そりゃトドメだ。案の定結衣の言葉を聞いた瞬間、平塚先生の瞳にはじわっと涙が滲んだ。
「う、うわぁぁぁ! 昔、まったく同じこと言われた」
聞いてりこっちが辛くなる事を呟くと、平塚先生は全力疾走で逃げ出した。
「あっ逃げた…」
そりゃ逃げたくもなるわな。
あまりの虚しさに一同黄昏ていると、風に乗って悲痛な叫びが聞こえてきた。
「はぁ……結婚したい……」
…もう誰かもらってやれよ。