やはり先輩の青春ラブコメはまちがっている   作:チキチキ

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手作りは失敗がつきもの

 家庭科室はバニラエッセンスの甘い匂いに包まれていた。雪ノ下は流れるように準備を始めている。その一連の流れから料理慣れしている事が伺え、由比ヶ浜さんもほえ〜としながらも目をキラキラさせていた。

 

 エプロンをつける時に多少ごたついだが、どうやら準備は整ったようだ。

 やっぱ制服エプロンは至高だな! うん! 

 

 

 ……幸せだったのはここまでだった……

 由比ヶ浜さんの調理技術は我々の想像の遥か下であった。

 まず溶き卵には殻が入り、ボウルは回転し続け、それにより小麦粉は全く混ざっておらずダマとなり、バターは原型を留め、砂糖ではなく塩を大量に使い、バニラエッセンスはどばどば入れるし、牛乳はたぷたぷしている。

 雪ノ下と比企谷くんを見てみると2人とも絶句していた。

 

「さて、と……」

 由比ヶ浜さんはおもむろにインスタントコーヒーを取り出し、そのままボウルへ入れた……もう何も言うまい

 

「おまっ一体なにを……!?」

 

「え? 隠し味だけど? 男子って甘いもの苦手な人多いじゃん?」

 いやよそ見しちゃ駄目だよ!? 

 あ〜あ……案の定ボウルの中には黒い山が出来ていた……

 

「全っ然かくれてねぇ!」

 

「え? あ〜じゃあ蜂蜜入れて調整するよ」

 ブチュッとボトルを握りしめ蜂蜜を投入した。黒い山がテッカテカになっている。やべぇ吐きそう。

 

 

 数分後、例のブツは出来上がった

「な、なんで?」

 由比ヶ浜さんが愕然とした表情で暗黒物質を見つめている。雪ノ下も呆然としていた。

 

「いやーでも食べてみたら美味し……かも?」

 

「比企谷くん、出番よ。味見は貴方の担当でしょう?」

 

「おいおい、雪ノ下にしては珍しい言い間違えだな……こいつは毒味って言うんだ」

 

「どこが毒味よ! ……毒、うーん毒かな?」

 威勢よく突っ込んだわりには見た目が不安だったのか、小首を傾げてこちらを見てくる。

 ここは、先輩としての威厳を見せなくてはいけない。

 

 俺はおもむろにクッキー(仮)を掴むと比企谷くんは驚愕の眼差しを向けていた。

 

「先輩マジで逝くつもりですか!?」

 

「あんなに一生懸命に作っていたのだ、無下には出来ないだろう」

 

「……比企谷くん、これも依頼の一環よ。私達も食べましょう」

 

「……仕方がないか……」

 

「うむ。それでは由比ヶ浜さん、いただきます」

 

 

 結論を言おう。不味かった。

 いっその事気絶したいくらいで後輩3人共に瀕死であった。

 

 紅茶で口直しをすることで、ようやくひと心地つきため息を漏らす。

 

「さて、これからどうすれば良くなるか話し合おう」

「由比ヶ浜が二度と料理をしないこと」

「全否定された!?」

「比企谷くん、それは最後の解決方法よ」

「それで解決出来ちゃうんだ!?」

 がっくりと肩を落とす由比ヶ浜さん

 

「やっぱりあたし料理向いてないのかな? 才能ってゆーの? そういうのないし……」

 

「なるほど、ならば努力あるのみね」

 確かにそれしかないだろうな

 

「それ解決方法か?」

 

「努力は立派な解決方法よ。正しいやり方をすればね

 由比ヶ浜さん、あなたさっき才能がないって言ったわね?」

 

「えっあ、うん」

 

「その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像出来ないから成功しないのよ」

 雪ノ下の言葉はどこまでも正しかった。

 天才は「天才」と呼ばれる事を嫌う、そんなたった2文字で努力を無かった事にされるのは本当に腹ただしい事だ。きっと雪ノ下も似たような経験があるのだろう。

 

「いや〜でも、周りもそーゆーのしないし……」

 

「……その周囲に合わせようとするのやめてくれるかしら。ひどく不快だわ、自分の不器用さ、無様さ、愚かさを他人に求めるなんて恥ずかしくないのかしら?」

 辛辣〜! 比企谷くんも由比ヶ浜さんも絶句してるじゃん……だが、ここは心を鬼にして厳しい言葉を送らなければ由比ヶ浜さんの成長に繋がらないか……

 

「由比ヶ浜さん、確かに俺達は君の依頼を受けたがこれ以上続けるかは君次第だ。やめたければ帰ってもいい。私は苦難を乗り越えようともしない人間を助ける気は無い」

 

 

 由比ヶ浜さんはついに俯いてしまった。

 言いすぎてしまったか……

 

「かっこいい……めっちゃかっこいい!!」

 

「は?」

 

「建前とか全然言わないんだ……なんていうか、そういうのかっこいい……」

 

「な、何を言っているのかしらこの子……私、かなりキツいことを言ったのだけれど……」

 

「うん、まぁぶっちゃけ引いたけど。それでも本音って感じがした。私はいつも流されてばかりだから……

 ごめんなさい、次はちゃんとやる。だから教えて?」

 

 どうやら俺の心配は杞憂だったようだな。

「……正しいやり方ってのを教えてやれよ。由比ヶ浜もちゃんと言うこと聞け」

 

「そうね、1度やってみせましょうか」

 

 

 そういうと雪ノ下はあっという間にクッキーを作って見せた。もう見た目からして美味しそうだよね♪ 

 由比ヶ浜さんも「おいっしー♪」って喜んでるし、お店のって言われても信じちゃうな。

 

「では、由比ヶ浜さんやってみましょうか」

 

「はーい♪」

 

 

 2人の激闘は始まった。雪ノ下が少しでも目を離すと勝手にアレンジを加えてしまうため片時も目を離さず指示を出していた。そして……

 

「なんかちがーう!」

 

「どうすれば分かって貰えるのかしら……」

 2回目のクッキーは最初程ひどくは無かったが雪ノ下が作った物には遠く及ばなかった。

 雪ノ下もかなり疲労が溜まっているみたいだし、ここは先輩としてアドバイスをするかな。

 

「由比ヶ浜さん、最初のクッキーと2回目のクッキーどちらが良かった?」

 

「えっそれは2回目だと……」

 

「俺は最初のクッキーの方が良いって思うよ。確かに味は酷かったけど、大切な人にクッキーを贈りたいって想いがこもっていた。

 2回目作る時は雪ノ下みたいな美味しいクッキーを作りたいって気持ちの方が強かったんじゃないかな?」

 

「確かにそうだったかも……それじゃどうすれば……」

 

「簡単な事だよ。大切な人に美味しいクッキーを食べさせたい。それで良いんだよ」

 

「あっ」

 

「その為に俺達はいるんだから、何度でも付き合うよ」

 

「手段と目的を取り違えていたみたいね。由比ヶ浜さんごめんなさい」

 

「大丈夫だよ? 謝らないで? 雪ノ下さんのおかげで凄く勉強になったし」

 

「まぁ俺も仕事だしな。試食なら付き合う」

 

「よし! なんかやる気出てきた! 頑張るぞー!」

 

 

 そしてその後も何度かやり直してるうちに外はすっかり暗くなり、そろそろ最終下校時刻が近づき始めた頃

 

 ……ついに最後の成果が完成した。

 ふわ、とオーブンを開けた瞬間に漂う香ばしい匂い。

 取り出されたそれは形にも歪みはほとんどなく、1つ1つ綺麗なきつね色、素晴らしい仕上がりだった。

 少し冷めるのを待って、4人で試食する。

 サク、という軽やかな食感と共にじんわりと広がるまろやかな甘み。

 確認のためもう何枚か食べてみるが、そのどれもが文句なしに美味しいクッキーだった。

 雪ノ下もこの仕上がりに満足そうに頷いた。

 それを見て思わず、と言った風に由比ヶ浜さんが雪ノ下に飛びついた。

 

「ヤッター! 私にも美味しいクッキー作れたー!! ほんとに、みんなありがど〜」

 後半なんて涙混じりで、思わず俺も泣きそうになってしまった。

 

「もう、由比ヶ浜さん泣きすぎよ? ほらこれで涙を拭いなさい」

 

「ゔんゔん……(T ^ T)」

 

「さてと、俺は平塚先生に連絡してくるから。比企谷くん後は任せていいかな?」

 

「理解っす」

 

 俺は職員室へ向かった。

 新生奉仕部初依頼は無事完了かな。

 はぁ良かった〜

 

 

 帰りは平塚先生に送ってもらったよ! 

 やっぱあの人イケメンだわ

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