あれから由比ヶ浜さんは毎日のように奉仕部へ出入りするようになった。特に雪ノ下に懐いたらしく「ゆきのん」と呼び、じゃれあう様子はなんとも微笑ましい。
なんとまぁ可愛らしい渾名を付けたものだ。雪ノ下は渾名を付けられたのは初めてだったのか、口では嫌がっていたが満更でもなさそうであった。
かくいう俺にも彼女は渾名を付けてくれた。
「ごー先輩」だ。剛健が読めなかったとは思いたく無いが、あながち間違って無いのではと不安になる。
そして今日は結衣がお昼ご飯に誘ってくれた。
なんでも、「ゆきのん、ごー先輩と一緒にご飯食べる〜」とのこと。あれ? ヒッキーは?
そんなわけで、やけにソワソワしたゆきのんと結衣を待っていたんだけどなかなか現れない。
「……来ないわね由比ヶ浜さん」
「迷っているんじゃないのか?」
「……否定しきれないのが辛いわ……」
はぁとため息を漏らす。
「向かいに行ってみましょうか」
俺達は足早に2年F組まで向かった。
飯食う時間残ってるかな?
比企谷八幡side
女王三浦の突然の爆発によりクラス全体に緊張がはしっている。さながら、某一流フランス料理店の厨房の如く物音をたてただけで退学にされてしまいそうだ。
もうやめろよ、めんどくせぇ。見てるこっちも気を使うんだよ。もう一度なけなしの勇気振り絞るしかないか!
俺が立ち上がり2人の元へ向かうのと、由比ヶ浜が涙に濡れた目で俺を見るのは同時だった。
「ちょっと結衣、どこ見てんの? あんたさぁさっきから謝ってばかりだけど……」
「謝る相手が違うわよ、由比ヶ浜さん」
クラス中の視線が声の方を向く、そこには氷の女帝雪ノ下雪乃が立っていた。
三浦と雪ノ下では格が違う、さっきまでとはまるで空気が違うのを肌で感じた。めっちゃ鳥肌たってるんですけど
「由比ヶ浜さん。あなた、自分から誘っておきながら待ち合わせ場所に来ないのは人としてどうかと思うのだけど。遅れるなら連絡の1本くらい入れるのが筋ではないのかしら?」
雪ノ下の出現に安心したのだろう。由比ヶ浜は微笑みを浮かべながら彼女の元へ向かう。
「ごめんねゆきのん。でも、あたしゆきのんの連絡先知らないし……」
「あら、そうだったかしら? なら、一概にあなたが悪いとは言えないわね。今回は不問にするわ」
あいつマイペースだな……自己中ともいう。
「ちょ、ちょっと! あーし達まだ話し終わってないんだけどっ!」
三浦が食ってかかろうとしたその時
「結衣いるか?」
覇王が現れた。雪ノ下と一緒に来たのだろう蒲生先輩がクラスに入って来た。
なんか、めっちゃオーラ出てますけど機嫌悪いんですか?
クラスのあちらこちらで小さく悲鳴があがり、真正面にいる三浦は椅子に崩れ落ちるように座った。
あれ腰抜けてね? 蒲生先輩いつから覇王色の覇気使えるようになったんすか?
「むっ取り込み中だったか。結衣何かあったのか?」
蒲生先輩に話しかけられた由比ヶ浜はめっちゃいい笑顔でトコトコ歩いていく。
うん、援軍としては最高だよね。でも、ちょっと過剰戦力じゃないかしら?
「たはは、お待たせしちゃってごめんなさい。ちょっと友達と話してて……でも、もう大丈夫です! 直ぐに行くから先に行っててください!」
「……分かった。行くぞ雪ノ下」
蒲生先輩は由比ヶ浜の頭を1度撫でてから、雪ノ下を連れて帰ってしまった。
はぁ〜嵐みたいな人だなぁクラス中呆然としてるぞ
その後、俺は集団離脱のビッグウェーブに紛れ、無事教室から脱出すると、雪ノ下と蒲生先輩がいた。
どうやら由比ヶ浜が心配で様子を伺っていたみたいだ。
しばらくすると、由比ヶ浜と三浦の会話が聞こえ始め、そして無事に彼女の気持ちを伝えることが出来たようだ。
「……なんだ。ちゃんと言えるじゃない」
そう言って優しく笑う雪ノ下に見惚れてしまった……
俺にも優しくしてくれていいんだよ?
2人とも特に会話することなく、さっさと廊下の向こうへと消えていく。きっと由比ヶ浜との待ち合わせ場所へ向かったのだろう。
由比ヶ浜結衣という1人の少女の成長を見る事が出来たんだ。それならまぁ俺もなけなしの勇気を振り絞ったかいがあるってもんだろう。
……その直後、教室から出てきた由比ヶ浜に理不尽に罵倒されたのは完全な蛇足である。