次の日、俺は朝から憂鬱な気分だった……
材木座くんの小説は俺に多大なる精神的ダメージを与え、今日の授業はほとんど寝て過ごす羽目になり、めぐりにも怒られてしまった。
まぁプンスコめぐりんもめっちゃ可愛いけどね!
そんなこんなで特別棟を歩いていると結衣が手をブンブン振りながら近付いてきた。
疲れてるのかな? あるはずの無い尻尾がブンブンしてるのが、見えた気がした。
「ごー先輩やっはろー! あれ? 元気ないみたいだけど、どうしたの?」
「やぁ結衣、今日も元気だね。小説はちゃんと読んできたかい?」
「ふぇっ? あ……忘れてた……ごめんなさい」
多分寝ちゃったんだろうなー
「はぁ……材木座くんが来る前に読んどきなさい」
怒ってないから、その下手な口笛やめなさい。可愛いけどね。
コンコン
部室で待機していると唐突にノックの音がした。どうやら材木座くんが到着したみたいだ。
「頼もう。
では感想を聞かせてもらおうか」
態度だけは一端の小説家だな。
「ごめんなさい。私にはこういうのよくわからないのだけど……」
「構わぬ。凡俗の意見も聞きたいところだったのでな。好きに言ってくれたまへ」
雪ノ下はそう、と短く返事をすると
「つまらなかった。読むのが苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ」
「ゲファッ!」
一刀のもとに切り捨てたよこいつ……
そこからは雪ノ下による死体蹴りが始まった。見てるこっちはもう気の毒で見ていられなかった……
「あ〜雪ノ下? そろそろ……」
もうやめたげてよぉ!
「しかしまだ話し終わってないのですが……」
雪ノ下が持つ原稿用紙を見てみると、おびただしい付箋と赤線で染まり、さながらハリネズミのようであり、かの映像化不可能とうたわれた某アニメの絵コンテに匹敵するあまりにも無残な姿であった。
ここまで来るとある種の狂気を感じざるを得ない。
「雪ノ下、もう許してやれ」
「まだ、言い足りないけど……まぁ良いわ。次は由比ヶ浜さんね」
「えっあたし!?」
呼ばれると思わなかったのか、由比ヶ浜は驚きと共に返事をした。
そんな由比ヶ浜に縋るような視線をぶつける材木座を、流石に哀れに感じたのか、いい所を探そうと手元の原稿用紙を探る。
「えっと……その〜難しい言葉を沢山しってるね?」
「カハッ!!?」
「トドメ刺してんじゃねぇよ……」
無垢! それ故に何という危うさか!!!
「えと、えと……じゃ次はごー先輩で!」
由比ヶ浜さーん? 丸投げは良くないよ?
はぁしかしどうしたものか……正直クソとしか言えないしなぁ。嘘もつきたくないし。
「蒲生氏っ! 貴方なら分かるはずだ! 我が忠臣たる貴方なら!!」
「材木座くん。……ボツ」
「ぶひぶひぃぃいいっ!!?」
「全否定じゃねぇか……」
「直しすら許さないなんて、蒲生先輩流石だわ……」
既に材木座くんは死に体、泡を吹きながら虚空をみつめている。
「では、最後に比企谷くん」
その言葉に、最後の希望を見出したのか材木座くんの目に生気が戻った。
「は、はちまん? お主なら理解できよう? 我の描いた世界、ライトノベルの地平がお主なら分かろう? 愚物どもには理解できない深遠なる物語が!?」
材木座くんの最後の砦、比企谷くんの出した答えは
「で、あれってなんのパクリ?」
作者のオリジナリティー全否定であった。
「ぶふっ!? ぶはっぶほぉおおっ!? ……ぱ、ぱくり」
材木座くんは床をのたうち回り、壁に激突するとピクピクしながら、虚ろな目で天井を見上げ、頬を一筋の涙が伝う。あかん、あれ自殺3秒前や
「あ〜材木座くん? 生きてる?」
「…………」
返事がないただのしかばねのようだ
「……貴方容赦ないわね? 私より余程酷薄じゃない」
「まぁ大事なのはイラストだから。中身なんて気にすんなよ!」
それは言ったらおしまいでは?
材木座くんは30分程で何とか立ち上がれるまで回復した。そして、制服のホコリを払うと俺達を見た。
「……また、読んでくれるか?」
「ドMなの?」
「変態……」
「ちょっと勘弁して欲しい」
「あれだけ言われてまだやるのか?」
「無論だ。確かに酷評されはした。もう死んじゃおっかな〜どうせ彼女も友達もいないし、とも思った」
そりゃそうだわな
「されど、嬉しかったのだ。我が書いた小説に初めて感想を言って貰えたのだ。なんて、言ったらいいか分からないが凄く、凄く嬉しかったのだ」
「だから、次も読んで欲しい!」
初めて材木座くんの素顔を見ることが出来た気がした。
彼もまた、本気で作家を志す卵なのだ。
それなら、俺達の答えは決まっている
「勿論だとも、また読ませてくれ」
「また新作が書けたら持ってくる」
そう言い残して材木座くんは部室を後にした。
その後ろ姿はどこか輝いて見えた。
頑張れ、材木座くん。