材木座くんの一件以降、特に依頼が来ることはなく今日も奉仕部は文芸部とかしていた。
依頼が無いことは平和の証、平穏な日々に俺は満足していたが、またまた厄介事が奉仕部に舞い降りた。
それは、比企谷くんの相談から始まった。
「蒲生先輩、実は相談があるんすけど……」
比企谷くん曰く、テニス部の環境改善の為に入部して欲しいと相談されたらしく、無下に断る事も出来ないのでテニス部へ移籍出来ないか? とのこと。
う〜ん? それはどうなのかな? チラッと雪ノ下を見ると比企谷くんの事を「何をトンチンカンな事言ってるのかしら? 馬鹿なの?」と言わんばかりの目で見ていた。
「無理ね」
「いや、無理ってお前さ〜」
「比企谷くんの考えは間違ってはいないが、人選が間違っているとしか思えんな」
俺の言葉に比企谷くんは「うぐっ……!」と息を詰まらせる。
「そうね。貴方に集団行動が出来ると思っているの? あなたみたいな生き物が受け入れられるはすがないでしょう。つぐつぐ集団心理が理解出来ないぼっちの達人ね」
「そもそも、2年のこんな中途半端な時期に入部してもろくな人間関係を築くことも出来ないだろう」
「既にある程度はまとまっている集団に突如現れた異物……排除しようと一致団結する可能性はあるけれどそれは排除する為の努力であり、自身の向上に向けられることは無いわ。ソースは私」
「なるほどなぁ……そーす?」
「えぇ、私帰国子女なの。中学の時、転入してきた私を排除しようと学校中の女子が躍起になったわ……あの低能ども……」
そう語る雪ノ下は般若の形相で背後には黒い炎が立ち上がっていた……ちょっと比企谷くん! それ地雷!
「まぁ落ち着け」
なんとか気を落ち着かせようと頭を撫でると、徐々にクールダウンしていった。
はぁ雪ノ下も比企谷くんもトラウマ多すぎだよ……
「あの状態の雪ノ下がまるで飼い猫のように……」
何やら比企谷くんが戦慄しているみたいだ。
多分君も出来るだろう。一度やらせてみようかな?
「しかし、戸塚の為になんとかテニス部強くならんもんかね?」
「珍しいこともあるわね? 誰かの心配をするような人格者でもないでしょうに」
「やーほら、誰かに相談されたの初めてでなー」
なんかニヤニヤして気持ち悪いな。
「君には材木座くんがいるじゃないか」
「いや、あれはノーカンっす」
地味に酷いな
「私はよく恋愛相談とかされたけどね……」
おっ恋バナか? 雪ノ下にしては珍しい……
いや、あの表情は明るい話しじゃないな……
「ねぇ、知ってる? 女子の恋愛相談って基本的に牽制目的なのよ」
豆しば風にそんな悲しいこと言わんでくれ……
「自分の好きな人を言えば周囲は気を使うでしょ? 所有権を主張するようなものよ。聞いた上で手を出せば集団で虐めて来るってわけ。男子から告白してきても同じなのだからふざけたものよ……なんであんな風に言われなきゃならないのかしら!」
再び般若モードに移行した雪ノ下をなんとか宥める。
しっかし女の闇は深いなぁ俺も比企谷くんもドン引きだよ……
雪ノ下はトラウマを押し流すように、ふっと自嘲気味かに笑う。
「要するに、何でもかんでも聞いてあげて力を貸すばかりがいいとは限らないということね。昔から言うでしょう? 『獅子は我が子を千尋の谷に突き落として殺す』って」
いや、殺しちゃ駄目だろ
「じゃあお前ならどうする?」
「そうね、全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かしら?」
いや、そんな綺麗に微笑まれてもこっちはドン引きだよ
「やっはろー!」
ガラッと戸を開けて結衣が入ってきた。
どうやら今日はお連れがいるみたいだ。
「こんにちは結衣、そちらはどなたかな?」
「は、はじめまして! 2年の戸塚彩加です。えと、その……あっ比企谷くん!」
どうやら比企谷くんの友達みたいだな。
「ふふん! 今日は依頼人を連れてきてあげたの!
やー、あたしも奉仕部の一員じゃん? だから、ちょっとは働こっかな〜って。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」
「由比ヶ浜さん」
「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから。部員として当たり前みたいな?」
「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけど……」
「違うんだっ!?」
「えぇ、部長からは何も聞いていないし、あなた入部届けも出していないでしょう? 正直、懐いて住み着いた野良犬みたいなものかと思っていたわ」
「書くよ!? 入部届けぐらいいつでも書くよ!? だから仲間に入れてよ〜」
ほとんど泣きながら、ルーズリーフに「にゅうぶとどけ」と書き始めた。いや、書類あるし
「結衣、入部届けならここにあるから。後は名前さえ書けば直ぐに受理されるよ」
俺はそう言って入部届けを渡すと「ご〜ぜんばい〜」と縋るように抱きついてきた。
「それで、戸塚彩加くん。今日はどんな依頼で来たのかしら?」
「あ、あの……テニスを強く、してくれるんだよね?」
えっ何この子超可愛い。
これがオトコの娘か!
「はぁ、由比ヶ浜さんがどんな説明をしたのか知らないけれど、奉仕部は便利屋では無いわ。あなたの手伝いをし自立を促すだけ、強くなるかはあなた次第よ」
雪ノ下の言葉に落胆したのかしょんぼりとする戸塚くん。きっと結衣が調子いい事を言ったのだろう
「まったく、由比ヶ浜さん。あなたの無責任な発言でか弱い少年の淡い希望が打ち砕かれたのよ」
雪ノ下が咎めるような言葉をかけるも、結衣はまったく理解出来ていないようだ。
「ふぇっ? でもさ〜ゆきのんやごー先輩、ヒッキーならなんとか出来るでしょ?」
コラコラ、そんな言い方したら負けず嫌いの塊である雪ノ下が反応してしまうだろうに……
「……ふぅん、あなたも言うようになったわね、由比ヶ浜さん。この私を試すような発言をするなんて」
ニヤッと笑う雪ノ下に思わず背中が冷たくなった。
ほらー変なスイッチ入っちゃったよ〜
「いいでしょう。戸塚くん、あなたの依頼を受けるわ。自身の技術向上の為なら手段を問わない、それでいいわね?」
「は、はい! 僕が上手くなればきっとみんなもやる気出ると思うから」
かっと見開かれた雪ノ下の目に威圧されたのか、戸塚くんは反射的に答えてしまった。
うーむ、悪魔の契約を見てしまった気分だ。
「まぁ、手伝うのはいいんだけどよ、どうやんだよ」
「あら? さっき言ったじゃない。まるで鶏みたいな脳みそね。死ぬまで練習させるに決まっているじゃない」
その言葉に戸塚は顔を青ざめ比企谷くんに助けを求めていたが、もう手遅れであろう。
悪魔の契約はもうなされてしまったのだから……
「それでは、明日の昼休みから特訓を開始するわ」
戸塚くん、強く生きろよ。
そして、翌日の昼休み
結衣達とお昼ご飯を食べていると比企谷くん達がやって来た。
「それでは始めましょうか。
まず、戸塚くんに致命的に足りていない筋力をあげていきましょう。筋トレは総合的に鍛えないと意味が無いわ。よって、基本の腕立て伏せからやっていきましょい。とりあえず死ぬ一歩手前まで頑張ってやってみて」
「うわぁ、ゆきのん頭よさげ……え? 死ぬ一歩手前?」
「えぇそうよ。筋肉は痛めつけたぶんそれを修復しようとするのだけど、その際以前の筋肉量を上回るの、所謂超回復ね。短期間でパワーアップしたいなら死線を超えることが手っ取り早いのよ」
「いや、サイヤ人じゃねぇんだからよ……」
「まぁ俺が監修するから死ぬことはない」
という訳で戸塚にはマンツーマンで教える事になった。本人はやる気十分だし教えがいがありそうだ。
何故か隣で結衣と比企谷くん材木座くんが腕立て伏せを始めたが、そんな勢いでやると絶対筋肉痛になるぞ……