某所
薄暗い部屋に電子機器と多数のモニターだけがその場所にわずかな光を灯していた。
生命維持装置を取り付けモニターを眺めるその人物の顔は半分つぶれており常人が見れば発狂してしまいそうなほどのグロテスクさを醸し出していた。
その怪我を彼が負った原因は先のオールマイトとの戦い...もっともオールマイトは彼のことを討ち取ったと思っていたが現実はそうではなかった。
しかし彼は生き延びたとはいえ大幅な弱体化を余儀なくされていた...今の状態では全盛期の数分の一の力があるかどうかというような状態...最もそれでも大半のヒーローやヴィランよりも強力な存在であることには違いない。
そんな彼、オール・フォー・ワンは自らは闇に潜伏し次の計画に向けて着々と準備を進めていた。だが少し前からその計画に若干の支障をきたしていたのだ。
まず一つ、死柄木弔の成長のために使おうと思っていたヒーロー殺しステインがここ最近活動をしておらずオール・フォー・ワンにすらその所在が掴めずにいることだ。最も彼についてはまだ急ぎと言うわけではない...捕まったという情報は入っていないので生きているならばそのうち所在を掴むことは可能であろう。問題なのはもう一つの問題である。
ヒーロー殺しが活動を停止した直後から裏社会で囁かれ始めた噂...もはや現在では表の社会にまで都市伝説として伝わるほど有名になっている人食い事件である。
そして例の吸血鬼の噂と合わせて今では路地裏の小物ヴィラン達は確かにそれらを明確に恐れているようであった。
噂ではないと彼は既に確信していた。
オール・フォー・ワンの眺めているモニターには先日発生した八斎會襲撃事件の監視カメラの映像の一部始終が映し出されている...最も今の彼は生物的な能力としての視力は失われているため視覚情報を得るためには個性を用いる必要がある...つまりは正確に映し出されたモニターの情報を得ることは難しくなっている。それでもその画面に映し出された異常な光景を認識することは可能だった。
この監視カメラ映像の録画は削除されていたものを警察が復元したものである。それを警察内部の協力者から手に入れたものであるのだがそれは完璧ではなかった。
警察が削除された映像を完全に復元できなかったわけではない...どうやら警察内部にはこの僕と同じように例の吸血鬼がスパイを送り込んでいるらしい...
不鮮明な監視カメラ映像からでもわかるあの威圧感...組員を謎の個性で次々と殺害して監禁されていたこれまた謎の少女を連れ去ったという例の吸血鬼と思われる男はその名前と派手な服装以外の情報をオール・フォー・ワンですら掴むことは出来ていなかったのだ。...不確かな情報としては10年以上前に行方不明になったある児童ではないかと言う疑いはあったのだがそれだけではあまり意味の無い情報である。しかし画面越しですらこの吸血鬼DIOはオール・フォー・ワンにその存在は警戒させるには十分な存在感であったのだ。
彼の正体や個性は依然不明...いや個性に関しては不明と言うよりも個性を複数所持しているのではないかと言う疑いと言うべきであろうか。
常識で言えばあり得ないことであるがオール・フォー・ワンには...いや彼だからこそと言えるかもしれない、それは不可能ではないかもしれないと思えてしまっていたのだ。
「...でドクター。捕まえたアレから分かったことはあったのかい?」
声をかけられたその人物、禿げ頭に白衣を纏った小太りの男は少し間を開けてから返答をした。
「...こいつはどうやら太陽光...厳密にいえば紫外線に強い反応を示すようだ。また体内から自分自身とは別のDNAも検出された...どうやらこいつらは本当に吸血鬼かもしれん...もっともコイツは吸血鬼や食人鬼と言うよりもゾンビと言ったほうが正しいかもしれんが...」
「なるほどドクター...でもゾンビにしては動きが随分俊敏なんじゃないか?」
「あくまでたとえの話...そもそもゾンビなんて言う存在はこれまでは創作の中の存在に過ぎなかったからね先生。それにその創作の中には走るゾンビと言うものも存在してる。」
どことなく楽しそうに話すドクターの話に耳を傾ける。
その時ふと思い出す...そういえば有用な個性を探しているとき個性登録リストの中に他者をゾンビにしてしまう個性を持った子供が存在したのを思い出した。少し興味を持ったがその個性は制御できないようであり僕や弔そして脳無には合わないと判断して手を出さなかったのだ。
いやしかし今回の件とその個性は無関係であろう。似ているだけで実際には今回の件とは全く異なっている事柄であることは一目瞭然だ。
だが他者をゾンビにする個性...もしそれが制御できるものであったとしたら...具体的にはゾンビ化に制限時間などなくゾンビ化させた人物を自らが自由自在に操れる個性であったのならあのゾンビウィルスという個性を僕は自分のものにしたであろう。
もし今回の件がその僕が欲した理想のゾンビ化の個性であったとしたら...そしてその個性以外にもDIOという人物が強力な個性を保有して何かしらを計画しているとしたら。
もしそうなら仮初の平和は早く崩れるかもしれない。
「いやもしかしたら既に平和は終わっているのかもしれないねぇ...オールマイト、僕達が思っているほどに世界は平和じゃなかった...これは苦労することになるかもねぇお互いに。」
オール・フォー・ワンは虚空に呟く、目の前に存在しないオールマイトに語り掛けるように