煙の戦士のアカデミア   作:どーあん

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入学初日と体力試験

モラウの家に合格通知が届いてから時が経ち、日付で言えば4月1日。

多くの学校で入学式が行われているであろう日…そしてそれは日本一有名なヒーロー養成機関でもある雄英高校も同様だった。

 

新入生達が期待と僅かながらの不安が入り混じった面持ちで学校の門をくぐり、それを見て上級生達は過去の自分を懐かしむ、そんな青春真っ只中と言える光景が広がっている。

 

そんな光景を尻目に、モラウは何の緊張感もない顔で、口笛を吹きながら門を潜った。

 

180を超える身長…盛り上がった筋肉、そして背中に背負う大きな煙管…正確にはそれに布を巻いたもの、そんな目立つ要素のてんこ盛りのような男が注目を集めないはずがなく、周りではひそひそとモラウについて会話がなされる。

新入生からはおそらく先輩だろうと予想を立てられ、雄英のレベルの高さを感じさせる佇まいに畏怖と情景を。

上級生からは、あんな奴が同じ学年にいたかと懐疑的な目線を向けられる。

その他にも色々な視線が入り混じるが、全てに言えるのは皆モラウのことをとても中学校を卒業したばかりの新入生だとは思えなかったと言うことだった。

 

そんな風に注目を集めてはいるものの、モラウに話しかけてくるようなものはいない。

明らかに普通でないものというのは、噂にはなれど関わりはもちたくないと、普通の人間ならば思う…そう、普通の人間ならば。

 

「あのぉ…すみません、教室までの道のりを聞きたいんですが」

 

それが自らにかけられた言葉と気づくのに、モラウは若干遅れた。

モラウ自身も自分が奇異な視線を向けられているというのは気付いていたので、その中で話しかけてくるものがいるとは思えなかったからだ。

 

「聞こえてます……?道のりを聞きたいんですが…」

 

そんな若干の間を聞こえていないと捉えたのか、声の人物はもう一度同じことを言う。

 

「ん…おぉ、聞こえてるぜ。まさか俺に話しかけてるとは思えなくてよ、悪いな」

 

「あ、いえいえ。急に話しかけたのはこちらの方なので…」

 

モラウに声をかけてきたのはオレンジ色の髪をサイドテールにした女子であった。

160後半の女子にしては高い身長と、勝気な瞳が少女の芯の強さを感じさせる。

まぁ…モラウに話しかけた時点で、並の精神力でないことは分かりきっていることだったが。

 

モラウは自分に話しかけてくれたことに若干の嬉しさを感じつつ、話を続ける。

 

「それで?道を教えてほしいだったか。それならパンフレットはどうした?そこに全て書いてあったはずだが」

 

モラウがそう言うと、少女はばつが悪そうに目を泳がせる。

 

「いやぁ、パンフレットを家に置いてきてしまいまして…」

 

少女は胸の前で指を絡ませながら、言いづらそうにする。

 

「成る程な、お前クラスは?」

 

「1-Bです」

 

「それなら丁度いい、俺は1-Aだからすぐ隣だな。どうせ同じ場所に行くんだ、案内するぜ」

 

それを聞いた少女は大きく目を見開き、驚愕の声を漏らす。

 

「嘘…!?アンタ1年なの!?先輩だと思ったから話しかけたのに…!」

 

「おう、俺は歴とした1年だが…」

 

「それならそうと言ってよ。敬語で話して損した」

 

分かりやすく肩を落とす少女。

別にモラウは上級生であると言っていたわけでもないので勝手に勘違いした少女が悪いのだが、モラウはそんなことは気にしなかった。

 

モラウは気の強いものが好きだ。

自身が気の強い性格であるから、それに負けじと対抗してくるようなものが好きなのだ。

モラウの見た目から、大抵の人物は引いてしまうのでそんな人物は同年代には中々いないが、それでも時々目の前の人物のようなものもいる。

そんな人物に初日で出会えたことに、モラウは喜びを感じていた。

 

「おいおい、勝手に勘違いしてそりゃないだろ。失礼なお嬢ちゃんだな」

 

「それは悪かったよ。でもアンタが同い年なんて到底思えなくてさ。あと、お嬢ちゃんはやめてよ、同い年でしょ?」

 

「と言ってもお嬢ちゃんの名前を知らないからな」

 

「…それもそうか。私の名前は拳藤一佳。アンタの名前は?」

 

「俺か?俺の名前はモラウ=マッカーナーシ。呼ぶ時はモラウでいいぜ」

 

自己紹介を済ませると、モラウは手を差し出して握手を求める。

自己紹介後の握手、初対面の女子に対して普通の日本人ならば躊躇してしまうものではあるが、モラウは何事もないように行う。

普通ならば違和感のある行為であるが、拳藤は特に何か言うことはなく、手を差し出して握手に応じる。

 

それは拳藤自身の性格がフレンドリーだということもあるし、モラウの海外映画の登場人物のような見た目に握手という行為が似合っていたというのもあった。

 

2人は並んで歩き、共にクラスを目指す。

 

「ねぇ、モラウの個性ってなんなの?後ろに背負ってるのは個性関係のもの?」

 

お互いがヒーロー科同士であると気づいた拳藤は、それならばと個性の話題を振る。

拳藤にとって今日初めて会ったヒーロー科の仲間、クラスは違えどどんな個性なのかは気になる所だった。

 

「悪いがそれは言えないな」

 

興味深々の拳藤をシャットアウトするようにモラウは言った。

 

「えー、なんでだよー。減るもんじゃないし教えてくれてもいいだろ?…もしかして私から言えってこと?それなら言うよ、私の個性はっ」

 

そこまで言いかけた所で、モラウは人差し指を口の前まで持ってきて、喋るなと合図を送る。

それを見た拳藤は、反射的に言葉を止めた。

 

「お互いのネタをこんな所で言っちゃあ面白くないだろ?個性を披露するならもっといい舞台がある」

 

「披露する舞台…?それってもしかして体育祭のこと?」

 

少ないヒントで拳藤はモラウが言わんとすることを理解した。

その理解の速さは、雄英高校が決して個性だけでは入れないことを証明するものだろう。

 

「あぁそうだ。体育祭は決勝は例年1対1の勝負だからな。出来ることならそこで初お披露目の方が面白い」

 

「そうか…?私はそんなこと思わないけど」

 

「戦いの中で初めてお互いの手の内を明かす瞬間…それが戦いの真骨頂なのさ。同じクラスの奴らだとそうはいかないだろうが別クラスなら話は別だ…拳藤の個性は体育祭までの楽しみにとっておくさ」

 

それを聞いた拳藤はなんとも言えない顔でモラウのことを見る。

 

「やっぱ見た目通り変な奴だな。私は一生理解できなそうだ。」

 

「まぁそうだろうな。こういうロマンや美学は中学上がりたてじゃ分からないだろうよ」

 

「アンタだって中学上がりたてのくせに…あっ、私のクラスここだ」

 

話をしているうちにいつのまにか目的地に着いていたようで、拳藤は指を指しながら、1-Bであることを確認する。

 

「それじゃあな!案内してくれてありがとう。クラスは別だけどまた話そうな!」

 

拳藤は笑顔でそう言いながら手を振る。

モラウはそれに手を雑に上げることで応える。

 

「おう。今度は道案内はしないけどな」

 

「分かってるって!じゃあな!」

 

拳藤はクラスの中へと入っていき、すぐに1-Bの生徒達と挨拶を交わしていた。

その光景にモラウは拳藤の社交性の高さを感じつつ、少しだけBクラスの様子を伺う。

 

(心操はいないか…こりゃ同じクラスかもな)

 

そんなことを思いながらモラウは1-Aへと足を向けようとした時、あるBクラスの生徒と目があった。

金色の髪に何故かキラキラと輝く目が特徴の生徒は、何故かモラウのことを見つめている。

相手もモラウと目があっていることは気がついているようで、指を2本頭の前に持っていき、キザな海外俳優がやるように、髪を払いながらポーズをとる。

 

(なんだあいつ……ヒーロー科って変な奴多いんだな……)

 

自分のことを棚に上げて、モラウはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

個性把握テスト。モラウが1-Aの教室に足を踏み入れてすぐ、後ろから現れたボサボサ髪の自称担任を名乗る男から説明も碌になしにグラウンドに連れてこられ、そう告げられた。

入学式の予定を飛ばして行われた強行は、当然ながら生徒達の反感を買ったが、担任である相澤のヒーローになるならばガイダンスなどしてる暇はないという暴論で沈黙させられた。

 

生徒達は各自色々な思いはあれど、相澤の指示に従う。

 

個性把握テストというと分かりにくいが、結局の所普通の学校で行う体力テストを個性を使って行うというだけだった。

しかし、個性を使ってといきなり言われても、表向きは個性の無断使用が禁止されている現代ではイメージがしにくい。

 

相澤はそう考えて、クラスの中から個性の使用が慣れていそうなものを見本として使うことにした。

 

「マッカーナーシ、中学の時のボール投げの記録はいくつだ?」

 

「ボール投げ…80メートルくらいでしたかね」

 

「よし、じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何をしてもかまわない」

 

モラウの名前が呼ばれたことで、否応なしにクラス中の視線が集まる。

白髪で、筋肉隆々で、何故か大きな煙管をグラウンドに一緒に持ってきた大男。

時間がなく、碌に会話もすることなくグラウンドに集められたA組の面々のモラウに対する期待感は、モラウの予想以上に大きく膨れ上がっていた。

 

モラウはそんな視線を気にすることなく、煙管を一旦地面に置き、円の中心に立つ。

しばしの沈黙、祈るようにボールを持ち固まるモラウ。

 

相澤はそんなモラウの様子を不審に思い、声をかけようとする。

おい、そんな声が相澤から出かかった時だった。

 

 

辺りに突風が疾った。

 

 

いや、それは正しい表現ではない。正確に言うならば突風が疾ったと錯覚するほどのエネルギーの塊のようなものがモラウから溢れ出た。

 

モラウ自身がオーラと呼ぶそれは、周りからは見ることができない。しかし、感じることだけならば出来る。

A組の面々は自身に襲い掛かる謎の圧迫感に驚きながら、モラウを見守る。

 

モラウは全身から溢れ出すオーラをボールを持つ手に集める。

オーラが集中した腕は、本来の腕の太さよりも遥かに太くなり、血管が浮き出ている。

引き絞られた腕を体の後ろに構え、体を捻る。極限まで溜めを作り、そして一気に放つ。

 

凄まじい轟音と共に放たれたそれはまさしく大砲、オーラを纏いながら飛ぶボールは勢いが衰えることなく、肉眼では見えないほど遠くまで飛んだ。

 

その光景に対して一瞬の沈黙。

 

「1028m……」

 

そんな沈黙を気にせずに、淡々と結果だけを告げる相澤。

 

「うぉおおおおおおおお!!!すげぇええ!!!」

 

「なんだこれ面白そう!!」

 

「1000メートル越えってマジかよ!?」

 

「ケッ!あれくらい大したことねぇよ!」

 

個性を使用しての大記録、それが可視化されたことで、生徒達の気分は一気に上がる。

自分の個性を充分に使える…普段社会から抑圧されていることもあって、それへの期待感は高まる。

 

しかし、そんな生徒達を相澤だけは厳しい表情で見つめている。

毎年一年生は、今まで使用が制限されていた個性が自由に使えるとなるとはしゃぐ。

しかし、ここはヒーローを養成する学校、そんなことではしゃいでいてはヒーローなんてとても務まらない。

 

「面白そうか。ヒーローになるための三年間そんな心づもりで過ごすつもりか?…よし、ここで見込みないと俺が思った生徒は除籍にする」

 

最下位は除籍…初めはそう言おうと思った相澤だが、クラスの編成を見てそれはやめた。

 

「見込みなしは除籍って!?初日ですよ!いくらなんでも理不尽すぎる!!」

 

相澤の発言に当然ながら生徒達は反感の意思を示す。

 

「それに見込みなしって!それってどんな基準なんですか!?せめてそれを言ってもらわないと!」

 

「基準については言えない。まぁ…除籍になりたくないのならそれぞれ創意工夫を持って臨むことだな。

理不尽と感じるかもしれないが、ヒーローっていうのはそんな理不尽を乗り越えていく職業だ。

雄英はこれから三年間、君達に苦難を与え続ける。Plus Ultraさ…全力で乗り越えてこい」

 

それを聞いた生徒達の反応は様々だった。覚悟を決めるもの、逆境に燃えるもの、余裕そうなもの……そして、不安そうなもの。

 

相澤はチラリとある生徒を見る。

紫髪に隈が特徴的なその生徒は、個性を使った体力テストと聞いた瞬間に悔しそうに拳を握りしめながらも、反骨心が溢れる目で周りを見渡していた。

 

(個性洗脳…そんな生徒がいるのを分かりながら最下位除籍は流石に合理的じゃない…だからこそ、本当に見るべきはこっち…)

 

相澤はそんなことを思いながら、紫髪の生徒と同様にはしゃぐ様子を見せなかった、緑髪の生徒を一瞥し、テストの準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁアンタ!!すごい記録だな!!男らしい記録だ!!」

 

モラウが握力を測り終わった所で、赤髪の尖った髪が特徴の少年に声をかけられた。

初めはモラウの見た目から遠慮したような態度を皆がとっていたが、テストが進み、記録を出し続けるとそんな様子はなくなっていた。

 

「おう…!ありがとな」

 

「俺の名前は切島鋭児郎!よろしく!」

 

「俺の名前はモラウ=マッカーナーシ。モラウでいいぜ」

 

「それじゃあ俺も鋭児郎でいいぜ!」

 

そう言いながら握手を求める切島、その姿は、見た目通りの熱い男であることを証明していた。

 

「ねぇねぇ!後ろに背負ってるそのでっかいのはなんなの?テストじゃ使ってないみたいだけど個性関係のやつ?」

 

切島と握手をしていたモラウに、別の所から声がかけられる。

声の方向を見ると、ピンク色の髪に角が生えた明らかに異形の見た目をした女生徒が、モラウの布で覆われた煙管を興味深そうに突ついていた。

明るい声とその行動力は、少女の性格を表していた。

 

「あ、私は芦戸三奈!そこの切島とは同じ中学なんだ!よろしくね!」

 

「芦戸な。俺はモラウ。後ろのこれは今日は使う気はないな。個性関係であることは確かだが、今日は身体能力のみで勝負するつもりだからな」

 

「え…ってことはモラウの個性って単純な身体能力強化じゃねぇのかよ!腕とかでっかくなってからそっち系かと思ってたんだが」

 

切島の疑問にモラウはどう答えるべきか迷う。

モラウは今回の試験では、オーラの力のみでテストを受けるつもりだった。

それは、これまで鍛えてきた体とオーラを記録として把握したいと思っていたからだ。

しかし、オーラはモラウにしか見えないものであるので、それを説明するのは少し面倒だった。

 

「うーん、まぁ身体能力の強化も個性の一部ではあるんだが、そっちはメインの力じゃねえな」

 

「マジかよ!?あんだけの記録出しておきながらそっちがメインじゃねぇとか、ますます男らしいじゃねぇか!」

 

切島は興奮したように言った。

数少ない会話であったが、モラウは切島にとって男らしさというのが重要な項目であることを把握した。

 

「ねぇ、その布の下見たいんだけど見ていい?私それがずっと気になってたんだー」

 

芦戸は痺れを切らしたようであった。

元々それ目的で近づいてきたのであろう、気になって仕方がないようだった。

 

「あぁこれな、別に隠してる訳じゃないからいいぜ…ほらよ」

 

モラウはゆっくりと布を取り、今日初めて中身を見せる。

中から出てきたのは当然のことながら煙管。

モラウにとってはもう見飽きたそれであったが、2人にとっては違うようで、驚愕の顔を浮かべていた。

 

「よく映画とかで見る奴だぁー!こんなでっかい奴あるんだぁ。ねぇ持ってみてもいい?」

 

芦戸の興味は中身を見てもつかなかったようで、手を伸ばしてモラウにそうお願いしてきた。

それをモラウはやれやれといった感じで、煙管を渡す。

煙管を渡された芦戸は、その重さに煙管を落としそうになってしまった。

ある程度重いことは大きさから予想出来ていたことであったが、モラウがあまりにも簡単に持っていたので、その見た目に反して軽いものなんだと芦戸は思っていた。

 

「切島これすごい重いよー!私じゃ扱えなさそう。切島も持ってみる?」

 

「お、それは持ってみたい…じゃなくてぇ!これあれじゃねぇか!?タバコとかそういう類を吸うやつだろ!?高校生でタバコなんて男らしくねぇぞモラウ!!」

 

煙管といえばタバコ、いくら個性社会で昔の常識から変わった所が多いとはいえ、タバコが未成年に禁止されていることは変わっていない、だからこその切島の反応だった。

しかし、モラウはそんな追求は慣れているものなのか笑いながら返す。

 

「はは!別に違法なことはしてねぇよ。これは俺の個性の発動に必要ってだけだ。心配してるようなことはないから安心しな」

 

「そうなのか!確かに先生が何にも言ってない時点で問題のあるものじゃねぇか。悪かったな、男らしくないとか言って」

 

早とちりに気づいた切島は申し訳なさそうに頭を後ろ手で掻きながら謝る。

 

「気にすんなよ、これ見たやつは大体同じこと言うからよ。慣れたもんさ」

 

「そう言ってもらえるとありがてぇ。やっぱり男だぜモラウ…!」

 

「そんなに褒められると気分がいいな。気に入った、今度何か奢るぜ?」

 

「そんなことで奢られたら男らしくねぇよ!食事は割り勘だ!」

 

「私は奢ってくれていいよー?何食べようかなぁー」

 

「芦戸は関係ねえだろ!?隙を見てたかるなよ!?」

 

モラウはそんなやり取りを見ながら、面白い奴らだと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

50メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、すでにその4種目を消化し、初めは不安そうにしていた生徒達も、自分の個性を上手く活かせると緊張が解れてきたようで、大体のものは周りのものと談笑する余裕が出てきていた。

 

そんな中で表情が冴えない生徒が2人…そんな生徒の1人である心操は、個性によって記録を伸ばすクラスメイト達を見ながら、自らの状況を冷静に分析する。

 

(先生が明確な基準を作らなかったのはおそらく俺のような個性が原因…洗脳は明らかにこういうテストには向かない…だからこそ順位で基準を作らなかった。

もし除籍が生徒達のやる気を引き出すための嘘ならば、順位で基準を作った方が明らかにいい………なのにも関わらずそうしないということは、あの先生は本当に生徒を除籍にする覚悟があるということだ)

 

心操はそう結論づけた。

しかし、それが分かった所で心操にはどうすることも出来ない、周りの派手で目立つ個性持ちに比べて、心操にはこのテストで活かせる個性はない。

 

そんな状況に歯痒い思いを抱きながら、心操は自らと同じく記録を出せずにいる緑髪の少年を見ていた。

 

緑谷出久…朝早めに教室についていた心操は、後からきて教室の入口から聞こえてくる会話から、緑谷の名前を知っていた。

 

名前以外は碌に知っていることはないが、今までの競技の記録から見るに、自らと同じく戦闘向きな個性ではないのだろうと勝手に予想を立てていた。

もしかしたら自分と似たような境遇なのかもしれない…周りを見ながら不安そうにしている緑谷を見て、心操はそう考え、親近感を感じていた。

 

緑谷は冷静に周りを見る心操とは違い、不安そうだ。

そんな様子を心操は見ていられなくて、気づけば緑谷に近づき声をかけていた。

 

「緑谷、不安になるのは分かるがそんなに気負ってもしょうがない。俺達みたいな戦闘向きじゃない個性は真剣にテストに取り組むことしかできない。

それも相澤先生は分かっている筈だ。だからこそ順位で基準を作らなかった。

おそらく単純に記録が低いからと除籍にされるようなことはない筈だ」

 

それは同じ境遇の仲間を安心させるための言葉だった。

戦闘向きじゃない個性でヒーローを目指す辛さを分かっているからこそ、その苦しみを分かってやる仲間が必要だと思った。

 

しかし、そんな言葉をかけられた緑谷は複雑そうで、あたふたとしていた。

 

「え、誰…?いやでも心配してくれてるんだよね、ありがとう。でも、僕は別にそういうわけじゃなくて…あの…「次は緑谷、早く円に入れ」

 

緑谷の言葉を遮るように相澤から言葉をかけられた。

そうなればこのまま話し続ける訳にもいかず、緑谷は心操に謝りながらボール投げのテストへと向かっていった。

 

円に向かう緑谷は相変わらず不安そうで、足取りが重い。

心操はそれを見て、自分の言葉が何の意味もなしていないことを悔しく思った。

 

(やっぱりあいつみたいに上手くは出来ないか…)

 

心操はチラリと後ろを見る。そこには白髪の巨漢がクラスの者たちと談笑している姿が映る。

心操のその視線に気付いたモラウは談笑を中止して心操に手を振ってくる。

そんな気の抜けた様子にため息を吐きながら、前に向き直り心操は緑谷を見つめる。

 

「このままじゃまずいぞ緑谷君…」

 

心操の近くで、同じく緑谷を心配そうに見つめる眼鏡の男、飯田天哉は朝、緑谷と仲良さそうに会話をしていた男だ。

飯田も緑谷の記録が振るわないことを気にしているらしかった。

 

「ったりめーだ!無個性の雑魚だぞ!」

 

飯田とは対照的に、突き放すようにいう男は爆豪勝己。彼は緑谷を目の敵にしているようで、馬鹿にしたように言った。

 

(無個性、嘘だろ…?そんなの俺よりも……)

 

酷い境遇じゃないか。心操はそう思った。

個性社会において個性がないということは、想像以上に生きづらい。

周りからは常に馬鹿にされてきただろうし、ヒーローになるというのは言いづらいことであった筈だ。

そんな緑谷の境遇を心操は想像し、拳を握りしめる。

 

そんな心操の想像は概ね当たっている。

緑谷は常に個性がないことへの偏見の目に晒されてきたし、ヒーローを目指していることを馬鹿にされてきた。

 

しかしそれは過去の話、今の緑谷には力があった。とあるヒーローから託された力が。

 

だからこそ緑谷は心操の言葉では安心出来なかった。

元々テストで役に立たない個性である心操と、力を持っているにも関わらず制御が効かないことで記録が出ない緑谷、同じ記録が出ていないものでも評価が低いのでは圧倒的に後者だ。

 

それが分かっているからこそ焦る。

なんとか一つは記録を作らなければと思い、緑谷は自爆覚悟で右手に力を集めて投げる。

そんな覚悟をもって投げられたボールは……

 

「46m」

 

無情にも平凡な記録で収まった。

 

そのことに緑谷は訳が分からないといった様子で、自らの両手を見つめている。

そんな緑谷に相澤は歩み寄り、何かを告げた。

離れた所で見ているクラスメイト達には2人の話は聞こえず、だからこそ何を言われたのかで話が盛り上がる。

ただ、言われた側の緑谷の浮かない表情から、何かキツイことを言われたのは明らかだった。

 

そんな状態の緑谷の2投目は、誰もが平凡な記録だと思っていた。

 

しかし、そんな予想を立てていた周りを裏切り、爆音と共に投げられた球は勢いを落とすことなく空を切り裂いていく。

 

「705.3m…」

 

ようやくヒーローらしい記録が出たことに外野が湧く。

その反応は様々で、驚くもの、喜ぶもの、そして何故か怒りを見せて緑谷に詰め寄っていくもの。

 

そんな色々な視線が入り混じる中で、心操は複雑そうな目で緑谷を見つめていた。

 

 

 

 

 

放課後。

個性把握テストの除籍の話は、結局は相澤の皆のやる気を出させるための合理的虚偽ということで幕を閉じた。

それを聞いた生徒達は誰も除籍にならずに済むという安心感と、相澤の話が嘘だったという梯子を急に外されたような驚愕で、阿鼻叫喚の騒ぎだった。

 

しかしそれも一瞬の話で、放課後になってしまえば生徒達は各々他のクラスメイトと仲を深め、色々な話をしていた。

 

そんな中で心操は自分の机で腕を組み、何やら考えごとをしているようだった。

 

「よぉ心操、考え事か?」

 

そんな心操に声をかけるものがいた。

心操はその声に反応し、下を向いていた顔を上げる。

 

「モラウか。いや、別になんでもねぇよ」

 

心操の前に佇むモラウは、相変わらずの余裕の笑みで心操を見つめている。

 

「そうか…?それよりもまだちゃんと話せてなかったな。ひとまず合格おめでとう」

 

「あぁ、ありがとう」

 

入学試験以来の会話であったが、心操は今誰かと話をしている気分ではなかった。

 

心操の頭に映るのは、ボール投げで超パワーを見せた緑谷。

勝手に自分と似たような個性なのかもしれないと親近感が湧き心配の声を出したが、結局は緑谷も周りと同じ派手な個性持ちだった。

 

それ自体は別にいい。勝手に緑谷の個性を予想したのは心操であり、この話は心操の勘違いで終わる話だ。

しかし、緑谷の個性を見た時心操は思ってしまった。

 

あぁ……お前もそっち側か。

 

それが心操には悔しかった。

入学試験でヒーローを目指すと泣きながら言い、そのために努力をしてきたつもりだった。

ヒーロー科に受かり道が開けたからには、周りを羨み、自らの個性に嘆くことからは卒業した筈だった。

しかし、今まで生きてきた中で心に刷り込まれてきた性根というのはそう簡単には変わっていないらしく、結局は周りの個性に圧倒されるだけだった。

 

「テストで最下位だったの気にしてんのか?それなら気にするなよ。お前の個性が活きるようなテストじゃなかった」

 

「あぁ…それは分かってるよ」

 

それだって分かってる筈だった。

適材適所。言えば簡単だが、個性の有無に関わらず心操の身体能力はクラスでも下の方だった。

試験に受かってからトレーニングをしてきてはいたが、所詮はここ最近の話。

他のクラスの面々はきっと心操よりも長い期間トレーニングを積んできているのだろう、テストで心操はそれを感じていた。

心操は派手な個性を羨むだけだったが、彼らだってそれを活かすために心操以上の努力をしてきたのだ。

 

それが分かってしまったからこそ情けない。

自分は、ヒーローを目指す身体能力も心も、誰よりも遅れていた。

 

「暗い顔すんなよ…!俺は言ったろ?お前の洗脳はいい個性だって!!話しかけてそれに答えるだけで洗脳できるんだろ?間違いなく強個性だぜ!!」

 

心操の肩を叩きながらモラウはそう言った。

 

「いや、別にそれを気にしてる訳じゃ!っていうか声がでかい!周りに聞こえるだろ!」

 

モラウの声は放課後の教室の中でよく響き、周りにも心操の個性がばれてしまった。

 

(クソ…!バレたらまた面倒なことになる……)

 

思い出すのは自らの個性を聞いた時の周りの反応。

これを聞いたものは総じて心操に話しかけられることにびくつきはじめ、敵のような個性だとなじり始める。

ヒーロー科である以上バレずに過ごすというには不可能であるのは心操も分かっているが、今の心理状態でバレたくはなかった。

 

「えー!心操の個性って洗脳なの!?何それめっちゃ強いじゃん!」

 

最初に反応したのは芦戸。

何事にも興味津々で元気な彼女らしい反応だった。

 

「洗脳?すげー!サイドキックとかで欲しいヒーロー多いだろうなぁ」

 

「現場においてかなり有用性のある個性だな。話しかけるだけで敵を無効化できるというのはそれだけで重宝される」

 

「それだけじゃなくて災害時にパニックになった人達を強制的に落ち着かせることもできるし出来ることの幅が広い個性だ。個性の条件は話しかけて答えるだけ?知られたら対策は取られてしまいそうだけどサポートアイテムで声を変えたりすれば?機械を通しても効果があるのかな。例えばスピーカーで流した音声とか、あらかじめ声を録音しておけば本人以外でも使えたりすのかな?いや、本人の音の波長か何かが個性に関わっているのならそれはできない?」

 

「緑谷がなんかブツブツ言ってる。こえぇ…」

 

「洗脳…?それっておい!あんなことやこんなこと出来ちゃうんじゃねぇのか!?おい!?心操!オイラと組んで「アンタは黙ってろ」

 

あっという間に心操の周りには人が溢れて、様々な言葉が投げかけられる。

濁流のように押し寄せるそれに心操は困るが、何故だかいつも感じる嫌悪感のようなものは感じなかった。

 

(こいつら、俺の個性を聞いてもびびってない……)

 

洗脳という個性に臆せずにこんなにも色々と言われたのは心操にとって初めての経験だった。

それに、若干一名を除いて、洗脳の使い方も人助けやヒーローの現場での使い方ばかりで、敵のようだと揶揄するようなことは言われなかった。

 

こんなにも素直な視線を向けられたことは心操にはなくて、どんな顔をすればいいのか分からなかった。

周りはそんな心操を置いてけぼりにして更に盛り上がり始める。

心操ではそれをどうにかすることは出来ず、助けを求めるようにこの状況を作った男を探す。

しかしキョロキョロと辺りを見渡すが、男はすでにおらず、教室から出て行ってしまったようだった。

 

(アイツ…!まさかわざと!!)

 

それに気付いた時には既に遅く、原因の男はいない。

心操は更に盛り上がりをますクラスの面々の対処に追われ、結局は自らの個性で黙らせたのであった。

 

 

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