今回は二人です、名前だけですが。
そして今回は読みづらいという意見があったので試験的に文章の間を空けてみました。
以前と比べてどちらが読みやすいか申し訳ありませんが感想頂けるとありがたいです。
それよりも鷹島さんの反響が意外に大きくて少し驚きました。
愛されてますよ鷹島さんよかったね。
鷹島綾音は逢坂徹に助けられたことがある。
昼休みに自分の話をいっぱいされて恥ずかしい思いをした時はそれはもう、教室にいるのがつらいと思うほどでした。
テスト前に友達に教えてもらった、針のむしろという言葉の意味がようやく理解できました。
ですが同時に、可愛いと何度も褒められたことで気分が良くなってしまい、昼休み以降の授業の内容が頭に入ってきませんでした。
あ、授業の説明が頭に入らないのは割りといつものことなので、あまり変わりはありませんでした。
いつもより集中力が欠けている頭で、高校に入学してすぐのことを思い出します。
あれは、逢坂くんが言ったように高校に入って二日目のこと。
でも少しというか、大事なところが違っています。
あの時、グラウンド脇に咲いている桜を友達と歩きながら見ていると、はぐれてしまい迷子になったところまでは一緒ですが、そこでわたしは、制服を着崩して派手な髪色をした先輩方に絡まれてしまったのです。
先輩方が、わたしを囲むように近付いてきて少し不安になりましたが、俺たちが案内してやるからと言ってきたのでついていきました。
すると先輩方は校舎の裏、木々が生い茂り、少し薄暗くなっている所で止まりました。
なぜここで足を止めるのだろう? と思いきょろきょろと見回しますが、先輩方は――言い方は悪いですが――なにやら気持ちの悪い笑みを浮かべているだけです。
後ろにいた赤い髪をした先輩が、わたしの肩に手を置き、顔を近付けて、
「ちゃんと案内してやるよ、まずは俺たちと仲良くなってからだけどぅふぁ」
と、日本語かどうかもわからない言語を話しながら、近くの草むらへ勢い良く突っ込みました。
わたしの前にいる先輩数人も、驚いたように目を見開いています。
いきなりのことで何がどうなったのかわからず、後ろを振り向きますが誰もいません。
どうしたものかと悩んでいると、がさがさと草むらの方から音が聞こえました。
前に向き直ると、先程までいた何人かの先輩も全員いなくなっています、本当にどうしましょう。
先輩方に連れられてここへきたので、知っている場所へ戻る道もわからず途方に暮れていると、すぐ横から声がしました。
「鷹島さん……いくらなんでも無用心過ぎるぞ。俺がここに来なかったら、自分がどうなってたか理解してる?」
「わひゃうっ!」
いきなり声をかけられ驚いてしまいました、いつからここにいたのでしょう。
「えぇと、ま、迷子になっていたと思いますっ」
質問に答えましたが彼が期待した答えではなかったのか、深いため息をつかれました。
奇遇ですね、わたしもため息をつきたいところだったのです。
「よく一緒にいる二人はどうしたの? たしか長谷部さんと太刀峰さん」
なぜこの人は私の交友関係を知っているのでしょうか、もしかして同じクラスの人だったりするのでしょうか?
もしそうだとすれば、迂闊なことを言うと恥をさらしてしまうことにもなりかねません、気をつけましょう。
「はぐれましたっ!」
よくお母さんから言われています、人と話す時は、はきはきと。
母のおかげで醜態をさらさずに済みそうです、ありがとうお母さん。
「かふっ……そ、そうかはぐれちゃったんなら仕方ないよな。ふふっ、わかるとこまで道案内してやっからついてきて」
少し笑われているようです、なんでしょう髪が跳ねてしまっているのでしょうか?
ともかくこれで家に帰れそうです、よかった。
そして思い出しました、彼は同じクラスの人でした。
すこし顔があの……怖くてそれに短気だという噂を聞いて友達二人から、あいつには近付いちゃダメだからね、と言われていましたが凄く良い人のようです。
お父さんに、人は外見で判断してはいけないと言われていたのに……自分が恥ずかしいです。
ですがこれは忘れていません、助けられたらお礼をする。
これに従い、わたしは少し前を歩く彼に感謝の意を表しました。
「ありがとうございます、今いる場所がわからなくて困っていたんです。助かりました、大阪くん」
「逢坂です」
恥の上塗りでした、もちろん謝り倒しました。
穴があったら入りたいとは、まさにこのことでしょう。
案内されている途中で、自分が通う学校の構造くらい把握しとかなきゃダメでしょ、と優しく叱られました。
その叱り方が、私に兄はいませんがなんだか、お兄ちゃんみたいだなぁ、って思ったのを記憶力が乏しいわたしでもしっかり憶えています。
後日、この事をよく一緒にいる友達である、
二人が言うには、どうやら途中で会った先輩方はわたしにイタズラしようとしていたのだろう、ということらしく、逢坂くんが助けてくれなかったら大変なことになっていたそうです。
道案内とは別に、もう一つ助けられていたとは……この恩を返すにはどうしたらいいのか、今でも悩んでいます。
彼はわたしとは違い、頭もよく運動もできるので恩返しする機会があまりにもありません。
現在の状況ではどうすることも出来ないので、今は仕方ないです、授業に集中することにしましょう。
授業が始まっていたにも関わらず、未だに出してすらいなかった教科書を机の上に出して、先生の話を聞こうと意識を傾けた時に先生に言われました。
「鷹島ーお前が数学苦手だっていうのは先生わかってるけどなー、だからって堂々と英語の教科書出すのはあんまりだぞー、先生泣いちゃうぞー」
先生の言葉にクラスメイトが笑う、逢坂くんも小さく笑っていました。
今日は、よく恥ずかしい思いをする日です。
恥のミルフィーユです、たぶん星のめぐりが悪いのです。
赤くなっているであろう顔を隠すため、わたしは下を向きました。
授業が終わり担任のホームルームも終わり、今日はいろいろ運が悪いので早く帰ってしまおうと思い、仲の良い友人二人に挨拶して、鞄にあまり使った記憶がない教科書を入れて、さぁ帰ろうと思ったところで声をかけられました。
「鷹島さん、ちょっといいか?」
先ほどまでずっと考えていた逢坂くんに引きとめられましたっ!
「は、はい! なん、なんでごじゃいましょんっ!」
いきなりのことで緊張してしまい、ちゃんと喋れているかわかりません。
笑っているということはちゃんと喋れていなかったんですね、そうですね。
「前に数学教えて欲しいって言ってたじゃん? あれどうなったのかなって昼休みに思い出してさ、さっきも数学の授業中に面白いことしてたし、ちょっと不安になってな」
えぇ、お昼休みに思い出したという事はわたしも知っています。
わりと近くの席にいましたから、聞いてましたから。
それにしても逢坂くんは優しい人です。
噂では悪鬼羅刹とか、彼が歩けば血の河ができる、とか言われていますがとんでもない。
そんなもの根も葉もないただの噂、真っ赤な嘘です。
こんなにも、ただのクラスメイトであるあたしを、心配してくれる人が悪い人なわけありません。
「す、数学ですか……えっと、まだあの、あんまり……」
勉強は苦手です。
特に数学と英語と古文と体育と、あれいっぱいありますね、それに人の名前を憶えるのも苦手でした。
「やっぱり放置してたのか、聞いといてよかったよ。また今度予定空けるから、その時一緒に勉強する?」
「は、はい! おねがいしますっ!」
勉強を教える、ではなく、一緒に勉強する、と言うあたりに彼の気配りが感じられます。
はっ! 今気付きましたが、これは恩を少しでも返すチャンスでは?
せっかく話しかけてもらったのです。
この機会にお茶にでも誘って少しでも恩返ししていかないと、いつか返し切れない程に膨れ上がってしまいそうです。
お父さんから、借りたものはしっかり返しなさい、と言われています。
借りたものを返さない人は信用されなくなる、とのことでしたので、しっかり恩も返していかなければっ!
わたしのなけなしの勇気を振り絞って、帰りに一緒にお茶でもどうですか? と尋ねると、二つ返事で快く了承してくれました。
まだ帰っていなかったクラスメイトの視線が、今になって気になり始めてまた少し恥ずかしくなりましたが、今は心に湧き上がるわくわく感の方が上回っていました。
今日は運がいい日みたいですっ!
鷹島さんに声をかけたら、なんやかんやでお茶することになってしまった。
俺としては、学校の帰りに可愛い同級生と少しの時間とはいえお出かけなんて嬉しい限りだが、後のことを考えると喜んでばかりもいられない。
忍は、にやにやといやらしく笑っていたから後日、根掘り葉掘り聞かれることになるだろうし、恭也は複雑そうな顔をしていたから、これからの展開次第で面倒なことになる。
恭也が、この事をなのはあたりにリークすると
学校内でも懸念がある。
今日は早々に帰ったようで教室では姿を見なかったが、鷹島さんの両脇を固める鷹島さんの友人二人の耳に入れば、今後絡まれることになるかもしれない。
誰が呼んだか、
あまり彼女たちは、俺に対して良いイメージを抱いていないようだから、今日のことを知られると、これまためんどうな事になりそうだ。
だが構わない。
厄介な事柄は明日に丸投げして、今は目一杯楽しめばいいのだ。
「どこ行くとかって決めてんの?」
「はいっ、美味しいケーキと質のいい紅茶を出すお店があるって真希ちゃんに聞いたので、そこにしようかなって!」
たしか長谷部さんの下の名前が真希だったな、やはり女子はそういう甘味系の話に詳しいもんなんだな。
実に楽しそうに、にこにこと笑いながらこちらを見てくる。
身長差のせいで、彼女は見上げるような形になっているが、それがまた素晴らしいな。
大きくて丸い目をぱちぱちさせ、笑顔で話す彼女は小動物のようですごく愛らしい。
「そんな店があったのか、なんていうトコなんだ?」
えっとねぇ確か、と区切って彼女はいつも通りの、はきはきした聞き取りやすい声で元気良く教えてくれた。
「翠屋っていうところですっ!」
俺は今日、死んじまうかもしれない。
そうだよな、今では翠屋はこの辺りでは有名な店になっている。
それなら、話に上がることくらいあって当たり前か。
俺が、件の翠屋で働いていることは恐らく知らないのだろう、いろいろと説明してくれているが全部知っている。
なんなら、メニューの頭からケツまで暗唱できるくらいだ。
「それでですね、真希ちゃんが言ってたんですけど、そこって高町くんのご家族がやってるお店らしいんです! すごいですよねっ」
どうしよう、別に今日は俺のシフトはオフになってるし行くのは問題ないのだが、鷹島さんと二人で行くとなると桃子がなにかしらちょっかいを出してきそうだ。
「逢坂くんは甘いものとか大丈夫ですか? 種類もいっぱいあるらしいので、甘いの苦手でも食べれるものあると思うんですが」
いつもよりテンションが高くこんなに楽しそうにしている鷹島さんに、そこは行きたくない、なんていまさら言えないし……
仕方ない、覚悟を決めるか。
結論を出したところで彼女の鞄から、軽快なテンポの音楽が流れてきた。
この年齢の子にしては珍しく、出ていいですか? と一言声をかけて了承を得てから電話に出た。
こういうことを自然にできるのは、ご両親の教育の賜物だな。
「どうしたの、
彩葉……知らない名前だな、学校の友達ではなさそうだ。
鷹島さんの喋り方からして、恐らくは家族だろう。
「ちょっと……どうしたの? 泣いてたらわからないよっ」
にわかに話がきな臭くなってきた。
鷹島さんが時間をかけてゆっくりと話を聞いた結果、どうやら妹さんが家で飼っている猫を散歩中に逃がしてしまって、必死で探したけど現在行方不明なのだそうだ。
猫を散歩につれていくとは……さすが鷹島家、常識の外にいる。
「あ、あの逢坂くん……と、とても言い辛い……んですけど……」
通話を切った鷹島さんは今にも消え入りそうな声で、申し訳なさそうにしている。
彼女がとても優しい人というのは知っている。
この人はきっと家族にも、いや家族ならなおさら優しいのだろう。
このようなシチュエーションで、そんな人が言うような事は分かり切っている。
「鷹島さん、連絡先教えて。俺も探すから」
そして俺は、そんな人を放って置けない性分なのだ。
今日がバイト休みでよかった、時間をかけて探すことができる。
と、ここでユーノからいきなり念話が入った。
今日の朝に教えて貰ったものなのでちゃんとできているか心配だったが、問題なく使えているようだ。
《徹兄さんいきなりですいません! なのはがジュエルシードの反応を拾ったみたいでレイジングハートを持って一人で行ってしまいました!》
わ、悪いですからっ、わたし一人でも大丈夫ですからっ、と遠慮する鷹島さんと押し問答しながら、ユーノと念話を続ける。
しかし困ったな、どちらもやるとなると時間が足りないかもしれない。
どちらかを優先すべきかと考えていると、念話でユーノから新しい情報が入った。
《レイジングハートから送られてくる情報によると、ジュエルシードは猫の願望を読み取り一体化したみたいです! 近くに飼い主と思われる小学生くらいの少女が倒れているので、早く助けないと少女が巻き込まれる恐れがあります! なるべく早く向かえるようお願いします!》
にゃーるほど、奇跡的な可能性だけど繋がるもんなんだな。
合っているとは思うが一応確認をとる。
「鷹島さん。妹さんって、今何歳?」
「え、えと、9歳ですけど……」
ビンゴ、これならなんとかなりそうだ。
不安そうにしている鷹島さんの頭に手をおいて、安心させるように優しく撫でる。
「心配しなくていい、こういうのは案外あっさり見つかるものなんだ。俺は外を探すから鷹島さんは家に帰って探してみて。もしかしたら、猫が自分で家に帰ってるかもしれないから」
鷹島さんは落ち着きを取り戻したようで、小さく、こくりと頷いた。
おとなしくなった彼女に、見つかったら連絡するから家で待つように、と言いくるめて俺は走った。
目的地はなのはが向かった場所。
やるべきことは明確だ。
猫と一体化したジュエルシードを封印し、猫を保護する。
仕方ないとは、いえ一つだけ心残りなのは鷹島さんと下校デートができなくなったことだ。
同級生の可愛い女子と学校の帰りにお茶するなんて、もう一度あるかどうかわからないレアなイベントがキャンセルになってしまったのだから、残念どころの話じゃない。
この悲しい男心を置き去りにするように、俺は目的地まで全力疾走した。
次は久し振りに戦闘シーン書けそうなので今からうずうずしています。