『桃色少女からの情報は主様のお考えの裏打ちとなりましたか?』
『桃色少女って……なのはのことか? なんか
リニスさんの魔力が常軌を逸するほと増大した原因については、そもそも考えられる理由の数が多くなかった。
リニスさん自身の魔力ではなく、かといってプレシアさんから送り込まれているものでもない。それ以外で
時の庭園に備えられている魔導炉はその分野のスペシャリストであるプレシアさんが製作を手がけた。時の庭園単独での次元間航行を可能にさせているのが魔導炉なのだ。
巨大な建造物を航行させる魔力エネルギーと個人が魔法として使用するエネルギーでは電力でいう直流や交流、電位差や周波数といったように勝手が違うのかもしれないが、そのくらいの難点はリニスさんであればクリアしていてもおかしくない。プレシアさんの使い魔であり時空管理局の索敵プログラムにハッキングしてのけたリニスさんなら、困難ではあっても技術的に不可能ではないだろう。それこそ電力の例えのように、コンバーターやインバーターに類する装置を設ければ、人間が使う魔力に合わせることはできるかもしれない。
莫大なエネルギーを生み出す魔導炉から魔力を引っ張ってきているとすれば、合点がいく。
『なるほど……魔導炉から送られているのだとしたら、あの馬鹿げた魔力量も理解できますね。そして出力の低減処置を施しておらず、あのように魔力の暴威に呑み込まれた、と。暴走した魔導炉からの魔力によって自らも暴走状態になった。自分の手で自分の首を絞めるようなものですね。自業自得にして因果応報、もう一つ付け加えて本末転倒です』
『いや……たぶん、違う……』
『主様?』
ずっと考えていたことがあった。いくらなんでも、容易く戦闘を支配できすぎていると。
リニスさんと俺には隔絶された力の差があったはずだ。リニスさんは魔法の素質がありながら、俺が魔法という技術を知るずっと前から勉学に勤しんで鍛錬に励んでいた。俺のような
たしかに俺みたいな、魔導師と呼び難い相手と戦った経験はあまりなかっただろう。魔法の術式に侵入する能力、展開される魔法はほぼ不可視、捨て身の接近戦。まともな魔導師像とはかけ離れている。リニスさんが苦戦を強いられた状況もないではなかった。
だからといって、地力の差はそう簡単に縮まらない。
リニスさんには俺を退ける方法はあったはずだ、手段を選ばなければ。
非道で残酷な手を打てなかった理由を、既に彼女自身が教えてくれている。
――人を殺す覚悟なんて……ましてや、あなたを殺す覚悟なんて、できるわけがないですよ――
きっとリニスさんは、敵としてだけではない情を俺に向けてくれていたのだ。だから魔導炉からの魔力を取り入れてオーバーロード状態になることで感情を
俺と泉下を共にするのはリニスさんなりの誠意。主人の為に動いて、かつ俺に最大限の配慮をした結果。
「……勝手な真似、してんじゃねえよ……」
戦ったことで仮に俺自身が死ぬことになったとしても、俺は死出の旅に付添人などいらない。俺の性格や人間性を把握しているリニスさんならわかっていることだろう。
わかっている上で、それでもリニスさんが俺と共に冥土へ
「リニスさん……っ……」
これ以上罪を背負ってほしくない。死んでほしくない。失いたくない。料理だってまたご馳走してもらいたいし、中身のない馬鹿みたいな掛け合いをしたい。
そして、あの優しい笑顔を、もう一度見たい。
その時俺は、ようやく向かうべき道をみつけられた気がした。
雑多な懸念でざわついていた心が、水を打ったように落ち着きを取り戻す。
『原因は判明した。やるべき事も、見つかった。絶対にあの人を取り戻す』
『はぁ……主様ならそう仰ると思っていました……ええ、思っていましたとも。私個人としては内心複雑なものがありますが、どこまでも付き従いますよ。私は主様の……相棒ですから』
打撃を受けた時の違和感は解消されたのか、黒の彼女は杖を構え直してこちらを見据えている。
彼我の距離は実に中途半端なものだった。接近戦を仕掛けるには近づく為に必ず一歩は要するし、射砲撃戦には空間がなさすぎる。俺にとっては遠く、彼女にとっては近い。お互いに動き辛い、微妙に絶妙な位置取りだった。
自然と場は停滞する。
『それで、主様。真相を究明し、やるべき事を発見し、あの女を取り戻すと気炎を揚げるのはよろしいのですが、具体的な方法論も同時に見つけ出せたのでしょうか』
膠着状態に堪え兼ねたエリーが苦言を呈する。苦言というか、ひたすらに耳が痛いお言葉だった。
『……な、なんか言い方きつくないか?』
『そんなことは御座いません。情報が増えたといってもこちらに有利に働くものはなかったのに、どうやってあのとち狂った女を正気に戻すおつもりなのかと純粋に気になっただけです。決して……決して、本気の殺意を浴びせて本気で殺しに来ている女に何甘いこと言ってるんだ、主様の唇を不意をついて奪った文字通りの泥棒猫なんぞに何故
エリーがかなり、おこである。激おこである。
不機嫌になった理由に心当たりがない、などととぼけたことを言うつもりはないが、それにしたって機嫌を損ね過ぎだ。おそらくエリーは、自分よりも敵を大事にしている、などと心得違いをしているのだろう。ここはしっかりと誤解を解いておくべきだ。
『エリー、あのな? 俺はエリーを蔑ろにするつもりはまったくなくてだな』
『重々承知しております。主様が相棒たる私に素気なく接するようなことはこれからもないと。そう信じておりますが、それでも違う女ばかり気にかけているというのは、どうしようもなく心がざわつきます』
『エリー、ちょっと落ち着け』
『これはただの……醜い嫉妬です。身の程も弁えずに、主様から一番大事に扱われたいという、私の我が儘なのです。度量の小さい相棒で申し訳ありません』
『少しは話を聞きなさい。お前は勘違いしてる』
『面倒であれば、私のことは構わなくてもいいです。ただ主様のお役に立たせてもらえるのなら、主様の近くにいられるのなら、それ以上過ぎた望みは持ちません。主様が誰を愛そうと、私の気持ちは常に主様に……』
『……エリー。少し黙って俺の話を聞け』
『……ひゃぃ…………』
『俺はお前になんて言った? 相棒でパートナー。俺たちは家族みたいなものなんだ。なのに俺を
『うぅ……』
俺もつい頭に血が上ってしまい、口調が厳しくなってしまった。
エリーの気持ちが何から何まで百パーセント分かるなどとは口が裂けても言えないが、多少は察することはできる。死闘まで演じながら、それでも相手のことばかり気にかけていればエリーの立場からしたら面白くはないだろう。自分よりも戦っている相手のほうが優先順位が上なのではと、自分は大事にされていないのではと、まかり間違った考えに行き着くのはわかる。
わかるが、エリーはあまりにも俺のことを誤解している。そのことが俺には我慢ならない。
リニスさんのことは大事に思っている。どこか親近感を抱いてもいる。だからといって、エリーよりもリニスさんを優先しているわけではない。エリーよりもリニスさんが大事というわけでもない。
そうでなければ
これほどまでに大切な存在として想っているのにちゃんと理解されていないどころか真逆に受け取られていると、もどかしさから腹も立ってくるというものだ。言葉が足りなかった俺の責任ではあるのだけれど。
熱くなった頭を静めて、エリーに気持ちを伝える。
『相棒だって言っただろ、家族なんだって言っただろ。ちゃんと言葉にしなきゃわからないっていうんなら、もう一度はっきりと言ってやる。家族ってのはな、離れちゃいけないんだよ。身体的な距離はもちろん、心の距離だってな』
『だって……だって、私なんて……。執心が過ぎますし、独占欲強いですし……。その割にお役に立てることといったら魔力量くらいしかありませんし……。でも魔力が強すぎるせいで主様を乗っ取ってしまいそうになるし、主様のハッキングという類い稀な能力を潰してしまっていますし……。こんなことなら……他の物静かなデバイスなどの方が、主様のお役に立つのではと……』
『こんのっ……分からず屋め』
『だって、だって……』
どこか排他的な言い回しが目立つエリーだが、俺に対してだけは心を許して素直に振る舞っている。だから俺が
エリーは調子の良い時は自信満々な言動を見せるのに、沈む時はどこまでも沈んで落ち込む。なぜそんな余計なところまで俺と似るのだ。
ここまできたら仕方がない。さすがに気恥ずかしくて、気障ったらしくて抵抗があったのだが、仕方がない。大事な家族が不安を感じているのであれば、それを払拭するのもまた、家族の務めだ。
姉にすら今抱えているような想いを伝えたことはなく、さすがに頬が熱をもつ。だが、それでも決心した。一時の気恥ずかしさなど捨ててやる。
『いいかエリー、よく聞けよ。これは一度限りだ。本当に一度しか言わないからよく聞いとけよ。お、俺は……お前のこと、すごく大事に思ってるんだ。エリー……俺には、他の誰でもないお前が必要だ。だから、他のデバイスがどうとか、そんな悲しいこと……言うな』
『あ、主様……私、胸がすごく苦しいです。きゅぅっ、となってこのまま死んでしまうのではないかと思う程、苦しいです。……主様、これ……これって、なんなんですか……?』
か細い声で、弱々しく、不安げにエリーが問いかけてくる。
だが、その問いに俺は答えられない。まずもって答えを持ち合わせていないし、なによりそんな余裕がなかった。
『知らん、自分で考えろ。俺は今、顔から火が出るほど恥ずかしいんだ。きっと恥ずか死にする』
『ふふ、恥ずかしいのなら言わなければよろしいじゃないですか』
『うるさい。元はと言えば、お前がいつまでもリニスさんと自分を比べてへこんでるからいけないんだろうが。リニスさんも大切だけどな、だからといってお前が大切じゃないだとか、お前の方が順位が下だとか、そういうことじゃないんだよ。わかったか、大馬鹿なパートナーさんよ』
『はいっ、良く理解できました。主様のお気持ちも、優しさも、懐の深さも、女性に対するだらしなさも』
『最後はいらないぞ』
『主様の顔がとても熱くなっているのが私にも感じられますし、心臓の鼓動が速くなっているのも。主様も、私と同じようにどきどきしてるのですね』
『当たり前だろ。たぶんあんなセリフもう吐く機会はない。次は絶対に死ぬ。恥ずか死ぬ』
『主様に死なれては私が困りますし他の女を引っ掛けられても困りますので、そんな機会が今後も到来しないことを私も望みます』
『望んだって望まなくたってそんな機会はそうそう来ねぇよ』
『そうですか? 主様なら頻繁にありそうで私はとても心配です』
『あるかよ。自分でもやだよ、そんな俺』
『ふふっ、そうですね』
とても気恥ずかしい思いはしたが、エリーに元気が戻ったのでよしとしよう。
リニスさんを黒い魔力の沼から救い出すにはエリーの助力がなければ到底成し得ないのだ。逆説、エリーが復調した今、問題は残されていない。
『閑話を挟んでしまった私が言うのもなんですが、あの女を元に戻す方法は見つけられたのですか? 元に戻す方法が不明のままでは、どう動くべきかの判断も困難ですが……』
『そこについては案がある。リニスさんが魔導炉の魔力をリンカーコアに取り込んでいるせいであんなことになっているのだとしたら、魔導炉からの魔力供給を遮断してやればいい』
いくつか越えなくてはいけないハードルはあるにしろ、解決法の概要としてはこの筋書きでいいだろう。
リニスさんの魔力と魔導炉の魔力を分離させる方法として送信元を叩ければ、すなわち魔力を作り出している魔導炉本体を直接破壊することができれば話は早かったのだが、それはなのはからの報告によれば難しいようだ。
暴走状態の加速により魔導炉の外にまで魔力が溢れていると、なのはは言っていた。垂れ流しになっている魔力に阻まれ、なのはの砲撃を用いても魔導炉の強固な装甲を貫くだけの威力が保てないのだ。なのはクラスの瞬間魔力放出量をもってしても破壊できないのであれば、魔導炉本体をどうにかしようとするのは現実的とは言い難い。
本体をどうにかするのが無理なら、魔力に呑み込まれている黒の彼女の方から対処するしかないのだが、こちらはこちらで高いハードルがあった。
『魔力供給を遮断、ですか。主様は簡単に仰いますが、しかし相当に厄介では……』
『ま、まあ……ちょこっとばかり厄介だな』
『……ちょこっと? この難関を、ちょこっと、と仰せになったのですか、我が主様。さすが私の主様は大物でいらっしゃいます。ピンク娘からの報告は、『魔導炉は粉砕出来そうに
『あぁ……いや、うん、そうなんだけど……。ていうかピンク娘ってなのはの事か? 前の呼び方よりひどくなってるんだけど』
『呼び方などを気にしている場合ではないです』
『あ、はい、すいません……』
復調したはいいが、ここ一番の気の強さまで調子を取り戻してしまった。しかも俺の安全を
取り繕って言い訳すれば逆効果になりかねないので、とりあえず満足するまで吐き出してもらおう。
『主様のハッキングという特異な力を使うためにはまず、彼奴との距離を埋めなければいけません。射撃魔法で針鼠のようにばら撒かれては、近づくことがまず困難です』
黒の彼女へと肉薄するという難度の高さ。その点についてなにも考えていなかったわけではない。
たしかに、スフィアと呼ばれる発射体からの弾丸は気持ち程度ではあるがホーミング機能がついていて回避には神経を使うし、直射型の魔力弾の数は圧倒的だ。この調子でいけば誘導弾の性能はどれほどのものがあるか、想像するだけで吐きそうになる。砲撃魔法だって、威力の高さはもちろん、連射性も見直されていた。
遠距離射撃のバリエーションでは、本業の魔導師相手になんちゃって魔導師が敵うわけがない。エリーに言われるまでもなく接近する大変さは理解している。
ひとたび離れてしまえば再び近づくことは容易ではないが、しかし、今なら多少なりのアドバンテージがある。
一歩、多くても二歩で彼女に手が届く。仮に彼女が離れようとしても食らいつける。この位置的有利は大きい。
この事実を伝えようと、エリーへ念を送る。
『今の距離なら、隙を突けばなんとか……』
『まだあります』
『はい……』
かぶせて遮られた。まさか発言の許可さえ下りないとは。
『ハッキングを使える近さまで、つまり彼奴に触れるほどに近づけたとしましょう。難点は、触れている状態を維持しなければならないことです。防御、拘束魔法などであれば主様は瞬く間にプログラムを
エリーに問い詰められ、内心ぎくっとした。
乗り越えなければいけないハードルとして、ハッキング終了までの時間稼ぎの必要性は俺も考えていた。考えてはいたのだが、そこはこれから算段をつけようと思っていたため、具体的な方案は浮かんでいない。
『そこは、えっと……これから計画を詰めようと思ってて』
母親に出来の悪かったテストを見つけられた子どものように、しどろもどろになりながら説明する。
『まだあります』
『まだあるのか……』
やはり俺の言い分をすべて聞き終わる前に、エリーが続ける。
いつのまにか、俺の計画からエリーが一つ一つ詰めが甘い箇所を指摘していく流れになっていた。
いっそのこと一息に列挙してくれと思わないでもないが、本当に一気に全部並べられたら心が折れそうだ。黙ってこのまま待機しておこう。
『私程度が言うまでもなく、主様なら認識されているであろう難点……いえ、覆しようのない不可能な点です。この障害だけは絶対に解決出来ません。主様、ハッキングを使うということは……』
『ハッキングを使うということは、
仮に、黒の彼女の身体に触れるくらい近づくことができたとして、仮にその距離を保持できる妙案を閃いたとする。だが、いざハッキングをするぞ、という態勢に入るとき、俺はエリーとの一体化現象、
和合中はエリーの魔力が俺のリンカーコアに流れ込んでいる。俺の魔力が透明ではなくなることが原因から知らないが、結果として隠密性、浸透性が失われ、ハッキングは使用できなくなる。
つまり、彼女にハッキングを行使しようと思ったら、どうしたって和合を解かなければならないのだ。和合を解けば、もちろんエリーの魔力という加護は
エリーの魔力の恩恵を受けられなくなることによる能力の低下は甚大だ。カマキリの前肢から鎌の部分を取り上げるようなもの、ヤドカリから殻を奪うようなもの、ウサギから仲間を引き離すようなものである。武器を取り上げられて貧弱に逆戻りとなり、盾を奪われ紙装甲と化し、ついでにエリーと引き離されて寂しくなる。精神的なダメージまであるのだ。
『わかっている? 本当に理解していらっしゃいますか? 和合を解けば、魔法を受けずとも、攻撃を受けずとも、それこそ単に払いのけようとする行為だけで……』
『……死ぬ恐れがあるな。いくら魔力付与で体表面を覆っても俺単体の魔力じゃ底が見えている。暴れられでもすれば致命傷になるだろうな』
『リスクが大き過ぎます、主様。違う策を検討すべきかと』
『……それはできない』
『何故ですか、主様っ!』
『他に……思いつかないんだ。ハッキングを使わずに魔導炉からの魔力を断つなんて』
『っ……いっそのこと、主様が直接魔導炉へと向かわれてみては……』
『魔導炉に着くまで誰が彼女の相手をするんだ。彼女は必ず追ってくる。無防備に背中を晒して魔導炉まで行けるとは思えない。仮に魔導炉まで行けたとして、あそこにはなのはとユーノがいる。彼女の杖が二人に向けられたらそれこそ最悪だ。防御魔法に長けている二人といえど、彼女の攻撃は防げない。そもそもなのはの砲撃でも魔導炉に傷さえつけられなかったんだ。いかに俺たちでも時間がかかるかもしれない。魔導炉周辺に立ち込める魔力粒子への対処法も構築しなければいけないし、今の彼女が魔力源の魔導炉に近づけばイレギュラーが発生する可能性もある。突発的な事象に対しての想定もしておかないといけない。どっちにしたって問題は山積している』
『し、しかし……』
『俺が向こうに移動すれば彼女もついて来るのは明白だ。余計な負傷者を出すことは避けないといけない』
『……最初から桃色少女と小動物がこちらに残り、主様が魔導炉へと急行していればこのようなことには……』
『後になってそんなことを論じてもしょうがない。逆に俺だったら魔導炉まで辿り着けてなかったかもしれないんだからこれでいいんだ』
『…………っ』
『理屈の上では可能で、成功する確率がゼロじゃない。リニスさんを助け出そうとするなら、これしかない。可能性があるだけで儲けものだ。ハッキングで切り離す。俺のことが心配だっていうんなら全力でサポートしてくれよ、エリー』
『…………わかり、ました』
不承不承といった風ではあるが、エリーは最終的には了解してくれた。
無理を通した感はあるが、俺にだって他に打つ手はないのだ。死傷するリスクを増やさずにリニスさんを元に戻すには、これしか思い浮かばない。
『よし、じゃあ取り掛かるぞ』
『私も最大限に警戒はしますが、主様も怪我をなさらないよう注意してください。……本当なら今すぐにでも取り止めて頂きたいですが』
『わかってるよ、エリー。俺だって進んで痛い思いなんてしたくないんだからな』
紛糾したものの、俺とエリーの二人ぼっちの作戦会議は終了。
方策は組み上がった。道筋がはっきりすれば、どう動けばいいかも見えてくる。
「さて……まずは近づくとしますか」