そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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彼女のことを、まだ何も知らずにいた。

 

「フランちゃん。このかたつむりって、よく出てくるのか?」

 

殻を横倒しにしたかたつむりを指差して、フランちゃんに聞いてみた。

 

「ヤー。おおい。なる」

 

「……最近多くなったってことでいいのか?」

 

「ヤー」

 

「それをフランちゃん一人で退治してるの?大変じゃないかしら?」

 

「…………」

 

デバイスの残弾を確かめながらランちゃんが尋ねるも、フランちゃんは沈黙するばかりだった。

 

もはやこれは人見知りの範疇を超えているような気がしないでもない。

 

「……フランちゃん。一人でやってるのか?大変じゃないのか?って」

 

「ヤー。……イッヒビンミューダ。アバーカインプロブリーム……ナッハニヒト」

 

「お、おおう……えっと……」

 

「あ……つかれる。なら……ニヒト、でも……」

 

フランちゃんは困ったように、たどたどしく言葉を噛み砕いていく。

 

俺も甘えてばかりではいけない。教えてもらったことを繋ぎ合わせて、意味を探る。

 

なるべく単語で説明してくれているとはいえ、なかなか長い文だったので翻訳するのに時間がかかってしまった。

 

「疲れはするけど、まだ大丈夫ってことでいいか?」

 

合っているのかどうか表情を窺うと、ぱぁっと明るい顔を見せた。

 

「っ!ヤー!ダズイストリヒティッヒ!クーニヒ、すごい!ウンダバー!」

 

「あはは、ダンク。疲れたら言うんだぞ?」

 

「ヤー。あり、あとう。ダンケフュアイーレ」

 

「……なんだかもう、二人だけの世界があるわねぇ」

 

「……ずるい」

 

ランちゃんやフェイトの視線はまったく気にせずに、フランちゃんがかたつむりに近づいた。

 

おそらくかたつむりは絶命しているだろうが、身体の小さなフランちゃんの場合、殻が倒れただけで大怪我を負いそうだ。

 

「フランちゃん、なにしてんの。危ないぞ」

 

「これ。もつ。……かえる」

 

小さな手で殻を掴んで、引っ張っていた。

 

「いるの?これ」

 

「いる。つかう」

 

何に使うかまでは聞けなかったが、どうやら必要なものらしい。ゴーレムのないフランちゃんでは、仮に殻を持てたとしても家に帰り着くのに二週間くらいかかりそうだ。

 

「使うんなら手伝うけど、ゴーレム出したほうが楽じゃないの?」

 

「ごーれん?」

 

「シュランクネヒトのこと」

 

「あー……ニヒトゲヌゥグ……たりる、ちがう……」

 

「足りない?」

 

「ヤー。たりない。アブゾプタル」

 

「アブゾプタル?」

 

新しい単語だ。俺が首を傾げていると、フランちゃんはとことこ歩いて、ゴーレムだった石と砂の山を手探りで掘り始めた。しばらくして、何かを握って戻ってきた。

 

「アブゾプタル。ここ(・・)

 

これ(・・)?」

 

「ヤー。これ。アブゾプタル」

 

「アブゾプタルって名前だったのか、この塊」

 

フランちゃんが握りしめていたのはゴーレムの核になっていた、楕円球の金属。魔力を吸収する卵形の金属だった。

 

「これ。たりない」

 

「ああ。大広間ではいらないけど、ここでは魔力が奪われるから、このゴーレムの核……アブゾプタルがたくさんいるのか」

 

「……ヤー。アブゾプタル。いる」

 

たぶん俺の言ったことのすべてを理解したわけではないだろう。妙な間があった。だがフランちゃんは分かったふうにこくこくと頷いた。

 

ウエストを絞るようにベルトで固定されているポーチを開いた。ポーチの中には、何も入っていなかった。

 

「そっか……俺を助ける時にアブゾプタルがなくなるまで使ってくれたのか。……ダンケフュアイーレ」

 

「ど、どういたりましえ」

 

ちょっと発音が怪しいが、今回はちゃんとこっちの言葉で言ってくれた。少しずつ、親しくなれていると思うのは自惚れだろうか。

 

フランちゃんは照れくさそうに、身体を背けて、続けた。

 

なら(・・)。いる。これ」

 

なら(・・)じゃなくてだから(・・・)、な?」

 

「ヤー。だから、いる」

 

「そうそう。そんで?この殻からどうやってアブゾプタルを作るんだ?」

 

「……?」

 

きょとんとした表情のフランちゃん。何を言っているかよくわからないという感じで首を傾げられても困る。

 

「この殻を使ってアブゾプタルを作るんじゃないの?」

 

「あぅ……これ、おく。なら、ダーモギグタッグ……ある」

 

「えっと……つまり、これを置いといたら明日にはアブゾプタルができてるってこと?」

 

「っ!ヤー!」

 

銀色の髪が波打つくらい頭を縦に振る。俺を見上げる瞳はとてもきらきらと輝いていた。言っていることを理解してもらえて嬉しいらしい。

 

フランちゃんが嬉しそうなのは俺も嬉しいのだが、ちょっとよく意味がわからない。なんなのだろう、殻を投入したらアブゾプタルが生産される装置でもあるのだろうか。この鉱山に電気が通っているようには思えないのだが。

 

俺の推測では、という注釈が入るが、かたつむりは魔力を吸収する金属(アブゾプタル)を摂取して殻を成長させている。フランちゃんがこの殻を持って帰ろうとしているということは、推測通りかたつむりの殻から凝集したアブゾプタルを取り出すことができるのだろう。

 

もしかして、この国の秘術や一子相伝の特殊な術式などがあるのか。それで俺に隠している、ということならまだわからなくもない。

 

何はともあれ、俺の油断によってアブゾプタルを浪費させてしまったことは明らかだ。手伝うのが道理である。

 

「そんじゃ、なるべく持って戻ったほうがいいよな。……重そうだけど」

 

かたつむりの本体、というべきなのか、軟体部分は溶け出しているのでその重さはないだろうが、殻だけでも相当な重量があるだろう。

 

「意外と……いや、やっぱ重いな……」

 

重心が不安定で、しかも大きくて持ちにくい。荷車か、せめてロープでもあれば引きずっていくこともできたのに。

 

「徹ちゃん、それ持って帰るの?」

 

「使うんだって。どんだけいるのかわからんけど、一応持てるだけ持って行こうかなって」

 

「ごめんね、徹。私……」

 

「わかってるって、フェイト。俺のせいで無駄に魔力使わせちまったからな。フォロー、助かった」

 

「私はただあてただけで……すごいのはランだよ。私があけた穴と同じところを精密に撃ち抜いてた」

 

「うっわ、まじで?あれだけ乱戦だったのに、そんなんできんの?」

 

「ターゲットは遅いし、まあこの距離なら問題はないわねぇ」

 

「精度高すぎて逆に気持ち悪いな……」

 

「それ徹ちゃんには絶対言われたくないセリフよ。ちなみに私も余力は残ってないわぁ。ごめんなさいね」

 

「はいはい、わかってんよ。どうにかうまいこと重ねりゃ、三つ四つくらいは一緒に運べるんじゃねえかな」

 

ゴーレムの巨腕で潰されたり、俺が蹴り砕いた殻の破片を、形が綺麗に残っている殻に入れて運搬しやすくしている時に、ふと気付いた。

 

「……地面、固まってる……光も……」

 

巨大かたつむりが群れを成してやってきて、そして逃げ去った道は、まるで床の表面にワックスでもかけたように光る石がコーティングされていた。坑道自体も、おそらくかたつむりの自重で押し固められたのだろう、ローラー機で舗装したように固められている。

 

「まあ、殻が光ってりゃ天敵に見つかりやすくなるもんな。吐き出すのは当然か」

 

巨大かたつむりは、がりがりと壁や床を噛み砕いて咀嚼(そしゃく)しては、光る石とアブゾプタルを分別して体に取り込んでいるようだ。アブゾプタルは殻に吸収し、光る石の成分は軟体の部分から排出している、と見ていいだろう。

 

ならば。

 

俺の推測が正しければ。

 

「皮肉な話だな……」

 

この坑道の作りからして、おそらく俺たちがこの鉱山に入った時の道も巨大かたつむりが掘削して作られたのだろう。

 

巨大かたつむりが多すぎると、アブゾプタルを食い尽くされて他の魔法生物が侵入してくる。しかし、裏を返すとかたつむりが道を掘り進めているおかげで空気の通る道ができて、そこから酸素や空気中の魔力を鉱山の奥まで届けることができている。しかもそのかたつむりの殻を使って、ゴーレムの核となる物を作っている。

 

脅威であると同時に、必要な存在でもあった。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、なさい……クーニヒ……」

 

「だからもういいって。俺を助けてくれたんだから、今度は俺がフランちゃんを助ける番だ」

 

「私も一緒にごめんね、徹」

 

「帰るまで道のりは長いからな。体力温存しとけ」

 

「私も一緒に乗せてほしいわぁ。私も疲れちゃったぁん」

 

「自分で歩け。残念ながら俺はもう定員オーバーだ」

 

住居への帰り道。アブゾプタルを使い果たしたフランちゃんは、最初は頑張って自分で歩こうとしていたが早々に体力が尽きた。そんなフランちゃんを背負って進んでいたが、今度はフェイトが遅れ始めた。射撃魔法で魔力を使いすぎて、年相応まで体力が落ちていたのだ。俺の背中はフランちゃんが乗車済みだったので、フェイトには俺が運んでいる殻の上に座ってもらった。多少不安定だろうが、そのあたりは我慢してもらうしかない。

 

「クーニヒ」

 

「ん?どうした?」

 

背中にいるフランちゃんが、すんごい控えめに俺の服を引っ張った。やることは控えめなのだが、その身体は全然控えめじゃない。背中に、大きな二つの球体をメインとしてマシュマロのような柔らかさの身体がひしと密着している。フェイトとフランちゃんの場所を交替させておくべきだったかもしれない、と言ってしまうとさすがのフェイトでも怒りそう。

 

「もどる。の、あと。ん……アーベントエッセン……あぅ」

 

「戻ったらご飯にするってことか?」

 

「ヤー」

 

「それは助かるな。お腹もすいてきたことだし。でも食べ物とかあんの?」

 

「ある。ゲミューゼ」

 

「野菜、か。やっぱり肉は無理だよな。俺が知ってる野菜あったらいいけど。ていうか、俺たちも食べていいの?……ここの人たちのぶん、とか」

 

「だいじょうぶ。ある」

 

ここぞとばかりに、ほかの住人の情報について触れてみたが、俺の緊張とは裏腹にフランちゃんは平然と答えた。

 

「そ、そっか。ならよかったよ」

 

「……アンドキュルツリヒ」

 

「え?」

 

フランちゃんは端的に答えて、それで話は終わりかと思った。だが、最近は(アンドキュルツリヒ)と続けた。

 

「みんな、いない」

 

「……いない?それって、どういう……」

 

最近、みんないないと、フランちゃんは言った。単語の言い間違いか、俺の聞き間違いか、それとも意味のニュアンスがずれているのか、はたまた実際に違う町か何かに出かけているという意味なのか。

 

再び尋ねても、フランちゃんは俺の背中に顔をくっつけるばかりでそれ以上答えてはくれなかった。

 

なぜか、鉱山の上層で見つけた白骨化した遺体が、ふと頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どうしたんだ、アサレアちゃん。食べないのか?」

 

「野菜ばっかり……」

 

「山の中なんだ。畜産はやれないだろ。それに、これは肉……みたいなものだぞ?」

 

「ちがうの。そういう『畑の肉』的なのじゃないの」

 

「お野菜も美味しいじゃない。とっても新鮮で、味がしっかりしているわぁ。それに、このスープに入っているの、本当にお肉に近い食感よ?これだけ手を尽くしてもらっておいてお嬢ちゃんはまだ文句言うの?」

 

「文句じゃないわ!おいしいわよ!おいしいけどっ……」

 

「アサレアちゃんは野菜嫌いなんだな」

 

「嫌いじゃない!ただ、お肉のほうが好きってだけで……」

 

「それを好き嫌いっていうんだよ、アサレア。いつもお母さんに怒られてるでしょ?。好き嫌いしちゃだめだって」

 

「やめてよクレイン兄!起きたら起きたでいらないことばっかり言う!ここから出るまでずっと寝てればよかったのに!」

 

「ひどい……」

 

「兄妹甲斐のないお嬢ちゃんねぇ。クレインちゃん、身体のほうはもう大丈夫なの?」

 

「はい。休ませてもらって、だいぶ良くなりました。おいしいご飯も頂いたので」

 

「徹は料理得意だもんね」

 

「初めて見る野菜が多くて最初は戸惑ったけどな」

 

クレインくんを寝かせていた小部屋で、俺たちは料理を囲んでいた。

 

フランちゃんに食材を分けてもらったが、扱ったことがないどころか見たことすらない野菜の数々に呆然とした。どう調理すればいいかわからなかったが、いろいろ試していくうちに特徴を掴めた。大豆に近い食材があったことにも救われた。

 

仕方ないこととはいえ、調味料の乏しさに絶望しかけたが、昼食のサンドイッチのために持ち込んでいた調味料を使ってなんとか料理という形に落とし込むことができた。

 

いったいここに住んでいる人はどうやって調理しているのか。提供された野菜が妙に味が濃くておいしいからといって、味付けなしではレパートリーにも限界があると思うのだが。

 

「おいしい……おいしいんだけど……むぅ」

 

「肉があれば料理に幅が出るんだけど、ないもんはないしな。……肉、肉……あ、さっきの巨大かたつむりとか」

 

「かたつむりなんてやよ!食べ物じゃないでしょっ!」

 

「食用もあるぞ。まあ、あのかたつむりが食べれるかわからんけど。種類によっては寄生虫とかいるらしいし」

 

「寄生虫?!そんなもん食べさせようとしないでよ!」

 

「俺もどう調理したらいいかわからんしな。外にいた(いのしし)の一頭でも捕まえてりゃよかった」

 

「まさかこうなるとは思わなかったものねぇ」

 

仮にいのししを捕まえていたところで、ここまで持ってこれていたとは思えないけれど。

 

生き延びるので精一杯だったほどである。

 

やいのやいのと雑談しながらご飯を食べていると、ふと気づいた。みんな、声に張りが戻っているというか、元気になっている。

 

「フェイト、顔色よくなったな」

 

「そう、なのかな?自分じゃわからないけど、でも体調はよくなった気がするよ」

 

「やっぱりご飯食べると元気が出るわねぇ」

 

「野菜ばっかりだと体力つかないけど」

 

「はぁ……お嬢ちゃんはフェイトちゃんよりお子様ねぇ」

 

「うっさい!」

 

寝ていたクレインくんはもちろん、フェイトもみんな、表情が明るくなっていた。かくいう俺も調子が戻っているのを実感している。体力だけでなく、まるで失われた魔力まで回復しているように。

 

「もしかして……」

 

近くにフェイトがいるのでばれないように気をつけて、左目で精査する。

 

うっすらと、しかもか細かったおかげで今まで気づけなかった。料理に使われている食材に、魔力が含まれている。

 

その理由には、すぐに見当がついた。これについては、フェイトがヒントをくれていたのだ。あとは実地の検証だけである。

 

皿に残っているサラダやスープを一気に胃袋に流し込む。いきなり急いで食べ始めた俺に唖然としたみんなを置き去りにして立ち上がる。

 

「ゆっくり食っててくれ。ちょっと出てくる」

 

「出てくるって、あんたどこに……」

 

「見ておきたいところがあるんだ。ただの好奇心だよ」

 

見上げるアサレアちゃんから目線を外し、部屋の隅っこにいたフランちゃんを見つける。

 

いくら誘っても、輪になっての食事とお喋りには参加してくれなかった。それについて無理強いするつもりはないし、食事の楽しみかたは人それぞれなので、そのあたりは本人が一番楽なようにさせてあげるべきだろう。

 

ただ料理の味つけは口に合ったらしい。俺よりも早く食べ終えていたところを見るに、食事には満足してくれたようで何よりだ。

 

「畑を見たいんだけど、つい」

 

「いっしょ、する」

 

「てきて……あ、ありがとう」

 

若干食い気味で答えてくれた。壁に手をつけて立ち上がり、扉に向かうフランちゃんの背を追う前に、みんなに指示を出しておく。

 

鉱山の中だと感覚が狂ってきてわかりにくいが、もう夜の時間帯なのだ。ただでさえ、今日はハードに動いている。休んでおかないと身体がもたなくなる。

 

「交代で睡眠をとっておいてくれ。細かいことはランちゃんの指示に従うように。それじゃランちゃん、任せた」

 

「了解よん」

 

「ちょっ、ちょっと!あんたはいつ休むのよ!」

 

「調べ物が終わったら、次の休憩のローテーションで休ませてもらうって。先に休んどいてくれ」

 

「……徹が一番動き回ってるのに……」

 

「あはは、今から見に行くのはただの好奇心だから気にしなくていいって。んじゃ、そういうことでな」

 

「まっ、待ちなさっ……」

 

更に何か言い募ろうとしていたアサレアちゃんを振り払うように、俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

フランちゃんに案内されて、彼女が維持管理している畑までやってきた。案内されてきたといっても、物自体は何度も視界に入っていたのだけれど。

 

大広間の、光る石の結晶の真下。そこに、家庭菜園とは言い難い規模の農園が広がっていた。

 

やはり、結晶から照射される光は太陽光に近いものがあるのだろう。だからこそ、光が一番降り注ぐこの場所に畑を作っている。

 

「ここをフランちゃん一人で管理してるの?」

 

「ヤー」

 

「…………」

 

「……シュランクネヒト。やる」

 

「あ、うん、なるほどな」

 

フランちゃんの儚すぎる体力で農作業なんてできるのだろうかと思っていたが、ゴーレムに頼っていたようだ。大広間では魔力を奪われないことも、ゴーレムを使いやすい要因だろう。

 

ふわふわっとした軽やかな歩みで畑の手入れに向かったフランちゃんを見送って、俺は近くの(うね)を見る。

 

多種多様な種類の野菜が植えられていた。その野菜の一つを左目でじっと視る。薄らとだが、たしかに魔力の光が視えた。

 

「やっぱり魔力を貯めてる……」

 

不思議には感じていたのだ。魔力を吸い取られる鉱山で、なぜフランちゃんは魔法を使えているのだろうと。

 

アブゾプタルは蝋燭(ろうそく)のようなものだ。火を灯し続けることはできても、着火する際にはエネルギーがいる。その着火のエネルギーをどこで得ているのかと、考えていた。

 

「……ここから、補給してたのか」

 

その答えは、食べ物にあった。

 

フェイトが言っていたことだ。この世界は空気中の魔力が多く、それが雨などで土中に含まれ、水と魔力と栄養を一緒に植物が吸い上げた。

 

理屈はそれと同じだ。

 

この大広間の空間に集められた魔力は、土の中にあるアブゾプタルの細かな粒子が溜め込んでいる。その魔力を、今度は植えられた野菜が土中の栄養と一緒に吸い上げた。

 

結果、その野菜を食べるフランちゃんや、野菜をわけてもらった俺たちも魔力を取り戻すことができた。

 

奇跡に近いサイクルだ。いや、そんな(にわか)には信じ難いサイクルが成立しているからこそ、この鉱山で人間が生きていけているのだから必然というべきなのか。

 

「ここにバッテリー切れのアブゾプタル埋めたら、また充電できるんじゃねえの?」

 

野菜が植えられている近くの土をいじる。

 

フランちゃんはゴーレムにアブゾプタルを使っても、それを回収はしていなかった。彼女の中では消耗品という認識なのだろうか。使い捨てせずに済むのならそれに越したことはないのに、と貧乏根性で考えながら、土を掘り返した。

 

かり、と白くて硬いものが手に触れた。

 

「……は?」

 

「クーニヒ?なにか、ある?」

 

「いや、なんでもない!」

 

声をかけられ、思わず手元を隠した。

 

フランちゃんはとくに気にするようなそぶりもなく、首を傾げると、再び畑の手入れに戻った。

 

手元が見えない位置にまで離れたのを確認してから、出てきたものを確かめる。

 

上の層にあったものと同じだ。人の骨。白骨化した、人骨だ。

 

ちらちらとフランちゃんの目を気にしながら更に掘ってみると、多くの骨と、亡くなられたその方が着ていたのだろう血だらけで焦げた服も出てきた。

 

「…………」

 

なぜ、ここに人の骨があるのか。

 

可能性だけならいくつかある。この鉱山で亡くなられた方は伝統的にこの大広間に埋葬されている、など。

 

だが貴重な食料であり唯一の魔力供給源である野菜を栽培している場所で、亡骸(なきがら)を埋葬しようとするだろうか。そもそもこれらの遺骸(いがい)は、天寿を全うして埋葬されたものなのか。

 

違う可能性を考え始めれば、いくらでもこじつけることはできるだろう。わかっていないことのほうが多いのだから、確証はないとして保留にせざるを得ない。

 

ただ、もっと単純な答えが、俺の頭の中を埋め尽くしている。

 

「っ……待て。待て待て待て……なに考えてんだ俺、そんなわけないだろ……っ」

 

考えたくもないのに、想像したくもないのに、その可能性しか思い浮かばない。

 

この山の中でただ一人暮らしているフランちゃん。可能性の話をするのなら彼女が一番怪しいことになる。

 

土から出てきた骨はすでに白骨化しているが、この鉱山の特殊な環境もあって時間がどれだけ経過しているのかはわからない。普通、土に埋められた場合は四年から五年で白骨化するらしいが、しかし、服に付着した血痕から数年も経過しているとは考えにくい。ここ数ヶ月から一年というところが妥当じゃないだろうか。

 

数ヶ月ほど前に亡くなり、この大広間に埋められた。そんな出来事は、そう簡単に記憶から消えはしない。なのに、鉱山のほかの住人はどこにいるかと尋ねた時、フランちゃんは『いない』と言った。

 

「あるわけ、ない……っ」

 

なによりも。なによりも、だ。

 

この大広間と大広間付近の土は、つい最近掘り起こされたように、歩きにくいくらいふかふかと柔らかくなっている。

 

菜園のためにゴーレムで耕したのかと思っていたが、畑のある場所以外も掘り返されたようになっている。あまり気にしなかったが今となっては事情が変わってくる。

 

この鉱山の人たちが何人、何十人、何百人いたかはわからないが、しかし現時点で存命なのはフランちゃんだけだ。考えたくなくても、嫌な考えしか出てこない。

 

「クーニヒ。この……ニヒト、んぁ……これ!これ、おいしい」

 

柔らかな笑みで正しい言葉を考えて選びながら、フランちゃんは赤い果実を俺に手渡してきた。

 

見た目はトマトに近い果実をぼんやりと眺めている俺を尻目に、フランちゃんは両手で果実を持ってかぷっと齧り付いた。

 

「あむ……じゅる」

 

「……そのまま、食べるのか?」

 

「ヤー。レッカー」

 

思考停止したまま彼女に(なら)って直接がぶりと齧り付くと、赤い果汁があふれ出した。酸味と仄かな甘みのある、野菜というよりは果物に近い味だった。

 

「……おいしいな」

 

「っ!ヤー、おいしー!」

 

ぽつりと呟いた俺の言葉を復唱して、幸せそうに、フランちゃんは微笑む。

 

笑顔を湛えたまま、フランちゃんはもう一度かぶりつく。あふれた真っ赤な果汁が手からこぼれ落ちて、床を濡らす。その様は、まるで滴り落ちる鮮血のようで。

 

「クーニヒっ、おいしー!」

 

俺は彼女のことを、まだ何も知らずにいた。

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