そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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 同じ聖祥大学附属といってもその小学校と高校とは少し距離が離れている。

 

そのため高校へ通う俺や恭也は、小学校へ通うなのはよりも少し早めに家を出て、学校が出している通学用のバス停まで行かなければならない。

 

同じ敷地内に学校があれば、なのはともバスで一緒に行けるのにな。

 

俺は普段、トレーニングを兼ねて走って通っているからあんまり関係ないと言えばないんだが。

 

「それで一昨日の夜と昨日、何してたの?」

 

「俺もそれが聞きたかったんだ。徹はほとんど授業は聞いていないが、学校をサボるなんて珍しいだろう」

 

 現在、高校へ向かうバスに揺られる中、両側から忍と恭也に詰問されていた。

 

どれだけこの事についてみんな訊いてくるんだよ、答えづらいんだけど。

 

「寝過ごしたっつったろ」

 

「それは嘘だな。真守さんから電話が来たんだから、一昨日の夜はお前は家にいなかったはずだ」

 

「もう白状しちゃいなさいよ、女でもできたんでしょう? いいことじゃない、おめでたい話だわ」

 

「……いずれ話すから今はノーコメントだ」

 

 それからはどんな質問をされようが口を閉ざして『言わ猿』の構え。

 

 諦めたのか気を使ってくれたのか、二人して大きくため息をついてから話を変えた。

 

「そうだ。また今度どこか遊びに行きましょうよ。最近忙しくてどこにも行ってなかったし」

 

「そうだな、学校の方も落ち着いたし店の方は美由希も手伝ってくれるし、久しぶりに遊びたいな」

 

 中学の時は三人でつるんで、カラオケとかゲーセンとか買い物とかよく行ったものだ。

 

恭也が翠屋を抜けられる日に限り、だが。

 

でもこいつらと行くとちょっと気を使っちまいそうなんだよな。

 

この二人、明言はしていないがほとんど付き合ってるようなもんだし。

 

俺がついて行ったところで邪魔になるだけじゃねぇか。

 

「行くなら前もって言っといてくれよ? 予定空けとかなきゃいけねぇんだから」

 

「あんたに予定とかあったの? いつもバイト以外は暇してると思ってた」

 

「いちいち俺を貶めないと気が済まないのか」

 

 そう思って以前、『邪魔になるだろうから行かない』と言ったら忍に『慣れない事しようとすんな』と言って脳天チョップされた。

 

それ以来、二人の恋愛方面に対して気を回すことはやめた。

 

どうせ俺がいないところで思う存分いちゃこらやってるだろうしな、いらんお節介というものだ。

 

「だが俺も徹も休みの日を合わせるのは難しそうだな」

 

「むっ、ん~……」

 

 恭也の発言に忍が眉を寄せて考え込む。

 

基本的に俺と恭也のシフトがどっちも空くというのはなかったからな。

 

今は違うが。

 

「言い忘れてたけど、バイトしばらく休み貰ったんだ。だからバイトの方の心配はいらないぞ」

 

 代わりにほかの用事に配慮がいるけどな。

 

「「はぁっ?! なんで!」」

 

「や、やることがあってしばらく忙しくなったんだ。バイトに出る時間も確保できなさそうだから、ついさっき桃子さんに話を通した」

 

 二人そろって驚きを隠せないようだった。

 

両耳に大音量が響いて、耳が痛い。

 

他に乗っている生徒にも迷惑になるだろうが。 

 

 恭也は眉をひそめて訝しさ百パーセントという視線をこちらに向けてくる。

 

桃子さんはちらっとだけだが、最近なのはの様子がおかしいのに気付いているような態度を示していた。

 

それと同じように恭也も感づいていて、なのはの様子と俺の行動とを結び付けられると面倒だな。

 

ジュエルシード集めに支障が出なければいいんだが。

 

「ヤることがあって、なんて……不潔だわ……」

 

「曲解にもほどがあるだろ! もはや俺の言い方じゃなくて、お前の捉え方に問題があるからな!」

 

 忍は、俺と恭也の間に漂った不穏な間を察したのか、ぶっ飛んだ冗談で明るくしてくれた。

 

そうだよね、冗談だよね? 忍さん?

 

「まぁ予定合わせやすくなってよかったわね。最近クレープ屋さんができたらしいから行ってみたいのよ」

 

「クレープ、か」

 

 忍の提案にあまり乗り気じゃなさそうな恭也。

 

こいつが忍の誘いに渋るっていうのは珍しい。

 

基本的に恭也は忍の言うことに諾々と従うのに……今から尻に敷かれているなら未来もそう変わらんだろうな。

 

「何? 恭也クレープ苦手だった?」

 

「クレープは好きなんだが……前に徹が作ってくれたクレープの味を超えるものはないんじゃないかと思ってな」

 

「なにそれっ! 私食べてないわよ!」

 

「そりゃそうだろ、俺が翠屋で試しに作っただけだからな」

 

 ちょっと前に、翠屋の新製品作成と俺の技術向上を兼ねてクレープを作ったことがあった。

 

甘いものが苦手な人でも食べれるものを念頭に、和の甘味に重点を置いたあんこ入りの抹茶クレープ。

 

生地に抹茶を練りこみ、生クリームにも抹茶を混ぜ、あんこの砂糖は限界まで減らした品。

 

俺の自信作で恭也には好評だったのだが、なのはにはあまり受けなかった。

 

抹茶の味が強く、砂糖も減らしているので苦かったそうだ。

 

桃子さんも『これはちょっと人を選ぶわね~』とのことで結局お蔵入りとなった。

 

「恭也にしか受けなかったんだよ、若い子が多く来る翠屋では使えそうになかった」

 

「美味かったしお年寄りには人気が出そうだったんだが残念だ。あの抹茶の渋みが抜群に良かった」

 

「また今度私にも作ってよね」

 

 気が向いたらな、とおざなりに返事したら脇腹を殴られた。

 

ぽかり、とか可愛い感じじゃない、ごすっ、という重たい音。

 

とてもじゃないが女子高生が放つ拳とは思えない。

 

「そうだわ、私の家に来て作ればいいのよ。機材も用意しておくし準備は整えておくわ。ファリンもノエルもまた一緒に料理したいって言ってたし、すずかもまた会いたいってねだってたわ」

 

「そうだ、じゃねぇだろ。結局お前が食いたいだけじゃねぇか。作ることはやぶさかでもないし、三人にも久しぶりに会いたいが」

 

「徹、俺のリクエストは前の抹茶クレープだ。材料の調達は俺も協力しよう」

 

「恭也も乗り気じゃねぇか。はぁ、まぁいいか。また今度予定合わせて、忍の家にお邪魔させてもらうか」

 

 俺の席の両側二人が妙に楽しそうにしているので、つられて俺ものってしまった。

 

メイド二人と忍の妹の顔を最近見てなかったし丁度いいや。 

 

「あんたに懐いてるからってすずかに手を出さないでよ?」

 

「お前の脳みそ腐ってんのか?」

 

 結局、この失礼な親友の願いを訊き入れることになってしまったことだけが……やりきれない。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 教室に行く前に一度、職員室へ寄る。

 

そう伝えて忍と恭也とは別れて一人職員室へ向かう。

 

 昨日休んだ理由をもう一度説明しておくためだ。

 

そうしないといけないという校則があるわけではない。

 

こうして朝一番に顔を出して、昨日はずる休みしたわけじゃないんですよ、ということをアピールしておくのだ。

 

小さなことで印象を悪くするのは俺の本意ではない、授業ではいまいち印象よくなさそうだけど。

 

 あと昨日に配られたプリントとかがあれば貰っておこうという算段。

 

 職員室で担任とすこし話をして職員室を出て、教室へ向かう。

 

俺は愛想も目付きも悪いので、担任の女性教師――飛田貴子先生、レベルの高いこの高校ではけっこう若い先生は珍しい――は少し怖がるような表情をその顔に貼り付けていた。

 

教師をしてから初めてクラスを受け持ったらしい。

 

優しく綺麗で、生徒の話を親身になって聞いてくれるとのことで男子からも女子からも慕われている。

 

なのに俺にはおどおどした態度って……いや、あまり深く気にしてはいけない、傷付くことになるだけだ。

 

「おはようございます、逢坂くん。あの……もう身体は大丈夫なんですか?」

 

 教室の扉の前で鷹島さんに遭遇した。

 

俺の身を案じるようなセリフがその可愛らしい小さなお口から飛び出るということは、昨日俺が休んだ理由を体調不良だと思ったのだろう。

 

もしくは昨日の放課後に担任から聞いたか。

 

本当は全く違う理由で休んでいたけど、わざわざ訂正することもないだろう。

 

そのまま勘違いしてもらっておこう。

 

 しかし……なんかいつもの快活とした喋り方じゃないな。

 

「今日はもう大丈夫だ。心配してくれてありがとう、鷹島さん」

 

「それはよかったですが……。もしかして体調を崩したのって……一昨日、彩葉とニアスを探して夜遅くまで外にいたから……ですか?」

 

 この人は自分たちのせいで俺が休んだのではないか、と考えていたのか。

 

だから声に元気がなかったんだな、いつもの笑顔もどこか曇っているし。

 

体調不良になったところで本人の責任だろうに……愚直なまでに生真面目で律儀だな、鷹島さん。

 

 どうしよう、鷹島さんのせいじゃないよ、といったところでこの人は額面通りに素直に受け取るかな? いや気に病むだろうなー、実直な人だから。

 

違うほうの言い訳を鷹島さんには教えておこう、恭也と忍に教えたほうのものを。

 

「あはは、実は昨日寝過ごしちまってな。起きたの昼過ぎだったし面倒だったからサボっちゃったんだよ」

 

「やっぱり……夜遅くまで付きあわせてしまって、家に帰るのが遅れたから……」

 

 おおっと、そうきたか。

 

善良な人間の思考は読めないな、別に俺が悪人だから読めないわけではないぞ? 念のため。

 

「あれから家に帰る途中に知り合いに会って、だらだら喋ってる間に時間を忘れて家に帰るのが遅れただけだよ。鷹島さんのせいじゃないから気にしなくていいって」

 

「そう……ですか。でもあんまり学校サボっちゃだめですよ? 休んじゃうと勉強に付いて……いけてますね、付いていけてないの私ですね」

 

 あぁ、やっと鷹島さんの罪悪感を拭えたと思ったら次は落ち込んでしまった。

 

やっぱり勉強苦手なんだな、前々からわかってたけど。

 

 あ、いい事思いついた。

 

「鷹島さん。いつにするかはまだ決めてないんだけど、また今度、恭也と忍の家に行くことになっててさ。その時に勉強会でもしないか?」

 

「え? お邪魔してもいいんですか?」

 

 ついさっきバスの中で話に上がったことだが使えそうだ。

 

恭也も成績は悪くはないとはいえ、苦手な分野もある。

 

都合がいいだろう。

 

忍も鷹島さんのことは気に入ってるようだし、断るようなことをするとは思えない。

 

懸念は勉強会という趣旨を忘れそうという点だけだ、元も子もない懸念だなぁ……。

 

「構わないって。きっと忍も喜んで賛成するだろう」

 

「そ、それなら是非っ!」

 

 よかった、元気になってくれた。

 

このきらきらと輝くような笑顔でこそ鷹島さんだ、なんか心の疲れも取れる気がする。

 

「四人で話し合っていつにするか考えないとな」

 

「はいっ、私はいつでもおっけーですっ!」

 

 学校の始業のチャイムが鳴る、ずいぶん教室の前で話し込んでしまった。

 

「そろそろ入ろうか」

 

「えへへ、そうですねっ」

 

 扉をあけて教室へ入る。

 

教室内のほとんどのクラスメイトが扉側にいたのか、俺と鷹島さんが入った途端にばたばたと自分の席へ向かう。

 

教室の窓側後方端っこの方の席、忍は俺の席で、恭也は自分の席で気味の悪い顔でにやにやと笑っている。

 

なんだ、こいつら。

 

もしかして話聞こえてたのか? 男子生徒は机の上で拳を握りしめて震えているし、女子生徒はちらっと俺の顔を盗み見て周りの女子とこそこそ喋っている。

 

一部机に突っ伏してうめき声をあげる女子もいた、女の子としてそれはどうなんだろうか。

 

教室の反応から察するに……うん、盗み聞きしてたんだろうな。

 

 聞かれてたことに気づいたんだろう、鷹島さんが恥ずかしそうにもじもじしていて、とても愛らしい。

 

物好きというか暇なクラスメイト諸君だな、人の話を横から聞いて何が楽しいんだ。

 

「ひゃあ! あ、逢坂くん! あ、あのチャイム……鳴りましたので。は、早くせ、席に着いてくだ、ください……ね?」

 

 我がクラスの担任、飛田先生が入ってきた。

 

教室の扉を開けてすぐに俺がいたので、驚いたのだろう。

 

でも……それでも『ひゃあ!』はあんまりだ。

 

席へ促す言葉も詰まりすぎだろう、俺の何が先生をそこまで怖がらせるんだ。

 

朝から心に深い傷を負いながら自分の席に着いた。

 

 毎朝恒例のSHLによる出席確認も済ませて化学の授業。

 

 魔法の行使でも使っているためか、最近高速思考のキレがあがってきた。

 

戦闘時には周囲の状況を把握しながら魔法を構築したりとマルチタスクという思考法の処理数もかなり増えた。

 

その二つの特技を言い訳に、授業中ではあるが俺の現在の状況をまとめることにしよう。

 

 もちろん、授業の担当教師が説明してくれている内容は拝聴している。

 

教科書もノートも出していないが、――そもそも持ってきてすらいないが――真面目に授業は聞いているのだ。

 

教科書は高校入学当初に読んで、その内容は把握しているのでずっと俺の部屋の本棚で眠っている。

 

授業中の説明で必要と思った部分は、その都度記憶してるのでノートは買ってすらいない。

 

机の上がきれいなおかげで、教師から当てられる回数がほかの生徒より断然多いが、答えろと言われた問いには毎回ちゃんと正答しているのだから、まぁ支障はない。

 

「逢坂ぁ、お前の机は毎度毎度すっきりしているな。やる気ないのか?」

 

「いえ、真面目に聞いていますが」

 

「ほう? 真面目に勉強していると? 問題だ、硫黄の同素体を三つ挙げてみろ」

 

「斜方晶系、単斜晶系、ゴム状硫黄。しかし先生、まだこの辺りまで進んでいませんよ?」

 

 さて、本題に移ろうか。

 

まず一番最初から思い返す。

 

 ジュエルシードの思念体と戦い、なのはの手助けをしてユーノを救助したことから魔法を認知した。

 

 魔法という未知の力は、知ってしまえば超科学と言えるようなものだった。

 

工程があり順序、段階を踏んで現象を発現させる。

 

触れたことのない分野とはいえ、理解できてしまえばなんてことはない。

 

術式には手を加えれそうなところがあって知的好奇心をくすぐられるし、効率的に式を組み替えたり自分好みに改良したりと楽しそうだ。

 

ただ才能を必要とするという点が厄介で、そして不可解だが。

 

 魔法を使う者の胸の奥にはリンカーコアと呼ばれる魔力を生成するところがあり、それのあるなしで魔法を使えるか否かが決まる。

 

そのリンカーコアにも疑問は尽きないが、これは学校の帰りにユーノに聞くので今は置いておこう。

 

いつかきっちり調べたい、魔法に関してもリンカーコアに関しても。

 

「逢坂、アゼルバイジャン共和国の首都と、その国の簡単な説明をしなさい」

 

「首都はバクー、コーカサス地方に存在する共和制国家です。油田があり、これが経済を支えています。この辺りはテスト範囲には含まれないと思うのですが」

 

 ジュエルシード。

 

淡青色をした菱形の小さな宝石。

 

大変危険なもので暴走すると、この世界が崩壊するほどという説明をされたが……。

 

正直な話、荷が重い。

 

普通の高校生の――魔法を使える、が今は頭につくが――背中に乗っけるにはあまりに大きすぎる。

 

失敗したら、とか深く考えたら手が震えそうになる。

 

勝手に手伝っている俺ですらこんな心境なんだ。

 

ジュエルシードを封印するという大役を担うなのはは、さらにプレッシャーを受けてるかもしれない。

 

なのはにはそのあたりの精神的なフォローも必要だな。

 

こうして冷静に現状を考察すると、とんでもないことに手を出してるんだな、俺もなのはも。

 

「逢坂。古代ギリシアの科学者が考案した、素数を発見するための簡易なアルゴリズムのことをなんという」

 

「エラトステネスのふるいです。あの、これ数学で使いますか?」

 

 目下の問題点と言うとジュエルシードを探し求める別勢力、フェイトやアルフ、リニスさんのことだな。

 

彼女らは一人でも強大な力を有している、俺じゃ手も足も出なかった。

 

どれほどの経験と努力をしているかはわからんが、このままではいけねぇかな。

 

彼女らは、理由は知らないが、なにか大事な目的の為ジュエルシードを集めている。

 

そして彼女らと俺たちには明らかに実力に差がある。

 

フェイトとアルフとは実際に戦い、洗練された魔法だけじゃなく身のこなしも目にした。

 

リニスさんは……フェイト達の家で勃発した小さな諍いの時にちらっと見たが、魔法の発動・展開がすごく早く丁寧だった。

 

俺たちは俺たちでジュエルシードを回収しなければいけないのだから、また何回か戦うことになるだろう。

 

いつまでも後塵を拝するわけにはいかない、戦う力をつけなければ。

 

ジュエルシードと戦い、フェイト達とも戦い……戦ってばかりだな。

 

いつの間に、こんなに悲惨で血生臭い世界になってしまったのやら。

 

「逢坂。刑法第百七十六条、刑法第百七十七条について答えろ」

 

「刑法百七十六条は強制わいせつ、刑法百七十七条は強姦です。……なんですか? 嫌がらせですか?」

 

 魔法、ジュエルシード、フェイト達のこと。

 

いろいろ考えることは多いが、一番俺の心を苛む悩みはそれらではない。

 

 アルフに言われた目的、信念、戦う理由。

 

直接覚悟について口に出されて以来、俺の内側でちくちくと痛みを発し続けている。

 

授業が終わるまで考えても……答えは出なかった。

 

「逢坂。執行猶予について簡潔に説明しろ」

 

「犯罪の情状が比較的軽く、刑が三年以下の懲役または禁錮、もしくは五十万円以下の罰金であることを前提に、二度と犯罪を犯さないことを条件として、一定の間、刑の執行を見合わせる制度です。……わかりました。先生は俺のことが嫌いなんですね?」

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

「あんた授業中はせめて教科書くらい出しなさいよ。だからあんなに当てられんのよ」

 

「全部覚えてるし。持ってきたら重てぇし。当てられても答えたらいいだけだし」

 

「だが最近はかなり無茶苦茶な問題になってきてるな。最後の方とか在学中に勉強しないだろ」

 

「あれは正直俺も焦った。昔暇つぶしに六法全書を読んでなかったら答えられなかったぜ」

 

「本当にすごいです逢坂くん! いろんなこと知ってますね!」

 

「違うのよ鷹島さん。こいつにはね、あのあたりの知識が必要だから憶えているの」

 

「どういう意味かな? 返答によっちゃ訴訟にも打って出るぜ?」

 

 午前の授業が終わり昼休み、机を向い合わせてお弁当をつついている。

 

普段は俺と恭也と忍の三人だが、今日は鷹島さんも加わって四人で賑やかなお昼御飯だ。

 

いつも鷹島さんの隣に侍っている二人のお友達は、部活の会議があるとかで昼休みが始まってすぐに教室を出ていったらしい。

 

そこで、一人でぽつねんとお弁当を開けようとしていた鷹島さんを忍が拉致して引っ張ってきたのだ。

 

忍の家へ遊びに行く、もといお勉強会の予定を決めるのに都合がいいし、願ったりかなったりだな。

 

 だが忍、お前は許さない。

 

まるで俺を犯罪者のように形容するお前を、俺は絶対許さない。

 

 忍の棘だらけの言葉を理解し損ねたのか、鷹島さんは小首を傾げている。

 

鷹島さんがスルーしたそのボールは直接俺へと突き刺さった。

 

言葉のキャッチボールってこんなに痛いものだったっけ?

 

「内申点とか引かれてるんじゃないの? あんな態度だったら」

 

「いーや、大丈夫だ。最初にそういう取引をしたからな。『教科書やノートを持ってこなくていい代わりに問題にはすべて答える』ってな。間違えたら問答無用で減点だが」

 

「素直に持ってくれば済む話だというのに、この無精者」

 

「でもすごいですよね! 全部憶えてるんですか?」

 

「あぁ、把握してるぞ」

 

「人格はともかく、頭はいいものね」

 

 四人もいれば話も盛り上がるというものだ。

 

鷹島さんと一緒に飯を食うというのは新鮮で楽しい。

 

ただ忍が毎度毎度、俺を傷付けるのはなんとかならないものだろうか。

 

 俺の右隣から視線を感じる。

 

たこさんウインナーをくわえながら、鷹島さんがこちらを見ていた。

 

あぁなるほど、渡りをつけてほしいということか。

 

「なぁ恭也、忍。今度忍の家に遊びに行く話だが鷹島さんも一緒でいいか? 少しばかりお勉強会を開きたいと思ってな」

 

「えぇ、全然かまわないわ。それどころか来て欲しいと頼みたいくらいよ」

 

「俺も構わん。ちょっと勉強したいところもあったしな、俺も教えてくれ」

 

「だそうだ、よかったね鷹島さん。許可が出たよ」

 

「ありがとうございます! とても楽しみですっ」

 

 予想通り二人とも快諾してくれた。

 

鷹島さん、一応お勉強会という体裁を取っていることは憶えておいてね? 遊びに行くってだけじゃないんだからね。

 

あなたの学力を心配して、という意味もはらんでいるんだからね。

 

 ちなみに忍は学力に関しては全く問題はない、おそらく次の定期考査で存分に顕示してくれることだろう。

 

勉強会の時は先生側に回ってもらうこととしよう。

 

恭也も成績は悪くないが、店の手伝いもあるので勉強が不十分な部分も少なくない。

 

鷹島さんについては予想でしかない上に失礼だが、勉強が十分な部分が少ないと思う。

 

この学校自体レベルが高いので、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけれど。

 

「そういや彩葉ちゃんはすずかと同級生なんじゃないか? 当日連れてくれば?」

 

「すずか……ちゃん? どなたですか?」

 

「彩葉ちゃん? 徹、またあんたロリっ子口説いてるの?」

 

「徹……お前、なのはやすずかだけじゃ飽き足らずにまだ、蕾の花園を増員する気か? そろそろ法に触れるぞ?」

 

 こいつら(忍と恭也)が俺に対して抱いている印象ってなんなんだ。

 

その『お前ほんと小学生好きだな』みたいな目を即刻やめて頂きたい。

 

「ちげぇよアホ二人。彩葉ちゃんは鷹島さんの妹で、一昨日訳あって知り合ったんだ。すずかは忍の妹だよ。何回か忍の家で顔を合わせて仲良くなったんだ」

 

 文頭は忍と恭也に向けて、文末は鷹島さんに向けて言ったもの。

 

もちろんこの程度で、アホどもが抱いているまかり間違ったイメージを払拭できるとは思っていない。

 

「そういうことなら連れてくればいいわよ。すずかも一緒に遊べるし……あの子友達少ないし……」

 

「それならなのはもいいか? すずかと遊びたいだろうし、徹が振る舞うデザートも食べたいだろうし……あいつ友達少ないし……」

 

「ありがとうございますっ。逢坂くんと知り合ってから、また会いたいってよく言ってたんです。彩葉も同級生がいたら話しやすそうだし……あの子友達少ないので……」

 

 全員友達少ねぇのかよ、俺も人のこと言える立場じゃないけどな。

 

「ばか、友達ってのは多けりゃいいってもんじゃねぇんだよ。親友が二人ほどいればそれで十分なんだ」

 

 空気が重たくなったので、どうにか話の方向性を変えようと俺の持論を披露する。

 

早口になりつつ言い切って、誤魔化すようにご飯を口に突っ込む。

 

背筋に怖気が走るような視線を感じて目を向けると、恭也も忍も微笑ましいものを見るようににやにやしている。

 

くそっ、慣れないことはするもんじゃないな。

 

「彩葉……親友もいないなぁ……」

 

 これを機会に頑張ってください。





なにか日によって、時間によって書くペースもクオリティもばらつきます。
申し訳ないです。

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