そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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今回は短めです。
本当は前回の話で繋げて書くはずでしたが、やけに量が多くなってしまったので一回切りました。

短いとはいえ、前回の話から数時間後にもう一話というのは初めてです。



「オーラが視えるんだ」

 高級車は外面だけではなく、中身まで高級仕様のようだ。

 

車には詳しくないが座席からして違うとかもう……緊張しちまう。

 

よ、汚さないようにしないとっ……。

 

「ん? どうしたの?」

 

「いや、なんでもない。それより……アリサちゃんは聖祥大付属小学校に通ってたりする?」

 

 一瞬、アリサちゃんを誘拐した男たちについて訊きそうになったが、寸でのところで口に出さずに済んだ。

 

襲われてすぐに思い出させる必要はないだろうし、酷な話だ。

 

「え? なんで知ってるの?」

 

「オーラが視えるんだ。なのはは君の友達?」

 

 アリサちゃんは気の強そうな目を見開いて、餌を待つ金魚のように口をぱくぱくさせている。

 

ちょっとやりすぎたかな、あんなことがあったから忘れさせようと思って馬鹿らしいことを言ってしまった。

 

けっこう利発そうな子だし、信じるとは到底思えな

「うん! うん!! 友達で親友っ! すごいっ、オーラってどんな色で視えるの!?」

 

 うん、とても純粋無垢な子のようだ。

 

どうしよう……あのなのはでさえ嘘と気付くだろう、こんなお粗末な作り話をここまで信じられるとは思わなかった。

 

「アリサちゃんのオーラは黄金色だな。かすかになのはの色が視えたから、それで友達なんじゃないかなぁと思ったんだ」

 

 これも当然嘘である、嘘のミルフィーユだ。

 

 俺の予定では『え~本当に~?』みたいな半信半疑な返事が来て、そこで本当のことを言おうと思ったのに。

 

夜空に瞬く星の如く瞳をきらきらと輝かせるもんだから今さら、嘘だ、なんて言い出せない。

 

 助けて、という思いを込めて鮫島さんへバックミラー越しに視線を送るが、穏やかな笑みを浮かべるばかりで助け舟は出してくれそうにない。

 

「他にはっ? 他には何かわかるっ?」

 

「君の家では犬をたくさん飼ってるね?」

 

「~~~っ! すごいっ! 本当にわかるんだっ!」

 

 ホットリーディングという手法である。

 

占いとかで事前に相手を調査して、さも自分は超能力者であるかのように言い当てるもの。

 

 犬を飼っているという情報は以前になのはから得ていたもので、必死に頭をひねったら出てきた。

 

記憶の海を潜れば何かしら出てくる自分の優秀な記憶力を褒めるべきか、どうするべきか、今回ばかりは悩む。

 

 だってアリサちゃんすごいいい顔してるんだもの、今さら本当のことなんて言えないんだもの。

 

「未来のこととかってオーラでわかったりするのっ?」

 

「視えはするけど現在のことを視るより曖昧なんだ。『未来』というのは『今』の積み重ねだからな」

 

 俺の口め、なに知った風なこと言ってんだ、全部口から出まかせじゃねぇか。

 

何が『今』の積み重ねだ、積み重ねてるのは『嘘』だろうが。

 

「そ、それじゃあ未来のこと、視て……もらえる?」

 

「君がそれを望むなら」

 

 何かっこつけてんだこいつ死ねよ、と思ったら俺だった、死にたい。

 

 考えろ、俺……考えろ! アリサちゃんの表情を曇らせるわけには……いかないっ!

 

「近い未来に……とても仲の良い子と喧嘩をするかもしれない。その時、君はとても悩む事になると思う。でも自分の信念に従って行動すればいい、それが何よりも正しい判断だろうから」

 

 コールドリーディングの応用である。

 

外見や会話から相手のことを言い当てるという手法。

 

 この子は気が強い性格だ、いつかきっと友達となにかしらの理由で言い争いになることがあるだろうし、あながち的外れではないと思っての俺のセリフ。

 

あぁ……罪悪感が良心を苛む……。

 

「んっ……わかった、心に留めて置くわ。ありがとうっ!」

 

 可及的速やかに忘却の彼方へ追いやってください。

 

「俺の力のことは置いといて、だ。アリサちゃんの話を聞きたいな、なのはやすずかと仲良いんだろ?」

 

 これ以上は俺の心が持ちそうにないので話を変える。

 

 実際アリサちゃんから、なのはやすずかのことを聞きたかったのだからこれは嘘ではない。

 

もう十分嘘を吐きつくしている点については目を瞑る。

 

「あ、すずかのことも知ってるの? うんっ、そりゃもう仲良いわよ、親友なんだからっ。えっとね~、あ、そうだ! 二人とも男子からすっごく人気あるのよ? 知ってる?」

 

 さっそく嘘と露呈するところだった、さすがは急造品の作り話、穴だらけだ。

 

 あの二人なら男子から好かれるのもわかるな、どっちも可愛いし分け隔てなく優しいからな。

 

すずかはおしとやかでおとなしい感じだし、なのはは元気がいいし笑顔がとてもチャーミングだ。

 

人気があるというのも頷ける。

 

そして本人が気付いていないだけで、きっとアリサちゃんもクラスメイトから好意と人望を集めていることだろう。

 

この子ははっきりと物を言うことができる、リーダーシップを取れるタイプの人間だ。

 

クラスの中でも、なのはやすずかの三人の中でも引っ張って先頭で指揮しているのはきっとアリサちゃんだろうな。

 

「学校でファンクラブもあるのよ、あの二人。えへへ、すごいでしょっ!」

 

 まるで自分のことのように嬉しそうに語るアリサちゃん。

 

自分の親友がみんなに好かれているのが、自分の親友の評価が高いのが誇らしいのか、すごく楽しそうに教えてくれる。

 

 あぁ……穢れのない純白を思わせるアリサちゃんの笑顔が、俺には眩しいよ……。

 

浄化されてしまいそうだ……俺は別に悪人とかじゃないけど。

 

いや、こんな純粋な子をオーラがどうとか言って騙してるんだから悪人か、浄化されてしかるべきだなこんなやつ。

 

「アリサちゃんもファンクラブあるんじゃない? こんなに可愛いんだから」

 

「な、なに、なに言ってんのよっ! あるわけないじゃないっ! わ、わたし、ぜんぜん可愛くなんてないし……。みんなにけっこうきついこと言ってるから……嫌われてるかもだし……」

 

 自分の親友に対しては正当に評価できるのに、自分には過小評価とは。

 

自分に自信がないのか、クラスメイトからそう言われたことがあるのか。

 

小三なら男子が強がって悪口とか言いそうだしな。

 

そんで言われたことを真に受けて深く考え込みそうなタイプだな、純粋な子だから、オーラとか信じちゃう子だから。

 

「自信持っていいぞ、アリサちゃんは可愛い。負けん気の強い性格だって、みんなを引っ張っていける強さがあるってことだ。自分の意見をズバッと言えるんだからMな人間には絶対好かれるぞ」

 

「M?」

 

 いらんこと言っちゃった。

 

「あぁいや、それは気にしなくていい。つまりアリサちゃんはそのままの自分でいいんだ。そのままで十二分に魅力的なんだからな」

 

 だからきっとファンクラブは存在するだろう、という言葉はのみ込んだ。

 

どうせならM云々のところものみ込んでもらいたかったが、俺の口はそう都合よくできていないらしい。

 

「み、魅力的っ……っ! ば、ばかにゃこと言うなばかっ!」

 

「ばかにゃ」

 

「噛んだのよっ! 流しなさいよっ!」

 

 元気になってくれたようでよかった。

 

アリサちゃんはいじりがいがあるなぁ、反応が良くて楽しいぜ。

 

「それより今日はどこか行く予定だったりしたんじゃない? このまま家帰っていいの?」

 

「うん、特に行くとことかなかったし。本当は今日、なのはに誘われて月守台に遊びに行く予定だったんだけど……すずかが体調崩しちゃってね。だからわたしも行かなかったの。すずかを置いて遊びに行っても楽しめるとも思えなかったし」

 

 アリサちゃんもなのは達の温泉旅行についていく予定だったのか、いろんなことが違う形で組み合わさっていたら、俺とアリサちゃんは違う出会い方をしていたのかもしれないな。

 

 親友を置いて行けない……なんか男前なセリフだ。

 

俺も一度言ってみたいぜ、『お前を置いて行けるかよ!』みたいな。

 

「アリサちゃんもなのはに誘われてたんだな。それで今日は車でドライブか。……違う友達とどこか遊びに行ったりしなかったんだな」

 

「…………………………………………」

 

 アリサちゃんの表情が凍りついた。

 

すごい長い沈黙、急にどうしたんだろう。

 

「あ、アリサちゃん? どうしたんだ?」

 

「え……? ん? わたし、友達……あれ?」

 

「もしかしてアリサちゃん、なのはとすずか以外に友達……いないのか?」

 

 ぴしっ、と今度は表情だけでなく身体まで静止した。

 

静止していたが徐々に表情が変化していく、さっきまで軽快に回っていた口がへの字に、きらきらしていた瞳が今は水気を帯びてさらにきらきらプラスうるうるしている。

 

つまりは泣きそう。

 

「いやっ、ごめんっ! なんかごめん! そういうこと言いたいんじゃなくて……そうだ! 俺も同じだって! 俺も今日、恭也と忍が用事で遊べなくて一人……で……俺も二人以外に友達いねぇじゃん……」

 

 恭也は温泉旅行、忍はすずかの看病、よって俺は一人で街をふらふら。

 

アリサちゃんの場合は、なのはは温泉旅行、すずかは体調不良で寝込んでて、よって車であてもなくふらふら。

 

 とても残念な話だが、俺とアリサちゃんは似た者同士だった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 両者沈黙。

 

 いや、待て……俺には自論があった!

 

「そうだぜ……俺たちには親友と呼べる相手が二人もいるんだ! それで十分だと思わないか?」

 

「そ、そうよねっ! 親友の二人さえいれば他になにもいらないじゃないっ!」

 

 アリサちゃんの場合言い過ぎというか、依存しすぎな感じもするが……。

 

「それに今はあなたもいるし。たしか名前……逢坂徹……だったよね?」

 

「んむ? そうだぞ、呼び方はお好きにどうぞ」

 

「そ、じゃあ徹って呼ぶわね。徹もいるし、これで親友三人ね!」

 

 いきなり呼び捨てで、しかもいきなり親友とか一足飛びというか、友人ランクの八艘飛びだな。

 

八艘飛びは意味わからんな。

 

 成り行きで小学生の親友ができました。

 

高校生と小学生の友達の割合が二対一とか……警察に睨まれても文句言えないレベル。





今回からサブタイトルつけました。
たぶん毎回サブタイトル適当なもんなる気ぃするけど。
いつかこれまでの話にもサブタイトルつけよ思うてます。
いつやるかは決めてません、予定は未定。


みんな忘れてるかもやけどアリサちゃんたちは『小学三年生』。
アリサちゃんくらいでちょうどええ思います。

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