そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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後半で多少原作かい離が入ります。
お気を付けください。


従者である使い魔の罪は、主である魔導師の罪

「そ、それで徹っ。結局なにしに来たのか聞いてなかったんだけど!」

 

「あ、そうだった……。今日はこれを持ってきたんだ」

 

 いつのまにか脇に置いていたケーキボックスをアルフたちに差し出す。

 

フェイトが録画していたらしいデータを消去させるのにてこずって本題を忘れかけていた。

 

フェイトがいつから撮影していたのかはわからないが、あれは恥ずかしすぎる……俺もアルフも精神状態がおかしかったんだ。

 

「なんですか、ケーキ?」

 

「あぁ、昨日の……なんだ。祝勝会的な?」

 

「わざわざ買ってきてくれたのかい?」

 

「あ、でも……嬉しいけど……今日は……」

 

 前に出てきたリニスさんにケーキボックスを手渡す。

 

フェイトはその幼いながらも端整な顔に、嬉しそうな表情と申し訳なさそうな表情を同居させていた。

 

 なんだろう、都合でも悪かったのだろうか?

 

「ど、どうしたんだフェイト? ケーキ嫌いだったか?」

 

 頭をぶんぶんと横に振って金色のツインテールを揺らし、俺の言葉を否定する。

 

言葉使いは大人びているフェイトだけど、その仕草は年相応の少女のように見えてなぜか安心した。

 

「そうじゃないの、ケーキは好きだけど……」

 

「なんていうか……タイミングが悪かったとしか言いようがない、ね」

 

 フェイトとアルフが困ったように表情を曇らせて、リニスさんへと視線を送る。

 

二人から目でお願いされたリニスさんが意を汲んで、言い辛そうにしながらも年長者らしく口を開いた。

 

「……すいません。いつもはわりと暇を持て余しているのですが、今日はこれから、なんといえばいいでしょうか……作戦本部に報告に行くといいましょうか……」

 

 『私たちは暇なことなんてないけど』とか『作戦本部なんてたいそうなものじゃないよね、あたしたち含めて合計四人だし』とか突っ込むフェイトとアルフに、リニスさんが肉食動物じみた睨みを効かせて黙らせる。

 

 ふむ、つまりはこれから用事があるということか。

 

「それなら仕方ないな。箱の中にはケーキ多めに入ってるから、よかったらその本部の人と食べてくれ。ついでによろしく言っといてくれたらありがたい」

 

「気を使わせてしまってすいません」

 

「徹……ごめんね。また遊びに来てね……?」

 

「おう、その時もケーキ作って持ってくるから期待しとけ」

 

 てとてとと近づいて制服の裾を指先でちょこんとひっぱって、上目づかいで不安げに瞳を潤わせるフェイトの頭を、気持ち強めにわしゃわしゃと撫でる。

 

心地よさそうに片目を閉じている様は仔猫のようだ。

 

 こんな妹がいたらなぁ……いや、こんな強くて賢い妹は俺の手に余るけど。

 

「『その時も』? もしかして徹が作ったのかい?」

 

「ん。朝寝過ごしちまってな、どうせだしと思って午前中に作った。余ったのを同級生に振る舞ったがなかなか高評価でな。また今度会った時にでも味の感想をくれ」

 

「ねぇ、リニス。徹も連れていくっていうのは」

 

「さすがにダメです」

 

「フェイト、無理言っちゃダメだろ。また日を改めて遊びに来るから」

 

 無茶を言ってリニスさんを困らせているフェイトの頭の上でぽんぽんと手を弾ませて諌める。

 

そう言ってくれるのはとても嬉しいけども。

 

顔がによによしないように引き締めるのに苦労する。

 

「ではそろそろ行きましょうか。プレシ……あの人を待たせるといろいろ面倒ですから。では徹、ケーキありがとうございます。次来る時は精一杯もてなしますからね」

 

「期待しとくよ、リニスさん」

 

「……ずいぶんな言い方だよリニス。それじゃあ徹、また来てね。約束だからね」

 

「おう、約束だ。信用しろって、また来るよ」

 

 指切りして、ついでにフェイトのさらさらとした綺麗な金髪を撫でる。

 

 とくに撫でる必要はなかったのだが、俺の欲望が勝手に腕を動かした。

 

仕方ない、可愛いんだもの。

 

 俺に背を向けてエレベーターへと歩くリニスさんとフェイト。

 

マンションの廊下に残ったのは俺とアルフの二人。

 

「徹……あの、えっと」

 

「あぁ、うん……」

 

 気まずい、とても気まずい。

 

二人とも目も合わせることができず、行き場を求めて視線は眼下に広がる街へと向けられる。

 

やけに色っぽいムードになって、お互い雰囲気に流されちゃって、しかもそれが中途半端に終わったとなれば言葉に迷うというものだ。

 

 今どんな表情をしてるのかな、と思って相手の顔を(うかが)い見ようとしたら同じタイミングで目線が合ってまた目を背ける。

 

なんだこれ、もしかしてこれが青春というものなのか。

 

 よく考えてみれば、歳が近い中で比較的まともな女性の一人なんだよな、アルフって……狼耳と尻尾ついてるけど。

 

俺が周りに秘密にしている魔法のことも知っているし、身近な人間の中では常識人な部類、男気があるというか頼りになる性格に加えて、顔だちも良く、スタイルもいい。

 

あれ、もしかして俺の理想の女性像なんじゃ……?

 

 ただ忘れがちだけど――というかもう憶えていることの方が少ないけど――本来は敵同士であり、ジュエルシード収集のライバルなわけで。

 

普段は仲良くできてもジュエルシードが絡めばそうはいかない。

 

今はなるべく穏便に済まそうということで代表者を立てて(俺たちからはなのはが、アルフたちからはフェイトが代表者)一対一のタイマン勝負ということになっているが、すべてのジュエルシードが発見されたらどうなるかわからない。

 

総力戦に発展する、そういう可能性もあるのだ……あまり想像したくはないが。

 

 真面目な思考にシフトして頭を落ち着かせて、アルフに目を向ける。

 

「……アルフ。フェイトとリニスさんがエレベーターの前で待ってるぞ」

 

 平然とした顔を装っているが、名前を呼んだ時耳がびくんって動いたので全然隠せてない。

 

呼ばれた時にはオレンジ色の尻尾が左右に揺れていたが、最後まで聞き終わるとしょぼんと重力に逆らわず垂れてしまった。

 

気の利いたセリフでも言えればいいんだが、生憎と俺はそんなもの持ち合わせていない。

 

 息を短く吐いて、ふふっと笑うアルフ。

 

「……はこういう男だもんね……。徹、靴紐ほどけてるよ」

 

 独り言なのか、最初小声でなにか囁いたあと、今度は俺に向かっていつものように、いやいつも以上にはっきりと言った。

 

「ん? あぁ、ありがと……?」

 

 紐を結び直そうと視線を下げ少ししゃがんだのだが、靴紐はいつも通り蝶の形に結ばれている。

 

「おい……ほどけてねぇじゃ……っ」

 

 悪戯かと思い、なにかし返してやろうかと顔を上げると、目の前はオレンジ色で埋め尽くされていた。

 

姿勢を戻す間もなく、気づけばアルフは俺の頭を胸に押し当てるように、ぎゅうっと抱きしめている。

 

「あ、あるふ?」

 

 唐突な肉体接触に思考がホワイトアウトする。

 

額に接している二つのふくよかで柔らかな感触や、安心するような温もり、落ち着く香りに包まれて頭の回転率は急激に低下した。

 

さすが俺、突発的な物事に弱いぜ。

 

「徹はとても賢いから、きっといろんなこと考えたんだろうね。あたしの立場とかを配慮してくれたのかい? 徹がそうするならあたしもこれ以上は踏み込まないよ、今は(・・)ね」

 

「俺は、そういうつもりじゃ……。全部自分勝手に考えているだけで……」

 

「それでも構わないさ、あたしが勝手に想ってるだけなんだから」

 

 お互い取り巻く環境がある、成さねばならない使命もある。

 

結局のところ、アルフも俺も自分一人の都合で好き勝手にやるわけにはいかない立場ってことだ。

 

自分のこの感情がなんなのかもよくわからないが、身勝手な衝動のまま動くことは許されない。

 

少なくとも今回の件が落ち着くまでは。

 

「わ、わかった……お前の気持ちは受け取った。だからそろそろ離してくれよ」

 

「本当にわかってるのかい? 徹は鈍感だし、ついでに言うと無茶しすぎる所があるから心配だよ。昨日の疲れも取れてないだろうし身体も重いだろう? 安静にするんだよ?」

 

「わかった、わかったってば! 心配性か! 絶対またフェイトがこの光景を録画してるはずだっ、離してくれ!」

 

 俺の懸命な説得によりやっと解放してくれた。

 

どうせまたフェイトが俺にとって損になる証拠動画を撮影していることだろうし、そろそろ俺の中の(れつじょう)が目を覚ましそうだったし危ないところだった。

 

 アルフが俺の頭から手を離して、一歩下がる。

 

「今日は都合が悪かったけど、また絶対に遊びに来なよ? フェイトもリニスも、あと……あたしも、待ってるからさっ」

 

 晴れ晴れとした気持ちのいい笑顔を俺に向ける。

 

あまりにも楽しそうで、嬉しそうな笑顔だったので俺もつられて笑ってしまった。

 

「あぁ、また来るよ。フェイトとも約束したしな。ほれ、手ぇ出せ」

 

 長年一緒にいる友人のように、共に戦場を駆けた戦友のように、お互いに拳をごつっと突きあわせる。

 

「あははっ、あんまり色っぽい約束の仕方じゃあないね。気の利いた別れの挨拶ではあるけど」

 

「俺たちはこっちのほうが似合うだろ」

 

 約束とばいばいを兼ねたあいさつをして、アルフがやっとエレベーターへ、フェイトとリニスさんのもとへ行く。

 

 エレベーターは一基しかないし、これだけやったあとに一緒に乗るというのも決まりが悪い。

 

意図せず時間に余裕ができてしまったことだし、俺はエレベーターと対極の位置にある階段でゆっくりと帰るとしよう。

 

 彼女たちはもう一度こちらを振り返り笑顔で手を振ってから、エレベーターに乗り込んだ。

 

さっきの光景を見ていたフェイトとリニスさんにからかわれたのか、アルフは顔が赤かったが。

 

 彼女たちの姿が見えなくなってから数分経って、俺は廊下の手すりにもたれかかりながら一つ大きなため息を吐く。

 

「ジュエルシードっつう危ないものを取り合ってるってのに……なにしてんだろなぁ、俺」

 

 こぼれた言葉は傾き始めた太陽に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

「まずは進捗状況から聞こうかしら。フェイト」

 

「むぐっ! っ……んぅっ」

 

「急いで食べすぎですフェイト。はい、紅茶どうぞ」

 

「あむあむ、まさか徹がこんなにケーキ作りが上手いなんて思わなかったねぇ」

 

 報告のために戻ったのではなかったかしら? 帰ってきて早々にリニスが『プレシアっ! ケーキですよ、ケーキっ!』などとよくわからないことを言って押し切ったせいで報告が先延ばしになってしまったのがそもそもの原因ね。

 

リニスは使い魔の契約をしたばっかりの頃は真面目な子だったはずなのに、外の世界へ出るようになってからはどんどん頭のねじが外れていってしまって……。

 

「んぐっ、んむっ……はいふうはぎょうい、あいってから……」

 

「もう……飲み込んでからでいいわよ、フェイト」

 

「まったく、フェイトは食いしん坊だね」

 

「アルフに言われるなんて……フェイトに同情します」

 

「ちょっとリニスっ、どういう意味だい!」

 

 この子たちが九十七管理外世界へ探索に行っている間、私はこの庭園で一人残り研究しているけれど、やはりこの騒々しさがないと寂しく感じてしまう。

 

時の庭園は一人でいるには広くて、冷たすぎる。

 

……でもここまで騒がしいのも問題かもしれないわね。

 

「ごくんっ。そ、それでは母さん、報告しますっ」

 

「フェイト……鼻にクリームがついているわ。どういう食べ方をすればそんなところにつくのかしら」

 

 ケーキボックスの中に入っていたウェットティッシュで、長方形のテーブルの正面に座っているフェイトの鼻についたクリームを拭う。

 

用意周到というか……よく気が回る子ね、三種類もケーキを作った上にウェットティッシュまで入れてるなんて。

 

「ほ、報告しますっ。えぇと、回収作業に入ってから数日が経ちましたが……回収できたのは……」

 

「フェイト、どうしたの? いくつ回収できたのかしら?」

 

 順調に報告し始めたかと思えば、急に黙り込んでしまうなんて。

 

もしかして一つも見つけてない? そうだとしたら先行き不安ね……。

 

 取っ組み合いをしていたリニスとアルフも静かに、というより心配そうにフェイトを見つめている。

 

「ジュエルシード、二十一個中……二個……です」

 

「あら、まだ探し始めて何日かしか経ってないのに二つも見つけたの? ちゃんと見つけているのになんでそんなに自信なさそうに言うの、一つも見つけてないのかと思ったわ」

 

 よかった、もう二つも見つけているのなら、他のシリアルナンバーのジュエルシードも思ったよりすぐに見つかるかもしれないわね。

 

 私の率直な感想になぜかフェイトもアルフも表情を明るくさせた。

 

私が怒ると思ったのかしら? だとしたらとても失礼だわ、ちゃんと成果を残しているなら怒りはしないのに。

 

「そ、そうだよねっ。もう二個も見つけてるんだから他のもすぐ見つかるよっ! よかったねフェイト!」

 

「うんっ、うんっ」

 

「進捗状況はまずまず、これからといったところね。他に連絡事項はなにかあるかしら?」

 

「二つあります、プレシア」

 

 アルフと手を取り合って喜んでいるフェイトの代わりにリニスが名乗り出た。

 

 リニスは紅茶の入ったカップを傾けて一口飲んで喉を潤し、静かにソーサーに戻す。

 

こういう振る舞いはまだ生きてるのね、安心したわ。

 

「一つ目、私たちの他にジュエルシードを集める勢力が思った以上に早く現れました」

 

「意外と動きが早いわね……時空管理局との関係は?」

 

「それはないかと思われます。勢力と言っても三人しかいませんし、実際に戦闘に参加するのはフェイトと同い年くらいの少女と、アルフと同い年くらいの少年の二人。あとは使い魔のようなフェレットを加えた計三人がジュエルシードを集めている敵対勢力です。少女も少年も最近魔法を覚えたようなので、時空管理局とつながっているとは思えません」

 

「そう、二つ目は?」

 

「ジュエルシードを収集する時……一つが暴走状態となり次元震が発生しました。敵対勢力の少年とともに暴走したジュエルシードはなんとか押さえ込んで封印しましたが、時空管理局に感づかれた可能性があります」

 

「…………」

 

 時空管理局……厄介なものが出てきたわね……。

 

魔法のある世界、魔法のない世界問わず、様々な世界で犯罪行為を取り締まっている巨大な組織。

 

大きな組織ゆえにその力も強大、目をつけられるととても面倒なことになる……動きづらくなるわ。

 

介入してくる前に収集し終わりたいところだけれど。

 

 ……を守る手段はあるとはいえ、できることならその手段は取りたくないから。

 

「……迅速に集めなければいけないわ、あの二人をよろしくねリニス」

 

「はい……お任せください」

 

「これで報告は終わりね。さ、ケーキを頂きましょう。……本当においしいわねこれ、さっきアルフが言ってた徹という人は洋菓子店の方なのかしら?」

 

「あ、ええと……先ほど報告した敵対勢力の……少年が徹といいまして、その子から……」

 

 ん? ちょっと話がわからないわね……。

 

ケーキの差し入れをくれたのが徹という人で? その徹という人は敵対勢力の少年?

 

「……要するに敵からの贈り物、ということかしら?」

 

「ま、まあ有り体に言えば……そうですねっ!」

 

 リニスは悪びれもせずに、頭を少し傾げ、片目を閉じ、舌をちょんと出し、手で頭をこつんと叩いた。

 

なぜかしら……リニスの背後に『てへぺろ』という文字がでかでかと見えた気がする……。

 

もうこの子はダメかもしれない……杖で殴ればすこしは直るかしら。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいプレシアっ! 理由があるんです!」

 

 杖を取り出した私を見て、慌てて取り繕いだしたリニス。

 

なにかしら、言い逃れできる言い訳でも並べてくれるのかしら。

 

 手遅れとは思いつつもリニスはこれでも一応は優秀な使い魔、チャンスくらいは与えるべきね。

 

「敵対勢力といっても仲が良いんですよっ」

 

「…………」

 

 謎が深まるばかり……そろそろリニスから〈優秀〉という看板を外すべきかもしれないわ。

 

目で無言の圧力を加えながらリニスの説明を待つ。

 

「まずフェイトとアルフの二人と戦ってました」

 

「……………………え?」

 

「ちょっ、ちょっとだけ時間をください! 順序良く説明するのでちょっと待ってください!」

 

 もしかしてリニスって……おばかなのかしら。

 

いや、でも使い魔は魔導師の格を表すというし、使い魔がおばかだと(あるじ)である私もおばかさんということに……それは認められないわ。

 

ここからのリニスの言動、立ち居振る舞いで判断しましょう。

 

「えっとですね、最初にフェイト、次にアルフと戦って、二人ともその戦い方に好印象を得たそうです。実力で劣りながらも、自分の能力の限界まで出し尽くして渡り合おうとする精神に、尊敬に近いものを感じたと言っていました」

 

「……それはたしかに好印象ね。……報われないかもしれないけれど、それでも最大限の努力をするというのは……誰にでもできることではないのだから」

 

 それなら……この子たちが好意や親近感を感じるのは理解できる気がするわね。

 

自身の限界、さらにその先まで力を尽くして事を成そうというのは、まさに私たちが目指していることそのものなのだから。

 

「私は徹と喋っただけですが、それでも引き込まれるような魅力といえばいいでしょうか、そういうものを感じました。一種のカリスマ性とも言えるかもしれません。徹とのお喋りはとても楽しかったですよ。そうです、戦って会話を交わして、敵同士という垣根を越えて親しくなったんです。ふぅ……」

 

 長い説明を終えて、リニスは紅茶を飲む。

 

 リニスが言っていたことをまとめると……だいたいこんなところかしら。

 

「その徹くんという少年が悪い子ではない、というのはあなたの説明の端々からにじみ出ていたしよくわかったわ。つまりあなたたちは三人そろって籠絡された、ということでいいのかしら」

 

「ど、どこをどう受け取ったらそんな結果になるんですかっ!」

 

 どこをって、どこからどう見ても普通以上の感情がさっきの熱弁に込められていたでしょう。

 

徹という少年の話をする時のリニスの瞳はとてもきらきらと輝いていたし、声にも力が込められていたというのに自分で気づいていないのかしら? リニスのベッドの下に隠されている、上半身裸の男性が表紙という、見るからにいかがわしい雑誌を読んでいる時と同じくらいに瞳が輝いていたのだけれど。

 

「アルフならともかくっ、私はそんなことありません!」

 

「ちょっ、ちょっとっ! 聞き捨てならないよリニス!」

 

 いつのまにかフェイトと一緒に小躍りしていたアルフがテーブルに戻ってきていた。

 

アルフは語気を荒げ、なにか反論したいような雰囲気ね。

 

「私とフェイトは見たんだからね……リニスが、裸に剥いた(・・・・・)徹を椅子に拘束(・・)していろいろ(・・・・)してたことっ!」

 

「ごふっ、ごほっ、けほっ……」

 

「ごっ、誤解に誘導するような悪意のある言い方しないでください!」

 

「か、母さんっ! だ、大丈夫?!」

 

 あまりに想像以上の単語が出てきてしまったせいで、紅茶を吹き出してしまう。

 

 ア、アルフは今なんといったのかしら……『裸に剥いた』、『椅子に拘束』、『いろいろしてた』……。

 

たしかリニスが、その徹くんのことをアルフと同い年くらいと言ってたわね……ならだいたい十六か十七かそのあたりでしょう。

 

九十七管理外世界ではそのくらいの歳の子は未成年のはず、うん……犯罪ね。

 

驚いたわ、まさかジュエルシードに関することよりも前に、現地の少年に対して犯罪行為(強制わいせつ)を働いていたなんて。

 

 従者である使い魔の罪は、主である魔導師の罪……いずれ贖罪しに行かないといけないわね……。

 

「それを言ったらアルフ……あなたは徹とキスしようとしてたでしょう!」

 

「かふっ……」

 

「母さんっ!」

 

「なっ、なっ! なんでそれを今言うのさっ!」

 

「今以外に暴露するタイミングなんてないでしょう。絶好の機会とすら言えますね」

 

 私は口を拭きながら、なおも言い争いを続ける二人を眺めて確信に至る。

 

私とフェイトの使い魔はもうダメだわ。




プレシアSIDEではっちゃけた話はおそらくこれのみとなると思います。
後半に行くにつれ、話が暗くなると思ったので、今回くらいはなるべく明るい方向性にしようとは思っていたのですが、なぜかギャグ回のような様相に……。
理想と現実のギャップにいつも苦しみます。

後半の書きやすさたるやありませんでした。
こういうノリは書いてて楽しいです。
逆に前半はかなり時間がかかりましたが。

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