そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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作者の都合で設定が改変されていたりする所があります。
ご注意ください。


2014/03/29 修正


02

ひとしきり泣いたことで、憑き物が落ちたように心がすっきりした。

 

落ち着いた今では初対面の彼の前で、情けなくぼろぼろと涙を流したことがひどく恥ずかしい。

 

いろいろ複雑な気持ちを、こほんと一つ咳払いして心の隅に追いやる。

 

「ごめんね、僕はもう大丈夫だよ。ありがとう」

 

僕のフェレット状態になった身体を、優しく覆っていた彼の手を自分の両手で軽く押し、もう心配いらない旨を言外に伝える。

 

彼は一言、そうかと呟いて腕を下げる。

 

ジュエルシードの思念体を相手にその身一つで死闘を繰り広げたのだ、きっと心底疲れてるだろうに彼はこちらを気遣ってくれる。

 

なんて強いのだろうか。

 

ただ身体が強いだけでは、成し得ることはできない。

 

ただ精神が強いだけでは、あの場で生存は許されない。

 

仮にどちらも両立していたとしても、自分にできるのだろうか。

 

魔力の消費を抑える為、フェレットの姿になってしまっている自分の身体を見下ろす。

 

僕は確信を持って言える。

 

自分では不可能だっただろう、と。

 

この世界に来るまでに魔力も体力も消耗していたとはいえ、自分はたった一体の思念体相手に遅れを取った。

 

それに引き換え彼は、魔法も知らず武器も持たず、徒手空拳で思念体と戦い終盤近くではわずかに上回ってすらいたように思える。

 

二体増えたことで追い詰められはしたものの、その状況ですら生き残っているのだ。

 

どうしても自分と比べてしまうし同じ男として情けない、なにより人間としての大きさの違いをまざまざと見せ付けられたようで心が重くなる。

 

慈愛に満ちた表情でなのはを撫でている彼の横顔を見る。

 

言いようのない感情が心を縛りつける。

 

見られていることに気付いた彼は、くくっと愉快そうに笑い、人差し指で僕の頭を撫でた。

 

「あんま一人で抱えんなよ。頼りになんねぇかもだけどなのはもいるし、なんもできないが俺もいるんだからな」

 

なのはもだいぶ調子が戻ってきたのか、頼りにならないという彼の発言に、にゃあにゃあと苦情を申し立てていた。

 

それを見てまた彼は楽しそうに笑う。

 

僕に兄はいなかったけどいたとしたらこんな感じなのかな、近くにいるだけですごく暖かくて、そして頼りになる。

 

また込み上げてくる涙を必死に堪えて、顔を上げる。

 

自分にできる事できない事を判断し、彼となのはに話すことを順序立てて頭の中で組み立てる。

 

「まずは、改めて謝りたいと思います。巻き込んでしまって本当にごめんなさい。そして厚顔無恥を承知で言います、僕に力を貸してくれませんか」

 

こんな状態の自分にもなにかできる事があるはずだ。

 

手始めに今回の事情の説明から始めよう。

 

 

 

 

 

最初に、お互いの自己紹介から始まった。

 

なのははもうすでに顔を合わせていたから知っているだろうが、俺は知らないのだ。

 

この喋るフェレット、名前をユーノ・スクライアと言うらしい。

 

ユーノの説明をまとめると大体こんな感じ。

 

ユーノは考古学の学者さんで発掘の仕事の最中、ロストロギアを発掘した。

 

ロストロギアというのは強力な魔法技術の遺産全般を指すもので、ユーノが見つけたものはジュエルシードと名付けられているらしい。

 

そのジュエルシードを時空管理局という、軍隊と警察と裁判所を併せ持ったような感じの大きな組織に渡そうと思い、そのために時空間を航行できる船を手配したそうなのだが、それが不運にも事故に遭ってしまった。

 

その事故のせいで発掘したジュエルシードが第97管理外世界、つまりは地球の海鳴市の周辺に散らばってしまったという事だそうだ。

 

責任を感じたユーノは、一人でジュエルシードの回収と封印を行っていたが手傷を負い、自分一人ではできないと判断して苦渋の決断の末なのはに助力を求めた、というのが事の顛末。

 

「危険な代物だから極力巻き込みたくはなかったけど、僕一人では力が及ばない。お礼はいつか必ずします、力を貸してください」

 

力無く肩を落とし、懇願するように頼み込むフェレット、もといユーノを見てなのはが立ち上がる。

 

「お礼なんていらない! 私手伝うよっ、私にもできることがあって、それが誰かの助けになるのなら……私は、私にできる事がしたい!」

 

なのはは即答した。

これだけ迷いなく手伝うと言い切れるこの性格を、俺はとても嬉しく思う。

優しく、そして真っ直ぐな子に育ってくれているんだなと、なのはの兄貴分の立場としてとても快く感じる。

 

だがそんな綺麗事だけでは認めることはできない。

 

世の中は、綺麗事や理想論だけでは成り立たないのだから。

 

話を聞けば、もともとロストロギアというのはとても高度な魔法技術であり、その力のせいで一つの世界が崩壊してしまうほどだ、とユーノは言っていた。

 

当然、そんなものに関われば危険が伴う事になるだろう。

 

普段ならば俺程度でも、なのはを襲う危険を払うことができる、なのはを守ることができる。

 

だが俺にとって、未知の存在である魔法が関わるとなると必ず守り切れるとは断言できなくなる。

 

実際、あの黒い化け物――ジュエルシードの思念体とユーノは説明していたが――を退けることもできなかったのだ。

 

だが、ここまでやる気になっているなのはに〝危険だから手伝うのを許すことはできない″と、諭しても言うことを聞くとは思えない。

 

正直、気は乗らないがなのはの意思を尊重する形で考えて行く。

 

「ユーノ、なのはの安全を確約することはできるか?」

 

「物が物だけに〝絶対に安全だ″、とは言い切れないです。でもなのはには才能と素質があるし、デバイスであるレイジングハートもいる。それに、こんななりだけど僕もいます。命を落とすなんて事にはならないよう、全力を尽くします。僕の命にかけて」

 

よかった、ユーノは本当に義理堅く、真面目な人間のようだ。

 

少し試すような事をしてしまったが、俺の問いかけに対して信頼にたる答えをくれた、だが。

 

「あうっ」

 

ユーノの額に軽くデコピンした。

 

やられた本人(ユーノ)は後ろに倒れて、驚いた表情をこちらに向ける。

 

なのはは、俺の言わんとしていることを理解しているのか、むすっとした顔で腕を組み、俺の膝に座った。

 

いや、隣に座れよ。

 

なに、どさくさに紛れて俺の膝に座ってんだ。

 

「お前の言葉は、俺の期待以上の答えだ。俺はお前を信じることにした。だけどな、命をかけるとまで誓わなくてもいいんだ。なのはが自分でやると決めた以上、ある程度はなのはにも責任がある。命を脅かされるような事態に陥ったら、お前は逃げてもいいんだ。俺も、たぶんなのはもそこまで恩につけ込んでお前を縛ろうとは思ってないよ」

 

ユーノは座り直して下を向きながら、ありがとうございます、とかすれるような小さな声で呟いた。

 

少し声が震えてたように感じたのは、まぁ気のせいということにしておこう。

 

さて、ここまで話を聞いて、なのはに魔法の才能があるのはわかった。

 

問題は俺だ。

 

「なぁユーノ、俺にも魔法って使えるのか?」

 

これからなのはを守る為にも、ユーノを手伝う為にも、魔法の力は必要不可欠だ。

 

ちょっと待ってください、と一言置いてユーノはたたたっ、と俺の身体を上って頭に辿り着く。

 

ユーノの両手が、俺の頭のてっぺん部分に触れる感触が伝わってくる。

 

「ある程度の精度でいいのなら、すぐ分かります。すこし待ってくださいね」

 

膝に座ってるなのはが、身体をすこし左に向ける。

 

思念体と戦った時に怪我をした左肩を、そっと撫でてくる。

 

家に着いた時にユーノが俺の怪我を治療してくれたのだが、ユーノも疲労していたので完全には治癒できなかった。

 

かすり傷と右脚に負った傷を治した所で魔力が切れてしまい、左肩は完治していない。

 

傷口はほとんど塞がっているが、一応左肩に包帯を巻き応急処置をしてあるのが現状だ。

 

なのはは、辛そうな顔をしながら俺の左肩をゆっくりさすっている。

 

この子は本当に優しくて、そして繊細だ。

 

膝に乗ってるお陰で、乗せやすくなったなのはの頭に、自分の顎を置く。

 

右腕は、なのはのお腹に回して固定する。

 

こういう時はどんな言葉を掛けても安っぽく聞こえてしまうので、行動で気持ちを示す。

 

俺は大丈夫だ、心配なんざいらねぇよ。

 

この気持ちが伝わるように、優しく抱き締める。

 

正しく伝わったかどうかは分からないが、なのはは左肩を撫でるのをやめ、正面を向いた。

 

なのはは、もたれるように身体を後ろに倒して俺の身体にすっぽりと収まった。

 

やわっこい感触が腕を伝う。

 

俺よりも、体温が少し高いなのはの温もりを身体全体で感じる。

 

どんなシャンプーを使えばこのような匂いがするのか、頭をくらくらさせるようななのはの香りが鼻腔をくすぐる。

 

やばい、俺の奥底に眠る(劣情)が目を覚ましそうだ。

 

俺は小学生に欲情する変態じゃない、と三回心の中で唱える。

 

あぁ、いつかこの可愛らしくて心優しい天使(なのは)を、押し倒してしまいそうな自分が怖い。

 

「終わりました」

 

頭上から聞こえるユーノの声で、思考が現実に戻る。

 

あぁ、助かった……

 

後少しで、俺の中の欲望という名の獣が覚醒するところだった。

 

さぁ、社会的な裁きから救ってくれたユーノの言葉を静かに待つとしようじゃないか。

 

「言いにくいんだけど…」

 

出だしの言葉で、どのような内容の話になるかわかってしまう、回転数の優れた自分の頭が今は恨めしい。




今回は主人公以外の人間の語りというのをやってみました。
難しくも楽しいことが分かりました。

作中思うところがある方もいるかもしれませんがユーノ君をディスってる訳では決してありません。
それだけはご理解ください。


別に僕はBL的な展開には持って行こうとは考えていないことをこの場を借りて宣言しておきます。

レイハさんはシリアスな空気に不相応なので徹が布でぐるぐる巻きにして黙らせました。

あと複数人いる時の会話って難しいです。
みんなに喋る機会を与えて会話を回すのがこれ程まで難しいとは…これからの課題です。



話の量が安定しない…

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