2014.3.30 修正
申し訳なさそうな顔をしながらユーノが、俺の魔法の素質の解析結果を教えてくれた。
俺は魔法の世界について何も知らないので、数値とかランクとかで言われてもさっぱりわからない。
なので、なのはと比較してもらったのだが。
「三分の一……か」
三分の一。
魔法を使う為のエネルギー、それを自分の中でタンクのように溜めておく部分を魔力容量とか言うらしい。
そしてその容量が、俺はなのはの三分の一ほどしかないらしい。
他にも適性等の項目があったが、それらもなのはとはかなりの差があるようだ。
なのははどうやら容量だけではなく、適性も優れているらしい。
特に、砲撃に関しては天賦の才があるようで、ジュエルシードの思念体三体に囲まれた俺を助けた桜色の光もその砲撃魔法だったようだ。
初めて魔法に触れ、三体の思念体を同時に軽く屠る程の砲撃を放つ。
これは驚嘆に値するほどの素質で、他にも射撃、防御の魔法にも優れ、飛行の適性もありこれから伸びるだろうとのことだ。
それに比べて俺は、魔力付与の魔法、これは武器や身体に魔力を送り込んで強化するもので、簡単に言えば身体強化みたいな魔法らしいのだが、これがなのはより多少適性が高いくらいで、他は全てなのはを下回る。
特に飛行魔法については壊滅的で、浮かぶのがやっとのことで使い物にはならんのだと。
ユーノは俺を気遣い所々曖昧に言ったり、『なのはが凄すぎるだけですから』と言葉をかけてくれた。
健気に慰めてくれるユーノの小さな頭を、人差し指でちょこちょこと撫でる。
気持ち良さそうに目を閉じながら撫でられているユーノを見てなのはが、私もっ! と主張しながら頭を俺の胸板にぐりぐりと押し付ける。
お前は、フェレットにすら嫉妬するのか。
仕方がないのでなのはの頭も撫でておく、うむ、静かになった。
なのはを撫でてあやしていたが、実のところ俺は内心穏やかではいられなかった。
力が無いということ。
それはなのはを、自分の周りにいる大切な人を守れないということに他ならない。
だが、ユーノに手を貸してなのはと共に、ジュエルシードの封印と回収を行うと決めた以上、魔法を避けることはできない。
なら、どうすればいいか。
答えは簡単だ。
「ユーノ、俺に魔法を教えてくれ。やり方から何から一から全部」
使えるようになればいい、学んで努力して、俺の大切な人達を守れるくらいに強くなればいい。
ただそれだけの、単純明快な話だ。
「わ、私にも教えて! ユーノ君を助けて徹お兄ちゃんを守る為に、私も勉強する!」
俺を守るとは、随分と生意気な事を言ってくれるものだが、明確に素質の差が出てしまっているため言い返す言葉が見つからない。
だがこれでは気が済まないので、少し手荒になのはの頭を撫でることで落ち着いた。
なのはは、うにゃあぁぁと悲鳴をあげるが、俺の手を払いのけようとはしない。
『私もお手伝いできます。マスターはもちろん、仕方が無いので徹、貴方にも教鞭を振るって差し上げましょう』
こいつ今、会話に混ざりながら何気に俺のこと呼び捨てにしやがったな。
こんなこと言うから喋らないように、近くにあったタオルでぐるぐる巻きにしておいたというのに。
慇懃無礼という言葉を、丸い形に凝縮したようなこの赤い宝石はレイジングハートというらしい。
ユーノが以前に発掘したインテリジェントデバイスというもので、元々はユーノが使っていたがこんなに失礼な割りに非常に優秀らしく、使いこなせないのでなのはに委譲したとのこと。
インテリジェントデバイスには人格型AIが搭載されており、こいつ単体でも魔力をデバイスの所有者から引っ張ってくることで、魔法を発動できるとか。
自意識があり会話も成り立つので、所有者の精神的な支えにもなり確かに優秀なのだが……
『貴方はマスターと違いへっぽこですが、ご安心ください。賢い私があなたも一人前にして差し上げましょう』
……優秀さと失礼さが比例関係にあるということだけが問題だ。
「ダメでしょレイジングハート! そんなこと言っちゃ! 徹お兄ちゃんは、こんな外見ですごく意外だけど頭もいいし、想像以上に運動もできるんだよ! 私も、勉強や縄跳びとか鉄棒とか、いろいろ教えてもらったんだから!」
無礼を繰り返すレイジングハートになのはが、めっ! ってする。
たぶん、いやこいつのことだ、真面目に俺をフォローしようとしているのだろう。
下手したらレイジングハートよりも俺をけなしているような気もするが……我慢する、大丈夫。
俺はわかってる、なのはに悪気はないんだ。
『ぷふっ、いえ、申し訳ありませんマスター。くふふっ、申し訳ありませんでした、徹。』
一応、と言わんばかりに形だけの謝罪をするレイジングハート。
笑ってんじゃねぇか、呼び捨て直してねぇし。
やすりで表面削ってやろうかな。
「み、みんなで頑張ろう! 徹さんも一緒に頑張りましょう! 僕もお手伝いしますし、なんとかなりますよ!」
困ったような、苦笑いのような声音のユーノが小さい手を目一杯挙げながら言う。
この中で一番の癒しはユーノだと確信した瞬間だった。
きゅくぅ、という可愛らしい音が、なのはのお腹から聞こえた。
音の発信元は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯く。
「そういえばだいぶ時間が遅くなったもんな。翠屋出てから二時間くらい経ってんじゃん。飯もまだ食ってな……」
なのはとは正反対に、俺の顔から血の気が引く、もっと早く気付くべきだった。
「桃子さんにも恭也にも、まだ連絡してねぇじゃん……」
やばいどうしよう、恭也はめちゃくちゃ(妹だけを)心配してるだろうし桃子さんはあることないこと吹聴してる可能性がある。
とりあえず、連絡を入れようと携帯を見る。
【着信 364件】
携帯の電源を切り、知らん振りしてしまおうかと本気で考えた俺を誰も責められないだろう。
もうわかり切っているが、一応誰から着信が入っているのか確認する。
確認した結果、恭也が359件、桃子が5件。
さすが
恭也相手は少し勇気がいるので、桃子さんに電話することにした。
本当は、桃子さん相手もいやなんだけどなぁ。
連絡先の画面で高町桃子を選択し、発信、2コール目で繋がった。
「もしもし、徹で」
すけど、と続けようと思ったが、途中で桃子さんに遮られたので言い切ることが出来なかった。
「今まで連絡もなしになにしてたの!? 大丈夫? 怪我とかしてない? 家に帰ったら、なのはも徹くんもいないし心配してたのよ!? 近所で爆発事故があったらしいから二人が巻き込まれたんじゃないかと……」
うおぉ……予想以上に心配されてたぁ……
「大丈夫だって桃子さん、心配し過ぎだから。帰りの途中でなのはが起きて、久しぶりに俺の部屋に来たいって言うから帰るのが遅れちゃっただけ。遊んでたら時間忘れちゃってさ、携帯の電池が切れてて、電話来てるのに気付くのが遅れちゃってたよ、ごめん」
考えていた台詞を桃子さんに伝える。
なのはが、言い訳のだしに使われ顔を赤くしてにゃあにゃあと抗議しているが、今は電話中なんだから静かにしろ、と人差し指をなのはの口にあてて喋れないようにした。
子供扱いによる怒りでさらに顔を真っ赤にさせるが、意図を察したのだろう、俯いて口を閉じた。
桃子さんに対しては、事情があるとはいえ嘘を吐いている事に変わりはないので、少し心は痛むが今回の一件を正直に話すことはできない。
ごめんなさい、と一言心の中で謝っておく。
ちらっと出てきたが、どうやら動物病院の事は爆発事故とみなされているようだ。
近所でって言ってたし、そうそうあの規模の事故があるとは思えないので間違いないだろう。
「そうだったの。ともあれ二人が無事でよかったわ」
「心配かけたみたいでごめん、次は気をつけるからさ。なのはは、飯食わして風呂もこっちで入らせてからそっちに送り届けっから安心してよ」
なのはとはもう少し、話を詰めたい所があるからな。
今、帰られると少し困る。
「あら〜、それならもう、今日一日徹くんの家に泊めてもらっちゃってもいいかしら? もう時間も遅いし今の時期でも夜になると結構冷えちゃうし、なのはも前から徹くんと遊びたいって言ってたし〜」
うふふ、と笑いながらとんでもないことを言い出した。
この人は時々、何を考えているのかわからなくなるな。
桃子さんの近くで内容を聞いていたのか、桃子さんの声の後ろで恭也がなにやら騒いでいる。
なのはが俺の家に遊びにくる事はままあったが、泊まるのは初めてだ。
それについてあの
無理をするな恭也、桃子さんに逆らうとどうなるかはお前もよく知っているだろう……
「そっちがそれでいいなら俺もわざわざ寒い中、外に出なくていいからありがたいな。明日の朝にそっちに送ってくわ」
「えぇ、それでお願いするわ。あと大事な話なんだけどね……」
いつの間にか、電話の向こうで騒々しくしていた恭也の声が聞こえなくなっている。
そりゃ、高町家の頂点である桃子さんに楯突いたら排除されるよな。
あいつだってわかっていただろうに。
それよりも大事な話とはなんだろう、居住まいを正して話の続きを待つ。
「なのは、お赤飯まだだからっ!」
桃子さんが、とんでもないことを全部言い切る前に通話を切った。
何言ってんの…本当に何言ってんのあの人ッ!?
なのはは、まだ小学三年生だってのに!
手なんか出さねぇよ、俺そこまで飢えてねぇよ!
なんかもう桃子さんとの通話で、思念体戦より体力を消耗したせいか俺も腹減ってきた。
携帯をしまって、料理の準備をする。
っと、その前になのはにさっきの電話の内容を伝えとくか。
「なのは、今日はもう泊まってけ。あと先に風呂入ってろ」
俺はなのはが風呂に入っている間に料理を作っておいて、それから風呂に入ることにしよう。
ユーノもその時に洗ってやるか、ちょっと小汚い感じがする。
俺の台詞になのはは、きょとんとして″何を言われたのか理解出来てません″みたいな反応してから、今度は急に顔を真っ赤に染め上げた。
「わにゃにゃあっ! まっ、まだっ、こ、心の準備がっ!」
「お前も本当に何言ってんの……」
高町家の末娘は、魔法の色だけでなく、脳内まで桜色だった。
俺が、会話の内容全部を、説明していなかったのも悪いけどさ。
ご期待を持たれている方には申し訳ありませんが、R15とか18をつけなければいけないような展開には今のところするつもりはございません。
も、もしかしたらR15はつくかもしれません。
レイハさんには悪いですが彼女は今後もこういう方向です。
ちなみに僕はロリコンではありません、あしからず。