そんな結末認めない。   作:にいるあらと

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まさか丸々二話かかるとは。


「言いすぎだろ。泣いちまうぞ」

「……っ、す……スティンガーレイっ! 貫け!」

 

『Stinger Ray,fire』

 

 数秒の間下りていた沈黙の帳を引き裂くように破ったのは、クロノ少年の苛立ち交じりの咆哮だった。

 

 先ほどと同一の魔法、生み出された数も同じく三つ。

 

魔法を展開したクロノ少年は杖を頭上高くかざし、勢いよく振り下ろした。

 

「くぅっ…………」

 

 疼痛を訴える頭を無理して回し、再度集中する。

 

火種がじわりじわりと燃え広がるような感覚が頭を襲う。

 

脳を使いすぎたことによる過熱(オーバーヒート)みたいなものだろうが、使わずに乗り切ることはできないので歯を食い縛って我慢する。

 

 十数秒前と同じ感覚が訪れた。

 

視野が狭窄し、背景は消し飛び、殺到する魔法のみが映る。

 

速いはずの射撃魔法を視界に捉えることができ、弾丸が俺に迫ってきているのが見て取れた。

 

 

 既知の術式、同様の対処を効率化し実行――通常障壁を展開、弾道を予測――障壁貫通、敵性弾数三、弾道特定――各弾丸に対し密度変更型障壁を展開――貫通、弾速の低下に成功――各弾丸の弾道上に再度展開、加えて角度変更――弾道変化、成功

 

 

 クロノ少年の放った射撃魔法の一つは俺の後方の地面に着弾、一つは暗いオレンジ色の染まる空に消え、一つはまたもやコンテナ群に突き刺さった。

 

砂煙が舞い上がり、背後で積み上げられたコンテナが崩れ、轟音が耳朶に触れる

 

 だが、今の俺にそれらを気にするだけの余裕はなかった。

 

 頭蓋骨の内側が全てどろどろに溶けそうなほどの熱が俺を苛む。

 

目の奥がじんじんと疼き、指先まで震えてきた。

 

 玉のような汗が頬を伝うが、それでも苦痛をおくびにも出さずにただクロノ少年を見やる。

 

少年は驚きのあまり、目をむいて口が開いたままになっている。

 

握られている杖は振り下ろされた状態から変わらず、今までになく無防備だった。

 

 だが、俺も状況でいえばクロノ少年と大差はない。

 

 最初の一発を防いだだけでもかなりの痛みが脳内を駆け巡ったが、今回の痛みはそれどころの話じゃなかった。

 

まるで神経に直接ヤスリをかけられたかのような激痛が頭を埋め尽くし、溢れ出だした痛みが全身にまで伝播する。

 

心臓は早鐘を打ち、目の前がかすかにぼやけ、さらには足の筋肉まで軋む。

 

 こんなことになるのなら魔力の消費が激しくても『魚鱗』を張っておけばよかったという後悔が胸中をよぎるが、切迫した場面だからこそ極限まで集中することができて、そのおかげで先の超高速演算が可能であることが判明したのだから少なくとも収穫はあったとポジティブに考えるべきか。

 

 ばらばらに散った集中力を拾い集めるようにゆっくり深呼吸する。

 

クロノ少年が呆然自失となっている間に気休めでも体力が戻ればそれでいい。

 

「は、はは……何をしたんだ……いったい何をしたんだっ。スティンガースナイプ!」

 

『Stinger Snipe,fire』

 

 乾いた笑いをもらしつつ、なにかが弾けたように言い放った。

 

どこか機械的な女性の声を持つ杖はクロノ少年が叫んだ魔法名を復唱して、先端部から水色の魔力光を迸らせる。

 

 初めて見る魔法……螺旋を描きながら不可解な軌道を取るその射撃魔法はスティンガーレイよりかは幾分遅い。

 

感覚が戻ってきた足に力を込め、目の前に迫る水色の魔法弾を左に大きくステップして回避する。

 

不規則に動くため予測はしづらかったが、高速の射撃魔法スティンガーレイで目が慣れていたので避けるだけなら容易いものであった。

 

 後方に流れた魔法弾を目で追うこともなく、クロノ少年を注視する。

 

 時間的にもうそろそろよさそうなものだが、不用意に後ろを確認して少年の魔法が直撃するとただじゃ済まないだろう。

 

俺としても怪我はしたくない、痛い思いをするのはまっぴらごめんである。

 

それとなく確認できるタイミングもあるだろう、その時を待っていればいい。

 

 射撃魔法を回避したというのにクロノ少年は次の手を打ってこない。

 

身体に覚え込ませているのか姿勢は相変わらず自然体、杖の先端を俺に向けてはいるがそこから攻撃に移る様子はない。

 

 真意は読めなかったが、このまま膠着状態を続けていても俺に有利に運ぶことはないだろう。

 

こうしている間にまた設置型バインドを隠伏(いんぷく)させられたら厄介だ。

 

距離を置いてもいいことはない、ならば攻め続けるべきか。

 

熱が薄れてきた頭でそう結論付け、肉薄するため腹の底に力を入れ、襲歩の構えで前傾姿勢を取る。

 

 全身の筋肉からの爆発力を推進力に変換するため踏み込んだ時、クロノ少年の持つ杖がかすかに動いた。

 

 途端――後ろから氷柱で心臓を貫かれるような、冷たく鋭い気配。

 

それがなにに起因するものなのか背後を確認する余裕もなく、後方より迫る心胆寒からしめる悪寒から逃れるように襲歩で前方に逃避する。

 

 連続での使用は未だに成功率が低かったが、一心不乱だったためか二回続けて襲歩を行うことができた。

 

クロノ少年を通り過ぎてやっと身体の芯を凍てつかせるような気配が薄まり、足を止める。

 

俺がいた場所からは十五メートルほども離れた位置まで来ていた。

 

 背後を確認すれば、俺が躱したはずの水色の魔法弾が、円柱の外縁部を添いながら回転するような機動でなおも近づいている。

 

ただの直射型ではない、誘導性能を有した射撃魔法だったのか……油断した。

 

「躱しても追撃できる。これもさっきのよくわからない能力で逸らせるか?」

 

 杖を地面と水平に払いながら、こちらへ振り向いたクロノ少年。

 

 さっきの超高速演算状態なら対処できるかもしれないが、もう一度使えば確実に戦闘を続けることができなくなる。

 

頭の熱は薄れてきたが疲弊は残っているのか霧がかかったようにすこしぼやっとしているし、平時より思考の回転率が落ちている。

 

もう一度使って意識を保っていられる自信は、今の俺にはない。

 

 (くだん)のスティンガースナイプとやらは回避したところでUターンし、また俺に向かってくるだろう。

 

避けても無駄なら、破壊するしかない。

 

 その場合、乗り越えなくてはいけない壁が二つある。

 

一つはスティンガースナイプについて。

 

誘導弾の制御は術者に依存しているようで、狙いをつけられないようにか、それとももともとそういう機動を取る魔法なのか右に左に上に下にと小刻みに動いている。

 

射撃魔法でも使えればクロノ少年の足元に着弾させて砂煙で視界を奪うのだが……ないものをねだっても仕方がない。

 

威力に関しても不確定要素があるが、一応考えはついている。

 

 もう一つの壁はかなりの破壊力をもつだろう誘導弾をどう壊すか。

 

俺の攻撃手段は両の拳のみ、あの魔法を破壊するとなれば殴ってぶち壊す以外にない。

 

こちらについての策ももう用意している。

 

ただ腹を決めて歯を食い縛って覚悟を決めて殴ればいいだけ、要するに気合で乗り切るのだ。

 

 襲歩で引き離したぶん、ある程度は魔法弾と距離があいていた。

 

この際魔法弾を無視して格闘戦をしかけるか、という考えが湧いてきた直後、クロノ少年の口が静かに言葉を紡いだ。

 

「スナイプショット」

 

 そのままでも充分な速度を持っていた誘導弾がさらに加速した。

 

空を()ける大蛇の如くのたうち回り、綺麗な水色の輝線を描きながら俺へと向かってくる。

 

飛躍的にスピードアップして思わず悲鳴が口を()きそうになるが、必死に唇を閉じて外へ出さないようにした。

 

この厄介な魔法をどうにかしないといずれ自分の首を絞めることになる、そう考えを改め、クロノ少年に接近する案を破棄して目前に迫る誘導弾に傾注する。

 

 誘導弾を打ち砕こうにも、ここまで速いと拳を合わせるだけでも骨が折れるし、どれほどの威力を宿しているかもわからない。

 

なので、まずは速度と威力を削る。

 

 どれほど軽減させられるかわからないが、二重に密度変更型障壁を構築する。

 

 障壁の展開直後に魔力弾が飛来し、がぎぃっ、と不安を煽り恐怖を増長させる不快な音が空気を叩き、障壁に致命的なほど大きな亀裂を刻んだ。

 

直後、ガラスを砕き割るような甲高い音が響き障壁が砕け散るが、ほんのわずかに魔法弾の動きが止まった。

 

 ここにしかチャンスは残されていない、動き出して加速すれば再び手をつけられなくなる。

 

胸中に渦巻く恐れが声帯を通して言葉にコンバートされそうだったが、なんとか飲み下した。

 

「うぉらァッ!」

 

 魔力付与を右拳に集中させ、なかば怒鳴るように――恐怖を打ち払うように叫びながら魔法弾を殴りつけるが、障壁で勢いを殺されてもなお重い。

 

出せる全力で、抜群の踏み込みで、この上ないタイミングを狙って打ち込んだというのに粉砕するどころか弾き飛ばすこともできない。

 

 視界の端に映るクロノ少年を盗み見ると杖を俺に向けて眉間にしわを寄せている。

 

制御可能な誘導弾であるというのに、一旦後ろに下がらせるという挙動を取らないところを見ると、このまま押し込めば突き崩せるだろうという結論を出したのか。

 

 なるほど、その判断は的確だ、俺のコンディションはお世辞にも好調とは言い難い。

 

魔力こそそれほど消耗していないが、神経が恐ろしく摩耗している。

 

過度の集中を繰り返して頭が疲れ切って思考速度も低下してきた。

 

遠からず拳を弾かれて被弾することは目に見えている。

 

その前になにか対抗手段を取らなければ地を舐めて敗北を喫することになるだろう。

 

別に死者が出るわけでもないのだから負けたって構いはしないのだが、まだちゃんと安全を確認したわけではない、それまでは膝を折るわけにいかなかった。

 

 現状、拳のすぐ先には誘導弾が水色の魔力粒子を振り撒きながら輝いている。

 

踏み込んだ状態でお互いの力が拮抗しているので大きく身体を動かすことはできない。

 

 この選択肢が限られている戦況でできることなどほぼ皆無のように思えるが、俺の頭にはたった一つだけ、打開策が浮かんでいた。

 

鮫島さんが教授してくれて、実際に練習試合で見せてくれてレクチャーもしてくれたが結局一度として成功させることができなかった技。

 

動作が少なく、『静』から急激な『動』を経て爆発的な破壊力を(もたら)す奥義。

 

 鮫島さんから直接間近で見させてもらって、実際にこの身で味わっただろう。

 

ここが胸突き八丁……見せ場であり正念場だ。

 

ここで()せなければ矜持に関わる、男が(すた)る。

 

「決めてやっから……目を見開いてよく見とけよ」

 

「強がらなくていい、もう限界だろう。君らにとって損になるようなことは決してない、拳を下ろしてくれ」

 

 自分を鼓舞するための言葉だったが、クロノ少年が返してくれた。

 

ありがたいな……さらにやる気が出てきたぜ。

 

 心中で感謝しつつ、全身になけなしの集中力を回して神経を尖らせる。

 

注意しろ、一瞬のインパクトがこの技の華で、肝だ。

 

 短く息を吐く。

 

全身の筋肉の同時駆動……地面をしっかりと足の裏で掴み、下腿で支え、大腿で踏ん張り地面から返る力をブーストし、腹部・服側部・背部で安定させ余すことなく上体に送り込み、流れ込んだ力を胸郭で集約し、腕で凝縮させ、その全てを刹那よりも短い時間で拳から解き放つ。

 

神無(かんな)流奥義、『発破(はっぱ)』」

 

 拳の先にあった水色の誘導弾が粉々どころか、粒子状にまで細かく爆散した。

 

 右腕を伸ばした残心のままの姿勢で感じる、失敗した時の違和感や各部に残る不快感は一切ない。

 

不純物を洗い流すかのような清々しさが俺の身体を駆け抜けた。

 

深く息を吸って、肺に溜められた空気を長い時間をかけて吐く。

 

鳥肌が立つほどの快感が俺を襲ってきて、口元が綻ぶのを我慢できなかった。

 

全身の力を十全に溜め、身体を巡らせ密度を上げて拳から標的目掛けて万全に(とお)す。

 

ただそれだけのことが……とても気持ち良かった。

 

「……む、無茶苦茶だ……」

 

 クロノ少年の声で、天にも昇るような恍惚感から現実へと回帰する。

 

 そうだった、まだ戦闘中だったのをすっかり忘れてしまっていた。

 

なにかもう、全てを吐き出したかのような気分だ、満足してしまったと言い換えてもいい。

 

練習やトレーニングでは得られない、強者と交わす本気の勝負というのはなにものにも代え難い、素晴らしい経験になるんだと再認識する。

 

これ以上は蛇足だと断言できてしまうほどの爽快感だった。

 

 クロノ少年のさらに後方、一時は直射型射撃魔法スティンガーレイが地面に着弾して砂煙が舞い上がり視界を奪っていたが、今は海から吹く強い潮風で綺麗に取り払われている。

 

少し離れていたが心配そうにこちらを見つめる人影も認められた。

 

 バリアジャケット姿のままのなのはと、そのなのはの左手に握られている音叉型のレイハ、なのはの肩に乗るユーノの三人(・・)を。

 

 フェイトとアルフは(ついでにバルディッシュも)ちゃんと(・・・・)撤退してくれたようだ。

 

これならもうクロノ少年と……ひいては時空管理局とやりあう理由はない。

 

なのはとフェイトを縛り上げてくれちゃった件についてはきっちりと断罪させていただくが、それはまた後日でいい。

 

今は早急に時空管理局と話をつけることが先決だ。

 

「降参だ」

 

 両手を上げてギブアップのポーズ。

 

これ以上闘争を続けることに些かの意味もないし、なによりこれ以上痛い目に合うのも苦しい思いをするのもお断りだ。

 

 年下に負けることになって俺の戦歴に傷がつくことくらいはあるかもしれないが、思い返してみれば年下相手には何度か戦い、その度に白星を献上し続けている。

 

今回もう一つ黒星を飾ったところで傷つくプライドなんざありはしない。

 

もうすでに、俺のちっぽけなプライドはぼろ雑巾に等しいレベルにまで落ちているのだ。

 

「は……? ぃ、今さら降参? ここまでして……僕の魔法を素手で殴り壊しておいて……降参?」

 

 ぽかん、と口を開き、何を言っているのか理解できないという風に首を傾げるクロノ少年。

 

杖を持つ腕はぷるぷると震え、額には青筋が浮かぶ。

 

 投降しろなどと言っていたのに、いざ投降すると妙な反応を取られた。

 

どうやら少年はお怒りのご様子だ。

 

「くっ、ははっ! そういうことか」

 

 少年はなにを思ったのか、突然笑い出しながら杖をバトントワリングのように華麗に回し始めた。

 

流麗なその動きに見惚れているといきなり、がつっ、と杖の下端を地面に突きつける。

 

その音と同時に俺の身体に拘束のための魔法輪がはめられた。

 

両足、両腕、首にまでバインドをかけられて、まるで犯罪者のような処遇である。

 

「これも君の策の一部っ、そういうことだろう!」

 

 どうするべきだろう、とても大きな勘違いをされている。

 

とりあえず、こんな体勢で攻撃されては俺如きではひとたまりもないので、疲れた脳みそ――特に思考や理性を司っている前頭葉――に鞭を打って拘束魔法にハッキングをかけながら誤解を解くために釈明しよう。

 

「落ち着け、クロノ・ハラオウン少年。そんな(から)め手を使う必要はねぇよ、戦いは終わったんだから」

 

「そう言って油断したところを襲う……そういう算段なのは目に見えている! 騙されないぞっ!」

 

「襲わねぇって騙してねぇってほんとだって」

 

「ふんっ、そうやって手練手管、手八丁口八丁で邪知深く狡猾に戦ってきたんだろう。底意地の悪さが人相に表れている」

 

「言いすぎだろ。泣いちまうぞ」

 

 あまりの悪罵に本気で涙腺がゆるんでくる。

 

「うるさい、ストラグルバインド」

 

『Struggle Bind』

 

 そんな俺に容赦することも斟酌することもなく、あまつさえさらにバインドを増やしてきた。

 

 クロノ少年がゆっくりと、緩慢な動きで近づいてくる。

 

一歩踏み出すごとに、俺の身体に一本バインドが追加される仕組みのようだ。

 

もはや雁字搦(がんじがら)めである。

 

その拘束魔法の発動スピードたるや、俺のハッキングがまるで追いつかないほど。

 

いやはや、優秀だとは思っていたがこれほどまでとは……さすがに舌を巻く。

 

 そろそろなのはに念話で助けを呼ぼうかなぁ、と女々しい考えに陥り始めた時だった。

 

 

 

『クロノ執務官……これはいったいどういうつもりですか?』

 

 

 

 凛と響く優しい声色のはずなのに、どこか底冷えするような迫力がそこにはあった。

 

 初めて聞く声のはずだが、どこかで聞き覚えがある気がする……。

 

しばらく考えて思い当たった、クロノ少年のデバイスの音声に酷似しているんだ。

 

 しかしこの声はどこから聞こえているのだろうか、目のあたりまでバインドで拘束されているおかげで視界すら確保できない。

 

「か、母さ……いえ、艦長……。あの、これは……」

 

 恐怖と言う長柄に怯懦(きょうだ)という刃を取りつけて、忸怩(じくじ)という砥石で研ぎ澄まされ、諦観という細工で装飾を施された毒々しくも禍々しい大鎌を頸動脈に添えられたみたいな、掠れきった上に弱々しくて細々しい声でクロノ少年は返す。

 

さっきまでの意気がまるで嘘のような沈みようだ。

 

『戦域にいる方々を出来るだけ穏便に艦に連れてくるように、とお願いしたはずですが……私の記憶違いでしょうか?』

 

「いえ……命令は、その通りです……」

 

『ええ、そうでしょう。なのに現地の少年と戦闘になり、しかも片方の勢力の少女二名はどこかへと転移してしまいました。どうしてでしょう、おかしいですね。ふふ……』

 

 クロノ少年の対応の恭しさを鑑みるに話し相手は役職が上の人間のようで、フェイトとアルフの二人を取り逃がしたことについて穏やかな声とは裏腹に(なじ)られている

 

 俺の心に、少しだけ罪悪感が顔を覗かせた。

 

なのはとフェイトに対して手荒な真似をしたことに関してだけは決して許しはしないが、基本的にクロノ少年のような男の子は好ましいタイプだ。

 

真面目な性格しかり、小生意気な物言いしかり。

 

技術や経験に差があることは理解しているが、また再戦したいと思うほどである。

 

俺がフェイトとアルフを逃がすのに協力したせいでクロノ少年がお叱りを受けるというのはすこし申し訳なく感じる。

 

戦闘の節々で煽るようなセリフを吐いていたのも、冷静さを失わせて俺に注意を集中させるためだ。

 

別にクロノ少年が憎くてあんな悪意と敵意に満ちた暴言を放ったわけではない。

 

 ……なのはとフェイトにいきなりバインドを掛けた時はガチでキレちまったが。

 

『なにか言い分や申し開きがあれば聞きますが?』

 

「……ありません」

 

『ならば少年の拘束を速やかに解き、残った方たちを丁重に艦へご案内しなさい』

 

「…………はい……」

 

 どんよりとした陰鬱な闇を背負いながら、クロノ少年は項垂(うなだ)れた。

 

 拘束が解かれて自由になった身体の筋肉をほぐすように伸びをする。

 

心なし潤んでいるようにも見えるクロノ少年の鋭い視線は無視させてもらうことにした。




無印アニメのほうをちらりと見ましたが、クロノくんめっちゃくちゃカッコいいですね。
名言とか多いですし、セリフとか男前すぎます。
惚れました。

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