腹部から血の尾を引きながら海めがけて落下するが、いつまでも隙だらけのまま悠々としていられない。こちらへの攻撃がたった一発で終わる保証など、どこにもないのだ。
「……っ、総員散開! 集まっていたら狙われる! 距離を取れ!」
駆け寄ってこようとしていたなのはやフェイト、呆然としていたユーノやアルフに
それでもなのはとフェイトの二人は近づいてこようとするが、九頭龍から放たれた水弾に道を
倉庫でリニスさんの誘導弾を捻じ曲げた時と同じように、足場用障壁を角度を変えて展開し徐々に落下の速度を殺しながら姿勢を整えて、最後に足元に障壁を生み出して着地する。だが、腹部の傷が痛み、障壁に膝をついた。
「ああ、痛いなぁ……。……っ!」
九本ある頭の一つがこちらを向き、巨大なアギトを開いて再び水弾を吐いた。
腹に手を突っ込まれて五臓六腑を掻き混ぜられたみたいな激痛と不快感を押して、足に力を振り絞り跳躍した。空気を切り裂く音を後方に引き連れながら迫る青黒い水の弾丸を横目に見る。回避には難なく成功した。
威力には眼を見張るものがあるし速度も申し分ないが、口からしか発射できないようで連射される恐れはない上に、頭の向きからおおよその軌道も推測できる。不意を突かれなければ直撃するようなものではない。
なのはたちも一時は唐突な攻撃に動揺が走ったようだったが、今は冷静に軌道を見切って危なげなく回避している。持ち直すことはできた、問題はここからだ。
どうやって、身を寄せ合って互いを守り合うジュエルシードを封印するか。その方法を考えなければいけない。
「くぅっ……
テレフォンパンチに等しい水龍の魔弾を受けた腹部に手を当てて、あまり得意ではない治癒魔法をおっかなびっくり行使する。
思いの
散発的に飛来する水弾を跳躍移動で避けていると、
エリーの魔力に覆われた傷口は見る見る塞がり、次第に出血も止まって傷があったことすらわからないくらいに綺麗に回復した。それどころか、どういう仕組みなのかわからないが、魔弾を受けて穴が空いた服も、血に濡れた部分まで元に戻っている。
当然ありがたくはあったが、不可解でもあった。もしかするとエリーが俺の傷を癒すために使ってくれているなんらかの手段は、単なる治癒ではないのかもしれない。
「ありがとう。助かったよ、エリー」
人によっては得体の知れない技術で治療されることを
エリーは俺の感謝の言葉に、ぱぱっ、と強く短い光を二度明滅させた。まるで『当たり前でしょう?』とでも言いたげな反応に思わず笑みがこぼれる。
「さて、ここからどうする……」
腹部に受けた傷はエリーが治療してくれた。おかげで治癒魔法を使わずに済んだ分、思考のリソースは確保されている。
だが、だからといって根本的な課題が解決されたわけではない。
フェイトの自然の力をも利用する雷撃と、なのはの砲撃を正面から受けたにもかかわらずそれらを耐え凌ぎ、しばしの時間を必要としたにせよ反撃までしてきた。
ジュエルシードがばらけていた時でさえ、そんな末恐ろしい耐久力を有していたのだ。九つすべてが寄り添って固まっている現状では、さらに堅固になっていると推察できる。
瞬間最大突破力で言えば、砲撃に天賦の才を持つなのはがトップ。次点でフェイトだろうか。近距離戦に重きを置いているというのに遠距離攻撃にも羨ましくなるほどバリエーションがあるが、トータルの攻撃力ならまだしも、一点集中という分野においてはなのはに軍配が上がるだろう。その後ろに射撃魔法を使えるアルフが続く。次は同率で、攻撃的な魔法に乏しいユーノと、肉弾戦しか取り柄のない俺。
一番の安全策は水龍の口から吐き出される単発の水弾を躱しながら、遠距離攻撃による封印なのだが、相手の硬さを
ならば
こちらの火力が足りないのであれば相手の力を削るしかないのだが、ジュエルシードの魔力を削るとなると、直接触れるほどに接近しなければならない。
ジュエルシードが操る水龍からハッキングで潜れればわずかとはいえリスクを低減させることができるのだが、それはすでにできないことが判明している。
大蛇の胴体を蹴りで断ち切った時、ジュエルシードの魔力で構成されているはずの胴体なのに魔力を通し辛かった。大蛇の身体も――おそらくは水龍の身体も――水分子と水分子の間にジュエルシードの魔力を編み込むことによって思い通りに操作しているのだ。そしてハッキング時には、水分子が不純物となってハッキングの進行を妨げる。目標物に触れてハッキングを行使するのを高速道路でスムーズに走るようなものだとすれば、魔力以外の不純物が混じった状態は曲がりくねった小道を走行するようなもの。アクセルを踏み込むことができず、速度が出ないのだ。
結論。水に触れてのハッキングができないのであれば、ジュエルシード自体に触れるしかない。
だが、今度は近づく方法が必要になる。
相手の龍の首は九本、俺を除いたこちらの味方は四人。一人あたり、二本以上を担当しなければいけない計算になる。三人がかりでも抑えきれなかった龍を、一人で少なくとも二本以上抑えなくてはならないという作戦では、やはり無理がある。
「ん? あれは……フェイトか?」
なかなか有効な策が思いつかず、段々と思考が焦りに呑まれてくる。一度冷静になるべく周囲を広く見渡すと、九頭龍の近くまで寄っているフェイトが見えた。
高速で空を飛び回り、相次いで放たれる水弾をフェイトは優雅に躱す。右手に携えるデバイス、バルディッシュは大鎌の形を成していた。
距離を取った状態では直線単発の射撃しかこないと知り、相手の挙動も掴んだことでそろそろこちらから攻めようと考えた、といったところか。得意分野である近距離戦で戦おうという算段なのだろう。
射撃魔法では
素早い機動で一点射の水弾を回避し、フェイトは九つある龍の頭の一つに斬りかかって見事に分断した。
俺はその光景を少し驚きながら眺める。
拘束の鎖で縛っていた時、まさしく龍の鱗の如き硬度を誇る体表面に、俺は
その龍型の胴体――首とも言えるが――を容易く斬り裂いたフェイトを見て、頭に一つ、ある可能性が浮かんだ。
「なんだ? これまでにない動き……?」
可能性を確かめるため試そうとしたが、その前に水龍の奇妙な動作を目視した。
根元の巨大な水球から首が脈打つように、どくん、と広がり、まるでなにかが首に入っているかのように丸くなった。ちょうど獲物を丸呑みにした蛇のようだ。
丸く大きくなった部分は本来の流れに逆らって、根元から龍の頭へと押し上げられる。首を通ったなにかは龍の
水龍の口は、次のターゲットを探すフェイトに向けられている。水龍は、水弾を吐いた時のように大きく口を開くことはせず、ほんの小さく、口の先端にだけ隙間を空けた。
ぞくり、と背筋が凍りつきそうなほどの寒気が走る。
あれはやばい。俺の想像が正しければ、龍の口から放たれる代物は水弾なんかより多分に脅威を孕んでいる。
「フェイト下がれ! 危険だ!」
とある魔法の術式に手を加えながら、俺はフェイトに警告する。
びくんっ、と肩を跳ね上げさせたフェイトは俺に視線を合わせると、目を丸くして唇を横一文字に結びながら、こくこく、と頷いた。
なぜかとても緊張しているような、ともすれば怯えているとも取れる表情に
口元になにかを溜め込んだ個体とは別、違う龍から吐き出された水弾をフェイトは
「躱せ、フェイト! 狙われてるぞ!」
フェイトはようやく、俺が注視していた水龍の存在を視界内に認めた。つぶらな瞳を見開き、飛行魔法で無理矢理方向をずらして龍の射線上から逃れた。
次の瞬間、ゼロコンマ数秒前までフェイトがいた空間を、細く白い線が貫いた。
フェイトは速度を維持しつつ、照準から外れるように蛇行しながら飛び回るが、水龍の攻撃は発射し続けながら方向を変えることが可能らしく、高速機動による針路転換を繰り返すフェイトにしぶとく喰らいつく。
紙一重で回避を続けるフェイトに、違う個体が狙いを定めた。牙を見せつけるように口を開き、水弾を撃ち出す。
「くっ……。ぁ……」
意表外の攻撃だったにもかかわらず、苦悶の声をもらしながらもフェイトは流石としか言いようのない動きで、それすら回避した。
だが、懸命の逃避もそこまでだった。並外れた反射神経だけで水弾を躱したが、無理な挙動が続いたことにより身体に重い負担がのしかかった。
フェイトもなのはも、クロノだってそうだが、俺の周囲にいる魔導師は容易く飛行魔法を行使して見せる。そのせいで忘れがちになるのだが、本来飛行魔法は
度重なる突発的な攻撃に、とうとうフェイトの集中が途切れた。
姿勢のコントロールに乱れが生じる。時間にして一秒に満たないほんのわずかな空白、しかしそれは確実にタイムロスとなってフェイトの首を絞めた。
水龍の吐く白い線はフェイトに追いつき、背にたなびくマントを切り裂き始めた。
もう逃げきれない。諦観の念にも似た感情に囚われたフェイトは、か細い喉から蚊の鳴くような悲鳴を震わせた。
「間に、合った!」
「ひぁっ!」
俺は手元の
俺が改造を施していたのは拘束魔法。拘束力を極限まで減らし、伸展速度と射程に重点を置いた仕様だ。
腰にまとわりついた見えない鎖にフェイトが声を上げたが、今だけは無視させてもらう。まだ水龍は諦め悪く狙いを定めているのだから。
「と、徹……。ありがと……」
「礼はいいから、しっかり掴まってろよ」
フェイトを捕らえてから猛スピードで鎖を収縮させて胸に抱き留めて両腕で固定すると、足場を踏み締め移動する。
俺に向けられた白線の軌道に、試しに障壁を張ってみたが、いとも容易く一刀のうちに斬り伏せられた。水弾も貫通力が高かったが、放射される白い線は水弾を遥かに凌ぐ貫通性能を持っている。これを防ごうなどと考えてはいけない。取るコマンドは回避一択だ。
多角的に跳躍を続け、照準が合わさり始めたら『襲歩』で一目散に
「徹、もう怪我は大丈夫? ごめんね、助けてもらってばっかりで……」
俺の胸に小さな両手を当てて、上目遣いに俺の顔を覗き見るフェイトがそんなことを言い出した。
「そういう運の巡りだっただけだ。俺が危なかったら、その時はフェイトが俺を助けてくれるだろ?
「ふふっ。うん、わかったよ。絶対助けるからね」
しっかりと抱き締めていないと消えてしまいそうなほど儚く、湖面に浮かぶ月のように幻想的に、フェイトは微笑んだ。
俺の動きを阻害すると考えたのか、フェイトは抱きとめられてからは飛行魔法を一切使っていなかった。振り落とされないようにと、俺の身体に小柄な肢体をぴったりと密着させている。
機動力重視のコンセプトのもと、とても薄着なバリアジャケットに身を包んでいるフェイトを抱き締め続けるのは鉄の意志を持っておかなければとてもじゃないが成し遂げられない。かなり難度の高い行為である。
「……いつまでくっついてるの?」
絶対零度に限りなく近い冷たい瞳と声で、なのはが声をかけてきた。俺よりも高いところから降りてきているため、顔に影が差していて大変迫力がある。
なのはの左手に握られているレイハが、三回点滅した。まるで『ニ・ゲ・ロ』と言っているようでさらに恐怖を煽る。
「心臓ばくばく鳴ってる。徹、大丈夫? 病気?」
フェイトが俺の心臓の音を聞き取るように、左胸のあたりに耳をつけた。
それはフェイトからすれば、ただ心音に耳を傾けただけなのだろうが、傍から見れば誤解されかねない仕草だ。飛行魔法を使っていないフェイトの身体を離してしまうと落ちてしまうので両手で抱き締めている今の格好も、誤解に拍車をかける要素となっている。
なのはが来ているのだからフェイトも離れればいいのに、自分からは決して離れようとはしない。だからといって俺から突き離すこともできない。女の子においたをするような腕を、生憎俺は持ち合わせていないのだ。
なので、なのはからのプレッシャーには歯を食い縛って耐え、フェイトの細いながらも柔らかく温かい小さな身体を堪能しながら抱っこして返事をする。
「大丈夫、病気じゃない。動悸だ」
かなり短く淡白な返答だが、声が震えなかっただけよく出来たほうである。
「動悸って病気の前兆な気がするよ?」
「緊張すると心臓ばくばくするだろ? それだ」
「……私が近くにいるから緊張しているの?」
確かに、フェイトが近くにいることが原因で(なのはが不機嫌になってレイハを握る力が強くなり、結果として威圧感が増すから)緊張しているとは言える。
否定はできない。ならばフェイトの質問に対する返答は是である。
「まぁ……そうだな」
「ふふっ、そうなんだ」
フェイトは小さく微笑んで、輝いているかと錯覚するほど鮮やかな金色の頭を俺の首元に擦り寄せた。脳髄を
「レイジングハート……ディバインバスター」
『ちょ、マスター?!』
「ディバインバスター!」
「は、はい! Divine Buster!」
「ま、待てなのは! 杖の方向が違うぞ! こっちは味方だ!」
「女の敵なの」
「うまいこと言ってんじゃねえ!」
「さっきからいちゃつきすぎなの。攻撃してきてた大きいのの頭を撃ち抜いて、わたしが! 二人を助けたのに、徹お兄ちゃんもフェイトちゃんも抱き合っていちゃいちゃいちゃいちゃ。……ずるいの」
「ずるいってなんだ」
瞳の中に黒い炎を灯し続けたなのはを
目を瞑りながらフェイトが身体を後方に逸らしたので、腕から柔らかさと温もりが消えてしまった。ほんのちょっと、本当にほんのちょっとだけ寂しい。
俺の腕から離れてしまったことでフェイトが海へと落下してしまうのでは、という懸念が頭を
フェイトはおでこをさすりながら、俺の胸元から首のあたりを見やる。
「……忘れてた。徹は人嫌いのジュエルシードを持ってるんだったね……」
「あぁ、やっぱりエリーか。やけに耳に馴染んだ音だなと思ったんだ」
台座に座ったままのエリーは警戒するように
「それより徹お兄ちゃん。あの大きくて太いやつの先っちょから噴き出してた白いのってなんなのかな?」
「……深い意味はないんだよな? なにか意図があって言ってるんじゃないんだよな? 俺が曲解してるだけだよな?」
なのはは俺の追及に困ったような苦笑いを浮かべて可愛らしく小首を傾げた。
この反応からして、なのはは特になにも考えず、ただ疑問を口にしただけのようだ。よかった、俺に意地悪な質問をしてこようとしていたわけじゃなかったんだ。なのははピュアなままなのだ、本当によかった。
「細い砲撃みたいだったけど、距離を取るごとに拡散してた……あれは液体、なのかな。でも、私に向かって放出しようとしてた白く濁っている液体は……」
「わざとじゃないんだよな?! 故意に俺を困らせようととしているわけではないんだよな?!」
「ど、どうしたの徹。急に慌てて……」
両手を胸にやって困惑の色を顔に彩るフェイトを見るに、こちらもわざわざ含みを持たせる言い回しを選んだわけではないようだ。どうやら俺の心が汚れているだけらしい。
「いや、ごめん。なんでもない。あの攻撃はウォーターカッターみたいなものだと思う」
「ウォーターカッター……魔法の一種? 聞いたことない」
「ううん、たぶん徹お兄ちゃんが言ってるのは作業機械のことなの。ウォータージェットとも呼ぶんだけどね? 三百メガパスカル以上に加圧した水を一ミリ以下の小さな穴から噴き出すことで、物を切ったり加工したりする機械のことだよ。そっか、だから徹お兄ちゃんの障壁を一刀両断にしてたんだね」
なのはが俺の代わりに詳しく説明してくれた。
なのはは機械に強いところが昔からあったが、まさかこんな分野にまで精通しているとは思わなかった。
「めちゃくちゃ詳しいな……俺より知ってるじゃねぇか。たぶんそれに似たようなことをあの龍はやってるんだろう」
「それなら白くなってたのもわかるね。空気が混じってたんだ」
「まあ、そうだろうな。普通なら十メートル以上なんていう射程は実現できないはずだけど、そのあたりは魔力の為せる技なのかね」
「遠距離では水の砲弾、中距離より近ければ二人が言うウォーターカッター、近くに寄れば大きな牙で噛みついてくる……。厄介だね……」
「うん……。それに砲撃で頭を飛ばしたけど、もう再生しちゃってる……。回復力も早いよ」
フェイトがジュエルシードを守護する水龍の攻撃方法を言い並べ、なのはは水龍の復元力について述べる。
攻撃に関してはそれほどの脅威を感じない。もちろん魔弾を直撃すれば重傷を負うのは間違いないし、ウォーターカッターは致命傷になり得る攻撃だが、魔弾は単発でしか射出されないし、ウォーターカッターには射程がない。遠くにいればひとまず安全は確保される。
だが、防御力と回復速度が異常に高い。なのはの砲撃を食らって反撃できる硬さがあって、フェイトに頭を斬り落とされても十秒とかからず元通りになる復元力。それらの壁を突き破ってジュエルシードまで届かせることは、俺たちの火力ではできない。
考えろ、考えろ。頭を回せ。それほど推論する時間はないんだ。お喋りとフェイトとのいちゃこらに時間を割いてしまった分、俺たちの代わりにヘイトを稼いで九頭龍のタゲを取ってくれているユーノとアルフに疲れが見え始めている。
なにか微かでも取っ掛かりがあれば。
取っ掛かり……あるじゃないか。フェイトを見ていて感じた、一つの可能性が。
「そうだ……。フェイト、あの龍を鎌で斬った時、手応えとかなかったか?めちゃくちゃ硬かったり、とか」
「ううん、徹の障壁の方がまだ硬いと思うよ」
「ほんと俺の心を何の気なしに抉るのやめてくんない? わざと言ってるんじゃないんだろうけどさ」
フェイトは頭の両側で結んでいる二本の金髪をふるふる、と揺らして否定する。
俺のガラスのハートには罅《ひび》が入ったが、有力な情報を手に入れた。もう少し、確定付けるにはもう少し根拠が欲しい。
「なのは、あの龍に砲撃を撃った時、弾かれる感触とかなかったか? 大蛇の群れに向けて撃った時みたいに、阻まれた感触はなかったか?」
「ううん、なかったの。まだ徹お兄ちゃんの障壁相手にやる方が撃ち応えがあったよ?」
「怖いこと言うな。人に向けて撃つんじゃありません」
心胆寒からしめることを言われてガラスのハートにさらに亀裂が入ったが、メンタルを削った甲斐はあった。仮説を立てるだけの情報が集まったのだから。
「なのは、フェイト、ありがとう。おかげであのジュエルシード群に対抗する算段が立ちそうだ。ユーノとアルフのフォローに回ってくれ、そろそろしんどそうだからさ」
「うん! 役に立てたのならよかったの!」
「徹はどうするの?」
「俺はもう少し考えを煮詰めてから戻る。その間ちょっと頑張っててくれ」
「ねえ、徹お兄ちゃん。作戦考えてくれるのはいいけど、気を抜きすぎたらだめだよ?」
「一発も魔弾を飛ばさないようにすることはできないかも、しれないから」
「了解、気をつけとく」
「じゃあ行ってくるね!」
「行ってきます」
華が咲き誇るような愛くるしい笑顔とともに、二人は飛び立った。二人が操る飛行魔法はぐんぐん速度を上げ、凝縮された水の砲弾を吐き出す龍の元へと少女の背中を押す。
二人の少女の姿はすぐに小さくなり、桜色と金色の輝線となった。淡緑色と橙色とともに、九頭龍の周囲を飛行する。
なのはもフェイトも、ユーノもアルフも、全員が今、自分にできることを最大限やろうとしている。ならば俺も、俺ができる最善の行動を取らなければならない。
「問題はすでに提示されている。出すべき解答も決められているのなら、後は解答に導くための計算式を構築すればいいだけだ。やるぞ、俺。こんなことくらいしかできないんだ。存在意義を示せ」
戦力として活躍できない俺の仕事は、解決策を模索すること。
まさかもう一話必要になるとは。
次話に続きます。