ガンダムビルドダイバーズX   作:蒼ウサギ

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第4話②「それぞれの決心」

 ユウがそのメールに気づいたのは、家に帰ってすぐのことだった。GBNからの個人メール。その内容はユウを挑発する文面と、ブルーディスティニー1号機の破損した頭部だけが写っていた。

 

(僕の仲間。……だとすると、これはシルバくんのか)

 

 不安よりも先にその写真と挑発文にカッと怒りがこみあげてくる。

 

「やるしか……ないよね」

 

 “新しい盾”を装備したエクスガンダムを見ながら呟いた。そこにはいつも朗らかな笑みを浮かべているユウの顔はなかった。

 制服を着替える間も惜しかったのか、鞄をベッドに投げ込むと、携帯ケースにエクスガンダムを収納してガンダムベースへと向かった。

 

§

 

 バトルロイヤルは自分を撃破したガンダムヴァサーゴCBの一人勝ちで終わった。しかしシルバだけは何故かフィールドから離脱できずに、ヴァサーゴCBのダイバーと一緒に残っていた。

 

「おい、てめぇ何しやがった?」

 

 負けたらすぐにフィールドから自動的に離脱するはずなのに、離脱できていない。それはどころかオーディスティニーを動かすことや、GBNからのログアウトもできないでいた。運営へのメール、フレンドへのショートメールも色々試したが、どれも機能しない状態だ。

 

「おい、てめぇ何しやがった?」

 

 これは明らかに不正ツールが使われているとシルバは確信した。だが、ヴァサーゴCBのダイバーは、ニヤリと笑うだけで何をどうしたかは、はぐらかしているばかりだ。

 

「おいおい、負け犬くん。少し静かにしろよ。目的の奴がきたら解放してやっからよ。あ、下手に動くなよ? その気になればお前のアカウントを消去することだってできるんだぜ」

「なっ……!?」

 

 アカウントの消去。それすなわち、GBNでの死を意味しているようなものだ。もう一度、アカウントを作ればいいだろうと言われればそれまでだが、今まで築き上げた実績や記録などは元に戻らない。

 事実上、今ここにいるシルバの生殺与奪をこのダイバーが握っている事ということになる。

 これも明らかにGBNの運営の外にある行為。つまり、規約違反とも言えよう。

 

「運営に報告したら、てめぇのアカウントもすぐに凍結されるぞ?」

「ご心配なく。オレがやったっていう証拠は残らねぇ。ブレイクデカールの件も似たようなものだっただろ?」

 

 ブレイクデカールという単語に、シルバは目を見開いた。かつてGBNで横行した違法改造パーツの事はシルバもよく知っている。事件そのものが有名であったこともあるが、その力に魅せられた者も多かったからだ。違法と知りながら使ってしまうダイバーもいた。

 そして、シルバもその一人。いや、一人になりかけたことがあった。

 今では対策が施され、使用者こそいなくなったが、今日になってもGBNを代表する事件として語り草となっている。

 

「……お前、何を企んでる?」

「あ? オレは別にGBNをぶっ壊すなんざ企んじゃいないぜ。ただ、今はユウをここに呼び出したいだけだ」

「あいつと何かあったのか?」

「なぁに。ちょっと昔になぁ」

 

 そう言ったダイバーの顔は、苦虫を嚙み潰したようなものだった。このダイバーとユウに何の関係があるのかシルバには分からない。だが、これだけは理解した。

 このダイバーの目的は、ユウへの復讐だということを。

 

「さて、テメェとのお喋りは良い暇潰しになったな」

 

 ニヤリと笑うと、青と白のヴァサーゴCBを出現させて、搭乗した。シルバはその動作で気づいて、ふと空を見る。そこには白いガンダムXをベースとしたエクスガンダムの姿があった。着地して、ヴァサーゴCBと対峙する。

 

「よく来てくれたなぁ? ユウよ。俺の事を覚えているか?」

「もちろんだよ。あのメールの差出人の名前を見ればね。……エイジ、なんでこんなことを?」

「なんで? だとぉ? テメェが一番知ってるんじゃないのかよ!」

 

 エイジと呼ばれたそのダイバーが吠えた。怒気が強く孕んでいる。

 

「……やっぱり、マリアのことを」

「当り前だ! “あの日の事”を忘れたとは言わせねぇぞ!」

「忘れてないよ。……忘れるわけない。でも、彼は関係ない。今すぐ解放してくれないか?」

「あぁ、いいぜぇ。俺と戦ってくれればなぁ」

 

 ヴァサーゴCBが戦闘態勢に入る。

 

「君のエクスヴァサーゴとか…」

「違ぇよ! ガンダムヴァサーゴ・エクスクラッシャー。全てのエクスタイプを破壊するガンプラだ!」

 

 ガンダムヴァサーゴCB改め、ガンダムヴァサーゴXCが、エイジの雄叫びと共に咆哮したかのように見えた。

 

「全てのエクスタイプを破壊する、か。それこそマリア達との約束を」

「その約束を先に破ったのはテメェだろうが!」

 

 ヴァサーゴXCの腕が伸びて、エクスガンダムに迫る。それを新しい盾―――ディバイダーで防いだ。だが、すぐさま第二撃が迫る。オーディスティニーを吹き飛ばしたもう一つの伸びた鉤爪だ。

 

「君はいつもそうくる」

 

 読んでいたかのようにGNソードを展開して、それを弾いた。さらにディバイダーの中央が2つに割れ、そこに内蔵している19連装のビーム砲。通称、ハモニカ砲を発射した。

 

「なぁに挨拶代わりよ!」

 

 ディバイダーで受け止めている時点で警戒していたのか、ハモニカ砲が発射された頃には伸ばした鉤爪を元に戻して、ヴァサーゴXCは回避していた。

 

「そういうことなら僕も!」

 

 背部にマウントしているツインバスターライフルを片手で構え、ヴァサーゴXCの回避先に向かって即座に引き金を引いた。強大なビームが密林に生えている木々を飲み込んでいく。だが、ヴァサーゴXCは、それに飲み込まれていなかった。

バックパックのスーパーバーニアの高出力スラスターを噴射して、急制動したからだ。

 

「着地点を狙って撃つなんざ、相変わらず抜け目ねぇな」

 

 ククッ、と、エイジが少し嬉しそうに小さく笑う。そして一転して不機嫌な表情へと変わる。

 

「しかし、よく見りゃあ、前と比べて随分と装備がスッキリしてやがるな? ご自慢のサテライトユニットが見当たらないようだが?」

「あれはもう使わない……」

「マリアを……ELダイバーを殺した装備だからか?」

 

 エイジが発したその言葉は、ユウは大きく、重く圧し掛かった。一方でシルバは、その言葉に衝撃を受けた。

 

(ユウが殺した……? ELダイバーを)

 

 そして、ユウの無言を肯定と受け取ったエイジは、怒気が帯びた声で叫んだ。

 

「そんなに気にしてんのにGBNやめねぇのかよ!?」

 

 それと同時に、ヴァサーゴXCが高速でエクスガンダムとの距離を詰めようとしてきた。それを迎撃しようと構えるも、ユウは背後からの衝撃に襲われた。

 その正体を確かめるまでもない。エクスガンダムとの距離をゼロにする直前、跳躍して背後に回り、見事にエクスガンダムを羽交い絞めにしていたヴァサーゴXCだ。

 

「テメェよ! 結局はGBNに未練タラタラなんだろ? あんだけのことをして!」

「返す言葉がないよ……けど、勝手な物言いだけど、マリアはやめることを望んでいないと思う」

「うるせぇよ!」

 

 ヴァサーゴXCが腕を放たしたと同時に胸部が開いて、2つの砲門が顔を出す。ほぼ零距離から放たれたその赤黒いビームは、エクスガンダムの副翼を破壊した。

 

「くっぅ!」

 

 倒れるエクスガンダムだが、すぐに立ち上がって距離を取る。

 

「マジで勝手な物言いだな。あぁ、言うだろうよマリアは! あいつは優しかったからな! けどよ、俺はお前を許せねぇ!」

「だったら、君の気が済むまで、僕を好きにするがいいよ。けど、シルバくんだけは今すぐ解放してくれ」

 

 そんな答えに、エイジは歯ぎしりをした。

 

「無抵抗な奴をぶっ飛ばす趣味はねぇ。そうだな、少し本気を出させてやる」

 

 チラリとシルバの方に目を向け、エイジはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そうだなぁ。ここでお前が負けたら、お前とあの負け犬のアカウントを消去してやる」

「なっ!? そんなことが―――」

「できねぇって言うのか? 悪いができるんだよ」

「違う! そんなことが許されるわけないだろう!」

「だったら勝ってみろや!」

 

 ヴァサーゴXCの腹部が上下に展開すると、もう一つのメガソニック砲が露になる。それを見た瞬間、ユウはツインバスターライフルを発射した。刹那遅れて、メガソニック砲も発射される。

 ビームのぶつかり合うは、ツインバスターライフルに勝敗が上がった。だが、直撃を受ける寸前にヴァサーゴXCは空へと飛翔していた。

 

「さぁて、これから本番だ!」

 

 大型ビームサーベルを手にするなり、スーパーバーニアを噴射する。殺人的な加速を生み出すそれが、まるで落下する隕石の如く、エクスガンダムに突撃していった。

 

(回避……いや、間に合わない!)

 

 そう判断したユウは、咄嗟にツインバスターライフルを捨て、両腕でディバイダーを構えた。ハモニカ砲を撃つ前に、強烈なインパクトがユウを襲う。

 

「よく受け止めたなぁ! だが!」

 

 少しの膠着後、ディバイダーはヴァサーゴXCの大型ビームサーベルによって切断された。

 

「無駄なんだよぉ!」

 

 得意気になるエイジだったが、次の瞬間には驚愕の目に変わる。ヴァサーゴXCの眼前にビームサーベルが迫っていたからだ。それが絶妙なタイミングだったのか、ヴァサーゴXCの頭部を突き刺した。

 今回、エクスガンダムは、デモリッションナイフの代わりにディバイダーを装備した。その裏にはビームサーベルとがマウントされており、ディバイダーが切断される寸前で、それを抜いたのだ。

 

「悪いけど、君がその気なら負けるつもりはないよ」

 

 破壊されたディバイダーを捨て、左手にビームサーベル、右腕にGNソードという構えをとった。

 

「けっ! これくらいの反撃で調子に乗んなよ!」

 

 少し距離をとったかと思うと、すぐにエクスガンダムに向かって加速した。互いのビームサーベルがぶつかり合う。

 しかし、ヴァサーゴXCの方が出力が高いのか、エクスガンダムのビームサーベルは何度かの斬り結びの後、弾き飛ばされた。

 

「白兵戦は俺の勝ちだ―――」

 

 瞬間、大型ビームサーベルを持っていた腕が切断された。エクスガンダムのGNソードによって。

 

「すぐに勝ちを確信する。君の悪い癖だよ」

「うるせぇ!」

 

 またも距離をとったヴァサーゴXC。今度は胸部と腹部を同時に展開した。3基のメガソニック砲だ。

 

「その腕では反動でバランスを崩すよ!」

「腕は必要ねぇ!」

 

 シュルッとヴァサーゴXCの腰部から尻尾が2本生えてきて、機体を固定した。

 

「ガンダムエピオンのヒートロッドを2本使った代物よ。これで腕がなくとも機体を固定させるには充分だ! バスターライフルを捨てたのは失敗だったなぁ!」

 

 考えたな、と、ユウは素直に感心したと同時に、この状況に焦燥感を抱いた。現状、ユウに対抗策はない。仮にこの場にツインバスターライフルがあっても3つのメガソニック砲に対抗できるほどの威力はないだろう。

 かといって、ここで諦めるわけにはいかない。ユウは、エクスガンダムを飛翔させた。

 

「逃げれると思うなよ!」

 

 トリプルメガソニック砲を発射しつつも、体全体でエクスガンダムを追う。ほどなくして赤黒い3つの高出力ビームがエクスガンダムに直撃していった。

 今度こそ勝利を確信したエイジだが、先のユウの言葉がよぎってどうにも緊張感がとれないでいた。

 

「ちぃ!」

 

 エイジは苦い表情をした。普通、あれだけの高出力ビームを受ければ、GBNがガンプラの機能停止と判断されてコントロール不能となり、自由落下するものだ。しかし、エクスガンダムは落ちるどころか、こちらに向かってきている。その理由は、完全に破壊された天使の翼―――ウイングバインダーを見て理解できた。

 そう、エクスガンダムは、ウイングバインダーを鎧のように纏っていたのだ。そのため本体へのダメージは軽減されたのだ。代わりにウイングバインダーが全壊したが、その爆発の余波は充分な推進力を与えてくれた。

 奇しくも先程との白兵戦との構図の逆となっている。

 

「このぉぉぉぉ!」

 

 ヴァサーゴXCが迎撃するも間に合わず、エクスガンダムは唐竹に斬りつけていた。

 

「まだだ!」

 

 続けて第二撃を見舞おうとしたエクスガンダムだったが、先にヴァサーゴXCが腕を伸ばした鉤爪―――ストライククローで反撃した。

 

「なめんなぁ!」

「うおぉぉ!」

 

 エクスガンダムがGNソードを振るえば、ヴァサーゴXCがストライククローで殴り返す。そんな事を何度も、何度も繰り返された。相手のガンプラを破壊するために、勝負に勝つために、どちらかが音を上げるまで続くだろう。

 しかし、それも永遠には続かない。

 同時に攻撃を繰り出した後、2機のガンプラが同時にピタリと動かなくなった。

 

「ちぃ! 動け!動けってんだよ! ヴァサーゴXCぃ!」

 

 今にも操縦桿が壊れんばかりに激しく動かすエイジだが、ヴァサーゴXCは、一向に動く気配がない。一方で、ユウは、これ以上、エクスガンダムを動かすのが不可能だと分かっている様子だ。

 両機とも激しい殴り合いでダメージを負いすぎたのだ。

 

「クソッ! おのれぇ! 俺はまだ戦える……。戦えるんだよぉ!」

 

 エイジの嘆きの叫びが、フィールドに木霊した。

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