その後、エイジは何をすることもなく、フィールドから去っていった。不正ツールも解除したのか、シルバのメニュー画面が自由に操作できるようになった。
まだGBNにこうして“生きている”ところを鑑みるに、アカウントの消去もされていないようだ。
「引き分けだったからかな」
「だろうな」
GBNのカフェで、ユウがぼやいたのに対し、シルバが返した。
確かに両機が同時に動かなくなった時点で、勝敗がないのは目に見えて明らかだ。第三者のシルバも言っている。
「シルバくん、すまない。こんな事に巻き込んでしまって。……やっぱり、僕はフォースなんて……」
「おいおい本気か?」
「うん、誰かと組めば、その人が狙われてしまう。今回のようにね」
「上等!」
ドン、とシルバは持っていたコーヒー牛乳のジョッキを下ろした。
「それなら! リベンジかますってことができるってもんよ」
「けど!」
「あーもう、ウザったい! いいんだよ、お前は今のままで。過去に何があったか知らねぇし、無理に訊く気もねぇ」
そう豪語した後、少し気恥しそうにシルバは続けた。
「それにまぁ。……オレの数少ないダチだからよ」
たったそれだけの理由が、ユウには嬉しかった。
§
エイジは、自分が所属するフォースのアジトへと訪れた。アジトといっても洞窟内に適当に散りばめれた灯かりくらいで、溜まり場といってもいいところだ。
エイジが帰還するなり、いかにもキザったらしい風貌のダイバーが声を掛ける。だが、エイジに対する口調はそれとは大きくかけ離れていた。
「あ、エイジさん。団長がお呼びです」
「おう、グヴレイル。出迎えご苦労。あ~、そういやぁ、お前、まだ下っ端やってんのか」
「ぐっ!」
グヴレイルの顔が醜く歪む。初心者狩りをやっていた彼だが、ユウ達との一件以来、『覇王団』の団長によって、フォース内の階級が大幅に降格した。現在は下っ端。つまりフォース内の最下層である。
「で、団長は何だって?」
「そこまでは……」
「ふ~ん、わかった」
薄暗い洞窟を進み、唯一、整備が行き届いた扉の前にやってくる。門番がエイジの顔を見るなり、すぐにドアを開ける。
そこには会議用テーブルがあり、複数のメンバーと、『機動戦士ガンダムF91』に登場した鉄仮面のような男が座って待っていた。
「よぉ、団長。俺に何か用か?」
「うむ、まずはバトルロイヤル優勝を褒め称えよう。そして、例のシステムのテストもな」
軽い労いを、団長と呼ばれた仮面の男が述べた。
「ま、アカウントの消去まではやってねぇけどな」
「それでいい。今、それをするには早い。それに―――」
「あん?」
「お前が戦ったダイバー、確かユウとか言ったな。そやつの強さは以前と比べてどうだった?」
エイジは思わず息を飲んだ。以前よりパワーアップした自分と、以前より装備が減ったとはいえ、結果的には引き分けに終わったユウのエクスガンダム。
ガンプラとしては格段に弱くなっただろうが、ダイバーとしては確実に以前より強くなっているといえよう。
「今の俺と互角に終わったんだ。観てたんならわかるだろう?」
「お前が手加減したという可能性もある。何せ昔馴染みだからな」
「ケッ、今じゃ怨敵だよ」
「フフフ、そうか。ならば、お前は本気で戦ったというわけか、なるほどなるほど」
強さを追い求める『覇王団』にとって、ユウのような存在は無視できないと同時に欲しい人材でもある。もちろん、ユウだけではない。チャンピオンのクジョウ・キョウヤ。『第七機甲師団』を率いるロンメル。その他にも注目するダイバーは山ほどいる。
「是非とも我がフォースに来てもらいたいものだな」
仮面の男は、仮面の中で小さく笑い続けた。
§
GBNでシルバと別れた夜。ユウは、封印していたエクスガンダムの装備を弄っていた。保存状態がよかったのか、目立った汚れもない。少しメンテナンスをすればすぐにでも使えるようになるだろう。
だが、今頃になってこれを取り出したのかというと、やはりエイジの事があったからだ。また同じような事がないとは限らない。今度はナミやレナが狙われる可能性だってある。だからこそ、皆を守るために二度と使わないという封印を解いたのだ。
だがやはり、ユウは迷っていた。
この装備は確かに強大だ。だからこそ、また過ちを起こすのではないかと恐れている。
そんな中、ふと思い出した台詞があった。
「『過ちは繰り返すな』……か」
§
学校のHRが終わった後、ユウは大きなあくびを一つした。そんな間抜けな様子を、ナミは見逃さなかった。
「どーしたの? 寝不足?」
「委員長こそ、もう風邪はいいの?」
「いやぁ、人生で初めてズル休みしちゃった」
小声で軽く言ってのけるナミに、ユウは目を丸くした。
「えっと、まさかチーム戦での敗北がショックで?」
「え? いやいや、なんでそんなことで休まなきゃいけないのさ」
そう言うなり、ナミはまるで水戸黄門の印籠のようにスマホを、ユウに突き付けた。そこにはGBNのサイトがあり、ナミの個人データが映されていた。
Dランク。
そう、ランクを示すところにはそう記されていたのだ。
「あ、レナちゃんもDランクに昇格したんだよ。これでフォースが組めるね!」
「えっと、委員長さん……昨日、ガンダムベースにいなかったよね?」
「うん、だって家庭用のを買ってもらったから。4人分」
「4人分!?」
ただでさえ、まだ家庭用のGBNは普及していない。パソコンのスペックも求められるが、値段が高いからだ。
それを4人分となると、イクマ家の財力の恐ろしさを思い知らされる。
「言っとくけど、正当な権利で買ってもらったんだからね。過去3年分の誕生日とクリスマスプレゼントを込々で」
なるほど、そういうわけか。と、素直に納得できるユウではない。むしろ、ナミの過去3年間に何があったのかと訊きたいくらいだ。よほど物欲のない時期だったのかもしれない。
「というわけで、フォースを組むから、これからもよろしくね!」
有無を言わせぬウインクをするナミに、ユウは昨日の出来事を言えずにいた。
これから年末なので少し間が開くかもしれません