この度、アヤセ家に住人が一人増える。
ユウの叔父が仕事で仕事の都合で海外に転勤となり、そこへ叔母が同行するからだ。本来なら一家揃って同行する予定だったのだが、叔父の息子、つまりユウの従弟が断固として日本に残りたいと言い出した。
叔父が姉であるユウの母に引け目を感じながらも、従弟を預かって欲しいと申し出たところ、母が「息子がもう一人増えるからOK」と快諾したのだ。医者であるユウの父も賛同してくれたのも大きかった。
その話が出たのが、約1か月前の事。
少しずつ従弟を迎え入れる準備を進めて、昨日ついに全部完了した。あとは来るまで待つだけである。
「部屋の準備はこれでよし、と」
隣部屋に従弟の部屋を用意することはできたが、元々あまり広くはなく、勉強机やタンス等を置いたらほとんどスペースがなくなってしまった。そのため寝床はユウのベッドを2段式にして確保したのだ。
当たり前だが、昨日とは違う自分の部屋を見て、どこか新鮮な感じがする。
「さて、そろそろ来る頃かな?」
そう思って、ユウは1階に降りると、母が玄関先で何やら話し込んでいる姿が見えた。どうやら丁度いいタイミングだったようだ。
「あぁ、ユウ。今、来たようだ。挨拶してきなさい」
コーヒーを入れたマグカップを持った父が降りてきたユウに告げる。母はなんだか浮かれ気分だが、父はいつも通り落ち着いた様子だ。
「わかってるって。こんにちは、叔父さん、叔母さん」
ユウが玄関前に顔を出すと、叔父夫婦の顔が和らいだ気がした。
「あぁ、ユウくん。久しぶりだねぇ。今日からウチの子をよろしく頼むよ」
「いいんですよ、叔父さん」
そう笑った瞬間だった。不意に何かがユウに向かって飛んできた。それが件の従弟だと気づいた時にはすっかり尻もちをついていた。
「ユウ兄ぃ! ユウ兄ぃ! 今日からよろしくねぇ!」
「やぁ、カエデ。大きく……なったね」
「む~、今、まだちっちゃいって思ったでしょ?」
図星。
カエデは、今年で中学一年生でありながら、未だに小学生の低学年ほどの身長しかない。顔立ちもどこか女らしく、今日はちゃんとズボンを履いているが、休みの日には自ら進んでスカートを履いたりするので、知らない人が見れば完全に女の子に勘違いされてしまう。
「こらカエデ。キチンとご挨拶しなさい!」
「はーい」
ポンと、ユウから離れて、カエデは改めて挨拶をする。
「ヒイラギ カエデです。今日からお世話になります! よろしくお願いします!」
ペコリという表現がピッタリのお辞儀だった。
「よろしくねぇ! カエデちゃん」
と、母が「よくできました」と言わんばかりの拍手をしながら歓迎する。
「じゃあ、ユウ。カエデちゃんをお部屋に案内してあげて」
「了解。行こうか、カエデ」
「うん!」
部屋に向かう道中、父と出会って、再び挨拶をするカエデ。父は「自分の家だと思って過ごしなさい」と言って、再びコーヒーに口をつけた。
いつも通りに見えて、案外、緊張しているのかもしれない。
部屋――ユウの部屋――に入るなり、カエデは、よいしょっと、重いバックゆっくりと下ろした。当日の荷物にならないよう、あらかじめ宅配で着替え等は送られてきていたが、そのバックの大きさを見る限り、当日になって持ってくるものがあったようだ。
まぁ、ユウは、薄々勘づいていいるが。
「隣がカエデの部屋だから。机とかちゃんと置いてあるよ」
「ありがとう!」
礼を言いつつも、カエデの視線はユウの机に釘付けになっている。
「エクスガンダムだ! ディバイダー付けたの?」
「うん。何かと便利だからね」
「前G-Tubeで見たときはデモリッションナイフを装備してたけど、外したの?」
GBNには動画共有サービスをしている配信者ダイバーも多い。特に戦場カメラマンよろしく、自ら戦いの様子を動画にしている人もいる。エクスガンダムもまた本人のあずかり知らずところで何度も映ったことがある。ディバイダーを装備した姿は、まだ不正に使われた戦場でしか出てきていないので映っていないのだろう。
「今はね。いつかはまた装備できるようにしたいとは思ってる」
デモリッションナイフは、確かに強力だが一番の難所は装備場所を大きくとることだ。折り畳んで盾代わりにするより、本来の使い道が一番有効的だ。
それに実剣はGNソードもある。ビームサーベルを持ち込むことで戦術が広がるであろうと考えた結果がディバイダーの装備だ。
「ところでカエデはGBNやってるの?」
「うん、中一になったからやっていいって言われた」
カエデは何やらウキウキしながら置いたばかりのバックを漁る。そこで取り出したのは携帯用ガンプラケースだ。
「見てこれ!」
そのガンプラケースには、SDのガンプラが収納されていた。どこか和風で、侍チックなそれは、ガンプラに詳しい人なら知っているもので、ユウも知っていた。
「
「武者飛駆鳥自体はね。本命はこっち」
武者飛駆鳥を取り出して、カエデは、その本命を見せた。
「鋼鉄迦楼羅? いやでも、色が違う。カラフルだ。それに一見、
「うん! これが武者飛駆鳥のとっておき。ねぇ、近くにガンダムベースないの?」
「あるよ」
「じゃあ、さっそくそこで……」
すぐに見てみてみたいというユウの好奇心が高まったが、コホンと咳払いして部屋を出ようとするカエデの腕を掴んだ。
「まずは荷物の片づけをしようね」
「は、は~い」
静かに怒られて小さいカエデが、ますます小さくなった。
§
バックに入っていたカエデの荷物は思いの外多く、また、タンスの整理なども相まって、終わったのは夕方に差し掛かろうという時間帯になっていた。
「「疲れた~~」」
あまり広いとはいえないカエデの部屋で、二人は大の字に倒れた。
今日はもうこれで夕飯まで待って、あとはのんびりしよう…という気分では2人ともなかった。
「ユウ兄ぃ! ガンダムベース行こ!」
「うん、いいよ」
言うが早いが、先ほどまでの疲れはどこへやら2人は出かける準備を始めて、ガンダムベースへと向かった。
やがて、目的のガンダムベースに着くと、カエデの目が輝いた。
「ここはF91が建ってるんだねぇ。あ、僕のところはガンダムXだったよ」
「へぇ、それは良いところだね」
父の影響からか、ユウは昔からガンダムXが好きだった。エクスガンダムがガンダムXベースなのもその影響を受けているからだ。
「おう、いらっしゃい。ユウくん。おや? 今日は1人かい?」
どうやらゲンの中でのユウのイメージは女子2人を連れてきてるのが当たり前になってきているようだ。
「今日は2人ですよ」
ん? とゲンが首を捻る。どうやらカウンター越しからはカエデの姿が見えないようで、ゲンが身を乗り出してやっとカエデの姿を確認した。
「お、この子は?」
「僕の従弟ですよ。さ、自己紹介して」
「うん、ヒイラギ カエデです。よろしくお願いします」
ペコリと挨拶するカエデに、ゲンは思わず顔を綻ばせた。
「また可愛い子じゃないかぁ。ひょっとしてユウくんの―――」
「言っときますけど、この子は従弟です。そして男の子です」
ゲンの言おうとしたことを遮ってユウが全てを教えた。そんなカエデはどこぞの女性アイドルのようにポーズを決めている。
ゲンは少し驚いたが、すぐに接客の顔、というよりユウ達と接するような親し気な顔をとった。
「よく来たなぁ、坊主。いや、カエデくんだったか。君もGBNをやるのかい?」
「うん! ダイバーギアも持ってるよ」
「店の新規客が増えるのは良いことだ。楽しんでいってくれよ」
「はい!」
ユウとカエデはゲームコーナーに行き、設置されている筐体に手慣れた様子でダイバーギアにガンプラをセットしていった。
「エクスガンダム――」
「武者飛駆鳥――」
「「いきます!」」