GBN。
電脳の世界で構築されたそこには、歴代ガンダム作品の戦場が揃えられている。
その中の一つであるジャブローでは、大規模なフォースバトルロイヤルが行われていた。
地下には連邦軍の基地である場所だが、現在、バトルが繰り広げられる戦場は辺り一面のジャングルだ。いつぞやの密林フィールドと同じように視界が悪いが、このフィールドはより広大となっている。
だからこそ、バトルロイヤルに相応しいフィールドいえよう。
その中に、出来たばかりのフォース『Xダイバーズ』も参加していた。
通常のフォース戦とは違い、バトルロイヤルは目まぐるしく戦況が変わっていく。1対複数になることもあれば、漁夫の利を狙ってくるものもいる。水陸両用のガンプラが河に沈んで、まるでワニのように陸の相手を仕留めることもあった。特に凄まじかったのは開始当初に行われた大規模爆撃である。多数の空を飛べるガンプラが爆弾やビームを雨の如く降らしてきたのだ。
しかし、それは5分ともたなかった。次々に各フォースから空を飛べるガンプラが飛翔してきて撃墜させていったからだ。『Xダイバーズ』も例外ではない。エクスガンダムと武者飛駆鳥が飛んで撃墜していった。
このバトルロイヤルの勝敗は単純明快、最後に残ったフォースメンバーであるということだ。だからこそ開始直後に制空権をとった。或いはそれに便乗したフォースは開始5分で手痛い損害を被ったことになる。単純に数を減らされたからだ。
やり方としては悪くなかったが、開始当初というタイミングが悪かった。まだ大勢参加者がいる中でのそれはフォース同士の共通の敵として認識させてしまうものでしかなかったのだ。
だが、ここからより一層戦況が激しくなった。
それでも、『Xダイバーズ』はななとか3組ほどフォースを倒して、今は静観状態になる。別に肉体的に疲労しているわけではない。
ただ、この静寂な現状を鑑みての事だ。
つい先ほどまで戦闘音でうるさかった戦場が今は水を打ったかのように静かになっている。それが不気味だった。
「なんか、アタシ達だけって感じだね……」
「そ、そうですね……」
ナミもレナも、もちろんそんなはずはないと分かりながら言い合う。そして、そこにあえて突っ込む者はいない。仮にそうだとしたら自分たちは優勝のはずで、とっくに勝利者を告げるシステムボイスが鳴らないとおかしい。
「ま、一気に3組ぶっ倒したオレ達だ! 参加者みんな恐れてるんだろうよ!」
「といってもシルバ兄ぃ。一機も落としてないけどね」
フォースを結成して一週間も経っていないが、カエデはすっかり溶け込んでいる。早速、シルバの痛いところをついて場を和まそうとしたが、どうやら不発に終わったようだ。緊迫した空気は変わっていない。
「でもさ。いつまでもこうしてるわけにはいかなんじゃない?」
「うん、カエデきゅんの言う通り。だから、どんな様子か確認しないとね」
ナミはカエデのことを「きゅん」付けにしている。初対面の頃こそ女の子に間違えられたカエデだが、これが女性陣に愛されている。ちなみにレナは「ちゃん」付けだ。
そんなレナのミュウバクゥにナミが合図すると、コクリと頷いた。
「そ、そういえば、ナミさん以外にこれを見せるのは初めてかもしれませんね」
何だか照れくさそうに話したレナに、男性陣は疑問符を浮かべた。
そして、次の瞬間にはそれが驚きに変わる。
ミュウバクゥが消えたのだ。比喩でもなんでもなく、その場で透明化したのだ。
「ミラージュコロイド? いつの間に?」
「へっへーん、アタシとレナちゃんでランク上げしたときにね」
「あぁ……」
ランク上げのために学校を休んだ日の放課後のことか、と言いかけてユウは心の中で留めた。ネットで現実世界の事を話すべきではないからだ。
「えっと、もしかしてレナ姉ぇに偵察してもらうってわけ?」
「そうよ。もう行ったけどね」
確かに透明化した偵察機ほど恐ろしいものはない。だが、欠点もある。透明化した側は攻撃手段を持たない。というより、攻撃した瞬間、ミラージュコロイドの効果が切れるのだ。
それに単独偵察も危険だ。
「大丈夫よ。彼我の戦力差がわからない子じゃないわ。それにミラージュコロイドだってずっと透明化できるわけじゃない。GBNだとどんなに作りこんでいても1分くらいが限界みたいらしいし」
「つまり、1分以内にレナさんから何か連絡がくるってことか」
「そうね」
そう答えたナミの視線はコクピットですでに起動しているタイムウォッチに向けられた。それがおよそ30秒を刻んだ時、レナからの通信が入った。
『皆さん、河のところまできましたが、ここのフォースは全滅しているみたいですね。まだ残骸が残っています。ですけど、その残骸が少し妙なんです』
その言葉に、ユウは眉をひそめた。このバトルロイヤルでは、敗北した場合、ダイバーはすぐに専用ロビーに移動させられるがが、ガンプラは5分間の残骸としてフィールドに残っている。
それが妙だと言うレナ。
どうにも胸騒ぎがしてしまう。
「レナさん、どう妙なんだい?」
『交戦した気配がないといいますか。まるで戦う前にやられたかのように綺麗なんです』
それは確かに妙だ。河辺といえば水陸両用のガンプラが縄張りをしていた場所だ。戦闘がまるで起こらなかったとは思えない。
「わかった。今から行ってみるからできるだけ見つからないように隠れていて」
そう言い切るなり、ユウはナミ達に告げる。
「少し気になるから僕も様子を見てくるよ」
「ちょーっと待ったぁ!」
一人行こうとするユウを、ナミが制した。
「今、ここで戦力が分散するのは危険だと思うの。だから、多少リスクはあるかもだけど皆で行きましょう」
一理ある。今は静寂だが、それがいつ変わるとも限らない。ならば、リスクを冒してでもここにいる全員で移動した方が賢明だろう。
「わかった。河までそう遠くないけど、周囲に充分気を付けて」
「OK! シルバ、目立つ動きはしないでよ」
「なんでオレだけなんだよ!」
なんだかんだ言いながらもシルバもGBN歴は長い。こういったことにも慣れているだろう。ユウ達は慎重な動きでレナが待っている河まで歩行機動で移動した。
§
確かにこの残骸は妙だった。河まで来るのに1分くらいだったので、まだ件の残骸は残っている。いや、この場合、残骸というにはあまり相応しくない。
レナの報告通り、ここにいる水陸両用のガンプラは、目立った損傷がなく、プカンと河に浮いていた。まるでフィールドに最初から置いてあるオブジェのようにも見える。
「リタイア? でも、そうだったらガンプラは残らないはずよね……?」
確認するようにナミが訊ねて、ユウが「うん」と答える。
「とにかく消える前にこのガンプラがどうなっていうか確かめたい。シルバくん、手伝って。他の皆は周囲を見ていて」
「待てよ、ひょっとしたら河に何か仕掛けがあるかもしれねぇだろ? ほら、運営側の罠とか」
確かに考えられる。この広大なフィールドかつどこぞのバトルロイヤルのように戦場範囲が狭まったりしないので水陸両用のガンプラは、可能ならばずっとここで縄張りを張っていられる。
つまり、河にいるだけで勝利するということもあるのだ。運営がそれを危惧しているのであれば、一定時間後に河にいるガンプラは強制的に敗北となる仕掛けを仕込んでいるのかもしれない。
「でも、そうだとしてもやっぱり変よ。運営サイドのトラップだったら、リタイア扱いになるんじゃない?」
「そこんところ分かんないよねぇ。まぁ、ずっと河に居られたらウザいけどさぁ」
議論が終わらないせいで、ユウも河の中に入ることを躊躇ってしまう。本当に運営の罠であれば自分も同じような目に合うのではないのかという疑念が拭えない。
そんな時だった。
河とは別の方向から炎が飛び出してきた。
「ヤバい。みんな戦闘準備!」
ナミの号令で、炎を浴びたエクスガンダム以外は臨戦態勢がとれた。
そこには、炎を放ったドラゴンガンダムを始め、ガンダムマックスター、ガンダムローズ、ボルトガンダムがいた。
「おいおい、Gガン勢のフォースかよ。面白れぇ!」
「でも、それじゃ1機足りないね」
カエデが言うなり、それがドラゴンガンダム達の背後から飛んできた。
「なに余所見してんねん! まだバトルは終わってへんぞ!」
そんな言葉を言い放ったゴッドガンダムのバックパックを装備した紅いシャイニングガンダムが炎を浴びたエクスガンダムに迫って飛び蹴りをしてきた。
ガチン! という音が響く。エクスガンダムのディバイダーとシャイニングガンダムの飛び蹴りがぶつかった音だ。
「なっ、その白いガンダムX。ユウ、お前なんか?」
「君も参加してたんだね。ハヤト」
ディバイダーに飛び蹴りを防がれたシャイニングガンダムが空中でクルクルと回転しながら自分の仲間達の近くに着地する。
「え? なに? 知り合い?」
ナミが訊くと、ユウは頷いた。
「少し訳ありなんだけどね。……まさか、フォースに入ってたなんてね」
「それはこっちの台詞や。なーんや、最近できた『Xダイバーズ』って、ユウのフォースやったんか」
ハヤトと呼ばれた男は不敵に笑った。
「それにしてもなんやごっつい盾をつけたもんやなぁ。サテライトユニットの代わりか?」
「そんなんじゃないよ。そっちこそゴッドガンダムのパーツを付けちゃって。ガンプラの名前、変えたのかい?」
「へっ、変わらんわ。あの時からずっとワイのガンプラは、エクスシャイニングや」
エクスという名にナミ達は驚いたが、シルバだけは違っていた。
あれが、3機目のエクスの名を持つガンプラだということを。