ダイバーネーム・ユウのリアル、アヤセ ユウはどこにでもいる普通の高校2年生だ。
そんな彼が昼休憩をまったり過ごしいるそんな時、ポニーテールを結わえた女子生徒がやってくるなりとんでもないことを告げる。
「ちょっと放課後、付き合ってくれない?」
まばらとはいえ、クラスメイトが一斉に振り返るほど教室に衝撃な誘い文句が響き渡る。当のユウはというと、思わず口をぽかんとしてしまうしかなかった。
「い、委員長。それって・・・」
「あ、別に愛の告白とかじゃないから」
それを聞いて少し安心したというか、一瞬でも期待してしまった自分がいた事にモヤモヤしてしまう。
いきなり衝撃な事を言った委員長ことイクマ ナミは、一言で言えば高嶺の花だ。
美人な上、スポーツも勉強も優秀。加えて家柄もいい。それなのにそれを鼻にかけず、持ち前の明るい性格で男女問わず好かれている。
「で、なんか用件?」
「アヤセくんさ。GBNやってるよね?」
「まぁ、やってるけど」
別段に珍しくない。今やGBNは全国に広まっている。適当にクラスメイトの何人か声を掛けてもやっている人はいるだろうに、ナミはまるでユウがGBNをやっていることを知っている前提で話しかけたようにもみえた。
「じゃあさ、放課後、ガンダムベースに付き合ってくれない。アタシの部の後輩の面倒を見てほしいんだ」
「委員長の部って、模型部だっけ?」
「そう」
スポーツ万能なナミには、数々の運動部の勧誘があったものの、それらを全て断って模型部に入部した。
正確には当時、廃部寸前だった模型部だったが、ナミが入部したおかげで廃部を間逃れたと聞く。
「なんでまた?」
「詳しいことはその時に話すからさ、ね、いい?」
何か含むところはあるものの、帰宅部な上、断る理由も事情もないため、ユウは了承することにした。
「じゃあ、放課後……あ、アヤセくんは今、自分のガンプラ持ってきてないよね?」
当たり前だ。いくら携帯して持ち運べるガンプラポーチが普及し始めても学校に早々持ってこれるものはいない。
「じゃあさ。ガンダムベースで落ち合いましょう。それじゃ、よろしく!」
言い終わるや否や、ナミは教室から出ていく。恐らくその後輩の元に行ったのだろう。
嵐とまでは言わないが、騒がしい昼休憩のひと時であった。
学校が終わり、帰宅したユウはひとまず私服へと着替え、ガンベースに行く準備をしながら、スマホに届いているGBNからのメッセージを確認する。運営からは先日バージョンアップされた仕様内容くらいだが、ユウ個人にきたメッセージはかなりの数があった。
内容としては、フレンド経由で届いた助っ人要請やフォース。からの勧誘等々だった。
ユウは現在、ソロとして活動している。たまに人数合わせで助っ人に入ることもあるが、フォース。つまり部隊として活動するダイバーからの勧誘は丁重にお断りしている。
理由は、自由にGBNを楽しみたいからだ。
フォースに入るとどうしても団体で行動しなければならないという節がある。
特にレイドボスや高難易度ミッションへのチャレンジとなると半ば強制参加が求められる雰囲気を持っている。(もちろん全てがそうではないが)
別段、団体行動が苦手なわけじゃない。ただ一カ所に留まるのが嫌なのだ。
送られてきたメッセージは基本文字だけだが、その中に一つ肉声のメッセージがあったため、マナーモードを解除して再生してみた。
スマホの画面に、まるでどこかのロックバンドを思わせる赤毛で体格の良い男が映る。
『よう、ユウ。元気にしてるか? ま、この間ドム5体に大立ち回りしたようだから元気なんだろうな』
さすが耳が早い。ユウはこの気軽そうなダイバーを知っている。
イサミという名で、ユウがGBN開始初日に色々と世話になった男だ。
『とまぁ、前置きはここまでにして。今度、傭兵を目的としたフォースを結成しようと思ってる。リーダーはこのオレだ。お前がその気ならサブリーダーの席を用意する。悪い話じゃないだろ?
フォースといっても基本はソロ時代と同じだ。要は傭兵同士が手を組んで報酬を分け前しようってことだ。もちろん傭兵だから場合によっては互いに戦うこともある。だが、そこで負けても分け前はある程度貰えるっていう寸法よ』
大規模なフォースやランキング上位のフォースには傭兵など必要ではないだろうが、ランキングに伸び悩むフォースや人数不足で特定のミッションが受けられず困っているフォースがいるのが実態。
傭兵の報酬として、GBN内で使える仮想通貨であるビルドコインやパーツデータが貰えることもある。
ユウ自身、幾度か欲しい報酬パーツに限ってフォース限定ミッションだったりして歯がゆい思いをしたことがある。
(まぁ、確かに悪くないかな)
話が確かなら今と変わらない上、フォース限定ミッションも受諾可能になる。サブリーダーの席は遠慮させてもらうが。
『じゃあ、いい返事待ってるぜ』
という締めで音声メッセージは終わった。
どうせフレンド登録しているので互いのログイン時間は分かるだろう。少し興味が出たので、返事は直接GBNで会って、もっと詳しく聞いてからにしようと思った。
「さて、今は委員長からの依頼をこなさなきゃな」
自身の愛機、エクスガンダムをポーチに詰め、待ち合わせであるガンダムベースへと向かった。
ユウがよく利用するガンダムベースには、ガンダムF91が建てられている店舗である。
それに倣うかのような店内風景に、店舗特有の名物は『セシリーパン』と、客がジャガイモの皮を向くことで提供される『心和むクロスボーンマッシュポテト』だ。
不評ではあるが、『バグハンバーグ』なんてものもある。
そんなF91シリーズ色が濃い店内に、いつものようにユウは足を踏み入れた。
それを見た店長が歓迎する。
「おぉ、ユウくん。いらっしゃい」
「こんにちはゲンさん。腰はもう大丈夫なんですか?」
店長のゲンと呼ばれる老人は、ついこの間、ギックリ腰で倒れたということを代理店長をしていた娘さんから聞いた。
「なんの! 整骨院行ったらすぐに治ったわい。それより今日もGBNかい?」
「はい、そうなんですけど、クラスメイトと約束してて……」
そういって店内を見回すが、カフェコーナーに客はいれど、肝心のナミの姿はない。
「待ち合わせならカフェコーナーで待っていたらどうだい?」
「じゃあ、そうしま―――」
しょうか、と言葉を紡ごうとしたが、新たな来客によって中断された。ナミだった。学校から直接来たのか、制服のままだった。
「あ、アヤセくんおまたせー。もしかして結構待った?」
「いや、来たばかりだよ」
ふと、ナミの後ろにぴったりとくっついている女子生徒がいた。彼女もまた制服のままだった。そういうことは彼女がナミがいっていた部活の後輩なのだろう。肩まで伸びた髪に分厚い眼鏡をしている子だった。
「ほー、これは驚いた! ユウくんの待ち合わせ相手が女の子とはなぁ。もしかして彼女?」
茶化したように言うゲンに、うんざりして否定しながらナミ達に紹介する。
「こちらここの店長のゲンさん」
「あ、どうも。アヤセくんと同じクラスのイクマ ナミでーす。で、こっちが後輩のフジミヤ レナちゃんです」
後ろにいるレナと呼ばれた子は小さくお辞儀をした。まるで小動物のようにおどおどしている。
この子が委員長がいっていた面倒を見てもらいたい後輩なんだな、と、ユウは察した。
「どうも、店長のゲンです。今後ともご贔屓に。それで今日はユウくんとGBNをやりにきたのかい?」
「えぇ、そうなんです。ちょっとこの子の……」
言いながら後ろのレナに目をやる。レナはバツが悪そうにさらに俯いた。
「極度な人見知りを治してやりたくって」
場がなんともいえない空気に包まれる。
「委員長、それじゃGBNじゃなくったってよくない?」
「あのね、この子、チャットとかではよく発言するみたいなの。だから、次のステップとしてGBNの世界でやってみようって思ったんだって」
つまりは、顔が見えない同士なら話せるというやつか。
しかし、いきなり電脳世界とはいえ、現実とさほど変わらないGBNをやるだなんてとんだ荒療治だ。
「それに……」
ナミにしては歯切れが悪い。チラチラとユウとレナを交互に見やっている。
「ぁ、あの……」
か細い声が聞こえた。レナだ。
「わ、私、このままじゃダメって思って……だから、私、GBNに……」
声が上擦っている上に、最後のほうはもはや涙声だった。上手く話せない自分が腹立たしいのだろうか。
ユウは、思っていたより難しい頼みごとを引き受けたようだと自覚し始めた。
「まぁまぁ。そういうのは大変だよ。けど、自分から治そうと思ってるなんて良いことじゃないか」
ゲンはニカリと笑って、二人分のダイバーギアを差し出す。
「何事も最初はみんな未経験だ。楽しんできなさい」
「ははは、はい……あり、ありが……」
「はい、ありがとうございます!」
小さな声ながらも一生懸命礼を言おうとしたレナだが、ナミが先に言ってしまった。
前途多難という言葉がユウの頭によぎる。
『バグバーガー』は、バグの形をした牛肉ハンバーグです。原作では人を襲う、ビルギットを切り刻んだ兵器として有名。
不評の理由はそのハンバーグにケチャップという組み合わせた衝撃的で、本編を見た人ならゾッとしてしまうことだからです。