ガンダムビルドダイバーズX   作:蒼ウサギ

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第7話③「少女が見た輝き」

 爆散したトールギスの衝撃を利用してフォックスラゴゥはさらに加速した。しかし、眼前のV2ガンダムは低空飛行しながら月光蝶を広げている。

 一見、コースは塞がれたと思われがちだがそうではない。

 目標は、V2ガンダムの真上。

 そこには後続を阻むものはない。

 

「飛んで!」

 

 飛行するのではなく、ジャンプで前方のV2ガンダムを乗り越えようとする。その際、背負っている2基の120mm低反動キャノン砲が後方に向けて発射した。

 一見、攻撃に見えるそれだが、弾の代わりに出てきたのは高出力の推進剤。

 それによって加速したフォックスラゴゥは、文字通り「飛んだ」。あたかもV2ガンダムの頭上を弾丸が通り抜けたかのように真っすぐ、そして速く・・・。

 

「そんなことっ!?」

 

 V2ガンダムの前に着地でき、そのダイバーが驚く間に、ヨーコは次の手に出ていた。

 今度はフルスロットルでキャノン砲から放たれている推進剤を吹かした。

 フォックスラゴゥを走行形態にして、さらに加速する。

 今になってV2ガンダムがビームライフルなど撃ってきたがもう遅い。

 ゴールは目の前、観客の喝采は最高潮。

 フォックスラゴゥは、その歓声を浴びながら“黄金の弾丸”となった。

 

§

 

 レナは目の当たりにした光景に圧倒されていた。最後の直線。最高速に達したフォックスラゴゥの狐色が黄金色に変わって見えたその光景に。

 「すごい」という言葉しか出ないが、それすら声に出して言うのは憚れたほどに。

 

「どうだ? 嬢ちゃん。あれが“黄金の弾丸”よぉ!」

「あれが“黄金の弾丸”かぁ。噂に違わずってところだね」

 

 興奮冷めやらぬダフ屋のダイバーとは対照的にツバサのリアクションは平静だ。しかし、内心では元チームメイトの勝利を素直に祝福している。一方でその目は2着目にゴールしたガンプラを見つめていた。

 会場中が拍手と喝采に湧く中、2着目にゴールしたのは、金色のウイングゼロだった。フォックスラゴゥに抜かれ、2位に位置していたV2ガンダムは、ゴール間際でエネルギー切れを起こしていたのだ。

 ここまで来るのにずっと先方を走っていた上、あらゆる障害を光の翼で乗り切っていたツケがきたのだろう。

 

「あのネオバード形態の奴。見慣れねぇなぁ」

 

 そう言ったのはダフ屋のダイバーであった。得てしてこういったレースものは大体上位にくる者は決まっている。記憶にある限りではあの金色のウイングゼロは、今回初出場のはずだ。ダイバー名も聞いたことないから、有名ダイバーの乗り換えとかではないだろう。

 

「いやぁ、惜しかったけど、初出場で2位はいいんじゃないかな」

 

 拍手をしているツバサを見て、レナはハッとした。

 

「ひょっとしてツバサさんが応援している人って」

「うん、あの2位の人だよ」

「お前さん、知ってるのかい?」

 

 食いついたのはダフ屋のダイバーだった。今後のためにも少しでも情報が欲しいと目が訴えている。

 

「うん、ボクのフォース仲間さ」

「フォースって・・・ツバサさん、傭兵じゃなかったですか?」

「そうだよ。まぁ、各地で戦力を必要とするフォースやGBNで起きた事件に傭兵を派遣するフォースって感じかな」

「それじゃ、今回のレースに参加したのも、誰かの要請だったりするんですか?」

「いや、今回は完全な趣味だね。彼女の」

 

 彼女、と聞いて、レナは金色のウイングゼロから出てきたダイバーを見やる。

 栗色のウェーブの掛かった髪に、ふんわりとした風貌。先ほどまであんな激しいレースをしていた人とはとても思えない人物に見えた。

 

「さ、行こうか」

 

 と、まるで姫様をエスコートする王子様のように手を差し伸べるツバサ。一瞬、その仕草にポーっとしてしまったレナだが、すぐに我に返った。

 

「え、えっと、どこに?」

「約束したじゃない。レースが終わった後、女子会しようって。それにヨーコに何か相談があるんでしょ?」

「そ、そうでした!」

 

 レースに夢中でそのことを忘れていたレナは、ツバサの手をとらずに跳ねるように席から立ち上がった。

 

「そ、それではお世話になりました」

「おう、また来てくれよな」

 

 ダフ屋のダイバーにお礼を言ってレナ達は会場を後にした。

 

「お、今頃になって3位が来やがったか」

 

 3位にゴールしたのは、ここまで足で走ってきたあの赤いズゴックだった。

 

§

 

「1位と2位、おめでとうー! 乾杯ー!」

 

 ツバサが音頭をとった。

 祝勝会というには、なんとも味気ない喫茶店だが、それでもヨーコとツバサの知り合いで金色のウイングゼロに乗っていた女性ダイバーはニコニコして喜んでいるようだ。

 

「あの、初めまして。レナといいます」

「こちらこそ初めまして。アリスです。よろしくね」

 

 近くで見るとより綺麗な人だなぁと、レナは心の中で呟くと共にアリスというダイバーに明るいお姉さん的な印象を受けた。

 

「それにしてもアリスさんとツバサさんが知り合いとは知りませんでしたよ」

「私、ガンプラレースは今日が初挑戦だったから、知らないのも無理はないね」

 

 激闘を通じてなのか、ヨーコとアリスも知り合ったばかりだというのにもう打ち解けあっている。

 

「そういえばレナさん。フォース結成、おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます。あの、でも……」

 

 ヨーコがクスッと笑った。実はヨーコは、レナの悩みに大方の予想はついていた。それは先に戦った者同士だからこそできたのかもしれない。

 

「どうやらお悩みはそのフォースのことのようね」

「はい…。あ、いえ、フォース結成としては嬉しかったんです。嬉しかったんですけど……」

「自分が足手纏いになっていると?」

 

 ヨーコの言葉に、レナは黙ってしまった。顔が少し赤くなっているのは見透かされたからだろうか。

 

「あの……どうしてわかったんですか?」

「覚えがあるからよ。同じバクゥ系列じゃない。だからこそ、レナさんは私に相談しようと思ったのでしょう?」

 

 まるで頭の中を覗かれているようで、もはやコクンと頷くしなかった。

 

「ボクはレナさんが足を引っ張ってるとは思わないけ…あいた!」

 

 割って入ったツバサだが、アリスに脇腹を突かれて黙った。暗に話の腰を折るなと言っている。

 

「いいえ、少し前にフォースバトルロイヤルというのがあったんですけど……そこで私、肝心なところで何も役に立てなくて」

 

 レナは途切れ途切れながらも、先日のフォースバトルロイヤルの事を話した。偵察こそ役に立てたが、実質はそれだけだ。あの不正改造疑惑のあるガンプラとの戦いでは援護射撃の一つも出来なかった無力さを、レナは噛み締めていた。

 

「わかりますよ。でも、大丈夫ですよ」

 

 レナの話を全て聞き終わってから、慰める風でもなく、むしろ痛いほど気持ちがわかる感じの声色でヨーコは言った。

 

「バクゥもラゴォも同じ系列。要は局地戦でしかその効果を発揮できない。正面からでの戦闘力はやはりMSに軍配が上がってしまいます。でも、自分が苦労して作り上げたガンプラをあっさりと変える事なんてできません。少なくとも私は」

「では、どうやってあそこまで……」

「月並みですが、試行錯誤の連続ですよ。時には変な方向にいったりもしましたけど、それもフォックスラゴゥの歴史の一部です。そして、それに終わりはありません。きっと私がGBNを引退するまで続きますよ」

 

 フフッと最後に笑ったヨーコの表情に、レナは何か憑き物が落ちたような気持ちになった。

 当たり前のことだが、言われて改めて気づくこともある。

 

 ガンプラは自由だ。そこに正解もゴールもない。

 

「確かにねぇ。それに前の戦いではレナさんが奇襲してヨーコさんに一撃与えたじゃん。今でも結構、良い感じだと思うよ。それに1機で何でもかんでもできるってわけじゃないし、フォース戦では必要ないからね」

 

 紅茶で舌を湿らせてからツバサが付け食われる。アリスも同意見なんだろう。うんうんと頷いている。

 

「私も月並みなことしか言えないし、まだレナちゃんのこともよく知らないから良いアドバイスはできないけど、レナちゃんのガンプラでしかできないことはいっぱいあるはずだよ。それこそ考えて試行錯誤してみないとね」

 

 まるでアイドルようにウインクしてみせるアリスに、思わず可愛いと思ってしまった。 

 

「そういうアリスさんは試行錯誤の末、あの金色のウイングゼロですか?」

 

 話の矛先がアリスに向かうと、彼女は空笑いしながら、頬を掻いてみせた。ヨーコとしてはレース中ずっと気になっていたことでもある。

 

「まぁね。最初の頃は原作カラーだったけど、色々と改造しているうちにね」

「私も最初は驚きました。金色なんて珍しいですから。何か意味でもあるんですか?」

 

 レナが食いつくと、アリスは小さく、そして不敵に笑った。

 

「いつか戦うかもしれないから、ヒ・ミ・ツ」

 

 口の前に人差し指を立てた姿も、素直に可愛いと思ってしまう。どことなく憎めないといった雰囲気だ。

 

「あ、でも、レナちゃんのお仲間に、私の事を知ってる人がいるからその人に訊いてみたらどうかな?」

「え?」

 

 続いて発せられた言葉に、レナの目が丸くなる。

 

「私のガンプラ、ウイングガンダムゼロエクスっていうから」

 

§

 

 女子会もお開きになり、レナはGBNからログアウトした。

 

「他にもユウさんやハヤトさん以外にもエクスがいたんだ……」

 

 そんな呆けたことを言いながらも、頭の中ではミュウバクゥの改造プランを練っていた。ログアウトした筐体に長居するのはマナー違反ではあるのは重々承知だが、少しばかり考えを整理したかったのだ。ここを出れば騒がしい空間となる。おぼろげに浮かんでいる案が霧散しないためにも、今はここが落ち着いて考えれる場所だ。

 

「あ、これ、いけるかも……」

 

 思いついたからは行動は早い。すぐさま筐体から出て、ダイバーギアのミュウバクゥを握りながらプラモコーナーへと一直線。目的の『陸戦型ガンダム』を見つけて、レジへと向かった。

 もしかしたらヨーコが言ったように変な方向に行くかもしれない。

 けど、今は頭にあるアイディアでやってみたくなった。

 

「よし、頑張るぞ」

 

 夕暮れ時、レナを鼓舞するかのように呟いた。

 

§

 

「良かったのかい? 自分のガンプラ名、教えちゃってさ」

 

 レナやヨーコと別れ、フォースの集合場所に行く道中、ツバサはアリスに尋ねた。レースの映像はG-チューブに近いうちに公開されるだろう。アリスを知る者なら気づくはずだ。時間の問題であっても、わざわざレナに教えることはない。そう思ったからこそツバサは訊いてみた。

 

「私達だけ色んなのフォースの情報を独占していては不公平でしょ?」

 

 それにあの頃とは違うし、と付け足しながらさらに続ける。

 

「それとも『ウロボロス』的にはこの程度、痛手なのかしら?」

 

 『ウロボロス』

 それがイサミ率いる傭兵部隊(フォース)の名前であり、そこにツバサとアリスも所属している。

 アリスは新参者故、少々無礼な発言ではあっただろうが、ツバサは特に気にも留めず返した。

 

「いや、君が良いのなら別に構わないけどね。今度のイベントに支障がなければ」

「バトルロイヤル式のストーリーミッション……それまで噂程度だった怪しいミッションだったのに、公式がついに発表したイベントね。やっぱり私たちは傭兵としてではなく、傭兵部隊として参加するつもりなのね」

「イサミが言ったのさ。戦果を挙げれば『ウロボロス』の良い宣伝になるってね」

 

 なるほど、と、アリスは返した。どうやらユウが過去にお世話になったイサミというダイバーは中々に野心家のようだとアリスは認識を変えた。

 

(またみんな揃うかな。そのイベントで)

 

 懐かしい記憶を思いを馳せながら、自然とアリスの口元が緩んだ。

 またあの日のように、皆で楽しみたい。

 だって、アリスにとってGBNで一番楽しかった思い出なのだから。




次回、番外編の予定です。
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