少女の名はマリア。
彼女は、彼らのガンプラの声を聞くことができるという。
後に“エクス”と呼ばれることになるガンプラ達の声を・・・。
ビルドダイバーズⅩ 番外編『銀色Horizon』
『私はマリア。よろしくね』
初めてガンプラを組み立てたのはいつだっただろうか?
アヤセ・ユウの場合、両親の影響もあり、ガンダム作品に夢中になるのは早かった。
父からは『機動新世紀ガンダムⅩ』を、母からは『新機動戦記ガンダムW』を特に強く勧められていた。
その影響か、ユウが初めて組み立てたガンプラはガンダムⅩであった。そして2番目に組み立てたウイングガンダムでは、ただ組み立てるだけでなく、合わせ目消しや塗装といった本格的な制作を行った。
他にも色々組み立てたが、ユウにとってはこの2機が特別なものになった。
GPD全盛期には積極的に参戦し、勝利しては喜び、敗北しては思いきり悔しがった。
敗北を重ねる度、ユウのガンプラは改造されていった。
そして出来上がったのが、ガンダムⅩの素体に背部のサテライトキャノンの代わりにウイングガンダムゼロ(EW)の翼を装着したもの。かつカラーリングは全身真っ白。まだこれといったコンセプトが見えてないからというユウなりの表現だ。
GDPからGBNに移行して、最初は戸惑ったものの、すぐに慣れたのはやはり最初に出会ったダイバーのお陰であろうであろう。
そのダイバーネームはイサミ。
彼は、GBNで右も左もわからないユウに声を掛け、色々な事を教えてくれた。今ではフレンドになり、ちょくちょく一緒に行動している。
イサミは現在、傭兵じみたプレイをしているようで、たまにユウもそこに誘われる。
その日もイサミからとあるフォースとの共同ミッションに誘われて、ユウはGBNへとログインした。
しかし、辿り着いたのは見慣れたGBNのロビーではなかった。
そこは、見渡す限りの海に、ポツンと浮かんでいる島が一つだけある場所だった。
海のど真ん中を飛行していたユウは、その島に吸い寄せられるかのように着地した。
(何かのエラーかな?)
もし、ガンプラに飛行能力や水中能力がなければ溺れていたかもしれないという恐怖と、運営に文句が言いたい衝動に駆られたが、まずはこの場所がどこなのか調べておきたかった。
島には草原が広がっているだけで他には何も見当たらない。
制作途中のフィールドかと思わせるほどだ。
「誰かいるというわけではないかな―――っ!?」
結論付けた矢先、アラートがなった。それは他のガンプラがいるという反応だ。それも1機だけではない。
(3機!? もしかして何らかのミッションに紛れ込んでしまったとか!?)
すぐさま臨戦態勢に入る。3機ともバラバラの方向からこちらに来ている。囲まれたりしたらそこでゲームオーバーだろう。最も、相手が敵意を持っているNPCであればの話だが。
だが、そんな望みは儚くも散る事となる。
3機のうちの1機が急加速したかと思えば、こちらに向けて赤黒いビームを撃ってきたのだ。
ほぼ反射的だろう。
それに対してツインバスターライフルで反撃に出たのは。
両者のビームが激突し、弾け散った。
「なっ! オレのメガソニック砲以上の威力だと!? 並の大型ビームなら消し飛ばすんだけどなぁ」
「いきなりなんだ!? ここがどこか知ってるの?」
「いや、知らねぇぜ! けどなぁ、フィールドでダイバー同士が出会ったら戦うのがお決まりだろ!」
相手のガンプラ―――ガンダムヴァサーゴ・
炎を彷彿とさせるシンボルを両肩に描いている、紅いシャイニングガンダムだ。
「なんや自分、かっかしてんなぁ。その前に一つ教えてや。ここがどこなんかって?」
シャイニングガンダムのダイバーがそう尋ねるなり、弾いた腕を突き出してビームを撃った。アームプロテクターにあるシャイニングガンダムの標準装備だ。
だが、そのビームはヴァサーゴCBに当たる前に、もう一つの強大なビームに飲み込まれた。
ほぼ眼前でそれを目撃したヴァサーゴCBのダイバーは息を飲んだ。その場の全員がビームが撃ち込まれた空を見上げた。
バスターライフルを構えている金色に光るウイングガンダムがそこにいた。
「別に助けるつもりじゃないけど、交渉に2対1じゃあ可哀想でしょ?」
その女性ダイバーは、ヴァサーゴCBの傍らに着地した。
見知らぬ場所で、見知らぬダイバー達との2対2が始まろうとしている。
そんな時だ。
やめて――――。
耳ではなく、脳内に響き渡った少女の声。それと同時にガンプラにも異変が起きた。
「動かない?」
これはユウのガンプラだけではなかった。その場にいる者達全員のガンプラが停止し、その場で片膝を立てて座り込んだのだ。
プラスチックでできているガンプラに息吹が宿り、少女の声に従っているかのようだ。
「……この場でガンプラを消すことは…エラーが出るか。出れるかな?」
なんとかコクピットの開閉ハッチは開くことができて、ユウ達は顔を出す。
そこにはもう戦意なく、辺りをキョロキョロと見回しているダイバー達がいた。
「お、出てきたか。今の聞こえたか?」
そう言ったのはヴァサーゴCBのダイバーだった。つい先ほどまで敵意丸出しだった彼だが、今はそういうのは全くなくフレンドリーにユウに訊いてくる。
ユウもわかっている。GBNはあくまでゲーム。因縁の相手とかならまだしも、出会ったばかりの相手に敵意剝き出しにされる覚えなどユウはない。こういう状況下ともなれば猶更だ。
「うん、聞こえた。「やめて」っていう」
「やっぱりそうか。俺の聞き間違いじゃなかったんだな」
「せやけど、誰が言うたんや?」
シャイニングガンダムのダイバーが、ふと、この中で唯一女性である金色のウイングガンダムのダイバーの方に目を向けた。
「私じゃないわ。というより、このフィールド自体、何かおかしいものね。少し探索してみない?」
その意見には賛成だったが、その必要はなくなった。
白いワンピースを纏った銀髪の少女がこちらに向かって歩いてきているからだ。
それを見るなりみんなガンプラから飛び降りる。これがリアルなガンダム世界なら落下死もありえたが、ここは電脳世界。どんなに高い所から生身で落ちたところで怪我を負うことはない。
「こんにちは」
その少女はふんわりと笑った。先ほど聞こえたと声と同じ声だった。
「私達を止めたのはあなた?」
「うん。この子達が戦いを望んでいなかったの」
この子達? このワードには一同、首を傾げざるを得なかった。
銀髪の少女は、ユウ達がそれを訊く前に、ユウのガンプラ―――白いガンダムⅩに歩み寄って手を触れた。
「そう、まだ強くなりたいんだね。うん、それと―――」
物言わぬガンプラ相手に話しかけている様子は奇妙という他なかった。
だが、これだけは言える。
この未知なるフィールドにいて、4機のガンプラを一斉に機能停止させることができる彼女の存在は、警戒せざるを得ない。
そんな彼らの気持ちなど知ってか知らずが、少女はユウに尋ねてきた。
「ねぇ、このガンプラ、あなたのでしょ?」
「あ、うん。そうだけど……」
「この子の名前、つけてあげて。この子もそれを望んでいるから」
なんで僕のガンプラにまだ名前がないことがわかったのか、それを問いただす前に少女が続けた。
「私、ガンプラの声が聞こえるの」
ふふん、と自慢げに鼻を鳴らす。
「君は一体?」
「私はマリア。よろしくね」
差し出された握手を求める手に、ユウは逡巡しつつもその手を握った。