ガンダムビルドダイバーズX   作:蒼ウサギ

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第1話②『変える力、変わる力』

 広い平原を、3機のモビルスーツが駆けていく。

 一機は、ユウのエクスガンダム。そして他の二機は模型部のものだ。

 全身ほぼ水色カラーで、全身これ火器といわんばかりの重装備型のヅダだ。見た目は原作とは打って変わっての鈍重に見えるが、中々に速度は速い。

 搭乗者は、ダイバーネーム・ナミだ。アバターは、リアルとはあまり差異はないが、ポニーテールに水色のリボンが付いている。

 

「おっほー! すごいすごい! 自分が作ったガンプラを操縦できるなんてGBNすごいよ! 正直、なめてたね」

「模型部でやってる人いなかったの?」

「いたはいたけど。ウチの模型部、GPD置いてるから、そこでやる人はやってたね。もちろん私たちも」

「それマジ?」

「うん、父から型落ちのを引き取ってもらって置かせてもらったの」

 

 GPD―――ガンプラデュエルは、名の通りガンプラバトルができる装置だ。GBNとは違い実際のガンプラを操作して戦うものである。そのため、GPDで戦ったガンプラはもれなく実際のダメージを受ける。つまりは壊れるのだ。

 それを嫌う者がいたり、また実際に壊れないかつ、多様性に富んだGBNのサービス開始と同時にガンダムベースのゲームコーナーから徐々に姿を消していき、一年もしないうちに廃れていった。

 しかし、まだ愛用者がいるようなので完全撤収には至っていない。

 

「もしかして廃部寸前の模型部が立ち直った原因、それじゃない?」

「かもねー」

 

 さらっていってのけるが、それを自慢げには言っていないと感じる。

 彼女からしてみれば、自分も皆も楽しめることができるのなら良いのだろう。

 

 そして、件のレナだ。

 ダイバーネームもレナで、リアルより長い髪に眼鏡というアバターだ。

 GBNでは視覚や聴覚などの障害は受けない。だからナミがGBNくらい眼鏡なしでいいじゃんと言ったが、レナは頑として譲らなかった。

 

 ログイン直後こそ、周りのダイバー達にすっかり縮みこまってしまったが、いざ、こうして自分のガンプラ、バクゥの改造型を動かしていると楽しそうにしている。

 通信画面越しではあるが、ユウは初めて彼女の笑顔を見た。

 レナのバクゥは、通常ある背中の武装は装備されておらず、耳や口が原作より丸みを帯びており、さらに尻尾もついて限りなく犬に近い形となっている。

 

「そういえば2人のガンプラって名前あるの?」

「もっちろん! アタシのは『アサルトヅダ』」

「わ、私のは『ミュウバクゥ』です。あの、飼い犬の名前なんです」

 

 最初はレナの極度の人見知りにどうなることかと思ったが、楽しいことに夢中になってれば難しいことではなかったようだ。もっとも、まだ緊張気味だがそれは仕方のないことだろう。何せ今日、初めて会った人なのだから。

 

「ねぇ、このまま競争しない?」

 

 興奮のあまりか、ナミがそんなことを言い出した。

 

「ちょっと待って、今は初心者向けの迷子探しのミッションの最中だよ。そんなことしたら目標見失っちゃう」

 

 今にも加速しそうなナミを、ユウが窘める。

 迷子探しミッションは、索敵能力がカギを握る。時間は無制限なのでしばらくはこうして自由に動かしていたが、エリアを大きく離脱するとミッション失敗となってしまう。

 

「あ~、そうだった。レナちゃんがバクゥだから楽勝でクリアできるミッションだと思って受注したんだっけか」

「先輩、そもそもミュウバクゥに索敵能力は然程ありませんよ。一応、やってみますけど」

「ちょ~っと、レナちゃん。先輩じゃないでしょ? リアルと混同しちゃったらダメよ」

「え、あ、すみません。……ナ、ナミさん」

 

 ナミとしては敬称を取って欲しかったんだろうが、今のレナにはこれが精一杯なのだろう。うんうんと頷いて、とりあえず満足している様子を見せた。

 

「ところでユウくん。その迷子の……プチッガイだっけ? どうやって探せばいいの?」

「基本的にはフィールドをしらみつぶしに探すのが一番だね。幸い、今回のプチッガイは動かないタイプのもののようだし」

 逆に言えば、フィールドをあっちこっち動き回るタイプの迷子探しミッションがあるということだ。

 こればかりは本当に索敵能力に特化した機体が必要となる。

 

「う~ん、そう考えたら中々面倒なミッションを選んじゃったわけねぇ」

「初心者向けだからそこまで高難易度なわけじゃないけど」

 

 そうこう言っている間にミュウバクゥが何かを捉えたようだ。

 

「ナミさん、えっと……ユ、ユウさん。何か反応がありました」

「ホント、レナちゃん」

 

 3機が一斉に止まる。ユウとナミもそれぞれレーダーを確認する。

 

「こっちには何もないけど……」

 

 そうぼやくユウとは対称的に、ナミが反応を感知して歓喜に震えた。

 

「お、こっちにも反応があったよ! 2時の方向でしょ?」

「は、はい。そうです」

 

 2機が同じ反応を示しているなら向かうしかない。

 

「じゃあ、行ってみようか。案内してもらえる?」

「わ、わかりました」

 

 ユウは少し納得がいかないものの、レナのミュウバクゥを先頭に反応があったという場所までついていく。

 まだ各機の詳しい性能は不明だが3機とも索敵能力に差はほとんどないはずだ。

 それなのに2機だけにしか反応しない。

 

 嫌な予感がする。

 

 そして、それはレナが「あと少しです」と言ったところで確信した。

 

「まずい! レナさん、下がって!」

「え?」

 

 急いで先頭に立とうとしたユウのエクスガンダムだったが、一歩遅かった。

 

「くっ!」

 

 唐突に投げたデモリッションナイフだが「敵」に当たることなく、ミュウバクゥの傍らに落ちた。

 

「な、なんですか!?」

「レナちゃん!?」

 

 突如、ミュウバクゥがいた地面がどんどん盛り上がっていく。そして、それはたちまち正方形をかたどり、周囲をビームロープを覆った。

 

 ミュウバクゥは、完全に孤立したのだ。

 偽の反応。しかも、相手が低ランクの初心者にしか反応しない姑息な罠によって。

 

「オーケィ! 地球がリングだ! なんてな。ようこそ、我がグヴレイルの処刑場へ!」

 

 ミュウバクゥの前に現れたのは、通常より一回り大きさを誇るヒートサーベルを携えたを深紅で黒衣のマントを羽織っているガンプラだ。

 ユウたちに緊張感が一気に襲い掛かる。

 

「見よ、崇めよ、そして忘れられないガンプラとなれ。このグフエクスキューショナーを!」

 

 高らかにグヴレイルと名乗ったダイバーは叫んだ。このシチュエーションに完全に酔いしれているようだ。

 

「なに!? なんなのアレ? レナちゃんはどうなるの?」

「初心者狩りだよ。しかも厄介なことにレナさんだけ『デュエルモード』に入っている」

「なんで!?」

「レナさんのミュウバクゥが予めデュエルモードに設定されているフィールドに入ったからだよ。それでシステムがミュウバクゥを挑戦者と勘違いしたんだ」

 

 むしろ勘違いさせた、とでも言うべきだろう。アップデートで追加された『デュエルモード』は、かつてのGPDを彷彿とさせるものとして実装されたという。

 元々、1対1のバトルは珍しくないが、デュエルモードは外部から邪魔されないという点がある。

 それがこの『機動武道伝Gガンダム』に出てきたビームロープだ。

 

「なんとかならないの?」

 

 上からはどうだ、とエクスガンダムは飛翔し、グフエクスキューショナーの真上からツインバスターライフルを撃った。

 だが、予想通りというか強力なビームでもデュエルモードのリングを破ることはできなかった。

 

「見た目は普通のリングだけど、ちゃんと上空からの流れ弾や乱入は想定されているか」

 

 目には見えないが、そこには確かにシステムという絶対に破れないバリアがあった。

 つまり、どちらかが敗北しないとデュエルモードは解除できない。

 

「レナさん、降参するんだ!」

 

 ユウが叫ぶも、グヴレイルがチッチと舌を鳴らした。

 

「ギャラリーの方、それは野暮というもの。このリングはデスマッチに設定しています。どちらかが処刑されるまでリングを解くことはできません」

 

 チッと、今度はユウが舌を鳴らした。もう少し、あと一瞬でも早く気づいていればこういう事態は防げたのが悔やまれる。

 

「ナ、ナミさん。ユ、ユウさん。わ、わた、私、どうすれば」

 

 先ほどまでとは打って変わった恐怖に満ちたレナの声。ユウとナミの心情は穏やかではない。例えGBNでいくらやられようが、本体のガンプラが壊れるわけではないが、少なからずトラウマは残るだろう。

 

「こうなったら、やるしかないよ! レナちゃん!」

「せ、先輩……」

「先輩じゃない! 逃げも隠れもできないんならやるしかないよ! 自分を変えたいんでしょ!」

 

 自分を変えたい。

 確かにレナはそれを望んだ。GBNが楽しくなったら、きっと現実でも少しは変われると思っていた。

 でも、それは幻想だったのだろうか。

 

(そんなのは……イヤ!)

 

 だが、それでもレナの体は恐怖で支配されていた。操縦桿を握るのが精一杯だ。

 

「おっと、ギャラリーの方々には私のお仲間と遊んでおいてくださいな」

 

 グヴレイルが指をパチンと鳴らして現れたのは無数のガンプラだった。

 バリエーションも豊富で、一つ一つ分析している余裕もない。

 

「とことん腐った連中ね! 結局、誰でも良かったんでしょ?」

 

 ナミの問いに、グヴレイルはわざとらしく肩をすくめるだけだった。

 そしてすぐに無数のガンプラがエクスガンダムとアサルトヅダに襲い掛かってくる。

 

「委員長……じゃなくて、ナミさん。とりあえず今はこっちだ! いけるかい?」

「もちろんよ。これでも部の中ではいつもトップなんだから」

 

 上等だ、と言わんばかりにエクスガンダムがツインバスターライフルのトリガーを引いた。我先にと襲い掛かってきた連中は強力なビームの奔流に飲み込まれていった。

 

「やるじゃない! こっちも!」

 

 ナミもアサルトヅダの武装を構えた。両腕の二連装式ガトリング―――ダブルガトリングガンがツインバスターライフルで倒れなかったガンプラを蜂の巣にしていった。

 さらに胸部にもあるガトリング砲、両肩部と両脚部に装備されているホーミングミサイルポッドも火を噴いた。

 ガンダムヘビーアームズやガンダムレオパルドを思わせるほどのそれらの重火器は、瞬く間にまだ動かなかったガンプラを火の海に沈めた。

 

 

 

 そんな2機の姿を見て、レナは憧れてしまう。

 自分もあんな強く、勇ましいダイバーになりたいという願望が芽生えていく。

 気づくと、手の震えが止まっていた。眼鏡を外して、手の甲で零れそうな涙をぬぐってから掛け直す。

 そこに、先ほどまで恐怖に縛られていたレナはいなかった。

 

「ほらほらぁ、こちらも始めましょう」

 

 ゆったりと近づいてくるグフエクスキューショナーに向かって、ミュウバクゥが口からビームを撃った。

 しかし、とっさの攻撃にグヴレイルは反応していた。マントで防御すると、ビームは霧散していった。

 

「耐ビームコーティングのマント。残念だったね」

 

 グフエクスキューショナーが加速する。危険を感じたレナがすぐにミュウバクゥを走行形態に変えた。四脚にある無限軌道が高速に回転し、迫りくるであろう攻撃を回避しようとしたが、相手が一回り上だった。

 グフエクスキューショナーは振るったヒートロッドがミュウバクゥを直撃した。

 

「ぁあぁぁあっ!」

 

 電撃がレナの身をよじらせる。そして次に襲い掛かったのは衝撃という暴力だった。

 グフエクスキューショナーがミュウバクゥを蹴り飛ばしたのだ。

 

 

 

「レナちゃん!?」

 

 悲鳴を聞いてナミが足を止めてしまい、その隙を敵ガンプラに襲われてしまった。

 

「イージスガンダム!? まずい!」

 

 ナミの予想通り、その赤黒いイージスは即座にMA形態に変形し、アサルトヅダに組み付いた。そして今まさに零距離で「スキュラ」が放たれようとしている。

 

「まずい!」

 

 やられると確信したまさにその時、アサルトヅダを拘束していた赤黒いイージスのクローが折れた。零距離で撃つはずであったであろうスキュラは空を撃った。

 

 一連のピンチを救ったのは、天使の羽根だった。

 

「今のはユウくん!?」

「間に合ってよかった。ナミさん、油断は禁物だよ!」

「でも!」

「大丈夫。今はレナさんを信じよう」

 

 言いながらGNソードを展開しながらエクスガンダムを襲ったガンプラを薙ぎ払った。

 

(信じよう……か)

 

 まさか今日初めてレナと出会ったユウに言われるとは思わなかった。彼が信じるというならナミも先輩としてレナを信じるしかない。

 

「分かってるわよ!」

 

 ひとまず目の前でMA形態のまま倒れている赤黒いイージスに零距離でダブルガトリングを撃ち込んだ。

 

 

 

 蹴り飛ばされたミュウバクゥだが、いつまでも倒れているわけにはいかない。

 犬でいう「伏せ」の形になって、脚部の無限軌道を回す走行形態となって、リング中を駆け巡る。

 

「逃げるばかりですか? あなたが早く処刑されれば、お仲間も早く助かるというのに」

 

 グヴレイルが挑発するも、ミュウバクゥは止まることはなく走り回る。

 一見、無防備に見えるグフエクスキューショナーだが、いつでも迎撃できるだろう。レナはそれを理解していた。

 1対1という形式は、レナもGPDで慣れている。

 だからこそ分かる。

 相手が自分のことを格下と見ているうちは、勝つ見込みがあるということを。

 

(ビームはあのマントで効かない。なら!)

 

 レナは意を決して攻撃に転じることにした。背部の翼にあるスラスターを吹かして、ビームを撃ちながらグフエクスキューショナーに突撃する。

 

「無駄だというのに」

 

 グフエクスキューショナーがすぐにマントを盾にする。レナはそれを狙っていた。

 

「今だ!」

 

 ミュウバクゥの尻尾が外れたと思ったらそれが口にくわえられた。ミュウバクゥの尻尾はアーマーシュナイダー。つまり実体剣なのだ。

 

「!?」

 

 これにはグヴレイルは驚いたようでとっさに反応できなかった。そして、マントは見事に切り裂かれたのだ。

 ミュウバクゥの加速力が思わぬ威力を生んだようだ。

 

「まだまだ!」

 

 スラスターを吹かして急旋回。もう一度、グフエクスキューショナーに向かって突進しようとした矢先、ヒートロッドで薙ぎ飛ばされた。電撃が流れなかったのは幸いだったが、アーマーシュナイダーが口から離れてしまった。

 

「調子に乗るのもここまでですよ!」

「ま、負けません!」

 

 震え声だが、レナは叫んだ。

 

「あなたのような人に、負けたくありません!」

 

 レナの声に応じるかのように、ミュウバクゥのモノアイが強く光を放った。そしてまるで「それ」を示すかのようにレナのモニターに映った。

 

(あれは……)

 

 エクスガンダムのデモリッションナイフ。

 最初の投擲でミュウバクゥと共にリングに入っていたものだ。

 

「いくよ、ミュウバクゥ!」

 

 態勢を立て直してミュウバクゥが走行形態で駆ける。

 

「いい加減にしなさい!」

 

 ヒートサーベルを構えながらグフエクスキューショナーが追う。しかし、スピードはミュウバクゥの方が勝っていた。

 瞬く間にデモリッションナイフが落ちている場所に辿り着く。問題があるとすればそれをちゃんと持てるかだ。

 重量はもちろんだが、何よりバランスが崩れることは明白だ。

 

「頑張って、ミュウバクゥ」

 

 何とかミュウバクゥの口にくわえることはできたが、やはりアーマーシュナイダーのように持ち上げることはできない。

 そんなことをしているうちにグフエクスキューショナーが眼前に迫っていた。

 

「もう終わりにしましょう!」

「うぁぁあああああ!!」

 

 それは賭けだった。

 走行形態から四つ足に戻し、翼のスラスターを全力で吹かした。

 一瞬の爆発力と、四つ足でのジャンプするしなやかなバネがデモリッションナイフをくわえたミュウバクゥを浮かすことができた。

 そして、それはグフエクスキューショナーの胴体を真っ二つに斬った。

 

「えっ!?」

 

 グヴレイルは何が起きたか分からなかった。いや、認めたくなかっただけなのかもしれない。

 少しして、ビームリングが弾けて消えるとともに「BATTLE WIN CHALLENGER」というシステム音声が流れて、初めて自身の敗北を知ることになった。




1話はもう少しだけ続くんじゃよ。
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