グヴレイルの敗北を告げるシステム音声に、リングの外にいた彼の仲間は茫然とした。何せ、狩る者が、狩られる者によって逆に狩られたわけだから。
「やった……」
デモリッションナイフの重さに耐えきれず、ミュウバクゥは不格好に倒れているが、それでも勝利したことにユウは安堵した。
「やった!やったじゃん!レナー!」
ナミもまたレナの勝利に喜んでいた。
そしてレナは、音声が聞こえなかったのか、まだ自分が勝ったことに気づいてなかったようで驚いていた。
「私……やった…の?」
真っ二つになっているグフエクスキューショナーを見て、レナはようやく安堵した表情をみせた。
しかし、この結果を面白くない者たちはいる。
「おのれぃ! こうなったら小細工抜きでやったらぁ!」
グヴレイルの仲間の一人が叫ぶと、それに応じて他のメンバーを賛同の雄叫びをあげた。
「もう、まだやるっていうの!?」
アサルトヅダが再び構え、エクスガンダムはミュウバクゥの側に行き、口にくわえられたままのデモリッションナイフを回収して構えた。
このまま第二ラウンドに向かおうかと思ったまさにその時だ。
「皆、しずまれぃ。グヴレイルを回収後、撤退を命じる!」
威厳のあるその声は空からやってきた。
黒いシナンジュベースのガンプラだった。グフエクスキューショナーにはない威厳がそのガンプラから感じられる。
グヴレイルのフォースでもかなりの発言権があるのであろう、先ほどまでの殺気をしまいこんですぐに命じられた事に移る。
「今回の戦い。誠に見事なり」
レナを称賛する黒いダイバー。顔は見せないが、声や口調からして男性だろう。
「そして失礼した。我が他のミッションを遂行中とはいえ、部下が勝手なことを謝罪しよう」
「その口ぶりだと、あなたが彼らの隊長ってところですか?」
「いかにも少年。我らは『覇王団』。あくなき強さを求めるフォース。故に常に一定のダイバーポイントをキープしなければならない。そのせいかダイバーポイントを稼ぐためにグヴレイルのような奴が出てしまう」
GBNではダイバーポイントなるものが存在する。それはミッションをクリアしたり、バトルに勝利することで獲得できる。
グヴレイルのようないわゆる初心者狩りが後を絶たないのは手っ取り早くダイバーポイントを稼ぐためというのが理由の一つだ。
「なーんか、ノルマありって感じね~。で、彼らはどうする気なの? 隊長さん」
嫌味ったらしく質問するナミに、覇王団の隊長は迷わず答える。
「こちらが取り決めた罰則を与えることにする。グヴレイルはもちろん、奴に賛同した者全てにだ」
「で、どんな罰則?」
「答える必要なない。むやみに隊の掟を外部に漏らすことはできんからな」
覇王団の隊長のことは一理ある。情報漏れはいざという時にフォースの崩壊を招くこともあるからだ。ナミは少し納得いかないようだが、ユウには理解できる。
「わかりました。戦いを止めてもらいありがとうございます」
「礼は不要。非はこちらにあるからな」
それだけいうと、黒いシナンジュはその場から去っていった。それに続くかのようにグヴレイルの仲間、いや、他の覇王団も去っていく。
「ったく、奴らも謝罪くらいしなさいっての!」
ぷりぷりとナミは怒るも、ユウは「まぁまぁ」と宥めた。その後、レナに声をかける。
「レナさん、よく頑張ったよ」
「あ、あ、ありがとうございます。あ、あの、ユウさんの剣がなかったら私、やられてました」
「役に立ったのなら良かったよ」
デモリッションナイフを二つ折りにして左腕に装着させる。
「ところでユウくん。あの天使の羽根って、どこから出したの?」
「あぁ、それはこの翼からだよ」
ナミとレナはよくエクスガンダムを観察する。すると、レナが「あ!」と呟いた。
「副翼の表面に何かありますね」
「気づいた? 正体はこれだよ」
シュンっと、エクスガンダムのウイングバインダーから一枚、その羽根を飛ばして掴んで見せる。
「Cファンネルを白く塗って、副翼に装着させているんだ」
「ほほぅ、あれってCファンネルだったんだ」
ナミとレナが感心する中、ユウは人差し指を口に立てて
「これは企業秘密だからね」
と、冗談気に告げた。
「さて、迷子探しの続きを始めようか。レナさん、動ける?」
「は、はい。大丈夫です」
「よーし、じゃあとっとと終わらせましょう」
ナミの号令で迷子探しのミッションが再スタートされた。
ミッションはあれから5分もあればクリアできた。
実はミッションがあまり長引かないよう、迷子のプチッガイは一定時間経てばこちらに向かってくる仕様だった。ユウは知っていたが、プチッガイを発見した二人があまりにも嬉しそうだったので黙っておくことにした。
そして、一つの波乱を終えて、ユウたちはGBNをログアウトした。
ガンダムベースでゲンがドリンクをサービスしてくれたのでありがたく飲み干し、3人はガンダムベースを後にした。
「う~ん、一波乱あったけど楽しかったぁ。ね、レナちゃん」
「は、はい。楽しかったです。すごく」
少しユウとも打ち解けたのか、レナはナミの後ろに隠れることなく歩いている。あの戦いを経て少し変わったような気がする。
そしてレナは、ユウに向かって改まって頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました。あ、あの、また一緒にプレイできますか?」
「うん、構わないよ」
「ありがとうございます。その、今日は本当に楽しかったです。憧れだった人と一緒にGBNをプレイできましたから」
え? と、ユウはキョトンとする。そんな様子にナミは自分の企みに成功したように小さく笑いながらユウに耳打ちをした。
「実はね。レナは君のファンだったのよ」
「はい?」
「私があなたがGBNのユウだとわかったから声かけたの」
これでユウが燻っていた謎が解けた。
GBNの戦闘ログは動画として日々公開されている。レナはそこでエクスガンダムを見て憧れを抱き、ナミに相談したのだろう。そして、ナミは見た目もあまり変わらず、ダイバーネームも一緒なユウが自分のクラスメイトだということがわかっていた。
だから、あの時、真っ先にユウに声を掛けたのだ。
「先に言ってくれよ、委員長」
「いいじゃない。それに、アヤセくんはレナちゃんの憧れのままみたいだし、これからかっこ悪いところ見せられないね」
ガクッとユウは肩を落とす。憧れられるのは悪い気はしないが、同時にプレッシャーもかかる。
「あ、今度は私達でフォースを組みましょう!ね!」
「いいですね!」
ナミの提案にレナが賛同している。ここで断ったものならどんな目に見られるか……。
「ソロ活動もここまでかなぁ」
「なにか言った?」
「いや、別に」
とりあえず例の傭兵部隊の誘いは断っておく旨を、誘ってくれたイサミに伝える必要がある。けど、これだけは彼女たちに言っておかないといけない。
「フォースはメンバー全員がDランク以上じゃないと結成できないよ」
当然ながらユウはその条件を満たしているが、今日始めた二人はまだ条件が満たされてない。
「……マジで?」
「あぅ……」
フォース結成の日までは、まだまだ長くなりそうだ。
ようやくこれで1話終了となります。
プロローグで赤ドムの背後を攻撃したのはCファンネルだったのです