「お、おい、なんで助けたんだよ?」
シルバ以外はミッションクリアに満足した顔をしていたが、肝心の勝負は無効となってしまった。功績ポイントからみればナミの勝利であることは明白ではあるが、そこが猶更シルバの疑問に拍車をかけた。
「なんでって。……なんでだろ? つい? 反射的にってやつ?」
「はぁ?」
曖昧な返事にシルバは脱力し、その姿を見て、そうな顔になるよなぁとユウとレナは苦笑する。
「まぁさ、勝負なんていつでも白黒ハッキリつけれるものだよ。GBNにいる限りはね」
「おぉ、ユウくん、良いこと言うねぇ~」
勝負前の怒りはどこへやら、ナミは呑気に笑っていた。まだGBNを始めたばかりのナミにとっては何もかもが新鮮で楽しいのだ。だから、ミッションにもつい感情が入り込み、クリアのためなら勝負を投げ捨てることさえある。
それがユウにとっては少し羨ましく思えた。
「はぁ……わかったよ。勝負は次に持ち越しだ」
「まぁ、アタシはもう勝負とかどうでもいいんだけどねぇ。そっちが望むならいつでも受けて立つよ」
サムズアップでナミは応えた。会話が一区切りついたところで、ずっと疑問を抱いたユウが入ってくる。
「ところで、シルバくんはフォースに入っていたからDランク以上だと思うけど、ずっとオーディスティニーを使っていたの?」
「いや、始めは素組のブルーディスティニー1号機だ。とあるミッション報酬で小型太陽炉の設計パーツが手に入ったもんだから、それをくっ付けてオーディスティニーに改造したってところよ」
そう答えると、ユウは「ふむ」と顎に手をやって一人納得する。
「それで君はEXAMとトランザムを掛け合わせようと思ったのかい?」
「おうよ、パワーアップモノの合わせ技はロマンがあるだろう? まだ持続時間が少ないのが難点だが、いずれそれも解決してみせるさ」
シルバは自信満々に胸を張った。「すごいだろう」とでも言いたげなオーラを放っている。しかし、返ってきたのは残酷なものだった。
「それがかえって仇になってね」
ユウがすっぱりと言いのけた。
「なっ!? お前にはわかんねぇのか? このロマン」
「少しはわかるけど、はっきりいってこの組み合わせは失敗だったかもしれないね」
ユウの言い方が穏やかだったが故に声を張り上げることはなかったが、シルバは納得がいかない様子だ。
「ど、どこがだよ!?」
「君も言っていたように圧倒的に稼働時間が短い。その原因がわかるかい?」
「そ、それは……多分、エネルギー切れって奴じゃないか? だから、次はプロペラントタンクでもつけて」
「違うよ。もっと根本的なことさ」
そう言われてシルバはうぬぬと頭を捻った。ナミもピンとこないのか、同じように考えているようだ。一方でレナは「ハッ」と理解したようだ。
「EXAMとトランザムの決定的な違いということですか?」
「うん。EXAMは、元々オールドタイプがニュータイプ相手に戦えるために作られたシステム。もちろん出力は向上するけど、それは機体のリミッターを外したものなんだ。そしてトランザムは機体各部に高濃度で圧縮、蓄積されているGN粒子を全面開放して機体性能を飛躍的に向上させるシステムだ」
「つ、つまりどういうこと?」
ナミはまだ答えが見えていない。シルバも今一つピンときていないようだ。
「つまり、リミッターを外したまま、超加速で動いたら機体自身がもたないんだよ。それこそEXAMシステムの反動を早めるみたいに」
「あぁ、なるほど。つまり人間でいうと、火事場の馬鹿力を出した状態でロケットブースターを身に着けながら走るみたいな感じね!」
ナミの例えは少々乱暴な解釈ではあったが、概ね間違いではない。ここがGBNだからこそ現実ではオーディスティニーには何ともないが、これがGPDならばシステムの負担に機体が耐えられず、下手すればバラバラになっていたかもしれないということだ。
そしてそれを指摘されたシルバはというと、顔を真っ青にしていた。
「じゃ、じゃあ、いくらガンプラを丈夫に作っても……」
「リミッターが外れるわけだからね。今よりかは少しもっても、すぐに同じような状態になるかもしれない」
「じゃあ、オレは……オーディスティニーはどうしたらいいんだよ」
膝をつき、そのまま床に手をついて愕然とする。
散々エグトランザムに自信を持っていたのに、それが見事に打ち砕かれてしまった。
「はは……これじゃあ、あいつらが呆れるのも無理ねぇよ」
その目から零れた涙がロビーの床を濡らした。
あの後、シルバは何も言わずにログアウトした。残されたユウ達も遅い時間になったのでログアウトをしてその日は終わった。
翌日、ユウ達はシルバのことが気になりつつも、早くフォースを結成したいというナミの要望でミッションを探していた。
「ほうほう、この【ガンタンクの死守】なんかいいんじゃない? 多分、08小隊がモデルだろうし……てぇ、これ4人以上推奨ってあるよ! フォース用でもないのにこんなのってボッチプレイヤーが泣くじゃない」
せめてソロプレイヤーと言ってくれ、とユウは心の中で嘆息した。
そんな折、明らかにこちらに向けて言ってくる者がいた。
「人数不足なら手伝ってやってもいいぜ!」
シルバだった。
そこには昨日、ログアウトする前の顔はない。最初に出会った頃の自信に溢れた顔をしている。
「え~。どうせ開幕エグトランザムでぶっ壊れるんでしょ? 頭数のうちに入らないわよ」
「それはどうかな? なにせこのシルバ。今日でエグトランザムを封印するからだ!」
これには一同、驚きを隠せなかった。あれだけシルバが拘っていたシステムを封印するというのだから、昨日の出来事で何かしら心にきたのだろう。
「ま、それなら開幕自爆ってのはないわね。一緒にミッションに参加してもいいわよ!」
「おいこら! せっかくこっちが参加してやろうっていうのにその態度は頂けねぇな!」
「どうせフォースを追放されたからアタシたちが立ち上げるフォースに入りたいんでしょ! いいわよ、入れてあ・げ・て・も」
「む・か・つ・く!」
口ではあぁ言ってるが、いざフォースを立ち上げたらナミはシルバを歓迎するだろう。そしてシルバもまた口には出さないが、フォースに……というより、ユウ達の仲間になりたいのだろう。
2人の口喧嘩はしばらく続きそうだが、それもいつか過去のものになり、時折思い出しては軽口を叩けるような仲になるだろう。
「だいたいまだ勝負はついてないからな! 白黒はっきりつけるまで逃がさねぇぞ!」
「うっわ気持ち悪っ! 皆さーん、ここにストーカーがいますよ~。気を付けてくださ~い」
「て、てめぇ! なんつー誤解を! いや、マジで違うからね。そんな目で見るなぁぁぁ!」
何か頭痛の種が増えたような気持ちが強くなったユウとレナであった。