Angel Beats! 「死後の世界のあり方」   作:Chelia

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☆注意書き☆

今回のお話ではオリキャラが大量に登場します。
それでもいいよ!って方のみこの先へお進みください。

最新話の方お待たせしました!
早速オペレーション・スタート!



新たな敵『新制生徒会』

☆体育館☆

 

時はゆりたちが校長室に再奪取に成功した時まで巻き戻る。

岩沢達ガルデモメンバーは第3話の発案のとおり、自分たちの存在をゆりたちSSSメンバーに伝えるため(という名目で実際は岩沢が楽器を弾きたいだけ)

このまま体育館でライブをすることとなり、その準備を進めていた。

幸い前回消えるまで使用していた自分たちの楽器はすべて残っており、最も厄介な入江のドラムの設置まで完了すると、メンバーはようやく一息つく。

 

「始める前に少し休憩してからにしませんか?私、飲み物買ってきますので・・・」

 

と入江。

皆それに賛同し、関根同伴で二人は自動販売機へ向かった。

 

「なら、待ってる間に前回の話をしとくよ。あたしも最後まで残ってたわけじゃないけど音無から大体の考えは聞いてる。予想が間違っていなかったなら、最終的にはこういう流れで終わっていたはずなんだ。」

 

ひさ子は岩沢に、前回岩沢が消えてから自分が消えるまで、自分たちの身に起こった出来事を話した。

いなくなった岩沢の枠にユイという少女が入り、ガルデモは継続。

新曲を出しつつSSSの陽動班としてライブを続けたこと。

この世界は生前をまともに過ごせなかった高校生の生徒が集められ、その心残りを埋めることで現世に成仏という名の転生をすること。

(なお、現世に成仏できることは前回死後の世界にいたときはわからなかったが、今回再びこの世界に自分たちが戻ってくるまでは現世にいたこと、またその記憶を引き継いでいることからくる実体験である。)

そして、みんなを現世に戻そうと働きかけ行動したのが音無と天使こと立華かなでであること。

この世界に長くいすぎたためなのか、原因は最後まで判明しなかったが、捕食した人間をNPCに変えてしまう影が現れたことなどなど。

ひさ子、関根、入江の3人はこの段階で現世に成仏したため、考えられるのは影に全員捕食されるか、音無がみんなを成仏させるかの2択だが、ひさ子の予想では後者が正しいと確信している。

そんな話をしているうちにいつの間にか入江と関根が戻ってきており、ひさ子の話を一緒に聞いていた。

 

「前回のお話ですね・・・色々大変でしたよねえ・・・」

 

「なるほど、私が消えてからそんなことがあったのか・・・新人のイメージしかなかった記憶無し男がそこまでね・・・」

 

「ま、そういうこった。だから正直、ガルデモメンバー全員揃ってここに戻ってきたのがあたしは未だに信じられない。」

 

「特に私とひさ子はゆりたちがSSSを立ち上げる前からこの世界にいた超古参メンバーだが、ひさ子の話に出てきた超イレギュラーの連続なんてとてもじゃないが経験したことないしな。私としてはこの世界がどういかいうより、そのユイって子が気になるけど。まさか私が昔、ひっそりとストリートライブ見に行ってた子が、次期ガルデモのボーカル&ギターをやってたなんてさ。」

 

「さっすが岩沢先輩!自分の命が危険に晒される可能性ガン無視で相っ変わらず音楽のことしか考えてないアホですね!!」

 

「てめえは少しは岩沢をみ・な・ら・えっ!仮にも先輩だろーが!!」

 

とひさ子が関根の頭を両拳でグリグリし、関根が痛いですー><と涙目になるところまでは最早ガルデモ恒例の行事である。

そんなこんなでガルデモ同士での情報交換会もすんだところでいよいよゲリラライブの始まりだ!

しかし、狼煙とは味方へ知らせる合図であると同時に、敵にも同じ情報を与えてしまう諸刃の剣である。

この安直な考えが、今後SSSメンバーを重大な危険に晒してしまうことを、今は誰も知らないのであった。

 

☆生徒会室☆

 

ガルデモのライブが始まった。

この世界へ舞い戻り、最初の1曲目はCrow Song。

その歌声を聞き、NPCを中心とした多くのメンバーが集まりだす。

もはや教師でも止めることはできないこの観客の声援。

以前は天使ことかなでが止めようとしていたが、そのかなでも今やこの世界に戻っているかどうか不明だし、戻っていたとしてもゆりたち戦線メンバーとは和解している。

これではやりたい放題ではないか!

・・・となればいいのだが、世の中そう上手くは行かないようだ。

たとえそれが、死後の世界であったとしても。

 

「・・・いよいよ始まったわね。ようやく私たちの時代が始まるわ。」

 

「俺達はそのために集められた、この世界で最強と言っても過言ではない精鋭部隊で構成された新制生徒会。その力は、一方的な暴力となる。」

 

「生徒会長の敵は俺の敵。命令に従い斬り捨てるだけだ。」

 

「僕も頑張るよ、この世界は好き放題暴れていい場所なんかじゃない。」

 

「だりぃ・・・面倒なのはごめんなんだが・・・」

 

「ふん、神である僕の力。貴様らとともに使わなければいけないのは非常に不本意だが、あのお方のためなら本望だ。」

 

この世界でゆりたちが無事成仏した後のお話。

この世界の根幹に関わる証拠物については当然消去されるのが基本だが、何にでも穴や抜け道は存在する。

神に抗い何十年とその歴史を作ってきた死んだ世界戦線と天使の抗争は、その記憶と記録から後世に語り継がれてきた。

この世界は、青春時代をまともに過ごせなかった少年少女に満足してもらうための世界。

つまり、この世界にとって死んだ世界戦線のように維持することを目的とした組織は絶対に存在してはならないのである。

そんな組織や集団を二度と作らないようにすべく、この世界の生徒で最も知略、戦闘力に長けたメンバーのみで構成し、最早最強と化した6人の集団が生徒会室に集まり牙を研ぎすませていた。

それが、立華かなでがいなくなった後の生徒会『新制生徒会』なのである。

 

☆校長室☆

 

ガルデモのライブが始まった。

この世界へ舞い戻り、最初の1曲目はCrow Song。

その歌声を聞き、NPCを中心とした多くのメンバーが集まりだす。

校内響き渡る他者を魅了する歌声は、当然SSSをの新拠点(再拠点?)である校長室にも届いていた。

 

「ん、これ、ガルデモのライブじゃねえかゆりっぺ!?」

 

「そう・・・ボーカルは岩沢さんね。彼女たちも戻っていたのね。」

 

「ねね!早く行こうよ!僕もう待ちきれない!」

 

大山が言う。

確かに、天使をおびき出す以外の目的でちゃんとガルデモのライブを聞いたことなんてあったかどうか覚えてもいないレベルだ。

 

「そうね、たまにはそういうライブもいいかもしれないわ」

 

「ゆりっぺのやつ随分と丸くなったじゃないか、これもかなでty・・・ぶふーっ!?」

 

「とにかく!!今は特に新しいオペレーションはないわ。各自ライブを見に行って、終わり次第ガルデモと接触するわよ!」

 

ゆりに殴り飛ばされ、壁に頭をめり込ませている日向を放置しメンバーは各々体育館へと向かっていった。

この茶番劇も最早恒例行事といえば恒例行事である・・・

 

☆体育館☆

 

場所は再び体育館へ。

音を聞きつけギャラリーは次々と増える一方。

しばらくぶりのライブというのもあってその勢いは止まることを知らず、2曲目のHot Meal、3曲目のAlchemyへと差し掛かる頃には観客はマンモス校用の巨大体育館を満員へと埋め尽くされていた。

ガルデモだー!いいぞー!など、NPCの歓声が聞こえてくる中、邪魔をされないライブはさらなる盛り上がりを見せ、最高潮まで達していた。

思いっきり曲を演奏できる嬉しさ反面、ユイの姿が見えないことや、オペレーションではないので遊佐の指示が飛んでこないところなんかは少し寂しくもある。

Alchemyの演奏が終わろうかという段階でひさ子がSSSメンバーを発見したため、物足りなさはあるがライブは終了となった。

ライブ後、ステージ裏で岩沢たちとゆりたちが再会を果たす。

 

「岩沢さん久しぶりね!そちらは揃ってるようで安心したわ。」

 

「そっちも相変わらずだな。ライブをすれば気づいてくれると思っていたさ。とりあえず情報交換でもしようか。」

 

ここで再び、成仏後の情報交換などが行われた。

 

「なるほど、校長室の再奪取は完了、幹部で存在が確認できないのは音無、直井、ユイの3人か。」

 

一通り話を聞き終えた後、ひさ子が要点をまとめる。

ゆりとしてはガルデモ方面でもユイの存在が確認できなかったのは意外だったようだ。

 

「となると、たまたま見つかっているだけであって、必ずしも全員転生したとは限らない可能性も出てくるわけね・・・」

 

ゆりがその考えに至ったのもつかの間、血相を変えた藤巻と大山が駆け込んできた。

 

「やべえぜゆりっぺ!何かやばいのが来た!!」

 

「・・・うるさいわね。今は取り込み中よ。」

 

「ホントなんだよゆりっぺ!武装した集団がこっちに向かってきてるんだ!その中には・・・その・・・」

 

藤巻のアホ説明に大山も補足するが、最後の方は言いにくいのか口ごもってしまった。

天使不在の今、武装していて且つ集団。

その情報だけで、ゆりは新たな敵がこちらに歯向かってきたことを察する。

 

「とにかく、一度本部へ戻るわよ!男共はガルデモの安全を最優先!」

 

「あ、あの・・・私のドラム・・・」

 

言いにくそうな顔でおどおどしながら入江がおずおずと手を挙げる。

新たな敵がどういう相手か分からない以上、ミュージシャンの命とも言える楽器を放置したまま逃げることは入江だけではなく、全てのガルデモメンバーは反対のようだ。

他のメンバーはギターまたはベースのみであり、アンプは予備があるため問題ないが、入江のドラムだけはどうにもならない。

華奢な女の子1人で運ぶのは不可能な話だった。

 

「楽器は今後のオペレーションでも必須になるし仕方ないわ、ここは二手に別れましょう。日向くん、大山くんは入江さんの手伝い、藤巻くん、野田くん、椎名さんは私と一緒に来て!ガルデモメンバーが逃げる間、敵の注意を引きつけるわよ!」

 

遊佐、松下、高松、竹山はギルド方面での作業に出ていることから、メンバー編成はこのようになった。

陽動及び迎撃部隊となった4人は敵の注意を引きつけるため、敢えて体育館の正面から打って出る。

周りのNPCはライブが終わっているため閑散としており、残っているNPCも武装集団の姿を見た瞬間逃げ出して行った。

 

☆体育館前☆

 

体育館から外に出ると、ぱっと見敵らしい敵は見つからない。

ならそれはそれで問題ない。

こちらとしては校長室へ戻ってしまえさえすれば勝ちなのだ。

そう考え、そのように指示を出そうとすると、注意していたはずにも関わらず四方八方から声をかけられた。

 

「そこまでよ!」

 

正面から、ゆりと同じくらいの体格の少女が姿を現した。

肩にかかるくらいの緋色のセミロングヘアーに新緑の瞳、模範生の制服を身に纏い武装は特になかった。

そんな彼女から予想できたようなできなかったような、そんな言葉を浴びせられた。

 

「私は新制生徒会・生徒会長の花園華蓮(はなぞのかれん)。貴方方死んだ世界戦線を拘束します!」

 

北東方面からはロングストレートヘアの男性が姿を現した。

少し色の抜けた黒髪で黒目、身長は170センチほどだろうか・・・

かなりガラの悪い目つきでこちらを睨んでおり、会長同様模範生の制服を着ている。

手には日本刀が握られていてすでに抜刀済み、剣先は戦線メンバーへと向けられていた。

 

「生徒会副会長の三条彰(さんじょうあきら)だ。会長の命令が聞けないやつは容赦なく斬り捨てる。」

 

北西方面からは青年が姿を現した。

この青年だけが、新制生徒会の中で唯一異質な雰囲気を醸し出している。

身長は180センチを越える長身で、銀髪の長い髪をワイルドポニーという独特の髪型でまとめ、右目は前髪によって完全に隠れている。

左目は真紅の瞳だが、右目は見えないので想像のしようがない。

義眼やオッドアイなど、実は特別な設定がありましたとか言われたら、あ、そうですかと言ってしまいそうな痛々しい外見この上ない。

生徒会と名乗るからには真面目なのだとは思うが、メンバーの中で唯一私服を着ている。

悪役が好んで着そうな真っ黒な黒衣を着ており、直接武器は持っていないが、一切隙を見つけることができない。

そんな気味の悪い青年だった。

 

「同じく副会長の鉤爪龍(かぎつめりゅう)だ。戦いはあまり好きではないが、会長の命令とあればやらせてもらうよ。」

 

南東方面からは少年が姿を現す。

この少年が一番説明しやすいかもしれない。

なんというか、外見が大山のそっくりさんなのだ。

違うところといえば、模範生の制服を着ていて髪が黒髪であることくらい。

おそらく、横に二人並べてぱっと見で判断しろと言われれば判断がつかないであろうそんな少年だ。

 

「生徒会書記の中務雅(なかつかさみやび)です。特徴がないのが特徴って笑われたりもするけど、こう見えて僕、結構強いですから!」

 

最後に南西方面から現れたのは、音無に諭され仲が良かったかと言われればそうでもないかもしれないが、かつて戦線メンバーの仲間だった男がそこにはいた。

 

「生徒会会計の直井文人(なおいあやと)です。貴様らは神である僕に消される。それはあの方が決めた変えられない運命だ。」

 

「・・・敵が出できたと思ったら、まさか直井くんとこんな形で再会になるとはね・・・」

 

椎名がいたにも関わらず、自分たち4人を完全包囲してくるような『新制生徒会』と名乗る集団。

その5人のメンバーを見る限り、武器を持っているのは彰と名乗った副会長だけだが、ゆりが長年戦い続けてきた経験を持ってしても、冷や汗と恐怖という心身の両方からここは逃げろという警笛が鳴っている。

しかし、他のメンバーがいる以上そんな真似はできないし、第一ここでこの生徒会共を足止めできなければ岩沢たちガルデモメンバーに危害が及び可能性が十分すぎるほどある。

 

「さあ、武器を捨てておとなしく投降しなさい!」

 

「へぇ・・・こちらのことを知っているようだけど、随分と大きく出たのね。私たちを知っているのなら、はい、そうですか。って素直に従う組織じゃないのも織り込み済みなんじゃなくて?

武器の数ならこっちの方が上だしね!」

 

華蓮とゆりが正面切って会話という名の前哨戦を始める。

対する戦線メンバーは、野田がハルバート、椎名がクナイを持っている。

さらに、前回はなかったが自分で創作したのか、藤巻も長ドスを持っている。

ゆりは武器を所持していないが、近接格闘にもそれなりの自信がある。

直井の催眠術は厄介であり、人数でも劣っているがそこまで劣勢ではないだろう。

相手の戦闘能力が未知数である以上、視覚情報で得られるのはそれくらい。

それを踏まえてゆりは上記の言葉を返したのだ。

だが、その前哨戦など問答無用と言わんばかりに華蓮はすぐに打って出た。

 

「聞いていたとおりのでかい態度ね。なら、実力で分からせてあげるわ!全員拘束しなさい!」

 

華蓮の指示で生徒会メンバーが一斉に襲い掛かってくる。

 

まず、刀持ちの彰には椎名が挑む。

続いて、野田は逆に先手を取って龍に斬りかかった。

藤巻は直井と対峙するが、直井の催眠術に対抗する手段がない以上おそらく長くは持たないだろう。

華蓮はすぐには手を出さないのか、手を出すまでもないと思っているのか攻撃してきていない。

そしてゆりの前には大山そっくりの雅が立っている。

 

「あなたに直接恨みはないけど、会長のために頑張らせてもらうよ!格闘には格闘ってね!」

 

「はぁ・・・私、あなたに似てる仲間を持っているけど、正直負ける気がしないわね・・・ ま、来るっていうなら容赦はしないけどっ!!」

 

先手を取ったのはゆり。

速攻をかけて蹴りをかます。

会長と名乗るのあれば、この中では紅一点とは言え、一番強いのはおそらく華蓮だろう。

数の上でも劣勢であるならば、長々戦っているほどの余裕はない。

蹴りの狙いは腹部。

一発のノックアウトで終わらせる・・・そのつもりだった。

 

「やだなあ、女の子が蹴りなんて軽々放つものじゃないよ?」

 

「うそ・・・」

 

雅はゆりの蹴りを両手でガッチリと受け止めていた。

そしてそのままゆりを持ち上げ、頭からコンクリートの地面に叩きつけようとしてくる。

体術にかなりの自身があるのか、見かけによらずパワーがあるようだ。

逆にこっちが一発ノックアウトを食らうと判断したゆりは強引に身体を捻り拘束を解くと着地し、一旦バックステップで距離を取る。

そして思わずこう呟いてしまった。

 

「大山くんの上位互換じゃん!!」

 

・・・大山が聞いたら泣くぞそれ。

 

「あはは、誰のことかよくわからないけどお褒めに預かり光栄だよ。僕、体術には結構自身があってね。他の得意分野は勉強とお茶入れかな。」

 

「それ以外は地味!!中身までそっくりさんじゃん!!・・・って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。」

 

大山のように終始ニコニコしながら会話をしてくるため、思わずペースを崩しそうになるが、今はそんな馬鹿話をしている場合ではない。

銃があればとも考えたが、ないものをねだっても仕方がない。

他のメンバーも、各々撃退してくれるとは思っていないので、ここは自分が頑張らなければいけない。

重い一撃を受け止められるのなら小技の連続技で叩き潰すまで!

ジャブ、ジャブ、ストレート。

今度はボクシングを中心とし、蹴りや投技を混ぜ込んだ完全我流の連続技で攻めに出るが、雅はそれを一つ一つ丁寧にいなしていく。

体術だけで言えば、ゆりと雅は互角の実力のようだ。

 

「さすが戦線のリーダーだね。防ぐことはできるけど、こんなに叩き込まれたら僕じゃ反撃できないよ。」

 

「決めきれないか・・・ でも、これで私に勝てないって分かったでしょ?貴方の会長を一発ぶん殴るから、そこをどいてくれない?」

 

「それはちょっと早まり過ぎじゃないかなあ・・・ 戦ってるのは僕達だけじゃない。貴女は確かに強いけど、他はどうかな?」

 

自身の戦いに夢中になり、ハッと周りを見渡すゆり。

彰と椎名の戦いは終わっていないようだが、若干椎名が押されているようにも見える。

リーチの差でクナイが不利なためだろうか。

機動性では流石に椎名に分があるようだが、致命傷となる攻撃は完璧に彰にかわされてしまっている。

野田はいつの間にやられたのか地面に伸びており、そのハルバートは龍の手に握られていた。

アホだ。

藤巻は早々に催眠術をかけられたのであろうしゃがみこんで地面に人差し指で何やら落書きをしている。

・・・アホだ。

相手の男はこれだけ強いのにうちの男どもときたらと下唇を噛むゆり。

気づけば5VS4から5VS2の絶体絶命に追い込まれていた。

しかも片方は均衡、片方はやや劣勢。

さらには全方位を取られており、逃げ場はない。

 

「くっ・・・こうなったら!」

 

ギルドからの追加物資及び増援があれば一発逆転が可能。

遊佐がどの程度まで作業を進めているかは半ば賭けだが、ゆりは遊佐にインカムで連絡を取ろうとする。

 

「もう・・・しわけ、ありません・・・ こちらも狙撃手に完全補足され、身動きが・・・」

 

インカムからは疲弊しきってハァハァと荒い呼吸をする遊佐の吐息と、支援できないという回答が返ってきた。

おそらく、敵に見つかって相当走ったのであろう、息を整えている余裕もないようだ。

心の中で舌打ちするゆりに対し、そのインカムからは遊佐ではない男の声が聞こえてきた。

 

「生徒会会計の檻宮駆(おりみやかける)だ。面倒事は好きじゃなくてな。君のところのオペレーターを無事に帰す代わりに投降してくれないか?だるくて・・・」

 

全員拘束って言ってるのに帰すわけないだろうと心の中で突っ込む。

遊佐まで人質にされてしまっては、状況は最悪の状況となってしまった。

 

「期待の増援も絶たれ、打つ手なしってところかしら?これで分かったでしょう?貴方たち程度、私たちの『相手にすらならない』ってことが。」

 

そこまで計算ずくなのか、華蓮が煽ってくるかのような笑みを浮かべ、上記の言葉を発してくる。

まさしくそのとおりであり、返す言葉がなくなってしまったゆりに椎名がどうにか接近し、提案をした。

 

「ゆり、ここは撤退を。男を1人担いでくれれば私がなんとかする。」

 

椎名も焦っているのだろう、あさはかなり以外のセリフなんて久々に聞いた気がする。

撤退って言われてもどうやって?

全方位を塞がれているこの状況で強行突破?

だとしても、ここで私が捕まれば戦線の維持はおそらく難しくなる。

仮にこちらが逃げ切れたとして、別位置で捕まった遊佐はどうする?見捨てる?

様々な思考を同時に処理していく。

頭が割れそうに痛い。

だがそんなとき、ゆりは以前かなでのことについて、遊佐に相談したことを思い出した。

 

(遊佐さんは私が思っているよりかなり頭が切れるし、状況を判断して行動できる戦線メンバーで数少ないアホじゃないメンバーの1人。

遊佐さんには申し訳ないけれど、ここは一か八か賭けるしかないかしらね。)

 

結果的に遊佐を見捨てるということにはなるが、遊佐が現状どこにいるかわからない以上、仮に優勢でも援護に行くことは難しい。

そして、指示を出さずともギルドの復興をしたり、かなでの話をしたときなどの遊佐の冷静な分析力。

それを持ってすれば、もしかしたら自力で状況を打破してくれるのではないか?

そんな都合のいい自己解釈に吐き気を催しながらも、それ以外に方法がないのならとゆりは『決断』した。

 

「椎名さん、お願い。」

 

そういって藤巻を強制的に気絶させ、担ぎ上げるゆり。

 

「あさはかなりー!!」

 

やっぱりそれなのか、椎名がわけのわからないアホセリフを叫んだかと思うと、隠し持っていた煙玉を複数個投げ、野田を担ぐ。

更に華蓮に対し、持っていたクナイを全て同時投擲。

そうなれば、武器持ちの人間が華蓮を助けるしかなくなる。

案の定、彰が華蓮のカバーに入り、日本刀でクナイを全て弾き落とした。

そうすることによって、完全包囲されていた空間の中で、彰が守っていた北東方面ががら空きとなる。

そこまでくればわざわざ説明されずともゆりには状況が把握できた。

椎名とともにその唯一の穴に全力でダッシュし、そのまま駆け抜ける。

 

「逃がすか、私たちが本気を出せば・・・!」

 

「やめておくんだ華蓮。ここは深追いをする場面ではない。」

 

「てめえ、会長の命令に従わないっていうのか!」

 

どうやら新制生徒会も1枚岩ではないのか、龍と彰が揉めだした。

その僅かな隙ですら今は好機。

ゆりと椎名は逃走に成功するのであった。

 

「待って彰。深追いをしない理由を聞かせて、龍。」

 

「今回は確かに目的は彼女たち全員の捕縛だが、それはベターな選択肢であってベストではない。俺達の目的は死んだ世界戦線を壊滅に追いやること。捕縛しても成仏には繋がらない。1度目は牽制し、それで彼女たちが己の危機を察し、自分たちで勝手に成仏してくれたほうがこちらとしては儲けものだということだよ。」

 

「・・・なるほど、流石うちの頭脳ね。ここは撤収よ!」

 

「チッ・・・」

 

龍の意見が通ったのか、新制生徒会がこの時、さらに追手をかけるというようなことはなかった。

彰は最後まで納得がいかなかったのか、舌打ちをしながら生徒会室へ戻っていった。

 

こうして、死んだ世界戦線は復帰して間もなく、かつて経験したことがないような、組織的な大敗北を経験することなった。

 




新制生徒会キャラクター紹介
死後の世界の生徒会は下記の7名で構成されており、本作品では直井を除く全員がオリキャラとなります。
7話では、そのメンバーが一気に登場したため分かりにくかった方がほとんどかと思いますので、ここで各キャラクターの簡単なプロフィールを公開させていただきます。
ただ、基本情報以外は全てネタバレになってしまいますので、その点については後日追記するか、新たに場を設けて再度紹介するかは検討中となっています。
よろしくお願いします!

生徒会長

花園華蓮(はなぞのかれん)(女)
身長:162
体重:乙女の秘密☆
スリーサイズ:だから秘密だっつーの!!(カップ数はC)
髪型及び瞳:緋色のセミロング、新緑の瞳
使用武器:???
特殊能力:???
キャラクター紹介:
ゆりやかなでたちが卒業した数年後、新たに結成された生徒会「新制生徒会」の生徒会長。
現在紹介されている生徒会メンバーの中では唯一の女性であるが、本人がおてんば娘なところもあり、あまり気にはしていない模様。
死んだ世界戦線のことについて、理屈としては理解できるが賛同はしないという考え方を持つ。
規律を重視する性格で融通はあまり効かないが、自分より良い案や策だと認めた場合には素直に受け入れる一面もある。
特に龍に対する態度がそうであり、彰には龍に気があるのではないかと誤解されている。
また、かなでに対しては最初は立派な生徒会長だと崇拝していたものの、後にテストで全教科0点を取ったり(ゆりのせい)、会長を辞めたり(ゆりのせい)、学食で時間外に食事をしたり(音無のせい)エンジェルプレイヤーで飾りなどという遊び道具を作ったり(音無のせい)などと、とても生徒の模範とは思えない不良娘に転換したことを知り、自分はそんなふざけた会長にはならないと一方的にかなでを嫌っている。
生前:
とあるお嬢様学校で生徒会長を務めていた。
勉強は中の中だったが、規律を重視し、各生徒の模範となれるよう行動していたが、そんな彼女をうざいと思った不良生徒に罠に嵌められて人為的な交通事故に巻き込まれて死んでしまう。


生徒会副会長

三条彰(さんじょうあきら)(男)
身長:176
体重:75
髪型及び瞳:少し色の抜けた黒のロングストレート、瞳は黒。
使用武器:日本刀
特殊能力:無し
キャラクター紹介:
蒔岡流剣術という剣術の使い手でその道場の元門下生。
蒔岡流剣術は今や禁じ手とされる実剣で人を殺すことを目的とした剣術であり、その力を好き勝手振るい、人を殺しすぎたことで道場を破門となる。
その後は各地を放浪としていたが、金を持て余し、人生の娯楽に飢えた観客たちを楽しませるために、その運営が仕組んだゲームに参加させられそこで命を落とす。
死後の世界に来てからも相当荒れていたが、華蓮と出会い、生きることの大切さを教えられ改心する。
それでも消えないのは、彼が生前に犯し続けてきた過ちをこの生徒会できちんと償いきってからという彼なりの信念のため。
そんな経緯から華蓮に片思いをしており、事あるごとに華蓮に意見し、且つ華蓮を納得させてしまう龍を嫌っている。
華蓮のために働き、華蓮以外の指示には従わない。そういう意味ではゆりっぺを崇拝する野田に似ているのかもしれない。
生前:
キャラクター紹介に含む。
補足すると、生前の彼には姉がおり、姉は彰と違い、同じ蒔岡流道場の門下生であるが、礼儀を重んじる気高き武士の鏡だった。
そんな姉もまた、拉致され、ゲームに参加させられて命を落とした。
彰は姉の復讐を誓い、ゲームに参加させられたとはいえ、半分は自分の意思でゲームに参加したとも言える。
なので、時系列的には姉の死→彰の死となる。


生徒会副会長

鉤爪龍(かぎつめりゅう)(男)
身長:184
体重:70
髪型及び瞳:銀髪のワイルドポニー、真紅の瞳。
使用武器:???
特殊能力:???
キャラクター紹介:
生徒会の頭脳の要。
新制生徒会は一人一人がそれぞれ意思を持ち、単独で行動することはできるが、彼は戦闘能力はもちろんのこと、頭脳面でかなり秀でており、推定IQは200を越えると言われている。
そのため、作戦を考えるのは大抵龍であり、修正や変更の必要性が生じれば唯一生徒会メンバーの中で華蓮に意見する。
そのせいか、彰からはかなり嫌われている模様。
また、本人は自称戦闘嫌いということで、本当に必要がなければあまり前戦には立ちたがらない。
外見もかなり特徴的で、180センチを越える長身の他、独特の髪型、そして黒衣の私服は周りから見ても相当な異常者であることは明白。
特に服装については、当時は華蓮からもかなり指摘されているが、その他の面で相当な働き・活躍を見せることにより、他の生徒会メンバー、それを越えNPCの教師にまで反論させない功績を作ってしまうほど。
生徒会以外では、人望のある人間や頭脳派の人間など、優秀な人間に興味があるようで、該当すれば戦線メンバーやRewriteメンバーにも無断で接触をする。
生前:
???


書記

中務雅(ナカツカサ ミヤビ)男
身長:160
体重:52
スリーサイズ:UNKNOWN
髪型及び瞳:黒髪黒目
使用武器:無し
特殊能力:無し
キャラクター紹介:
特徴がないのが特徴というどこかで聞いたようなフレーズ。
外見もそっくりであり、作中で述べたように髪を染めさせて隣に立たせれば恐らく見分けがつかないほどのそっくりさん。
しかし、ちゃんと別人であり、本家大○くんとは生きてきた境遇も違う。
近接格闘戦術が得意であり、柔道や空手、CQCなどありとあらゆる格闘戦術を盛り込んだその力は戦線リーダーのゆりとも互角に渡り合う。
最も得意な格闘技はボクシングで、その他の得意分野は勉強とお茶入れ。
生前:
普通の学生といえばそうだが、小学校の頃からずっといじめられてきた少年。
そんな自分に嫌気がさし、強くなりたいと願い中学校からボクシングを始める。
動機は単純だが、やってみると意外と本人とあっていて、体格などで格上の相手も倒してしまうほどに成長した。
そんなある日、街中でカツアゲをされていた子供を発見し、犯人を得意のボクシングでボコボコにするも、その犯人が暴力団の一員。
組に目をつけられて拉致されてしまい、殴る蹴るの暴行を受けた後、薬漬けにされて死亡してしまう。


書記

空席


会計

檻宮駆(おりみやかける)(男)
身長:174
体重:65
髪型及び瞳:青髪のミディアムで瞳は右目が金、左目が青のオッドアイで右目に眼帯をつけている。
使用武器:DSR-1、BLASER R93、ワルサーWA2000、Beretta92FS、ダガーナイフ、手榴弾、フラッシュグレネード、スモークグレネード、ポイズングレネード、注射器、アタッシュケース
特殊能力:future vision(詳細についてはおって)
キャラクター紹介:
他人に干渉することを嫌う極度の面倒くさがり屋。
口癖は「だるい」や「面倒事は嫌いなんだが・・・」等
死後の世界に来てろくに授業にも出ず、自堕落な生活を送っていたところを華蓮に見つかり徹底指導され、半ば強制的に生徒会メンバーとされ今に至る。
戦闘面については指導の必要もなく卓越しており、基本的に武器を使用して戦う人間が少ない生徒会メンバーの中で武器の特徴や種類に詳しく、大量の武器をアタッシュケースやギターケースに入れて持ち歩く。
狙撃手であり、対物/対人であれば対人狙撃の方が得意という相当な変わり者。
本人曰く、頭という弱点箇所が明確であれば、わざわざ対物のように有効箇所を探すのが面倒くさくなくて良いとのこと。
戦闘にせよ、私生活にせよ、何事も面倒の一言で片付けてしまう彼も、彼女と出会うことによって変わることとなる・・・?
生前:
殺し屋。
特に狙撃での暗殺を専門としており、その技術は生前で培ったもの。
眼帯をしていても距離2000メートルオーバーで一発も外したことのない気持ち悪いほどのその腕は、所属していた組織内でも大きな評価を得ていた。
しかし、とある任務で対象以外の人間を誤射し、たった1度の失敗で組織を追放される。
その後、殺害された人間の関係者と思われる人物に復讐され、逆暗殺により死亡。


会計

直井文人(ナオイ アヤト)
身長:UNKNOWN
体重:UNKNOWN
髪型及び瞳:緑髪に黄色の瞳、学生帽を常に被っている。
使用武器:無し
特殊能力:催眠術
対象者に自分の目を直接見させることより、自分が発した言葉通りの暗示をかけることができる。
直接相手の目を見なければならない弱点はあるが、それ以外にはデメリットが全くない能力のため、その強さはチート級と言っても過言ではない。
催眠術を発動させる際には、自分の瞳が赤に変わるという特徴がある。
キャラクター紹介:
新制生徒会メンバーの中で唯一ゆりたちがいた頃に存在している、いわば華蓮たちの先輩。
だが、年をとらないので世界なので外見や実年齢に変化はなく、本人の性格もあってか、生徒会メンバーの誰からも敬われてはいない。
本編通りに成仏を果たしたが、いつの間にかこの世界に戻ってきており、そのタイミングはゆりたちより圧倒的に早かった。
音無不在の今、戦線に味方する理由もなくなったことから、自らを神と呼称し、好き放題やっている。
また、直井自身も新制生徒会メンバーと馴れ合うつもりはないらしく、自らが崇拝する神のためだけに動いている様子が伺われるが、真相は不明。
生前:
陶芸の名士である父の下に生まれるが、才能豊かな双子の兄・健人が跡取り候補となったため、誰からも期待されない毎日を送っていた。
しかし木登りの際に枝が折れ二人そろって落下、運悪く石の上に落ちた健人が死亡したことで健人と入れ替わり、父の下で周りに受け入れられるチャンスをつかむべく壮絶な修行を積むが、師である父が病に倒れたことで再びチャンスを失う。そのため、「自分の存在を誰かに認められること」が彼の行動原理になっていた。尚、死因は不明。(Wikiより抜粋)

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