こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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ジルベルトワールドシリーズ作中で結果的に一番の常識人であるクリス先輩登場
DiveX発売前だったから、こういうキャラで押し通しました。


スーパージルベルトワールド5-1

 鳳翔学園は閉鎖的であると言われると、比較対象を星修学園に求めれば確かにそうだろう。だが、エリートを育成するという思想に基づいた教育は自分には適してはいないとしても、効果は認めなければならないだろう。

 

 奨学制度がなく、膨大な入学金を考えればここに入れる生徒の家は最低でも中流以上で当然卒業後の付き合いも期待されるところであり、場合によっては将来の結婚相手が居たりするというケースも何例かはある。

 

 ちなみに星修の場合、セカンドであればほぼ入学可能であるし、奨学資金もあるので各地から才能に秀でた人間を集めやすい。どちらにも一長一短があるだろうが、ここにAI派やら反AI派やらの思想が入ってくるのが問題なのだと、『古くさい人間』の佐藤弘光は思っている。

 

 だが、ジルベール・ジルベルトは今までその考えを外に出したことはない。ノイはもちろん、チャットの面々にもだ。ツールであるなら捨てても構わないが、システムとなってしまっては変えることに長き時間を要する。反AI派は代替する何かを提案すべきなのだ。

 

 とまあ、なぜこのような考えに至っているのかというと、新学期早々こんなところにお呼ばれされているからである。

 

chapter5

学園生活 school Life

 

 

「で、なぜ私は会長室なんぞに呼ばれているのでしょうか会長」

 

「夏休みに大立ち回りをしてくれた後輩の顔を見たいと思いまして、それにあなたから私のところに来て下さったんじゃないかしら」

 

 鳳翔学園生徒会長室は生徒会室に隣接して備え付けられている。生徒会室もサロンのような様相を呈しているが、生徒会長室はまるで書斎のようだなとここに来るのは今日で4度目だがいつもながらに思うのだ。

 

 ウォルナット材のデスクの上に存在する端末だけがここがSF的な世界であることを主張するが、もしそれが無ければ、重厚的なこの部屋は俺が生きていた時代であると疑わないだろう。

 

「まさか、こういうのも何ですが、割といい男に映っていましたね俺」

 

 生徒会室の主である六条クリス先輩は俺が苦手としているタイプだった。俺の知るお嬢様と言えば桐島レインだが、先輩の場合、大企業の経営者という本格的なお嬢様で、レインが世間知らず気味であるのに対し、彼女は自分の容姿や立場の使い方を理解している人物だ。

 

『鳳翔の姫』などというあだ名が付いているが、俺からしてみれば女帝(エンプレス)だろうか。

 

 できれば関わり合いになりたくないのだが、向こうから呼び出されれば出ざるを得ない状況に追い込む手腕は見事としか言いようがない。

 

 ことの発端は夏の長期休暇が終わる直前に自宅に郵送された手紙と同封された写真だった。中には女性と一緒にいる俺の姿が。プールや食事の風景はまだいいのだが、どう考えても温泉に遠くから撮られたと思われる写真があり、体の部分こそぼやけているものの、一緒に入っていた人物が特定できるものだった。

 

 この先輩は不祥事を表に出すような人ではないから、呼び出すためのネタで、以後使わないにしても安心することはできないだろう。

 

 無意味な歓談が続き、いつまでも本題を切り出さないのでこちらから聞いてしまおうを口を開きかけたところで、彼女は聞き慣れた言葉を口にした。

 

「鳳翔の雛は未だ鳳ならず。されどいつか鳳となって旅立たん」

 

「ああ、鳳翔で唯一気に入っている教えです。もっとも、私は燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんのスズメとかカラス側なので理解できませんが」

 

「あら、ジルベール君は本気でそう思っているの? なら、今いる鳳翔の生徒のほとんどはまだ孵化前の雛になってしまうわ」

 

 彼女は基本的にビスクドールのようであるが、時折見せる優雅な微笑む。この微笑にどれだけの人間が騙されているだろうか。

 

「俺もあまりここに長居したくないので本題に入っていただけると助かるのですが」

 

「知っての通り、生徒会長としての任期が終わるわ。自我自賛をする訳ではないけれど、私の在任中は基本的に大過なく終わったと思ってます」

 

「大過なくですか……一部の跳ね返りの件はどうなるんですかね」

 

 主に暴力事件とか、レインと俺が知り合うきっかけとなったアレとか。後者はともかく前者は余所様を巻き込んだ問題だった気がする。

 

「あれくらいなら、もみ消せるわよ。その為の権力なんだし」

 

 いいとこの坊ちゃんが事件をもみ消すという話は生前もよく聞いた話だが、こちらでもあまり変わりはないようだ。問題はこの人が手を回している部分なのだが。

 

「ご存じの通り私の任期は今月で切れます。正確には引き継ぎとか、後見とかがありますので11月頃までは籍を置きますが権限は委譲しなければなりません」

 

「先輩なら、適当な後輩に禅譲として裏から糸を引っ張ればいいじゃないですか。先輩の為なら頑張る人が結構いると思いますよ」

 

 何しろ見た目は美人で、その凜とした表情は男女問わず人気がある。

 

「じゃあジルベルト君、やってくれる?」

 

「嫌ですよ。何を好きこのんで自分の人生の鳳翔色を強めなきゃならないのですか」

 

「即答するわね。会長になれば、寄付金からプールされている会計機密費使い放題なんだけど」

 

「確かに昨年の一時期は困窮しましたが、現在は生活をしていく上で困らないので、あまり有効な勧誘方法ではありませんね」

 

 それがどれくらいの金額になるのかは興味はあるが、使うことにはあまり興味がない。俺の態度に困ったわねと頭を抱えるそぶりをするかと思うと、手をポンと叩きとんでもないことを口にした

 

「では、今なら私の体をもれなく好きにできる権利というのはどうかしら」

 

 ノイ先生も同じようなことを言うが、この人も本気か冗談か分からないのが非常に困る。

 

 そして残念ながら俺にはそれを上手くかわす経験値が不足しており、仕方ないので引き出しから答えを出すことができない自分が恨めしい。

 

「会長、ストレスが溜まっているならカラオケ行きますか?」

 

「あら、彼女さんを連れて行かないで男女二人だと勘違いされそうだけど」

 

「言っておきますが、俺は誰とも付き合っていませんよ」

 

 さて、彼女とは誰を指していることやら。レインに関しては間違いなく美人であるし、スタイルもいいので食指が動かない訳ではないのだが、どうしても庇護欲が優先してしまう。真ちゃんは妹ポジションだし、ノイ先生は惜しむらくはスタイルが永遠に変化しない可能性が高すぎる。

 

「デートの約束については保留して、本題に入りましょう。こちらをどうぞ」

 

 差し出された紙──これだけ文明が発展しても重要なことは紙と筆記だったりする──の束に目を通す。

 

「デザイナーズチャイルドの犯罪率ですか?」

 

「デザイナーズチャイルドは生まれつき強固な肉体や優れた頭脳を持つけど、社会に適合できずに犯罪に手を染めてしまう方も残念ながらいます。社会に適合できないという意味ではセカンドでも一般人でも大差はないと思うけど、やっぱり目立ちますからね」

 

 デザイナーズチャイルドが本気を出して殺しにかかれば、義体化した人間ならともかく一般人など赤子の手をひねるような物だろう。もっとも、プロからしてみると雑といってもいいのだろうけど。

 

「それが教育によるものなのか、先天的なのかは今の所不明。だけど、おそらく10年以内に一定の結論を政府は出すはずよ。ジルベルト君はこの学校が政府から支援を受けているのは知っているわよね」

 

「ええ、実際、政府高官の子弟もいると思いますし」

 

 金持ち学校は基本的に寄付金がすごいのだが、政府からの

 

「私の考えでは現在の鳳翔の教育はいささか偏っていると思うの」

 

 それはまた大胆発言だ。正直言って鳳翔生であることを象徴しているような彼女からそういう言葉を聞くとは思わなかった。

 

「そこでジルベルト君に聞いてみたいのだけど、潜在的に鳳翔の教育方針を良しと思わない生徒が何割くらいいると思う?」

 

「3割から4割でしょうか。どうしてもここは競争社会の縮図ですし、親の地位とかも色々面倒ですから」

 

「つまり、それが潜在的なあなたの支持者といえるわね」

 

「仰る意味がよく分かりませんが」

 

 鳳翔にとって自分は変わりものであり、そもそも支持されるようなことをした記憶がまるでない。

 

「あなたが目立てば目立つほど現状に不満を持つ人間はあなたに期待する。気づいていないかもしれないけど、意外と人気あるのよあなた。全員がエリートで居続けれるわけじゃないし」

 

「あんまり余計な期待を背負わさないで欲しいですね。俺は自分の欲望に素直に生きたいので」

 

「他の生徒だってそう思っているはずよ。でも、お手本があるのと無いのでは意味が違うでしょ?」

 

 でも、俺をお手本にしているっぽいR.K.さんは最近、清純風お嬢様という当初のイメージからずいぶん逞しくなってきたのでそれを喜んでいいのかたしなめるところなのか悩むところである。もっとも、俺よりもノイ先生やら、行きつけの店の悪い大人たちの悪影響を受けて酷くなっているのではとは思わないでも無い。この間のことも含めて、いつか彼女の父親に会ったときに殺されるのではないかと戦々恐々としている今日この頃であり、今の所会う機会がなさそうなのは大変望ましいところだ。

 

「私から、ジルベルト君が積極的に何をして欲しいということはないわ。ただ、あなたが周囲に注目されるということは、鳳翔のジルベルトとして見られていることを頭の片隅に覚えておいて欲しいだけ」

 

 さて『鳳翔の』という言葉がついたジルベルトというのはどういうキャラなのだろうか。きっと、反AI的なことを掲げたり、星修というだけでケンカを売ったりする輩なのだと思う。そしてそういう輩が身近にいることも理解していた。

 

 そこから星修より優れた人材を輩出する方法など話合ったわけなのだが。

 

「星修と団体戦でシュミクラム戦で勝つってのはとても魅力的だと思うんだけど」

 

「一対一の一発勝負なら勝てる可能性がありますが、それは個人の技能であって、意味がありません。実際の軍事演習の形に落ち着くと思いますが、その際にうちが勝つ可能性は限りなく0です。それとも六条先輩と俺が無双しますか?」

 

「それでは本末転倒よね。私たちは天才を育てたい訳ではなく、使える人材が揃っていることを証明したいだけなのだから」

 

 六条クリス、こう見えても学園内のシュミクラムの総合成績一位である。

 

 指揮官適正、情報処理、個人戦闘全てにおいてトップクラス。正統派の人物で頭が切れるという時点で俺に勝ち目はない。しかし、星修には白い天使のような悪魔(俺命名)こと水無月真が存在しており、まともな武装している限り勝率は限りなく低い。

 

 

「ローマは一日にしてならずか。今月中には後継者を決めなければならないけど誰にしたらよいものだか」

 

「頑張って下さいとしかいいようがないですね。では、そろそろ失礼します」

 

 ドアを開けて出ようとする俺を呼び止めた彼女は、笑みを浮かべて俺にたずねる。

 

「デートの件ですけど正統派の映画館デートでも構いませんよ」

 

「それは、先輩の好きな人との為に取って置いてください」

 

 やっぱりこの先輩は疲れると思いながら酷く納得がいく答えを見つけることができた。

 

「姉貴にそっくりだからか」

 

 弟は姉に敵わないというシンプルな答え。

 

「ジルベルトさん」

 

「ああ、レインか。どうしたこんなところに」

 

「会長に呼び出されて何か言われたんですか?」

 

「話すとそれなりに長いが、要約すると、好き勝手やってもいいから自重しろというのと、デートのスケジュールを考えておけってところだろうか」

 

 こちらから提案した手前、断るのはとても恐ろしい。昔は目の前の少女を連れて行くところも一応の考慮をしたものだが、経済感覚的には庶民と大して変わらなかったので楽になっただろう。

 

「で、デートですか!?」

 

「そんな畏まった物じゃないけどな。時間ができればの話だし」

 

「でも、そんなことがしれたら大変ですね」

 

「レイン、俺は人生の中で彼女ほど完璧な人間を見たことが無い。その辺は適当にごまかすような女性なのさ」

 

 結論から言うと彼女との全く艶のない逢瀬その1はそれなりに問題になるのだが、当の二人はケロっとしたものだったとsinさんに話すとなぜか腹筋崩壊したようで、例のツンデレのお姉さんにごまかすのが大変だったとのこと。問題は艶とは無縁な逢瀬になるのだが、それはまた別の話である。




サブタイトルを入れるとしたら「鳳翔学園を救え!」

自由とは他のものから拘束・支配を受けないで、自己自身の本性に従うことをいう。
支配とは支配されている状況に自分の意志で従うことを良しと思わせることが理想である。
自由・自主・自立・自尊(というなの適当に生きる)のジルベルトと、うまく学園内を支配しているクリスさんの話。

ジルベルトワールド本編終わったらどちらを読みたいですか

  • 番外編→えせ救世主物語(DSクロス)
  • DIVEX(バルドスカイ本編再構成2)
  • ジルベルト系よりニラ小説書けよ
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