こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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スーパージルベルトワールド5-2

秋の澄み切った空の下、学園の門は多くの人たちで溢れかえっている。

 

「ジルベルトさんこちらです」

 

エスニック調の2WAYワンピースにサンダルという出で立ち。青いハートに十字パールの革ひもチョーカーが魅力を引き出していると思う。俺にとってはおなじみの桐島レイン嬢の服装はそれほど目立つ訳ではないのだが、やはり素材がいいと目立つのはやむを得ないのか、男性諸氏の注目を集めている。また、同時に俺に対する視線を感じるのだが、彼女の虫除けの役割を自認している身としては、今更気にすることでもない。

 

俺たちが今いるのは蔵浜の学園都市群。俺たちが通っている鳳翔とは駅を挟んで向こうにあるこちらはアークインダストリー社など最先端企業の研究機関が集まっており、俺がイメージする未来都市像に近いといえた。

 

そして星修学園。セカンドの総本山というイメージが強いのだが、実質セカンドの人間をパーセンテージにした場合6割ぐらいしかいない。セカンドが研究者になることはあっても研究者=セカンドではないのだから妥当な数字といえよう。もっとも、10年後にはほとんどの人がセカンドで占められる可能性もなくはないが。

 

そして、俺とレインは今星修学園の学園祭に来ていた。俺たちのシュミクラム戦の相棒であり、俺のエア妹でもある水無月真から招待を受けていたのでせっかくだからと来ることになった。本来ならノイ先生も一緒に来る予定だったのだが、20世紀の頃には人命奪っていた病を悉く対処した今際に於いても駆逐できなかった病にかかって動けなかったのだ。

 

「しかし、医者の不養生というけど、まさか風邪とはなあ」

 

「ノイ先生お手製のナノマシンで強制的に回復させることも考えていたようですが・・・」

 

「臨床試験を経ていないものにどれだけ信用があるのか不明だから、タマゴがゆ食べさせて寝かせといたよ」

 

ノイ先生はドクターの資格を持っている医者であり、収入的には医者と言い張っても構わないのだが、その本質はマッドが付く科学者なのだろう。そういえば、以前開発したノイ印の万能調理ナノのバージョンがさりげなく2になっていたのだが、俺の周辺に被害者がいないのでどういう形で実験しているのか未だに謎である。

 

「しかし、焼きそばはどこに行っても焼きそばなんだな」

 

最先端技術の発表の場であると同時に学園祭であるのだから、昔ながらの学生屋台なんかもあり、ワンコインでおつりの出る焼きそばを食べながらブラブラ歩いている。

 

余談だが。焼きそばは紅ショウガはないほうが好みだ。青のりはあっても構わないが、人と会う際は気を使うのがマナーである。海鮮と肉のどちらがいいかと問われるとその時の気分によるが、豚バラ肉を使ったのがやっぱりベターだろうか。残念ながら食べに行く機会に恵まれなかったが富士宮焼きそばとかいうB級グルメが当時人気だったな。

 

「よし、今度焼きそばを作ることにしよう」

 

「あのジルベルトさん。焼きそばを食べながら焼きそばを作る話はいささか変だと思うのですが」

 

いつからか定例会になった食事会のネタはここに決まったのだが、心の声が出ていたのかレインにたしなめられてしまった。

 

「そういえば、真さんに連絡しなくて良かったんですか?」

 

「忙しいだろうし、彼女には彼女の付き合いがあるだろうし」

 

誘って貰ったものの、彼女が何の出し物に参加しているかは特に聞かなかった。参加していない場合は高い確率で彼女のお姉さんが一緒である。彼女はレインとは違うタイプの美人に分類されるのだが、どうも苦手意識がぬぐえないのだ。

 

どうやら彼女は俺を真ちゃんを誑かす悪い男と考えているようで、俺もその点は考慮しないでもないが、どちらかというと諸悪の根源はノイ先生だし、15にもなった人間に対してはいささか過保護すぎるように思える。

 

一度きちんと話し合えば、性格的には竹を割ったようなイメージがあるので誤解が解けるような気もするのだが、現状ではそこまで積極的にしたいとは思わないのが現状であった。これ以上自我の強すぎる女性が視界に増えて欲しくないともいえるのだが。

 

「じゃあ、ジルベルトさんは何が目的で星修の学園祭に?」

 

「最先端技術というのに興味があったことかな。あと、アセンブラに関する講演に関して興味があったんだ」

 

「アセンブラですか、確か新世代ナノマシンでしたよね」

 

「今のナノマシンでも驚きなのに次世代は全くイメージできないからな」

 

詳しい内容は分からないが、自己増殖して知性を持っているらしいそれは、俺がイメージするSFの産物そのものである。若干、某男子ならみんな知っているロボットアニメの自己増殖・自己再生・自己進化する存在やら、文明を崩壊に導く最終兵器が脳裏をかすめるが、生きてる間にそこまで行く可能性は皆無だろう。

 

それでも人間とは果たしてどこまで行けるのだろうかと問いたくなるときがある。橋を造り、船を造り、車を造り、飛行機を造り、とうとう宇宙船まで造った人間は最後にどこに向かうのだろう。電子の海か、あるいは太陽系を更に星海の果てを目指すのか。

 

ジルベール・ジルベルトとしての実と佐藤弘光としての虚。

 

未だにこれは夢なのではないかと疑う時もあるが、意識は前を向いている。30になる前に死んだ男が掛かった二度目のメランコリーを経てそろそろどう生きるかを考えてもいいだろう。正直自分が何に向いているのかは分からないが、料理店でも食っていける気はする。卒業まで一年以上あるのでじっくり考える余裕がある。

 

 

 

アセンブラに関する展開についての講演会は、学生の他に、業界関係者とおぼしき人間が幾人か見られた。研究者である久利原直樹氏がモデリングを使いながら説明をする姿を見て、学生にも分かりやすいと感心するところではあるのだが、あくまで企業や同業者に対する説明としてはいささか不満が残る部分がある。

 

「しかし、あいつらは成長をしないよなあ」

 

「ええ、で何で彼らは休日にもかかわらず制服を着用しているのでしょうか」

 

目の前では、やれセカンドがエイリアニストやら、デザイナーズチャイルドの優位性やらを説いてバカやっている男と取り巻きたちがいた。なるべく俺としては関わりたくないのであるが、シロアリを見つければ駆除しなければ家全体がやられてしまう。

 

「鳳翔のブランドが彼らのアイデンティティなのさ。さて、そろそろ止めに入るとしようか」

 

ちなみに我が鳳翔学園は制服着用の義務は特にない。

 

暴力と恫喝で物事を解決しようとする同期に呆れつつ、ポケットに入れていた硬貨を掴み、久利原氏に殴り掛かろうとするケニッヒスの後頭部に放った。

 

指弾あるいは羅漢銭と言われる技術なのだが、せっかく一般人よりポテンシャルの高い肉体なのだからと練習した結果、結構威力がやばいことになっている。

 

「ウガ」

 

後頭部に直撃した一撃は意識を刈り取ることに成功したようだ。一般人なら下手すると致命傷になりかねないが、デザイナーズチャイルドなら気絶ですむだろう。

 

「ケニッヒス。理論には理論で対応しろといつも言われているじゃないか。犬じゃないんだからそうキャンキャン吠えるな。ほら、お前達もご学友を連れていったらどうだ」

 

連れを一睨みすると取り巻き達はケニッヒスを抱えて出ていったと邪魔者が出ていったところだが、どうもみんなの注目が俺に集まっているようだ。

 

「先ほどはお見苦しいところを。ついでですが質問させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ。構わないよ」

 

「鳳翔学園に在学するジルベルトといいます。先ほどのアセンブラに関する研究の今後の課題等につきまして、大変勉強になったのですが、一つとても気になる部分があり質問の席に立たせていただきました。先生の講演でアセンブラの理論、今後の課題は分かったのですが肝心の部分が抜けているような気がするんですよ」

 

「肝心な部分?」

 

久利原氏は怪訝な顔をするが気にせず続ける。

 

「ええ、私はこの分野について全く素人ですし、ここに聞きにいらした皆さんも知りたいとのではと思っているのですが、アセンブラが完成した場合、何ができるのか。つまり得られる果実が何なのか知りたいのです」

 

「それは・・・アセンブラが完成すれば無限の可能性が」

 

「それはPR的な意味の話です。まず何に利用できるか、何に利用したいのかを久利原先生は明言していません。さらにお渡しいただいた資料を見ると経済効果などに関する項目も無い部分が気になりました」

 

何でも切れる剣が仮にあるとして、料理人なら肉や魚を切るだろうし、木こりなら木の伐採に使うだろう。剣客なら当然人を斬るのに用いる。

 

アセンブラというのはそういう趣旨のアイテムで何でもできるのだが、扱う人間が何を目的に利用したいのかということが、とても重要でそれについて聞きたかったのだが。

 

この人の話には、アセンブラの完成に対する情熱は感じることはできても、自身が描く『アセンブラで何をするか』が無かったのだ。

 

「本来道具とは何かをするために開発するもので、手段と目的がすり替わっているのではと疑問に思いました。故に伺いたかったのですが、現段階では明確な目的がないようですので、この質問はここで打ち切らせてもらいます。この研究が実を結ぶことを期待しております。失礼しました」

 

言い終わると俺は着席した。この後もいくつか質問があったが、明らかに久利原氏の弁舌は講演中ほど冴えない。彼は研究者として若いので、経済的な話題を提案できる人間が同時講演をすれば印象も変わったのだが、何というか微妙である。

 

ただ、俺の関心はすでにアセンブラから農業科で行われる『荒地でも育つ食物の開発について』にシフトしていた。

 

 

 

講演会が終わり立ち上がり、講堂から出ようとすると後ろから声が掛けられた。

 

「おい!」

 

見覚えのある顔は、真ちゃんの友人であり、この夏(主に真ちゃんが)熱い戦いを繰り広げた正統派主人公か。

 

「あの後の決勝ラウンド敗退は残念だったな」

 

正直言って彼らが棄権しなければもう少し手間取っただろう。そういった意味では楽できたので感謝すべきである。

 

「そういや、お前らあの時、手を抜いて・・・じゃなくて、さっきの講演の質問は何なんだ。久利原先生だって色んなことを考えて」

 

「いや、その思いを口に出さないと世間に伝わらないし、予算とかスポンサーが付かないだろ」

 

この講演会の協賛にアーク社が無かったのはその表れだと思う。つまり、秘密主義なのかどうかは分からないが個人への不信が研究への不信に繋がるパターンに陥っているといってもいい。彼にしてみれば研究ができればいいのかもしれないが、スポンサー達はそれによって生み出される成果を期待しているのである。予算という名のリソースは有限であり、他人を蹴落としてでも確保しなければならない時がある、と元社畜は思うのだが、まあ学生に言ってもしょうがない。

 

「その通りだよ」

 

「先生」

 

そこには久利原直樹氏がいるが、その表情は暗い。

 

「あの時、ぼくは何がしたいのかを明確に言うべきだった。この研究が日の目を見るときに胸を張って答えられるようにするよ。甲君、ぼくはここで失礼するよ」

 

頭を垂れ、久利原氏が立ち去った。

 

「悪いけど俺も失礼する。連れを待たせているんで」

 

「あ、ああ。俺も余計なこと言った。悪かった」

 

そこにいた真ちゃんに目礼をし、レインも頭を下げて講堂を後にした。

 

久利原氏に関してはあれだけ思ってくれる生徒がいるのだから多分、あの人自身は良い人なのだろう。世の中に不幸があるとすれば、良い人が良い功績を残せるとは限らないという点なのだ。

 

「レインは久利原氏のことをどう思う?」

 

「そうですね、いい人だとは思いますけど、何というか危険な感じがします」

 

最近、人を見る目が養われてきたレインの評価は俺と概ね一緒だった。物事に対する捉え方が俺たち寄りになっているという前提があるが、基本的に彼女は聡明である。

 

「危険というと?」

 

「女の勘ですから何とも」

 

ちょっと口角を上げた仕草も魅力的に見える。これだから美人は。

 

「こんな変人と積極的に関わることを決めた人間の勘は果たして信用できるかどうか」

 

そして最近、すっかり俺たち側に染まってしまったご令嬢たるレインさんはこう切り返すのであった。

 

「少なくとも今の私は以前より自分のことが好きになりました。それで充分です」

 

「こんな風にした俺たちが言うのも何だけど、まじめに親父さんに顔向けできないなあ」

 

1年前、彼女がこうなるなんて誰が予測しただろう。不変の人間なんていないが、桐島レインの人格を形成する上で俺たちが与えた影響は確かにある。願わくは善き影響であればと思うのだが。

 

「いや、私は充分に感謝しているよ」

 

後ろから渋い声がかかり、俺は振り向くと、カジュアルなジャケットを着た長身の40前後の男性。

 

「お父様!?」

 

「確か、ジルベルト君だったね」

 

「鳳翔学園2年、ジルベール・ジルベルトです。レインさんとは、いい友人として付き合っています」

 

その目付きは鋭く、全く隙がない。

 

だが、その鋭さも長くは続かず柔和な表情に変化する。

 

「友人か・・・まあいい。ジルベルト君、君はこれから暇かね?」

 

「申し訳ありませんが、これから興味のある発表会に行きたいと思っておりまして、お嬢さんに用事でしたら、俺はここで別れますが」

 

「いや、私は君と話がしたいと思っているのだよ。その講演が終わるのは?」

 

「午後3時です。それ以降だったら大丈夫ですが、お仕事の方が忙しいのでは?」

 

「私だって四六時中仕事をしている訳ではない」

 

初見なのだが、娘から聞く父親像とはあまりにもかけ離れていた。

 

(なあ、レイン、性格はまともないい人っぽいじゃないか)

 

(ま、まあ最近はそんな気もします)

 

軍用のチャントではないが、簡易的な疑似ネットワークで繋がったレインも困惑気味のようだ。

 

「まあ、いい。レイン、申し訳ないのだが彼を借りてもいいだろうか。埋め合わせ方法は何か考えるので」

 

「分かりました」

 

つまり、仕事関係か、彼女にまつわることなのだろう。レインもその辺は理解しているのか、特に反論しなかったため、俺は今日のスケジュールを多少修正することと相成った。

 




どうでもいいジルベルトファッション

茶系のチノパンにアンダーはクレリックシャツ、ジージャン。足下はレザーブーツで固めている。

まあ、私的にはレインのファッションさえはっきりしていれば野郎なんて特に気にしなくてもいいんですけどね。レインはナチュラルもシックもいけるかなというイメージがあります。もちろん、着物だっていけますよきっと。

2WAYワンピースだと少し寒い気もしますが、気温が比較的良好ならこの格好でもいいかなと。

あとどうでもいい話

・ノイ印の万能調理ナノは多くの犠牲(主に如月寮)を経てver2.0に。クゥちゃん発情フラグだったり

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