こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
人間は人生の内に何度かは自分とは何かを問うことがある。思春期の頃には自分が特別であると認識するために色々考えたりするし、死を前にして自分の人生とはどんなものだったのか走馬燈が流れるという。俺ことジルベール・ジルベルトは佐藤弘光という人間を核にした存在である。デザイナーズ・チャイルドという要素も重要ではあるのだがが、これは身体的な特徴であって精神面への影響を与えなかった。あるいは、一度死んだ身んだという記憶が残っていることが、人はどのような存在でも死ぬということを意識しているのが理由かもしれない。
「結局は人間の行き着く先は人間でしかない、人間は生き物だから死ぬ」
サイバーグノーシスなんていう思想もあるらしいのだが、人間の精神って基本的に長い時間に耐えられるのかどうかという疑問が出てくる。不老不死というのは延々と続く死に対するアプローチで、かの橘社長もリヴァイアサンを用いてそれを実現しようとした。ファンタジーなら血さえ吸えば数百年を生きる吸血鬼という存在もいる。だが、アキレスもジークフリードも不死ではあるものの弱点を持っていたし、吸血鬼なんて日光はダメだ(これはアルビノや光線過敏の人間をそう呼んだ可能性はあるが)、ニンニクはダメだのある意味弱点のオンパレードである。
まあ死ぬ可能性は置いとくとしても、人間が不老不死の存在となるには解決すべき問題があると思った。体内時計のリズムが狂い過ぎると自律神経の関係か専門じゃない俺にはわからないが、精神にも異常を来す。人間も生物であるので、カマキリのように交尾したら食われるというのは極論だが、子供を作ってある程度育ってしまえば、後は死を待つのみという状況が来る。しかし、そこからが長すぎればどうやって過ごすのだろうか。人間は男性は精通、女性は初潮が来れば基本的に生殖は可能であるが、10代から可能ということになる。ファンタジーのエルフの結婚適齢期は寿命が300年くらいと設定してある場合、100歳前後。それはそういう生命のサイクルで生きることが前提なのであり、仮に人間の寿命が2倍になったとしても、性成熟が30代くらいに来るわけではない。生物的な欠陥をどう埋めるのか。
暇人の憂鬱
佐藤:と俺は考えているのですが、専門っぽい姉魂のご意見は?
姉魂:そうね、じゃあ逆に聞くけど佐藤さんはどれくらいの時間なら人間は耐えられると思うのかしら
佐藤:そうですね、本来の寿命である120年前後の3割増しである150年が適当なところでしょうか。
姉魂:佐藤さんがその気なら200年くらい生きそうな気がするけど……どうも私の先生だった人と同じ雰囲気があるのよね。韜晦というか超越している辺りが
佐藤:姉魂さん中で俺がどういう認識をしているのかは今更気にしませんが、俺的には適当に生きて適当に死ぬだけで構わないし、自分一人で全部する必要はありませんよ。ダラダラ生きるだけだったら意味がありませんし。
姉魂:制限が無いと人間は進歩しない……なるほどその意見はあるわね
佐藤:研究なら他の研究者が引き継ぐかもしれませんが、芸術や文学は本人がやらなきゃ意味ありませんからね。もっとも明日できるからとその日を無駄に過ごしてしまう人は芸術分野には向かないかもしれませんが。
姉魂:じゃあ、自分が2人いたらどうするのかしら
佐藤:昔のコミックで見ましたが、嫌なことを相手に押しつけるんですよ多分。そろそろ夕食の時間ですし、哲学的な解釈についてはこの辺にしておきますか。姉魂さんもたまにはリアルで暮らした方がいいですよ。
姉魂:忠告はありがたいけど、今リアルに戻ったらリハビリからはじめなければならないレベルなのは確かね
佐藤:……いや、まあ、その何というか……がんばりましょう。
御大将さんがログインしました
佐藤:どうも。
御大将:これは、タイミングが悪かったな。
佐藤:もしかして俺に用事でしたか?
御大将:いや、別に今でなくてもいいんだが……ちょっと自分の研究に行き詰まりを感じてね。
佐藤:興味はともかく生活はごく普通のジャンルに生きてるのでそっち方面の相談されても無理ですよ。
御大将:それは理解しているよ。ただ、技術的な面もそうだけど、何の為に今の研究を始めたのかと思うと……袋小路に入ったネズミみたいな気分だよ。
姉魂:あなたはまだ若いんだからそれほど焦らなくてもいいのに
佐藤:御大将はきまじめだから自分ががんばらないとって考えるかもしれないけど、物事には他者と時間が必要なことがあると思う。壁にぶつかったなら人か時間が必要なんだろうな。
御大将:二人の言うとおりだね。ちょっと気が楽になった。じゃあ、今度は楽しい話題で話そう。
御大将さんがログアウトしました
佐藤:相当切羽詰まってますね。
姉魂:みたいね
スーパージルベルトワールドchapter6
厄介事 Human Error
side 桐島レイン
「どうも余り機嫌が良くないようだがジルベルト君と何かあったのかね」
ラ・ヴィータで偶然、ノイ先生を発見した私は一緒に軽めの食事を取ることにした。最初は他愛もない話だったが、話がジルベルトさんのことになると、どうも私は自分の胸の内を表情に出していたようだ。
「別に、最近ジルベルトさんが私より父と一緒にいる時間が多いからって拗ねている訳ではないですよ」
そう、たまにはどこかでデート―例え彼がそう認識していなくても―に誘ってみてもあまり反応が良くない割に、父に呼び出されると二つ返事で行くのは面白くないのも事実。私の家で話し合いをした場合は、会話することができるのは嬉しいが、二人の会話を知ることができない自分がもどかしい。
「ほう、桐島勲大佐か。あまり意識はしていなかったが君は彼の娘さんだったな」
「父をご存じなのですか?」
父は代々続く軍人の家系だが、ノイ先生に知られているとは思っていなかった。
「直接の面識は無いのだが、ある件で繋がっているというところだ。それは別としてジルベルト君もまた変なのに捕まったなあ」
「私が言うのもおかしな話ですが、父は生まれつき制服を身に纏ったような融通の利かない性格ですよ」
言いたいことは色々あるが、生真面目な役人体質である父が変わり者に分類されるとは思っていない。
「だが、そういうタイプほど、自分と異なるタイプに惹かれるものだよ。君だってジルベルト君のおかげで私好みに変わったじゃないか」
それが良いことか悪いことかは別として、他人の顔色ばかり伺っていた自分の考えを口にできるようになったのは悪くないとは思うのですが……その手つきが問題だった。
「あの、ノイ先生。胸は自前ですので」
生前の母もどちらかと言えば大きかったので、私もそういうものだと思っている。もっとも、多少食生活が改善されてから服がきつくなったのも事実だが。
「ふむ、セックスアピールに乏しい私や真君はともかく、君に対しても性的な目で見ないとはジルベルト君は男としていただけないな……いや、まあ全くダメというわけじゃ」
最後の方は聞き取れないが、呆れているようなノイ先生の表情の中にもジルベルトさんへの親愛の情を感じ取ることができる。
「あの、前から思っていたのですが、ノイ先生にとってジルベルトさんはどのような存在なのでしょうか」
「弟のようであり、兄のようであるが、偶然出会って、話してみたら意外と相性が良かったということだろうな。まあ、結婚相手としては悪く無いが、恋愛対象としては今一刺激が足りないな」
「刺激が足りないですか?」
「伊達に君達より長く生きていないさ。機会があれば君の父上にも聞いてみたまえ」
私の人生の中であれほど刺激的な存在を見たことが無いのですが、ノイ先生は恋人には向かないと言った。その理由は私にはまだわからない。ノイ先生も父も分かる事が私にはわからない。ノイ先生は私よりもジルベルトさんと付き合いが長いから理解できるが、父にも劣るというのは納得ができない。そして渦巻く感情を整理するとその根底にある者が嫉妬であると知った。
「どうやら、私はノイ先生や父に嫉妬してるみたいです」
「何、愛憎は生きるうえでの糧だよ。それに親が生きているというのは良いことだ」
そういえば私はノイ先生の家族というものについて聞いたことがない。真さんはお姉さんと星修の寮に入っているし、ジルベルトさんの場合は、一人暮らしだが家族は健在だ。話題に上がったことが無いということもあるが、ノイ先生の家族関係について聞いたことがなかった。
「ノイ先生のご両親は健在なのですか?」
「母親は知らんが、父親は死んだよ。もっとも墓が大きすぎて掃除する気にもならないがな」
墓が大きいということは資産家か何かで、ジルベルトさんや私のように反発して家を離れたのだろうか。
「しかし、ジルベルト君もまた厄介な問題に巻き込まれていなければいいが」
「いくらジルベルトさんでも政府レベルの問題に巻き込まれてることは無いと思いますよ。どうせ、私に対しての愚痴ではないですか?」
どうやら、父は気に入っているようなので、結婚とかになると話は別だが交際は問題ないだろう。つまり、一番のライバルは目の前の彼女なのだが、恋愛対象としては不足というなら私にもチャンスがあると思いたい。しかし、真さんを含めたこのぬるま湯のような関係も悪く無いと思っている。
sideout
「アセンブラはメリットもあるけど、現段階ではデメリットの方が高い。特に地上での利用に関しては」
それが目の前の青年の出す意見だった。考えている様だけを見るとどこにでもいる線の細い青年なのだが、天才の閃きというより積み重ねた知識から導き出す答えは説得力があるのだと何度かの会話で確信した。
「それはグレイデーを想定した場合かね?」
「まあ、それもありますが、完成したら桐島さんはまず何に利用されると思いますか?」
「……兵器だろうね」
軍人の自分が言うのも変な話だが、最先端の技術というものは戦争に関わることが多い。というのも予算として認可されやすいというのも理由の一つであるが、発明した人物はただ発明した物でも使う人間によっては兵器として利用できることは歴史が証明している。有名なのはダイナマイトを発明したノーベルだろう。
「目視しながらアセンブラを起動して殺人の方法は有効です。後はアポトーシスをロジックに組み込めば完璧でしょうか。つまり、成功したらしたでそれに対する抑止手段を考えなければなりません。正直に言うと、面倒ですよね」
「制御できればな」
「最悪なのはとりあえず使える段階です。世に出すなら完成形で出さなければならないでしょう」
デザイナーズチャイルドやセカンドでも思考の回転速度は最終的に資質と環境に寄る。答えを導き出す能力は天才型の彼女とは違うが、非常時に有用な能力だ。タイプも性別も違うが、何か新しい世界を見せてくれるという期待感をもたらす。ジルベール・ジルベルトもそういう意味では選ばれているのだろう。本人がどちらかというと平穏や安定を望むのに。
「では、君はどうすればアセンブラは日の目を見ることができると思う?」
「まず第一段階としてアセンブラで宇宙開発、そして宇宙に移住して100年単位で浄化。まあ地下や海底都市で暮らすという選択肢もありますけど、火星開発は閉塞感の打破に繋がりそうですよね」
最後の一言は年相応の発言なのか、商品を紹介する際のメリットをアピールしたいのか判断に迷う。レインにその話をすればその辺も魅力だと惚気るのだろうか。
「話は変わるが、最近レインはそのどうなんだね」
「いえ、特にはといいますか、最近は桐島さんとこういう話をすることが多いので、余り会っていないんですよね。個人的に」
道理で最近機嫌が悪いのかと冷や汗をかく思いだった。
「そ、そうか……若者の貴重な時間を不意にしてしまい申し訳ない」
「いえ、若い女性と知り合ったのだってここ半年くらいの話で、俺的にはこっち側が楽で良いんですけど」
「君くらいの年齢だと女性に興味がある頃だと思ったのだが、枯れてると言われないか?」
「黙ってれば言い寄ってくる女性はいますが……中身が伴わない女性はちょっと」
つまるところまだお眼鏡にかなう女性は居ないということなのだろう。
「ちなみにジルベルト君として娘の評価は?」
「そうですね、あと2、3年磨きをかければ宝石のように輝きますよ。ただ、友人として不幸な結婚だけはさせないことを祈ってますが」
今更お世辞は言わないだろうから、3年後が勝負。それまでに誰かが彼の心を射止めた場合はレインには悪いがすっぱり諦めてもらおうと心に決めた。
クリスマスで甲と千夏がピンクのお城で来てっ! するRTAはっじま…りません
ジルベルトワールド本編終わったらどちらを読みたいですか
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番外編→えせ救世主物語(DSクロス)
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DIVEX(バルドスカイ本編再構成2)
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ジルベルト系よりニラ小説書けよ