こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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スーパージルベルトワールド1-2

よく精神年齢は肉体年齢に依存すると聞く。理由としては簡単で、肉体が若々しい人は心も若々しいというのだ。否定する要素はあまりないのであるが、ジルベール・ジルベルトは27歳の時に死んで今16歳だから認識している限りは43年生きている。突然0歳からやり直しを初めている身とあっては同年代との付き合いに疲れることもあるのだ。

 

鳳翔の同級生は自分の力の振り回されている幼さが目に付くというのも肌に合わない理由の一つである。彼らとは一線を画するとはいえ、目の前にいるお嬢さんの相手も面倒とまでは言わないが、気を使っている部分は否めないだろう。

 

「ようジルベール、またお嬢さんとデートか」

 

「デートならこんな所に連れてこないよ。俺はアメリカンとチリドッグ。お嬢さんは?」

 

行きつけの喫茶店――カフェテリアなどといった上品な名称が付かない――に入った俺はマスターの茶化しを無視して注文し、お嬢さんこと桐島レイン嬢にも注文を促す。

 

「そんなデートなんて。あと、ジルベルトさんはいい加減私のことはレインと呼んで下さい! マスターカフェオレお願いします」

 

 あいよと注文を確認したマスターが調理をし始めたのを確認すると、ため息を吐きつつ年の離れた妹に忠告するように告げる。

 

「しかし、君はもう少し男を見る目を養った方がいい。俺なんかにつきまとっていると変な噂がつきまとうぞ」

 

「もう付いちゃっている気がしますけど。それに私、あそこでは友達居ませんから」

 

「まあ、俺も否定はできない」

 

どうも鳳翔の気風は俺たちには合っていないのだろう。一般的な感覚を持っていればあそこに馴染むのが異常なのではないかという疑問は置いておくとしてもだ。

 

それから、最近読んだ本や社会情勢情勢などについて話していると食欲をそそる肉の匂いとともに何か甘ったるい匂いが鼻腔を刺激する。

 

「ハニートーストは誰も頼んでいないのだけど」

 

「最近常連だからサービスだ。そっちのお嬢さんと分けてくれ」

 

「お嬢「レイン」レインは食べられるか?」

 

「喜んで」

 

 

 

「ん?」

 

食事を終えて、他愛の無い話を続けていると、使い慣れている端末からのメールが届いた。

 

差出人を見てメールを開き、読むこと30秒ほど。俺はそこに書かれた内容を見て、つい破顔する。

 

「どうしたんですか?」

 

「知り合いの愚痴。一つ上のお姉さんに振り回されている子なんだけど中々いい感じに擦れてて面白いんだ」

 

「……そのお知り合いって女の子ですね?」

 

「匿名掲示板で知り合ったのでなんとも。まあ多分女の子っぽいよ。俺は面白ければ性別はどうでもいいけど」

 

ちなみに内容はこんな感じだ。

 

『今日もお姉ちゃんはツンデレさんなのです。気になる男の子に突っかかって、部屋に戻ってorzみたいな格好で凹みます。私は慰めようかと思うのですが、面白いから放置することにしました。容姿に恵まれているけど、あの性格を直さないと彼氏はできそうにありません。佐藤さん、私はどうすればいいんでしょうか。まあ、私からは何もしませんがw』

 

それに対する俺の返事。

 

『あーいるいる。でもそれがかわいいのは学生時代までで大人になると面倒な人になっちゃうんで、若い内に修正した方がいいよ。そうなるともう突っぱねてバリバリ独り身ルートなんで。あと君も黒すぎると引くと思うから適度にね。まあ普段はおとなしげなキャラだと思うけどさ』

 

と、なにげにひどい応酬なのだが、絶滅寸前の文字オンリーチャットサイトの参加者の一人であるshinさんはちょっと黒いけどいい子なんだろうとは思う。

 

「ネットで会ってみたいとは思わないんですか?」

 

このネットの発達した時代にただの文章のやりとりなどさぞ変わっていると思うのだろう。

 

「このネットワークが発達した時代にラブレターや紙の本が無くならない理由と似たようなもんだよ。ある種の様式美的な話さ。何だかんだいって男は料理技能の高い女性に弱いとかさ」

 

「ジルベルトさんも、女性は料理が出来た方がいいと思いますか?」

 

「身につけておいて損はないとは思うよ。手料理という言葉に男は弱いものだ」

 

男女平等とかいうのはさておくとして、胃袋を握られると弱いというのが俺の感想だ。前世では握ってくれる人は居なかったというか、むしろ俺が調理していたからな。

 

まあ、たまにセンスが無いというか幼なじみの瑞香のように致命的なドジっこもいるのだろうけど。

 

「私、頑張ります!」

 

「ああ、頑張るといい」

 

なんか気合い入ったお嬢さんを傍目に、でも話聞く限り本当にご令嬢だから包丁はおろかフライパンも使えないなんて可能性あるよなあ。

 

ちなみにshinさんは料理は得意らしい。お姉さんが壊滅的な兵器を作るらしいので自衛の為に仕方なかったとのこと。俺も改めて一人暮らしを始めてからそれなりに拘っているとは思う。

 

 

 

桐島レインにとってジルベール・ジルベルトは憧れだった。この鳳翔という檻の中で孤独なのにそれを良しと独りで生きていくその姿に。彼は知らないのだろう、エリートの中にも追従しかできない弱者がいて、彼らにとって自然体に独立しているジルベルトという存在は嫉妬と憧れを孕むものだということを。

 

そして、桐島レインはあの中では弱者だった。私だって運命を変えてくれる王子様を求めたいという願望が無いわけではない。だからあの日助けられたのは何かの運命だったのかも知れないと思っている。

 

知り合って、勝手に付いていくだけですが、彼の行くところにはデザイナーズチャイルドもセカンドも関係なくて、ただ人と人のつながりしかない。

 

彼が心を許すのは心身ともに成熟した大人というイメージで、ともすれば彼自身が大人と同年代という錯覚も覚えてしまうこともあった。

 

彼も私と同じく親との関係があまり良くないとのことなので、同年代では私が一番彼のことを知っているという自信があった。今日も何度か行った喫茶店――ジルベルトさん曰くカフェではなくて喫茶店――でマスターから恋人扱いされ、これはなし崩し的になるのではという淡い期待があったのだけど、それは一通のメールに打ち崩され。

 

ネット内で出会えるこの時代に映像でも音声でもなくメールというのが、この文明の発展した世の中では奇異に思えるが、同時に彼らしいと思った。

 

彼は他人を生まれとかそういうもので決めつけない。必要ならいいけど、不要なら関わらないというスタンスにこだわるのだろう。今は(友人的な意味で)自分に付き合ってくれているが、疎遠になる可能性だって捨てきれない。

 

「何とかしなくては」

 

メールの相手は多分女性で、ダメなお姉さんを甲斐甲斐しく世話する家庭的なタイプ、それともちょっとした小悪魔タイプだろうか。

 

まずは料理をがんばろうと私はまだ見ぬ仮想敵に闘志を燃やし、料理の本と食材を購入すべく商店街に向かうことにした。

 

しかし、失敗した料理(肉じゃが)はたまたま居合わせたお父様の胃を直撃し、さらにジルベールさんの人並み以上の料理の腕を見せつけられて部屋でorzすることになることを私はまだ知らなかった。

 

 

 

「ほう、君もシュミクラムに興味があるのかね?」

 

目の前に見た目中学生の少女が座り、高校生としては長身の自分が座ると、ちょっと年の離れたカップルか兄妹に見えるのではないかと思える。もっとも自分は赤毛で彼女はダークブラウンなので兄妹とは思えないだろうが。

 

「まあ男の子ですから人並みに」

 

「私のコモンセンスに照らし合わせる限り、君はごく一般的な男の子は大きな隔たりがある気がするが」

 

「俺のコモンセンスに照らし合わせても先生は、ごく一般的な医師のイメージから掛け離れている気がしますけどね」

 

目の前の少女は実際問題年齢だけで言うと少女ではない。

 

『ドクター・ノイ』。蔵浜でドクターをやっている不思議系生物だ。いや不思議系生物をやっているドクターだろうか。

 

「前者であるなら私は人間ではなくなるし、後者であるなら私の本質は医者なのか不思議な生物かという命題が発生する」

 

「怒らないんですね」

 

「何年私をやっていると思うのだ。いい加減慣れたよ。それにこの体なら男女問わずスキンシップし放題だ」

 

不思議系変態ロリドクターノイ。残念ながら腕は確かなので追放されたという話は聞かない。裏町で知り合って以来、何かと付き合いが多いのだが、この人も個性的だよなあ。

 

「ああ、それでシュミクラムの話だが、良ければ私が用立てても構わんよ。なに、一日ちょっとしたスキンシップに付き合ってくれればい」

 

「それ捕まるのきっと俺だから」

 

「ゆりかご(赤ちゃんプレイ)から墓場直前まで何でもござれだ。お兄ちゃんノイのポンポンが痛いからみてほしいのー♪」

 

「はい、スカートたくし上げない。ここそういう店じゃないですし」

 

舌足らずなノイ先生がもじもじしながらスカートをたくし上げる。それはそれでグッと来るものが無いわけではないが、黒い下着は頂けない。更に残念なことだが、俺は普通に発育している子が好みだった。

 

「で、話というのは?」

 

「いや特に無いよ。ジルベルト君と話すことで自分がダメ人間であることを再確認しにきただけだ」

 

うわ、年上じゃなかったらマジ殴りてぇ。

 

「私の父親も君みたいな愉快な性格なら苦労せずに生きられただろうに」

 

「ノイ先生にも遺伝上のつながりってあったんですね」

 

「まあ、望まれたわけではなく結果として血縁関係があるだけだ。いや、あるといっていいやら私が生まれたのはかなり特殊なケースだからな」

 

彼女もデザイナーズチャイルドなのだが、出自がかなり特殊であるということは言葉の節々から判断できる。成長しない体もそれが問題なのだろう。

 

「さて時間もいい頃だし、そろそろ帰るとしよう」

 

ノイ先生は伝票を持った。

 

「自分の分は出しますよ」

 

「私がおごると言ってるんだ。素直におごられたまえ」

 

「ごちそうさまです。その内何かで返しますよ。体以外で」

 

前回の時は人間ってこの文明が発展した世の中でも空への憧れを忘れないなあと、スカイダイビングをしながら思ったとだけ言っておこう。




見た目は子ども、脳内はアダルティなノイ先生と、見た目は子ども、精神はおっさんのジルベルトの提供でお送りいたしました。
デザイナーズチャイルドが変態なんじゃありません。側にいるデザイナーズチャイルドが変態だったんです。
ヒロイン・ノイてんてーで良い気がした。
ちなみに私はゆりかごから墓場までという幅広いラインナップを網羅しているこの言葉が大好きです

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