こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
俺が考える最強のメカとか子供じみた発想がある。
たとえば近接仕様のアサルトと砲撃仕様のバスターのパーツを組み合わせて作るV●アサルトバスター。
テレビ中では結局フルスペックを発揮できなかったが、大人になって冷静に考えるとあれも厨仕様だ。
まあ、後に機械というか、パイロットの方が厨仕様なガ●ダム作品も出て来たが、この世界はネットのロジックが適用されるとともにある程度干渉できるようなので、やろうと思えばできるはずなのだが。
「俺と一緒に育ったにしてはぬるいなあ」
それなりに独自性というか裏をかいてくるかと期待していたのだが、今のところ予想外の攻撃というのは来ていなかった。
地雷を設置する、ニードルガンを射撃する、鞭で叩く。
必要以上に近づいてこないので待ちゲームと化していた。
これは佐藤弘光のスタンスであって、どちらかというと遊撃ポジションを意識した仕様。
一対一ではラチがあかないので、
「時間が推しているし、そろそろ動くか」
そうこれは陽動なのだ。
グリモアがジルベルトのシュミクラムに仕掛けはじめ、戦闘が始まると同時に『俺』はレーザー銃を構え、向こうで応戦しているアレに撃ち込んだ。
「相変わらず外道だな君は」
「いいじゃないですか、消耗せずに戦えるんですよ」
安全な場所から様子を眺めている呆れ顔のノイ先生に対して、俺はとてもいい顔をしているんだと思う。
「まあいいじゃないですか? 先生の作ったグリモアが俺の窮地を救ってくれたということで」
「確かに作ったのは私だが、シュミクラムをドローンにしてもう一つ用意する機能なんて搭載した覚えがないのだがな」
グリモアとは魔術書のこと。
俺がイメージした魔術とは召喚と使役であって、基本方針は丸投げ。
「バチェラはやっぱり天才だな」
実際にやったことがある人間でないと分からないが、オート操作だとしても、出し過ぎればメモリ不足でオーバーしてしまう。
リソースを減らしていたのか、処理速度を上げていたのかは窺い知ることはできないが俺ではそんな器用なことはできない。
きっちりジルベルトを拘束した俺は、脇腹に死なない程度に蹴りを入れる。
「グハァっ!」
挑戦的な目で俺を睨むジルベルトに俺は笑顔で語りかける。
「よう、出来損ない気分はどうだ」
「俺は出来損ないじゃない。俺はお前よりできる」
「できるかもしれないが、ジルベルト(おれ)を止めることはできないし、今更させる気もしない」
色々と努力した結果作りだした生活基盤だ。
曰く見ていただけの彼にはい、そうですかと譲り渡す訳にはいかない。
「何、世界は無数にあるんだ。別の世界では努力して住みやすく生きてくれ」
そして、ジルベルトの真下に穴を作りだし、沼に飲み込まれるように彼を飲み込んでいく。
「俺は、俺は」
完全に飲み込まれると穴は何もなかったかのように塞がれ、沈黙が訪れる。
「……何をしたのかね?」
「擬似的にESの海を創りだして放り込みました。運が良ければ違うジルベルトと一緒になれるはずです」
事前に橘社長から構築する理論だけ聞いておいて正解だった。
「私は、てっきり融合するかと思ったのだが」
「これ以上捻くれたら救われませんよ。さて、ここまで来たら一蓮托生ですし、改めて自己紹介を。ジルベール・ジルベルトこと佐藤弘光。西暦でいうと2000年代の人間で、死んだ後に佐藤弘光という前世を持つジルベール・ジルベルトとして認識してました。上位世界の存在かどうかはしりませんが、それなりにこの世界に関しては『知って』います」
正確にはこの世界の過去なのだが、別にそれは言う必要がない。
「つまり、今後は君をジルベルト君と呼べばいいのか、それとも佐藤君と呼べばいいのか」
「仲間内では佐藤でも構いませんが、公の場ではジルベルトでお願いします」
「私が知り合ったのは最初から君なので今更対応を変えても仕方あるまい。どうせなら、魔法使いとかだと面白かったのだが」
いつも思うのだが、俺はこの人に頭が上がらないというか、多分一生上がらない気がする。
「多分、根の世界に行けば魔法もありますよ」
世界という概念が宇宙の他の星と仮定していいのかは不明だが、探せば多分見つかるような気がする。
もっとも別に見つけたいとは思わなかったのだが。
「それでは私の方も語るとしようか。私は広義で言えばノインツェーンの娘だ。一時期アレは子どもを色々造ったんだが、結局成長しない私だけが残った」
それはニュースでも見た違法クローンの事だろう。
そして、造っては殺すをくり返したらしいので、人間の理解が追い付かず処分が決まったのだろう。彼女が保護されたのもその頃だ。
「まあ、あれがバルドルに不可逆的にデータを焼き付けて死んだ後は、保護施設に入り、学校に通って医者の資格を得て現在に至る。成長しない体というのは命が助かった代償だと思っていたのだが多少欲が出た」
「つまり、成長するためのヒントがこの中にあると?」
「あると踏んでいる。それに学者としての私の専門は遺伝子関連におけるナノ分野の利用だ。アセンブラが使えるならそれができるはずさ」
てっきり、調理用ナノマシンとか、実際には見たことはありませんがエロエロ用のナノマシンが主だと思っていました。
「なら、俺も本気でやるとしましょう。どうせなら知り合いの為に努力するというスタンスの方がモチベーションも上がりますし」
この空間は相手の庭なのだが、同時にネットにラグなく干渉できる俺の特性も最大限に発揮できる。
人の心は何に由来するのか不明だが、そういうのは偉い学者が考えればいい。
それにこの秘密を知るのは俺とノイ先生だけだろうし。あるいは今ここを覗いている可能性がある向こうもそうかもしれないが。
「では行くとしよう」
side 橘聖良
「聖良さんはずいぶん冷静だな。あの坊主とノイが飲み込まれたんだぞ」
今二人の実体は事前に用意していたベッドに安置され、脳波をモニターされている。
永二さんはおそらく八重さんの時のことを思い出したのだろう。
「大丈夫よ、佐藤……ジルベルトさんだけならともかくノイがいるわ。それに私があの時と同じ過ちを許すはずがない」
佐藤さんに渡したプログラムはおそらくノインツェーンにも有効なはず。
二人ならその隙を突いて逃げ出す事が可能なはず。
「大佐、佐藤なら大丈夫だ」
確かモホークといったろうか。
モホークとは古い言葉で『火打ち石』
「できすぎかしら」
つまり、ノインツェーンとバルドルに関わる人物が知らず知らずに集まっていた。
そう、始まりは全く縁のない佐藤さんだ。
できすぎている。
これは誰が描いたシナリオだろうか。
『神は賽を振らない。動かすのは常に人よ聖良』
「姉さ……」
そういえば、あれはノインツェーンの墓標であると共に、姉さんの墓でもあった。
もちろん、彼女の肉体は門倉家の墓地に眠っている。だが、電子体はここで死んだ。
「勲さんは、お嬢さんに真実を伝えたの」
「これが終わったら改めて伝えることにする。結局、彼がいて初めて我々は親子でいられたんだ」
ジルベール・ジルベルトが与えた影響は大きい。
「聖良さんと勲がそこまでいうなら心配はしないが、あの聖良さんが信用する理由を俺にもわかりやすく説明して欲しいんだが」
「ポーカーで勝負していたはずが、気がついたらブリッジで勝敗が決していた。認識的には境界が曖昧になる、そういう事ね」
「すまん、余計に分からなくなった」
「シュレーディンガーの猫とかの分野の話よ。ロジックに精通している存在に対する切り札だからきっと……」
問題なのは、彼が向こうに付く可能性だけど、多分ノイがいるからそれはないだろう。
向こうに付かれたらそれこそグングニールか何かでなぎ払わなければ対処のしようがなくなる。
もちろん、永二さんにも勲さんにも心の内を明かす訳にはいかない。
結局一番勝算の高い手段を用いたに過ぎないのだが、あるいは久利原直樹を拘束した方が良かったのだろうか。
いや、私もまたノインツェーンにとの因縁に決着を付けたかったのだ。
間違いなくあの中に師がいる。
コネクターが居なければ自由に動けないだろうが、あるいはそのルールさえも破ってしまいそうな彼との邂逅は我々に何をもたらすのか。
私たちができる事はすでに無く、結果だけを待つことができるのだった。
ESに堕ちたジルベルトは彷徨ってどこかのジルベルトと融合するのでしょうか。
このジルベルト(佐藤)さんとノインツェーンが組むと文字通り世界オワタになります。
プロセス的には脳内チップを介して認識のバグを起こせます、やろうと思えば。
まあ、相馬透のチップがあれば無効にできるでしょうけど。
次の投稿は21:00となります
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