こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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分岐α1 降り止まない雨はなく、月はやがて優しく照らす

 久利原先生が死んだ。

 

 何度連絡を取っても応答がなかったので、心配になった同僚が警察の立ち会いの下部屋を開けると、毒薬入りの薬を持って倒れた先生を発見。

 

 すぐに病院に連れて行ったが、すでに死んで2日は経過していたらしい。

 

 現場に残っていたのはアセンブラの研究論文と後は頼むと書かれた遺書。

 

 当局は研究に悩んだ末の自殺と断定。

 

 以前に聞いたように先生には家族がいないので、同僚の人が喪主となって葬儀が行われた。

 

 俺や雅にとってはちょっと年の離れた兄のような存在で、気さくないい人だった、ともはや過去形にしなければならないことに対する寂寥感は計り知れない。

 

 葬儀には俺たちも参加しあの感情を表に出さない亜季ねえが号泣し、何故か親父と似た感じのするがたいのいい男が慰めていた。後で知った話だが、かつて如月寮にいた先輩らしい。

 

「真ちゃんは?」

 

 空は憔悴して首を横にふる。

 

「あれからずっと寝込んだまま」

 

「……そうか」

 

 久利原先生の死を聞いて真ちゃんは倒れた。

 

 それから3日間、真ちゃんは部屋から出てこなかった。

 

 俺にとってその姿は何故か死んだ母さんを呼び起こした。

 

 俺は正義の味方になりたかった。だから俺は。

 

 

 

 真ちゃんは亜季ねえのプライベート空間で膝を抱えてうずくまっていた。

 

「探したよ」

 

 真ちゃんは何も話さない。だけど思考が漏れてくる。

 

『私が悪いんです。久利原先生がどういう状態かわかっていたのに曖昧な態度を取って』

 

「それは真ちゃんの責任じゃないよ。久利原先生が焦っていたのは俺もわかる。確かに悲しいことだけど、俺たちは生きているから前に進まないと」

 

「……」

 

「なあ真ちゃん。俺の死んだ母さんが電脳症だったという話を知っているよね」

 

 真ちゃんは頷いた。

 

「母さんは日に日に弱っていくのに親父は戻ってこない。だけど母さんは親父のことを正義の味方って信じていた。結局母さんの死に間に合わなくてそれからぎくしゃくしてるんだけど、今度時間ができたら親父と話そうと思う」

 

『……何をですか?』

 

「親父のこと、母さんのこと。それから真ちゃんのこと」

 

『わ、私のこと?』

 

「ああ、お姉ちゃん思いのやさしい子だってこと。普段は喋らないけど本当はいっぱい話せるってこと。そして俺が守りたいってこと」

 

 真ちゃんはきょとんとして、その後顔が赤くなり、怒濤のように思考が流れていた。

 

『わ、私のこと守ってくれるって。それってもしかして私のことが。で、でも甲先輩にはお姉ちゃんや千夏先輩や、亜季先輩とかステキな人がいっぱいいて。なのにどうして私何ですか』

 

「千夏はケンカ友達で、亜季ねえはお姉さんだからな。空はちょっとわからないけど、でも今一番大事にしたいと思うのは真ちゃんだから」

 

『甲先輩は卑怯です。エッチだし、かわいい女の子を見るとすぐ目移りしちゃうし、ムッツリスケベだし、それからええとええと』

 

 真ちゃんの思考がどんどん流れてくる。

 

 そうか、真ちゃんにそう思われていたのか俺はと思うとちょっと凹む。

 

「まあ、結論から言うと俺は真ちゃんが大好きなんだよ」

 

『私も好き、大好き、愛してます。だってありのままの「私を受け入れてくれる人だから」

 

 真ちゃんは口を開きはっきりと言葉にする。それは初めて聞いた彼女の意志だった。

 

「私、ちょっとでも他の女の子を見たら嫉妬するような悪い子ですよ」

 

 それは年相応の女の子の姿だ。

 

 確かに久利原先生の死は悲しいけどその代わりに真ちゃんの症状がよくならと思う自分がいた。

 

「俺も女の子と付き合ったことないから、その辺は二人で少しずつやっていこう」

 

 

side 敗北者

 

 12月24日 クリスマス

 

「ま、まさか真ちゃんに甲を取られるなんて」

 

 私の悪友である渚千夏は黄昏れていた。

 

 そう、私の妹である水無月真は門倉甲と付き合うことになった。

 

 知ったのは今月になってから。夕食の際に宣言されたのだ。

 

 久利原先生が亡くなって、それを慰めている内にそういう関係になったらしい。

 

 その後のことはすごかった。

 

 おめでとうと祝福したものの、菜ノ葉ちゃんは一日閉じこもるし、亜季先輩はマインドハックが何とか言い始めるし、当然レインには私からそのことを伝えなければならなかった。

 

「お前真ちゃんの姉なのにどうして気づかなかったんだよ」

 

「知らないわよ」

 

 門倉甲。

 

 最初はただのスケベ野郎とか人形好きとか思っていたけど、実際はちょっと違っていて、誰かの為に一生懸命になれるやつ。

 

 私もちょっと良いかなと思っていた。

 

「自覚する前に終わった恋だったのよね」

 

「私は、甲を取られるとしたら空だと思っていたよ。それとも甲ってその胸がないのが好きなタイプだったのか」

 

 学生は本来飲酒は控えるべきだが、千夏はヤケ酒するように飲んでいる。

 

 私も実はアルコール分が入っていたりする。

 

「それなら菜ノ葉の方が幼なじみだしアドバンテージあったでしょ。理由なんて知らないわよ」

 

「それで、如月寮初のカップルはどこにいるんだ」

 

「甲のお父さんから貰ったホテルのディナーチケットでデートよ。おめかしして行ったわ」

 

 今日は帰ってこないかもと言っていたが聞かなかったことにしよう。

 

「うう、本当なら甲の初めては私のはずだったのに。やっぱり小さいのがいいのかぁ!」

 

「ああ、もう今日は飲むわよ。こんな日に女二人でやってられるか!」

 

 その後のことはよく覚えていない。

 

 起きたときにはいかがわしいホテルらしきところで、下着姿で寝ていて、隣に渚千夏が同じような姿でいたけど気にしてはいけない。

 

 

 

 世界0

 

「見なかったことにしよう」

 

 私はその世界の行く末を放棄した。

 

 どうせ久利原先生がいない世界だから滅びるにしても近い未来ではないだろう。

 

「姉としての自分はうれしいけど、女としての自分は負けた感じかなあ」

 

 そうして私は違う分岐を探し始める。

 

 目指せ私と甲が結ばれてクリスマスで良い展開になる分岐。

 

 プラグイン「百合の証」が追加されました。




なお、最初に付けたタイトルは「まこちゃんはストーカー」である。

この事件もっと詳しく調べるとやべえ事実が浮かび上がるんだろうなとか思ったけど、それ明かしたところで誰も幸せにならないからそうしたんでしょうね

新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)

  • 白鳥さんから見た本編
  • 蛇足の蛇足(結婚式)
  • 蛇足の蛇足(失恋慰め回)
  • 蛇足(水面下の争奪戦)
  • ところで真ルートは?
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