こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
ひたすら男のモノローグが展開される話
平穏と正義を天秤にかけるとき、9割の人間が平穏を選んだとしても納得するだろう。残り1割はバカか英雄なのだ。
灰色のクリスマスで人生を狂わされた人間は何人もいるが、俺の生活基盤そのものは狂わなかった。幸いなことに両親は無事だった。
狂ったのは人間関係だ。事件の後、亜季先輩とは比較的早くに連絡が取れたが、他のみんなとは連絡が取れなかった。避難所での生活は苦しくないと言えば嘘になるが後に妻となる少女を守らなければという使命感が何となく自分を支えていた。それに仲間達と再会できると信じていたからだ。
避難所生活をはじめて一週間、甲と再会した。甲はえらい美人さんを連れていたのだが、あの日デートしていた空がいない。
その時の俺は再会できたうれしさから「トイレにでも行ってるのか」とする口で話すが、ボツリと「死んだよ」と答えた甲の暗い声を聞いて後悔した。
「冗談だろ相棒。あの空がそう簡単にくたばっちまうわけないじゃないか」
「アセンブラが暴走して……空がと」
「分かった、もういい、これ以上は言うな!」
おそらく、リアルタイムであの瞬間をみてしまったのだろう。
「雅……俺……空のこと守れなかった。母さんに間に合わなかった親父と一緒だ」
泣き崩れる相棒の姿に、俺はただ時間が過ぎるのを待った。
「俺は真実を知りたい」
落ち着いた甲が吐露した言葉。
空は確かにいい子だった。だけど彼女の復讐のために自分の人生を犠牲にするつもりはない。
「そうか、俺たちは親友で何となく同じ道を行くのかなと思ってたけど別れるみたいだ」
甲は自分のせいで空が死んだと思っている。いや思いたがっている。親友として止めるやることが友情なのだろうか。菜ノ葉ちゃんも亜希先輩も千夏も真ちゃんもどこにいるのか、いや生きているのかすらわからない。身近な人物をこれ以上失いたくないと思う反面、男として貫かなければならない部分があるのも理解している。
「それであの子はどうするんだ」
さっきの美人さんは、俺の連れと色々話しているようだ。
「レインは置いていく。父親を探して何とか」
「そうか。でもお前も親父さんに連絡を取るべきだ」
「親父とは……その」
「もちろんそんなことは知ってる。俺たちは確かに学生としてはそれなりの腕前だ。先生に戦い方は仕込んでもらったからそこいらのチンピラ程度に負けるつもりはない。だけど生き残り方を知っているわけじゃない」
「……生き残り方」
「目的を果たすまで死ぬことは許されないし、差し違えて死ぬとか空が許すわけ無いだろ。だから生き残るための技術をどこかで学べ。親父さんのとこが嫌なら信頼できるところを紹介してもらえ」
門倉甲の才能は群を抜いている。多分何もしなくてもある程度はいけると思うけど、今のままなら多分途中で終わる。だからこそのアドバイス。
「これからの時代、どうなるかわからないが、俺は俺のできる精一杯をしてみせるさ。まあ、たまには飲みに行こうぜ」
「あなた、起きて下さい」
結婚して2年目となる妻に起こされて、学生だった須藤雅から都市自警軍(CDI)の刑事である須藤雅に意識を切り替える。
「ちょっと懐かしい夢を見た。あの日、甲に会った夢を」
「……そう、門倉さんと会ったのもあの日が最後ですものね。私たちの結婚式にお呼びしたかったけど」
妻の家族は行方不明だったので、紆余曲折あって一つ屋根の下で暮らしはじめ2年前に籍を入れた。あの日のことを思い出すことは辛いのだが、トラウマがフラッシュバックするようなことはない。おそらく現在が慌ただしくて過去に囚われる余裕がないのも原因かもしれない。
「死んでなければいつか会えるさ。料理のうまい嫁さんを自慢してやる」
「あらあら、じゃあ腕に縒りをかけて作らないとね」
ミッドスパイアは人工的な都市であり、ここから外に出れば数年前では考えられない現実が広がっている。それでも俺は作られた日常を大切にしたいと思った。
妻と軽い口づけを交わして、仕事場に向かうと、今年入ってきた新入りが挨拶をしてきた。
「須藤先輩おはようございます」
「おはよう、今日は一番区の見回りだ。危険は無いと思うが油断しないように」
「はい!」
昔、戦争を知らないこどもたちという歌があったそうだが、こいつらより少し下の世代は平穏を知らないこどもたちということになる。そして簡単に先生に伸される立場だった俺が、今では人に教える立場になるとは時間が経つのも早いものだ。
「雅の旦那、元気ですかい」
巡回中に知り合いの情報屋であるジョニーと出会った。警察に入ってからの知り合いだが、警察では教えてもらえないような情報の捌き方を学ぶという貴重な体験をさせてもらった男だ。
「仕事が多くて嫁さんの相手もできないくらい忙しいな。一帯の元締めが変わってからやりにくいったらありゃしない」
代替わりしたボスと癒着しない程度のコネクションを作る作業を思うと気が重くなるが、ジョニーは薄くなった頭を叩きながら大丈夫だと言った。
「高尚な使命感を持つ人間は俺らのことをわかってくれないが旦那は掃きだめを理解してますからね。新しい元締めもその内、旦那となれ合った方が楽だとわかりますぜ。あんたに助けられた奴らだって結構いやすしね」
「そう思ってくれるなら嬉しいがね、そういえば何か用事があったんじゃないのか」
「確か、旦那はアセンブラ狂いの門倉と知り合いでしたよね。今こっちに来ていますが、ドンパチがおこりそうなのかと知りたくてね。こっちも戦場に踏ん張る趣味は無いんで」
「甲……門倉が? 知らないが、何かわかったら教えてやるよ」
「助かりますぜ」
ジョニーと別れた後、新入りは怪訝そうな表情で俺を訝しむ。
「田中、俺は正義より安定を守ることを選んだ男だ。もし不満なら担当を代えてもらう」
「……雅先輩は、ああいう輩が安定に繋がると」
「警察機構は基本的に情報に於いて後手に回る。だから情報屋で補う。しかし俺たちの情報は流さないように注意しなければならない」
世間話の中でも注目すべき情報は結構あるということを俺は先輩から学んだ。もう一人いた同僚はそういうやり方が合わなかったらしく、別の担当に付いたのだが、情報が足りなくて殉職した。
「俺たちは乏しい予算の中で市民の安全を守らなければならない。悪となれ合っても、悪に染まらないようになれ。そうすれば長生きできるし、CDIの人間が一人少なくなれば統治能力を落ちることを意識しろ」
一番大切なものを守るために妥協することは人間が社会で生きる上で大切なことなのだ。もし一切妥協せずに物事を達成できる者がいるならそれはおそらく人間ではなく英雄と呼ばれる存在なのだろう。俺は切り捨てることができない大切なものを手に入れてしまった。だから妥協して生きていく。
「さて、あいつは何のために戻ってきたのやら」
願わくは守るために俺たちが争うようなことはないようにしたいものだ。
チームバルドヘッドに於ける親友というのは基本的に主人公を成長させるために死ぬための存在である。優哉の死から物語は始まるし、セルビウムも高い確率で死ぬというか美味しい役割を担っている。ところが、須藤雅という人物は親友なのだが、千夏シナリオで狂って死ぬぐらいで後は簡単にフェードアウトしていくキャラ。死なないことはいいことなのだが、傭兵のフェンリルの濃いメンツのおかげで組織に繋がっているということがうまく活かされていない。情報戦にも強いモホークという上位互換がね。
というわけで今回の話。彼には彼の守るべき日常があるわけです。警察の仕事は正義の味方ではなく治安の維持。考えようによっては門倉甲は目的の優先順位を間違えない父親と、目的のためなら手段を選ばない叔母に似ているのかもしれませんね。アセンブラの噂があればどこにでも現れて容赦なく破壊していく『アセンブラ狂いの門倉』。別に他意は無いのです。
という感じで、キャラの背景にフォーカス当てた話。
これの亜希ねえver 何故彼女は仮想都市を作ろうと思ったに至ったのかみたいなのも一応プロットだけは作っている。ただそれやる位なら、甲とぐだぐたしながら、イチャラブ書いた方が需要があるだろうなとか今でも思っている。
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