こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
鋼の身体に袖を通すという表現が正しいのだろうか。右手を動かすように思考するとイメージ通りに右手が動く。次に歩行、そして疾走だが歩行はともかく疾走は人間ではできないのでファジーなものだと思った。
電子体からシュミクラムへのシフトは初めての経験だが、思ったほど違和感はない。
「一応君の意見を聞いて製作したが、何というか悪役仕様だな」
「そうですか? まあ、悪の魔法使いがイメージですからね」
紫と黒と深紅を配したシュミクラムのカラーリングはどちらかというと高圧的な印象を与えるだろう。
「武装は電磁鞭に投げナイフ、機雷、ニードルガン……この辺りまでは問題ないが、これは結構メモリを食うぞ」
「それに関しては普段から使うわけではありませんから、登録だけしといて下さい。あとはこちらで調節します」
「ふむ、ならいいか。よし、これで完成だな」
俺の発案を元にノイ先生が設計したシュミクラム『グリモア』はこうして完成した。
「私が言うのも何だが、バランス良く仕上がったな」
この機体は攻撃力よりも回避性能や継戦能力を重視した機体で、どちらかというと遊撃向きだ。反面、防御力には期待できないので、単独の場合は基本的には逃げながら削っていくことになる。
「では、早速戦ってみようか」
「先生が相手をするんですか?」
「私じゃない。私は残念ながら相性が良すぎてシュミクラムを操ることができないのだ」
相性が悪いというのは聞いたことがあるが、良すぎて操ることができないというのは聞いたことがない。
「君の相手はもうすぐ来る」
「お待たせしました」
空間に移動してきた白いシュミクラム。淡い光を発するオプティカルウィングが神々しさを演出するその姿は天使のようだった。
「私の患者の一人である水無月真君だ。真君、彼はジルベルト君。年は君の一つ上だったかな?」
「俺に聞かれても何とも。ジルベール・ジルベルトだ。よろしく水無月さん」
「は、はい。よろしく……お願いします」
chapter2
日常 one day
俺はこてんぱんにのされた後、電子体にシフトした。
「強いなあ」
ほぼ常時滞空状態な上、ビットとかレーザーとか「お前はどこのバチェラだ?」と聞きたいぐらいだ。間を詰めようとするとトリッキーな接近戦で叩いてくる。間違いなく初見殺しだなと思った。何より高速機動できる機体はグリモアと相性が悪い。
「初心者の割には君もうまくやっていたと思うが?」
「対空武装が必要ですね。機雷で対処するのも悪くないですが」
牽制にはなるだろうが、弾幕で彼女に勝てる訳が無いので、まだ試したことのない奥の手を使うか否かの勝負になるだろう。強固な牙がいる。そう、どんな敵をも打ち破る強固な牙が。だが、そう心の中で思っている自分に気づいて、つい苦笑する。そう、自分は何かの物語の主役ではないだろうし、別にゲームと同じ世界観の世界に産み落とされただけで、戦う必要がないことに。
これはあくまで、モラトリアムの中でやる娯楽に過ぎないということを。そう思うと、ついに大きな声で笑ってしまった。
「どうしたのかね、ついに狂ったか?」
心配そうに見つめるノイ先生に俺は首を横に振る。
「いえ、自分の新しい側面に気づかされただけですよ」
「あ、あの」
今まで相手をしていたシュミクラムの主が電子体にシフトして近づいてくる。何というかノイ先生に劣らず、こう凹凸が少ない少女だ。一つ下とは聞いたが、ノイ先生と違ってまだ見込みはあると思う。
さっきの模擬戦の果断さとは裏腹に、少し怯えたように俺を見、声(?)を掛けてきた。
〈ど、どうしよう、初対面の人に対してあんなに激しくしちゃった。やり過ぎちゃって変な目で見られないかな〉
そんなことないけど。
〈よ、良かったぁ。あ、アレ? もしかして私の声が聞こえるんですか〉
聞こえるというか君も俺の思考にダイレクトに返事してるよね?
〈ご、ごめんなさい! ま、まさか思考がダイレクトに繋がるなんて思わなかったんです〉
「ノイ先生、彼女もしかして特別な力を持っているんですか?」
「そ、それは……」
珍しく言い淀むノイ先生。
「研究機関で育てられたとか、そんなバックボーンがあるとか……?」
〈な、何でわかるんですか!? まさかあなたも!? 〉
俺の場合生い立ちが変わっているだけで、ごく普通のデザイナーズチャイルドというだけだ。しかし、彼女はある目的のために研究所で多くの実験などをやったのだろうか? こんな少女が。
「苦労したんだな。……まあ、この電脳世界が全盛の世の中でいうのも何だけど、エスパー実験とか超能力者って本当に実在しているとは思わなかったよ」
あっ、二人ともこけた。
俺の変な誤解はノイ先生の説明によって解かれた。
「ああ、電脳症なんですか彼女? 防壁とか簡単に突破するとか、その類の」
電脳症というのは、自分と他との境界線があやふやになる病気らしい。俺の認識的にはバルドフォースの憐みたいなものか。
「でも、実体あるんですよね? 長時間、実体と電子体の切り離し実験でそういう適正を手に入れたとかじゃなくて」
「第二次電子革命の前には、そんな実験を行っていたという話を聞いたことがあるが、彼女の場合は事故の後遺症だ」
「それは何というか、初対面の相手に対して大変無礼なことを」
「しかし、君は電脳症というのを忌避しないんだな」
「知識としては知ってますが、実物がどんな影響を及ぼすかなんてわからない訳ですし。それに彼女と俺たち、人間的に駄目なのは?」
「当然私たちだな。なるほど、おめでとう真君。君は電脳症という症状を煩っている普通の女の子であることが実証された」
ノイ先生は迷うことなく即答した。
「へ?」
彼女はどうも俺たちのテンションに付いていけないようだ。
無理もない。あのネガティヴさを見る限り、かなり周りから忌避されたのだろう。それがこの2、3時間の間に、ちょっと事情のある普通の女の子レベルまであげられたのだ。
「君がその力を使って悪事を働かない限り、俺は君に対して別に何か言うつもりはないんだよ。思考だってもう読めないだろ?」
対超能力者とかで思考を閉じるというのをやってるし、こっちの場合は電脳空間だからちょっとプログラムを作れば問題がない。
まあ、意識してやられるとまた問題なのだが、無意識のやりとりというのは無くなった。
「たまに思うのだが、私は君が天才なのではと錯覚を覚えることがある」
「完全な錯覚ですね。がんばれば秀才ぐらいにはなれるでしょうけど、面倒じゃないですか? そういう人生」
「そうだな。ところで真くん、そろそろ食事の時間ではないかね?」
「あ、そうでした。じゃ、また病院で。ジルベルトさんもお元気で」
ぺこりと頭を下げてログアウトしていく彼女を見送ると、俺はノイ先生にたずねてみた。
「彼女、日常生活大丈夫なんですか?」
「どうしてそう思うのかね?」
「いえ、何となく」
「もし彼女がいいと思うなら、今度はリアルの彼女とも会ってくれたまえ。やはり電脳症なのか、こっちに依存するからな」
「その時は喜んで……って何ですか、その顔は」
その幼い容姿からは想像もつかないニヤニヤした表情。
「たまに思うのだが、君は子どもには甘いなと思ってな」
「ノイ先生だって俺から見たら子どもですよ」
たぶん20代前半から半ばくらいだと思うから、俺の前世分よりちょっと若い程度だろう。
「できるなら面倒ごとを抱えたくないんですよ。俺もガキですから」
すると今度は何というか、年上の姉のような顔をした。
「いつも思うのだが、私は君をどのカテゴリーに入れるか迷うときがある」
「自分が何者かなんて誰にもわかりませんよ。どんなに進歩しても他人を介してしか自分を確認できないんですから」
親から見たジルベルト、お嬢さんから見たジルベルト、商店街のみんなから見たジルベルト、ノイ先生から見たジルベルトはみんな違う。もちろん佐藤弘光から見たジルベルト評なんかもあるなと自分のことながら他人事のように思った。
「さて、俺たちもそろそろ出ましょうか」
「そうだな。たまには君の料理が食べたくなってきたので、この間の奢り分は君が料理を作るということで……」
ノイ先生も物好きだと思うが、まあいい。久しぶりに他人相手に独身男の手料理でも食べさせるとするか。
「いいですよ、お嫌いなものがあれば抜きますが?」
「特にないよ。では次週の休みを楽しみにしてよう」
こうして、次週の俺の予定は女性に料理を振る舞うことに決定した。
ジルベルト、シュミクラムを手に入れる。
名前はグリモアですが、中身はノーブル・ヴァーチェと大して変わりません。ムダに突起はありませんが。
ジルベルトの中の人は、後方支援タイプというか、引っかき回すのが好きなので、結果的に似たような機体になっただけです。
ネージュ・エールと組めば何とか久利原先生と対抗できるかなあ。
ジルベルトワールド本編終わったらどちらを読みたいですか
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番外編→えせ救世主物語(DSクロス)
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DIVEX(バルドスカイ本編再構成2)
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ジルベルト系よりニラ小説書けよ