こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
とりあえずアセンブラの流出を防いで、神父を殺したことで灰色のクリスマスが発端になった一連の問題は一区切りついた。
「しかし、これからどうするかなあ」
俺とレインは話し合って、レインは家に戻ることにした。
これからも一緒に居たいと言われても、当初の目的を果たした今、若い男女が行動を共にするというのは健全ではないだろう。
レインみたいな美人が恋人ならと思わないでも無いけど、アイツはあくまでパートナーと思いたい。
ちなみに俺とレインに対する手配は、多分聖良おばさんの政治的な力によって解除されていた。
まあ、手配といっても参考人を確保したいということと、レインの行方を把握しておきたいという半ば公私混同のレインの親父さんに問題が無いわけでもないのだが。
とりあえず、傭兵業はお休みして、久しぶりに昔の友人と会うことになり、俺はCDFの刑事である雅と酒を飲み交わしていた。
「良ければCDFで働かないか? お前だったら歓迎するぜ」
「今更警察官ってのもなあ。親父からは家業を継げってうるさいし」
「ああ、門倉運輸の」
門倉運輸とは傭兵団フェンリルの隠れ蓑だ。
才能というか適正を考えれば悪くないんだが、今すぐ硝煙の世界に戻る気にもなれない。
「桐島長官にGOAT入りを奨められたけど、思想的に反AIって訳じゃないから微妙」
「だよなあ、それよりGOATと言えば千夏はどうしたんだ。アイツの都合に合わせたんだろ?」
「お待たせ」
「お、来た来た」
千夏は軍服ではなく、シックなスーツを着込み、淡くだが化粧もしている。
学生時代の千夏はそういうのに無頓着というか健康的な少女というイメージが合ったのだが……。
「ん、どうしたの甲?」
「いや、よく見たら美人になったなと思って」
「照れずにそんなこと言えるなんてあんたも擦れたんだね」
「実はまだ記憶が戻って無いんだ。だから俺の知っている千夏や雅は星修の頃のイメージだから、一人だけ浦島太郎状態だな」
「……甲」
「ははは、その話は置いておくとしてもう一度乾杯といくか」
かくして、星修時代にトリオを組んだ三人が、実に数年ぶりに再会することになった。
「それで、甲。あんたこれからどうするの?」
「どうって……考え中だけど、一応仕官教育は受けても俺の最終学歴って中卒だからなあ。今更まともな職に付くのは難しい」
「学校か……私たちも大して変わらないんだけど、実力がものをいう社会になったし」
何か空気がどんよりし始めた。
やべぇ、何か俺致命的なこと言っちまったか。
「私もちょっと悩んでいるんだ。今までは久利原……先生を追いかけていたわけだけど、ああいう形で不審な死を遂げられるとね」
久利原先生は、ドミニオンのアジトで死んでいた。記録では俺たちがドミニオンのアジトを抜けた日に死亡している。
結局、あの人は何をしたかったのか検討もつかない。
だが、結果として終わってしまったというか、変な話だが俺たちに達成感はなく、それはGOATの千夏も同じだったようだ。
「人生を捧げていたものが突然無くなるっていうのは二回目かな、最初はサッカー、それに今回のこと」
「……千夏」
「それに雅に子どもができる年だと思うと、そろそろ相手を見つけないとと思わないでも無いのよね」
雅の奥さん―これまた、雅にはもったいないステキな女性なのだが―の妊娠が発覚したのが1ヶ月前。
今日はその近況報告も兼ねていた。
「て、おい」
「アークの橘社長が、元星修のよしみで全身クローニングの資金を出してくれるって話になったの」
今の千夏は灰色のクリスマスの件で全身義体とは聞いていた。
その彼女におばさんは、全身クローニングの資金を出すと言った。
確かに一般人には高額だが、彼女にしてみればさしたる金額ではないのだろう。
「長官も援助はしてくれるって話だし悪くないなって。でもねえ……」
「何か問題があるのか?」
「もう成年したから実質違うけど、私の後見人って桐島長官だったんだ」
「そうか……」
「私も、あの人をもう一人の父親のように思っていたんだけど、最近家に呼ばれることが多くてさ。まあ、これは甲にも原因があるんだけど」
「俺?」
レインの親父さんとはミッドスパイアに入った時と、レインの今後について話した時ぐらいしか面識の記憶がない。
「長官、あんたの相棒と一緒の家に暮らすようになったんだけど、間が持たなくてたびたび食事に呼ばれるんだ」
そういや、父親とはあまり仲がよろしくなかったなレインは。
まあ、俺と親父も似たようなもんだけど。
「で、突然話が始まるんだよ。やれ、『見合いをしてそろそろ身を固めろ、その気があるならさっさと門倉君とくっつけ。渚くんだって、彼に気があるみたいだが』。え? どうしてそこで私の話題になるかと思ったら。あの女、勝ち誇ったような顔をして『お父様、失礼ですけど、私が渚中尉より女としての魅力に欠けている訳じゃないですか。それに私は中尉の公私に渡るパートナーですよ』って爆弾発言するし、その内長官が乗り込んでくるかもね」
千夏の言葉に俺は顔が真っ青になった。
公私ともということは、俺とレインってまさか、いや一緒のホテルであそこまで無防備で大丈夫なのかと疑問が無かったわけでもない。
「すまん、男としてこんなことを言うつもりは無いんだが、全く記憶にない」
「じゃあ、少なくともここ数ヶ月はそういうことをしてないというわけか。じゃあ、私が宣戦布告してもいいのかな」
「千夏?」
「うん、やっぱり色々あったけど私は甲のこと忘れられない」
その晴れ晴れとした顔は、俺の知る渚千夏だった。
「……あのさ、二人でいい雰囲気作るのいいけど、俺のこと忘れるなよ」
そして、ジト目で見ている須藤雅(既婚)の声にその空気は消えてしまうのだが、ドキマギした感情が止まらない。
落ち着け門倉甲。お前は思春期の学生じゃないだろ。
「うん、クローニングで星修時代の身体で出れば、あの時の約束も果たせるし」
思い出せないのだが、思い出した方がいいような、思い出さない方がいいような話を千夏がしている。
こうして門倉甲の人生はリスタートを切ることになったのだった。
バルドスカイ屈指の三角関係、「甲、レイン、千夏」。
「甲、レイン、空」や「甲、空、千夏」もありますが、うん、いいかなって感じです。
新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)
-
白鳥さんから見た本編
-
蛇足の蛇足(結婚式)
-
蛇足の蛇足(失恋慰め回)
-
蛇足(水面下の争奪戦)
-
ところで真ルートは?