こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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力は信奉されるべきだ。それがセカンドであろうがノインツェーンのような存在であっても。俺はあいつとは違う。勝つために自分が優秀であるために一歩一歩でも前進する。それが今までのあいつと決別した俺の在り方。






DIVEX1 求道者

それは夏

 

 自分の両親は自分達をエリートだと思っているが、俺が「識る」人間と比較すれば人間としてできていない。あるいは重みがないとでも言えばいのだろうか。

 

「子どもの人生をいじれる程度の力だな」

 

 ジルベール・ジルベルトとして生きている俺はため息を付いた。佐藤という人格を持つ男はジルベール・ジルベルトの自我が発達する頃には融合していたが、俺はあの瞬間からジルベールとなった。果たして俺に乗っ取られる前の俺はどんな人物だったのか。

 

「くだらんな」

 

 鳳翔学園の生徒は自分達のすばらしさと輝ける未来に対する希望があった。生まれ持ってスペックは高いのだから誇ってもいいだろう。もっとも、この大半が来年まで生きているかは不明だが。あいつとは別の感慨を抱いた結果、俺もバカどもと一緒に行動する気が皆無になった。

 

 昼休みも一人でベンチに座る。今では珍しい紙媒体の本に目を通し、外で買ってきたサンドイッチを口にする。これもあいつの癖だ。解放されたはずだが、余計な癖が染みついていた。

 

 そして再び本に目を通そうとすると遠目で俺を見つめる視線に気がついた。

 

 桐島レイン。あいつと仲が良かった女。家庭環境に問題有り。近頃何度か見かけたがどうやら気のせいでは無かったようだ。

 

「俺に何か用か」

 

「い、いえ……何でも」

 

「自分の意見ははっきり伝えろ。押しつけられた環境に不満か。だが、それに対して流されなかったか。どうせ自分のことを分かってもらえないと。諦めるのは努力してからにしろ」

 

 この女は俺なんかよりかなり優秀なのだ。デザイナーズチャイルドもセカンドも関係なく、優秀な人間はそれ相応の環境で育って力を示してもらわなければ困る。

 

「星修の如月寮に水無月空という口から生まれてすぐに手の出る女がいる。そいつに伝え方を教えて貰え」

 

 俺は自分が生き残ることで精一杯であり、女の人生相談にかまけている余裕がない。この女はあいつと同様にお節介な門倉甲(ヒーロー)にでも押しつければいい。

 

 

それは秋

 

 確認はしなければならない。情報が足りない以上、かまをかけてでもアレが起こりうるのか知らなければならない。

 

「その理論を確立するための資料が見あたらない。じゃああなたはどこからそれを持ってきた? まさか神からの啓示なんてオチはないよな」

 

 久利原直樹は動揺していた。相手の仕草、特に目をよく見るのはアイツなりの人間観察術だ。

 

「それともどこかからハッキングでもしたか? 強固な防壁を突破できるウィザードでにハッキングツールでも頼んで」

 

 続けて門倉甲の周辺を見る。みんながこちらを睨んでいるが、ただ一人違う反応を見せた女がいた。

 

「これは関係ない話でだったな。俺はここで退場する」

 

 用件は済んだ、後はどうするか。部屋から出て数分後、ぶらついていると声がかかる。

 

「お前何様だよ」

 

「何様だと言われればジルベルト様だ。俺も自分で手を汚したくないから忠告しておくが、あの教師早めにネットにへのアクセスができない病院に隔離して治療させた方がいいぞ」

 

「どういうことだ?」

 

「詳しくは橘聖良の娘、いや姪だったか……まあどうでもいい、そいつから聞け。夜逃げの必要が無いならそっちの方がいい」

 

「亜季ねえに?」

 

「門倉永二にバルドルとアセンブラ、神父と伝えればどうにかなるかもしれないがな。セカンドの暴走が招いた種だ。セカンドで刈り取ってくれ」

 

 呆然と立ち尽くすセカンド達を尻目に俺は立ち去った。何より時間がない。

 

 

 

 そして冬。

 

 どうやら予定通りアセンブラの実験をするようだ。間違いなく失敗に終わるだろう。バイクに乗り、一週間分の暮らしができる程度の物資が入ったリュックに背負った。既に俺名義で離れた街に住居を一つ構えており、そちらにも買い付けてある保存食を貯めてある。

 

 だが研究所に入っていく一人の少女を見た。

 

「あのバカ女。どうしてこんな所に」

 

 見捨てるか、所詮は他人だ。だがアレは世界は違えど水無月真の姉だ。あいつなら助けた。自分の周りだけが良ければいいという割にあいつはそれを拡大解釈する。見捨ててもいいが……。

 

 やがて研究所から彼女は出てきた。これからすぐに移動すれば間に合うだろうが、電車に乗るでもなく、待ちぼうけを食らっていた。

 

 仕方が無いと、俺はヘルメットを脱ぎ声を掛けた。

 

「おい、お前どうしてこんなところにいる」

 

「あんた確かジルベルト様?」

 

「何だそのジルベルト様とは」

 

 俺はいずれ上に立つべき人物だが、今からそれもほぼ無関係の人物から様呼ばわりされる謂れはない。

 

「忘れたの? 甲が何様って言われて自分に様付けた奴なんてはじめて見たわ。それより何の格好よ」

 

 そういえばそんなこともあったな。

 

「夜逃げの準備だ。久利原直樹はあそこにいるんだろう?」

 

 確かに耐衝撃のスーツを着てリュックを背負っている俺は変に見えるだろうが、背に腹は代えられない。

 

「え、ええ」

 

「なら早く逃げた方がいい。おそらく神父の人格によってデータが改変されている」

 

「あんた前もそんなこと言ったけど久利原先生はちゃんとやり遂げるわよ。でも参ったなあ……行き先が違う」

 

 次の電車を待っていたら多分間に合わないだろう。

 

「水無月空、妹も持っていたから橘聖良への直通アドレスを知っているな」

 

「知っているけど……何する気」

 

「お前が死ねば妹が悲しむ。これであいつに対する貸しはなしだ」

 

 端末に映る橘聖良は俺が識るいつものような姿だった。

 

『あなた誰?』

 

「誰でもいいだろう。アセンブラの遅延式だ。ハッキングしてどうにか暴走を遅らせろ。俺はこいつを連れてなるべく距離を稼ぐ。ついでに水無月真とノイを確保しておけ。政府や軍に確保されると厄介だ」

 

『いいでしょう。一つ聞きたいのだけど彼は神父?』

 

「詳しい原理は知らんが感染するらしい。どちらにせよグングニールによる照射でなぎ払い確定だな。さらに言えばまだ中にいるぞアレは」

 

『情報提供感謝するわ。あなたが無事ならその内お話を聞きたいところだけど』

 

「それならうまい飯でも食わせてくれ。もっとも四六時中寝ているあんたには食欲や性欲などは興味がないかもしれないがな」

 

 俺達のやり取りが終わると水無月空は目を丸くしていた。

 

「どういうこと?」

 

「いいから乗れ。速く逃げないと溶けるぞ。これを背負って俺に掴まれ」

 

 予備のヘルメットを渡す、それほど金のかかっていないものだが無いよりはマシだろう。

 

 走り出すこと30分、後ろの女がスピード出し過ぎとか言ってわめいているが、異様な警報が周囲に鳴り響く。

 

 それから5分後、天から光の柱が降り注いだ。

 

「なに……あれ?」

 

 水無月空は憔悴していた。まあヘルメットを被せたにしろ、平均時速100kmを越えていれば当然か。

 

「アセンブラの増殖を防ぐために統合軍がグングニールを照射した。周辺部への衝撃波も含めればおそらく十万単位で死んだな」

 

俺も含めて、一年前まで普通の学生だった自分たちが享受していた普通の世界が一変した。

 

「あんた、こうなることが分かっていたのね」

 

その声に怒りはなく、現実逃避からくる確認だった。

 

「予知夢みたいなものだから自分だけが助かるために行動していた。もっとも確信を得たのは発表会でのあいつの反応だったがな。鳳翔の学生と新進気鋭の学者様のどっちの言葉に耳を傾ける?」

 

 というよりあれだけの大物を説得したあいつが異常なんだ。

 

「私達、これからどうなるの?」

 

「助けた手前、アークまでは連れて行く。運が良ければお前の仲間にも会えるだろう。それともヒーローのところの方がいいか」

 

「ヒーロー? もしかして甲のこと? どうしたらいいと思う?」

 

「知らん。俺がお前を助けたのはあいつに劣る自分を否定したかったからに過ぎない。とりあえずは連絡を取ってみたらどうだ。それくらいの時間は待ってやろう。現実を見ろ、お前がなすべきことはお前が決めるしかないんだ」

 

ドクターはあの女は世界が滅んでもしぶとく生き残るタイプだから心配する必要はないが、水無月真は無事だといいが。

 

 

そして未来へ

 

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《b》求道者

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佐藤さんは自分と周りさえ良ければいいと言いつつ割と拡大解釈して救ってしまう。ジルベール・ジルベルト(X版)は力を手にするために近道は無く、一歩一歩でも自分が最強である為に努力することを是とする求道者に何故かクラスチェンジ。自分で書いていて何だけどこれはこれでかっこいい気が。おかしいなヘタレルトさんはどこに行った?

新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)

  • 白鳥さんから見た本編
  • 蛇足の蛇足(結婚式)
  • 蛇足の蛇足(失恋慰め回)
  • 蛇足(水面下の争奪戦)
  • ところで真ルートは?
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