こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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吾輩はフラグである。その感情の名前はまだない。どこで生れたかとんと見当がつかぬ


DIVEX2 恋愛不能症候群

 久利原直樹の生い立ちに同情するとあの男は言った。ナノ汚染された土地で生きたのは運が良かった、あるいは目に見えない何かが生かした。宗教関係者なんかはそれを天命と呼ぶ。

 

 さて、久利原直樹の故郷と同じように蔵浜をグングニールでなぎ払われ、それでも生きている「運の良い人たち」は何をしているのだろうか。

 

 俺の目の前にする少年少女……といっても既にあの悲劇から6年経って肉体的には大人になっても精神的にはまだ引きずっている人間が何をしているかといえば。

 

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《b》恋愛不能症候群

《/b》

 

 

「失われた青春^への渇望を満たす為に男の尻を追いかけている。武芸を嗜んでいたものらしく引き締まった臀部は」

 

「あんた何を言って……というか何書いているの?」

 

 気が付けば目の前には少女というにはもうあか抜けてしまった存在がいる。

 

「10年くらいしたら売り出そうかと思っているノンフィクションのネタだな。門倉甲がいかに師を慕って、下半身も慕っていたということを赤裸々に」

 

 俺の話を聞いていた少女―水無月空は怪訝な顔をする。

 

「いやデザイナーズチャイルドにおかしいのが多いのは熟知していたけど、何で甲が久利原先生の下半身を狙っているという話になるのよ!」

 

「腐れ縁でお前らに付き合っているんだからそれぐらいは見逃せ。それとも門倉甲とお前の赤裸々な夜を流してやっても良いんだぞ」

 

 何せこいつら、戦士としての適正はあっても生活力がない。特に料理の腕に関して女どもは……もっとも桐島レインは仕込んだ今ではそれほど悪く無いが、目の前の女は無理だった。それに費やす労力を考えたらどこかから浮浪児をそれ用に教育を施した方が早い。空の妹がいればそれ辺の苦労は激減したのだが、無いもの強請りをしても現状意味がない。

 

「まあいいわ。それよりあんた、ここに久利原先生いると思う?」

 

「おそらくこの街に潜伏しているとは思う。だが、今回の目的地にはいないだろう。これは作戦前に話したはずだ」

 

「私も甲も一応あんたと同じ教育受けたけど、結局は兵隊で、作戦の立案とか折衝はあんたとレイン任せだから指揮官のあんたには従うわ」

 

 校風に問題はあったが、鳳翔は教育機関として効率良く知識を詰め込むことには長けていた。もっともそれを実践に活かせるか別だが。しかし、星修のやつらは必要最低限の知識と特化した分野というアンバランスさ。あいつの見立て通り門倉甲は俺より強いが、リアルでの戦闘や作戦立案能力などを含めれば俺の方が上だった。

 

「だが、この集団の核はアイツだ。俺は効率良く生き残る方法を提案しているに過ぎない。作戦行動に不満があるなら閨で訴えろ」

 

 その程度で顔を赤くして……いつまでこの女は初々しさを出すつもりだ。

 

「どうしたんですかジルベルト大尉」

 

「何でもない少尉。門倉……中尉は?」

 

「経路の最終確認です。それよりいよいよ明後日ですね」

 

 清城市でドレクスラー機関、もしくはそれに近しい組織に突撃を掛ける。情報としては正しいと思うが、一抹の不安がある。

 

「この作戦乗り気じゃないの?」

 

「あの日から生き残る為に何度も戦闘したが、乗り気だったことは一度もない」

 

 勇敢な人間ほど早く死んだ。俺は生き恥を晒したくはないが、意味もなく命というカードを切りたいとは思わない。

 

「今回の作戦に参加する人間にはあの日に身内を失った人間も少なくない。俺からしてみれば失ったものがないお前らが居ることに違和感を感じる」

 

「そう? 人間って理屈だけで動く訳じゃないしね。私としてはあんたが今現在も一緒にいることの方が驚きだけど」

 

「久利原直樹の人格次第で世界が滅びるというのは悪夢だ。俺が安心して眠りにつくためには殺すしかない。そう考えればたどり着くのに便利な駒は使うべきだろう」

 

「あんたの思考は最低だけど、そのおかげで生き残っているわけだから文句は言わないわ」

 

「お前のうっかりで命の危険に晒されたことも多々あるが、脳天気さに救われているのだから仕方無いな」

 

「それに私は生き続けてまこちゃんを見つけなければならないの。あなたは生きていると断言してくれるからそれはそれで心強いのよ」

 

「お前ら、相変わらず仲良いなあ。俺が嫉妬する程度には」

 

 気がついたら紙袋を抱えた門倉甲が戻って来た。

 

「美人なのは認めるが、女としての魅力には欠けている」

 

「何ですって! あんたこそ顔はまともだけど、口を開けば毒舌かつ自己中のナルシストじゃないの」

 

 まあそれでも好きな相手に告白できずに万年生理前だった『彼女』の姉に比べればまた良い方か。

 

「欲求不満女の相手は門倉に任せる。さて少尉、戻って来たばかりで悪いが、ちょっともう一度下見をしたい。付いてきてくれるか」

 

「はい」

 

 余計なお世話かもしれないが明日死ぬかもしれないのだから好きにさせてやろう。

 

 

 

「悪かったな少尉、まあちょっと飯でも食べながら話そうか」

 

 あれから6年経った。彼女は門倉甲に恋をした。そして振られたというより想いを伝える前に終わった恋物語。もし水無月空が溶けていたなら、門倉甲は目の前の女性と未来を歩んだのだろうか。だが、運命は変わった。あるいは俺がねじ曲げた。彼女は舞台に上がる前に引きずり下ろされたのだ。その辺のケアは余計なお世話をした俺の仕事だった。

 

「少尉はお父上と連絡は?」

 

「最後に連絡を取ったのは3年前、マレー半島の時です。ネットを調べればお互いに生きているのは確認できます」

 

「君も門倉甲も親が生きている内に面と向かって文句を言っておくべきだと思うがな」

 

 正直に言えば彼女には真っ当な生活をして欲しい。その為には和解した方がいいに決まっている。

 

「まあいい、どうせ近い内にGOATも来るだろう。その時に話せばいいだろう」

 

「何故GOATが来ると思うのですが?」

 

「俺達は今回異なる情報筋から今回の話を聞いて確率が。高いと踏んだ。噂ならCDIが捜査する程度だが、事実として認識したならGOATが動かざるをえない」

 

 軍は暴力装置であるがそれでもお役所仕事である以上、行動に移すまでに時間がかかる。通常の大隊規模から旅団規模に再編成される際に二週間から一ヶ月ほどかかるだろう。俺達はその合間を縫って行動しなければならない。

 

「うん、まあ値段の割に味はいいな。特に魚のムニエルはいい」

 

「父はAIが嫌いなんです」

 

「俺でも君のお父上の立場なら憎むと思う」

 

 詳しいことは知らないが理解はできる。人は尊厳を傷つけた相手を許すことはできない。だがそれを知らないはずの俺がとやかく言うことはしない。

 

「空さんが大尉を信頼する訳が分かる気がします」

 

「まあ、俺と『遊んで』ストレス発散できるなら上官としては妥協できる範囲だな。少尉も我慢せずに色々と言った方がいいぞ。この集団の心臓は門倉甲だが、血はサポートである君だ。君に万が一があったら困る」

 

「それは上官としてですか?」

 

「あの日、我らが同窓はどれくらい減ったんだろうな。まあ学生時代はそれほど親しい仲では無かったが、それでも同期が生きていた方がいいだろう」

 

「どうして大尉、いえジルベルトさんはあの日……いえ何でもありません」

 

 多分彼女が言ったのはあの日だろう。ジルベールが死に、そして生まれた日のことだ。

 

「風が吹いたとしか言いようがないな」

 

「え?」

 

「多分どこかには君と父上が良い関係の世界もある。ああ君達はよく似ている。まずはお父上をやきもきさせる男に挨拶させるといい。古典的な話になって外野はとても面白く感じるだろう」

 

 多分彼女の心配をすることは俺の人生取って余計なことなのだろう。そもそも水無月空を助けた時から感じていたことだ。俺はヒーローごっこに興味はない。

 

「悪いな本当なら明るい話題を振ってやりたいところだが、そういうのは水無月姉に任せているから」

 

「不器用……でも、そういう人嫌いじゃないですよ」

 

 これが贖罪あるいは代償行為だと分かっていても、あるいは自分より彼女を守るべきだと思う俺は、強くなったのか弱くなったのか分からない。

 




佐藤さんの時はキャラが制御できたけど、こいつ勝手に動くぞ。
皮肉屋のジルベルトとツンデレの空の掛け合いは意外と好き。
惚れた腫れたではないけど、何となくお互いに好意を抱いている不器用な二人。というか父親嫌いを公言しているけど、父親と似た匂いをジルベルトに感じるレイン。そして幸せなレインを知っているジルベルトの葛藤。

まあ、この話は所謂世界が荒廃した中の日常的なやりとりで、本編は次回からなんですが、また記憶と人格問題です。

新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)

  • 白鳥さんから見た本編
  • 蛇足の蛇足(結婚式)
  • 蛇足の蛇足(失恋慰め回)
  • 蛇足(水面下の争奪戦)
  • ところで真ルートは?
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