こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
受け取ったのは彼女の思い、手にした周回の力
バグが導くの出会いは、偶然なのか、運命なのか
始まりません
side ■■■
空に抱かれて眠っていたはずの俺は、気がついたら再びあの場所にいた。
「中尉、ご無事ですか?」
「あ……ああ俺は無事だ。他のやつらは?」
レインの声が聞こえる。確か俺達以外は全滅のはずだが、聞かないと変に思うだろう。だが返答は俺が予想した物と全く異なるものだった。
「イージスを展開に成功した人たちは無事です。今は大尉が撤退の指示を取っています。周辺は……さんが索敵しています」
さっきのEMPの影響で突入した人員は俺達以外全滅だったという事実と違う? それに大尉って誰だ? そしてアラートと共に白と赤をベースにし、弓形の武器を持つシュミクラムが近づいてくる。俺はこの独特のフォルムのシュミクラムを操るやつを知っている。
「甲! 無事みたいね。アイツに任せていた部隊の人員は撤退したわ。後は私達が撤退すればいいけど、かなりのウィルスが展開されていて……」
「空?」
「何よ」
何故、空が水無月空がここにいる? 混乱する俺の思考を止めたのはレインからのコールだった。
「大尉より連絡。撤退ルートを確保したから早く来いとのことです。連絡事項は作戦終了後のブリーフィングでお願いします」
「了解、甲、あんたさっきの影響で調子悪そうだけど戦える?」
「あ、ああ」
その後、何も分からず俺は『二人』に誘導されてログアウトし、目が醒めたら車の中だった。
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Kou in Wonderland
「おうリーダー、あんたも無事みたいだな」
あの時は俺たち以外は全員動いていなかった。だが、目の前には粗野だが、歴戦の風格を感じさせる男がいる。
確か通称「マッド」だったか。うまく思い出せない。
「まあ俺達は運が良かったんだろうな」
周りを見ると脳死した人間が何人か居た。
「そうだな……」
「ま、これ絡みで美味しいなら俺はいつでもはせ参じるから、大尉殿に交渉しておいてくれ」
マッドがいう大尉って一体誰のことだ。
「ああ、確かに伝えておくよ」
「期待している」
ひらひらと手を振り、笑顔とともに男が去った後、入ってきたのはレインと■だった。
「目覚めるのが遅かったから心配したわ。電子チップに影響が無いか見て貰った方がいいかもね」
「甲中尉、今日の作戦を覚えていますか」
「ドレクスラー機関の連中が持ち込んだと思われるナノを追うのと、久利原先生の足取りを追う?」
二人は心配そうに見ていたが、俺の言葉を聞いて安心したようだ。
しかし、この世界はどうなっているんだ。何故俺と空が同一に存在している?
「中尉、無事そうで何よりだ」
黒い軍用コートを着た赤髪の男が入ってきたことで混乱に拍車をかかる。
「大尉、中尉はどうやらEMPの影響で記憶に混乱が見られます。一度確認をした方がいいかもしれません」
「そうか……この辺りだとドクター・ノイの所だな」
混乱する俺を『大尉』は怪訝そうな顔をして一瞥する。
「……仕方無い、俺も付いていこう。少尉は生存者に追加報酬、それと死亡者に対しては受取人が居るなら受け取れるように」
「了解」
俺はこのクソッタレな世界で大切な人たちを救う。それが俺達(かどくらこう)の願い。
だが、現実は突きつけられた銃だ。
「単刀直入に聞こう。お前どこから来た門倉甲だ」
銃を突きつけている大尉。知っているが余りにも俺の知るあの男と乖離している。
「……何の話だ 俺以外に門倉甲がいると?」
「ジルベルト君、彼―門倉甲君は大規模なEMPの影響で脳内チップが破損している。一時的な記憶障害だと思うが」
ジルベール・ジルベルトと名乗る男はまるで世界の全てを嘲るように笑った
「……ドクターノイ。ノインツェーンの娘。特殊な技能として他のNPCやシュミクラム、電子体に憑依することができる。『俺』の持っている知識だが、あなたは生い立ちはともかく後者について知っている人間は?」
「門倉甲」がいつかどこかで知る可能性がある話。あいつの発言を聞いてノイ先生が驚愕し、首を横に振る。
「何故君がそれを知っている」
「こことは違う未来を歩んだであろう並行世界。バルドルの中で『アイツ』と『あなた』がした会話を聞いていた。仮にノインツェーンと同程度の情報量を操作できるなら、同位体のデータをダウンロードさせるくらい簡単にできるはずだ」
こいつは俺の知っているジルベルトじゃない。俺の知っているジルベルトっていうとプライドが高くてずるいが残念な男だ。
「はっきりと言っておく、俺達が知っているのは灰色のクリスマスの後に再会した水無月空と大衆の面前で接吻かました映画に出てくるような男で、お前じゃない」
そして俺の胸ぐらを掴んで吼えた。俺には彼の言葉に反論することはできない。
「お前が事故でそうなったのか、意図的にそうなって成り代わろうとしているのか俺は知らないし知りたくもない。だが、お前は門倉甲を殺した。この部隊を統率する身としてはどの段階でそれを伝えるべきか躊躇している。桐島少尉については俺から説明するが……水無月中尉は多分3時間も一緒に居れば気付くだろう。俺ですら違和感を覚えたのだから四六時中一緒にいる彼女が気付かないはずがない。それを一時的な記憶喪失でどこまで誤魔化せるか」
「……どうして違うと思うんだ」
「神父と戦う上で一番怖いのは、自爆を厭わない狂信者ではなく侵食だ。だから作戦前と作戦後で電子体に異常が無いかチェックする。加えて俺はゆらぎ……これは俺の感覚的なものだが。まあ人間って目を見ればだいたい分かるしな。ドクターここタバコ駄目「駄目だ。ここで吸って良いのは唇と乳と陰〇だけだ」……あなたもぶれないなあ」
紙コップの注がれたコーヒーを飲み干し俺を見た。
「俺達の知る門倉甲は戦士だが墜ちていない。正義なんて人の数だけあるが、それでも灰色のクリスマスの悲劇を繰り返さないために、何より久利原直樹を救うために動いている」
「先生のことも知っているか。つまり神父との関係も」
「俺が知っているのはノインツェーン内にいる本体の神父だが。生きて罪を償うという段階をとうに過ぎているから俺は殺した方が後腐れがないし本人の為にもいいと思っている。だが、門倉甲と水無月空は救えるなら救いたいと言っていた。こんな世の中でお人好しだと思うが、だからこそ悪を知る俺が、理不尽を生きる俺が気まぐれに手を差し伸べるのだ」
よく分からないがこいつも俺と似たような立場の違うジルベルトなんだと気付いたとき、この世界は救いは必要無いことを理解した。
「教えてくれ、お前が助けたのは俺か、空か」
「水無月真の姉の方だ。お節介だとは分かっていたが助けた」
その言葉にこいつは真ちゃんに借りか何か知らないが手を差し出すに足る理由があるのだろう。
「お前は俺の知るジルベール・ジルベルトではない。俺は世界0のコウと呼ばれるシミュラクラが別世界の俺達の情報を収集、統合した存在……」
そして復讐者で自分の為に自分を殺したエゴイストだ。
「でどうするのかね。電子チップの復元なら私の専門分野に引っかかるが、上書きされた記憶、それも電子化されたデータを弄るとなるとそれこそあのクソ親父クラスのキチガイじゃないと無理だぞ」
「門倉甲と水無月空に関しては保険があるから大丈夫だ。また上書きになってしまうのが問題だが、この仕事の直前だったのが幸いだったな」
「どういうことだ?」
「シミュラクラに二人のデータのバックアップを入れてある。コストの問題があるから難しいそうだが、クローニングさえできれば、本当の意味で個を継続させることができる。電子体のバックアップを使ったある意味不死だな」
聖良おばさんが方舟計画を実施しようとしていたのは知っていたが、シミュラクラにデータを保存する? それは空とクゥが融合したような。
「つまり外付けにデータを移し、必要に応じて復元する。古典的ではあるが電子体でそれをやるというのは些か乱暴なのではないかね。それに人一人の情報量というのは多い訳ではないが完全にコピーするとなるなら別だ」
ノイ先生の言う通り、下手したら自我の境界線が混ざり合い、存在の定義があいまいになってしまう。
「この件には俺も一枚噛んでいる。アイツほどではないが、電子体の改変については何とかしよう」
アイツとは誰のことだ? 聞こうと思ったが苦々しい表情を見て思いとどまった。
「俺はアイツやドクターノイみたいな
そして最後に一言を付け加えた。
「
KOUさんが最強なのはネットだけ・・・デザイナーズチャイルドという高スペックが軍隊格闘技を収めると、スペックが半端無く上がり、現実で学んだそれはネットにも反映される。トラップ使いは近接に弱いという定説を信じて近づいたら「二の打ちいらず、一つあれば事足りる」的な一撃を食らって落ちた敵は数知らず。
それでもまだ満足しておらず後10年も修練続ければ多分一廉の戦士になるんじゃねと本人は思っている。深手を負ったら分身する? 一撃で沈めれば問題無い。
一番は財力ですよ。金の力とコネの力で物事の大半は解決できますから。自分を鍛えるのはただの趣味です。ええ、趣味だから諦めきれないのですが。
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