こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

40 / 60
最終話はヒロインの名前です(お約束)


arcadia版(先行版)を読んだ方へ。
こっちもちょっと変わっています。


DIVEX END RAIN

『世界の思想は統一されないし、紛争は度々起こっている。それでもある日突然訳の分からない内に世界が滅びる危険度は大幅に減った。もちろんそれは公表できるものではないが。

 

 後はあなたの知る通りだ。初期の目的を遂げた俺たちは資産を分割して解散。門倉甲と水無月空は残念ながら働き口の方向性がそっちしかないので、保護監査されている水無月真と共にフェンリルに入った。銃を置けばと思うが、1年と8カ月で高校生活を終えてしまった半端者が入れるのは、軍か傭兵かなんでも屋しかない。元上司としては誠に遺憾なのだが、あの二人は基本的に金勘定が大雑把なのでとりあえずは鉄火場に身を置く決断をした。家業を継ぐために若旦那と嫁さんが入ったと思えば安泰とも言えるが、まあ食中毒でドクターのお世話にならないことを祈ろう。

 

 桐島レインは、家に戻った。戻った後は特に知らないが、まだ若いのだから平穏な暮らしをしてもらいところである。

 

 他の戦友、あなたにお世話になった奴らも世界中に消えていった。これから会うこともあるだろうが、二度と俺は彼らを使うことはない。そういうものだと考えている。どこか知らない街で会えたら適当に酒か茶を飲んで別れるだろう。

 

 そういえばマリオの珈琲屋再開してたが、知らなかったのならぜひ会いに言ってほしい。なおドクターの身長は全く伸びてないし、胸部装甲も変わらないことを伝えたら微妙な顔をされたわ。

 

 さて俺はと言うと、分配金とは別に政府から報奨金をもらったので、ご存知の通り世界を巡っている。まあ自己満足の類だが、色々やっている。ああ、もし俺が死んだら口座の金は姉であるあなたに行くようにしているから、その時は土に還ったと思ってくれ、何もなければくたばっていないと思ってくれればいい。ではまた』

 

 私は弟から来た既に現代では珍しい手書きの手紙を読んで嘆息した。

 

「まあ知っての通り、彼が死んでいないのは確かだが、見つけるのは困難だ。正直諦めて普通の生活に戻るべきではないかなと私も思う」

 

「ドクター、いえノイさんの仰ることはもっともですが、私も女として決着を付けなければならないことがあるのです」

 

「人格破綻者の私が言うのも何だが、彼は面倒くさい男だぞ」

 

「そんなことは知っています。でも誰よりも大人だと思っているあの人がかわいいと母性本能が疼いたらこれはもうと思いませんか」

 

 最初から類だったのか、朱に染まったのかは知らないが、もし私の表情筋が仕事をしているとしたら引き攣っているだろう。

 

「正直、あのメンツでは君は良識派だと思っていたが……まあいい、それで君は私から何を聞きたいのだ。ああ弟の秘密は教えられないよ。これは私と甲君と弟が墓場まで持って行くべきものだ。それ以外ならまあ聞いてやらなくもない」

 

 さすがに、ある日突然人格が入れ替わったやら、未来予測ができていたやら何て言ったら狂人扱いだろう。

 

「大尉、いえもう大尉ではありませんね。ジルベルトさんは今どの辺に居るのですか」

 

「何故私がそれを知っていると思う」

 

「女の勘とは言いませんが、強いて言うのであれば、あの人は意外と出不精です。確かに色々と回ったと思いますが、ホームになりそうなところを見つければそこに定住します」

 

 なるほど伊達に何年も副官として彼を見てきたと言うわけか。彼も十分苦労したが、人並みの幸せを手に入れても許されるだろうか。まあ義理とはいえ姉弟を宣言したのだ。それくらいは許してくれるだろう。

 

「彼は今久利原直樹が暮らしていた地域で開拓をしている」

 

「確かナノ汚染でダメになった土地でしたよね」

 

「そうだ、アセンブラでナノ汚染を除去し、再び作物がとれる土地に再生するプロジェクトに参加している。態度こそひどいが、人を使うのは上手いからな。そういう理由で君のお父さんのスカウトは却下された。本人にその気があれば、将来的には軍なら中将、政界なら次官級ができそうな稀有の人材を遊ばせる余裕が極東にはないよ」

 

 再生プロジェクトの成功の道筋を立てるまでの数年間は遊ばせていても、その後は政府のお抱えだろう。確かに甲君や空君は極東で十指に入る天才シュミクラムユーザーかもしれないが、彼らの名声を支えていたのは、ジルベルト君の運用能力だ。軍からスカウトを受けたがそれはパイロットとしてだろう。もちろん簡易的な士官教育を受けているからできなくもないが、教導役には基本向いていない。

 

「レイン君、ジルベルト君は現地の人間と共同作業をするときは、基本的にジルベルト君が現地の人間と組んで、甲君には精鋭を率いらせただろう」

 

「確かにそうですね。あの時はそれぞれ別の方がやりやすいと思っていたのですが」

 

「彼の最たる能力は人材のリソース振り分けに無駄がないことだ。能力と感情をパラメーター化して最適解を出せる。そういう環境だとプロジェクトは進みやすい。橘社長は彼を姪と結婚させて跡継ぎにしたいと言っていた。それぐらい重宝しているわけだ」

 

 まあ話半分だったと思うが、あの橘聖良がそこまで評価するのは彼ぐらいだろう。西野亜季は天才だが、残念ながら経営能力がない。まあ橘聖良自身も経営方面は実家から引き連れてきている幹部任せのところがあるのでどっこいかもしれないが人を見る目は確かだ。モテモテだな我が義弟は。

 

「まあアレは慣れてしまえば優良物件だ。だから早めに捕まえておけ」

 

 そして私はカードを一枚彼女に放り投げる。

 

「これを見せればフリーパスだ。ただし絶対に無くさないように」

 

 何せ、極東政府における特務用のIDだ。軍事以外のC級以下の施設ならほぼ入れる。ノインツェーンの娘(わたし)でしか対処できないことというのは残念ながらそれなりにあるのだ。まあ餞としてはちょうど良いだろう。

 

「アレは頭のいい女が好きだが、完璧すぎる女もダメという嗜好的には常識の範囲内だから芽は十分にある」

 

 上には受けがいいが、突発的な問題に対して守りが必要だ。彼女ならそれを任せられるという思惑は理解しているからこそだが。さて、会わないとはいったが、家族として結婚式に呼んでくれるといいが。

 

 

DIVEX

レイン Rain

 

 

「済まない俺も専門家ではないが、専門家希望が俺より理論に弱いというのは……そばに居たのにあいつらから技術を少しでも奪おうとする気概はなかったのか」

 

 自分は基本的に使う側で運用能力は周囲からも太鼓判を押されたが、教育には向いていない。ワンランク上げることは可能だが、一から育てるのには向いていない。

 

「そ、それは……」

 

「いいか、若草菜ノ葉、お前が亡き両親と、志半ばで散った師の思いを少しでも形にしたいと聞いた。正確には門倉および、西野亜希からの推薦があったから、次世代農業研究所に入れたんだ」

 

 若草菜ノ葉はナノマシン研究者である若草夫妻の娘で、アセンブラ研究者の久利原直樹の薫陶を受けた、と言えばエリートではないかと思うのだが、その実、元テロリストである。まあ彼女から被害を受けた人間も施設も皆無ではあるが、結果的に彼女はそういう立場の人間だ。まあ、現実的な話をすれば……

 

「やる気があるのは分かるのだが、実績が伴わなければ、このままだと研究所の食堂のかわいい姉ちゃんポジで終わるぞ」

 

 まあ科学者系には備わっていない家事能力がほぼ完ぺきで、顔もいい。ここでいい男を拾って結婚するという選択肢というか、夫を支えて間接的に目的を達成するというのは現実的だからありと言えばありだろう。

 

 短い付き合いだが、人当たりもいい。幼馴染一行と再開したら失恋が確定し、もう仕事に生きるしかないという、ボッチにありがちな思考からの脱却と、経歴的なロンダリングさえできれば、結婚は多分できる。経歴的なロンダリングにしても彼女が何かをしていたわけではない。被害者として振る舞えばなんとでもなる。実際のところ、彼らの研究の一端でも覚えてくれれば儲けものと多少の下心はあったのだが、その機転が利くのであれば農業科には入らなかっただろうし、実際そういうノウハウを身に着けていたら、要監視人物扱いである。

 

 結論としては、この女は研究職に向いていない。この手のタイプは、自分の世界を少しずつ広げることはできても、無から有を作るデザインのセンスが皆無だし、場合によっては自分の世界を守るための強固に引きこもることもある。

 

「今更ながら西野亜希は完全に研究者だったな」

 

 あとあいつもその類か。

 

「水無月、今は門倉だが、あの女が最初から門倉甲を好いていたかは俺も知らんし、当時の門倉がどんな思いだったのか俺にはわからん」

 

 何せ、灰色のクリスマス以前に「俺」が門倉甲に会ったのは、渚千夏とあいつが逢引していた時と、学園祭だけだったからだ。元水無月にしても一回である。「知識」としても若草菜ノ葉に対する知識は殆どなかった。

 

「だが結果として門倉の一番は両方門倉だったな面倒くさい空だ。あの二人はお互いの良さを引き出せる組み合わせだった。空が料理ができないという欠点があるが、それは水無月妹が必死にやっているから置いておくとして。お前と西野亜季は、過去の門倉甲を見ていたそれが敗因だ」

 

「じゃあ……どうすればよかったんですか?」

 

「知らん。未来は築くことができるが原則的に過去は取り戻せない。その上で聞きたいのだが、お前は過去に縛られて生きていくのか、それとも自分の未来を良い方向にするために生きていくのか。若干イリーガルだがコネのあるフェンリルで働くと言う選択肢を蹴ってこっちに来た意味を今一度自分に問いかけろ」

 

 結局自分の運命は自分で決めるしかないのである。ムードメーカーとしては置いておいた方がメリットがあるが、本人の才能と志向が一致しなければ苦痛でしかないだろう。

 

 部屋を出るとよく見知った顔があった。この数年間の中で一番会話をした相手だ。

 

「久しぶりだな少尉、ではないな。改めて久しぶりだ桐島。こちらへは仕事か私事か」

 

 少尉とは言っているが、あのあと今も現役でドンパチしている門倉夫妻と共に全員一階級昇進したみなされ、俺は少佐待遇、彼女は中尉待遇を受けている。ちなみに現在のポストは非公式だが中佐待遇での出向扱い。

 

「あまり驚いていませんね」

 

 俺の知る限り一番の美人は彼女だ。私服のセンスはちょっとまあアレだが。それでも水無月姉のおかげで良くなったのだ。

 

「義姉から連絡があったからな。何事かは教えてもらえなかったが、仕事にせよ私事にせよ君が俺の目の前にいるなら俺が理由だろう。そして俺は基本的に君の訪問を拒否しないよ」

 

 さて、自分はうまく表情を作ることができているだろうか。

 

「私今無職なんです」

 

「いわゆる高等遊民というやつだな。古来女性は花嫁修業の名目でいけたらしいが、俺なんかもう働きたくないし一人で生きるぐらいの金はあるなと思いつつ働かされているわけだが。職に関しては、まあお父上が許可したのなら君を秘書として雇うのはやぶさかではないが」

 

 処理能力は段違いの上、自分好みの珈琲を入れてくれる。

 

「そちらのお仕事も受けたいと思いますが、オプションを付けて下さい」

 

 彼女の瞳を見て、軽口を言うべきではないことは理解した。

 

「君が俺に抱いている感情を知りながら今まではぐらかしてきたのは謝る。君は美人で、女性としての魅力もたくさんある。好きか嫌いかでいえば好きだよ。それでも俺は自分のプライベートスペースに人が入るのは好きではない」

 

 結果的に一番信用しているのが門倉甲であるというのは笑えない。次は空だろう。彼女は絶対必要ラインから踏み込んでこない。

 

「知っています。あなたは人間嫌いのきらいはあっても女性嫌いではありませんし、普通に女性に欲情する。私からすればそれで充分です。昔は部下を連れて娼館に行くあなたに対して組織の運用側としては有用性は理解できても感情的にイラつくこともありましたが。今の私はあなたを良く知っている桐島レインという一人の女です。今なら嫉妬は許容されますよね」

 

 自分に問えば、なぜあの男はノイを好いたのか。救ってくれたからだ。まあ性質的に相性が良かったのだろう。さて自分と桐島レインの関係を考える。救ったのもかもしれない。あれを救ったとカウントすればだが。共通項を考えれば俺も彼女も学校では異質で家族と仲がよろしくない。俺は親近感を持たないというか意識して避けていた。彼女が見ているのを知らぬふりをした。

 

「どうかしましたか」

 

「いや、俺の知っている『君』は今いる君より魅力的なのか。正直面倒だと思ったこともある。同じ顔で思考が似てることもあれば異なっていることもある。いい意味で変わっていないのは空だけだ。渚千夏が一番ひどかった」

 

 彼女にしてみれば何を言われているかわからないだろう。これは俺と門倉だけの感傷なのだ。ああ認めよう。嫌悪しながらも俺はあの世界が嫌いではなかった。やろうと踏み出せば可能性はあったのだ。でも勇気がなかった。だが俺は俺でしたかないのだ。

 

「レイン」

 

 多分、初めて彼女の名を呼んだ。考えてみれば『あの男』がお嬢さんから名前呼びしたのも結構後だったな。

 

「は、はい」

 

「1年間はお試しで頼む。それで問題がなさそうなら」

 

 これからも生き続けなければならないが、人生は長い。一人ぐらい巻き添えもとい、歩む者がいても悪くない。幸い考える時間はたっぷりとある。

 

「ええ、喜んで」

 

 死後の世界があるかはわからないが、あるのであれば、そっちで見ているがいい久利原直樹。お前がしたかったことは俺がやってやる。そして電子の海で待っているのであればいつか話をしよう、愚か者たちか紡ぐ、それでも前に進む物語を。

 

 END

 

 




DIVEXはこれにて完結です。
短い期間ですが読んでくださった方ありがとうございました。

この後はafterstoryからのえせ救世主物語の流れになりますが、佐藤さんシリーズは結婚式(新作)入れて終わりです。ノイ先生の描写設定頑張ります。

本作における菜ノ葉の扱いは、しょうがないというか、本当に成長していないのは彼女だけだから本当に食堂のお姉さんポジというか、この1年後くらいに普通に結婚して普通に子供生んで幸せになる予定です。
真は贖罪じゃないけど、さすがに自分の料理が原因で未亡人になるのを阻止しなくちゃという使命感でフェンリルの料理担当兼フリーター傭兵をしながら姉に徹底的に仕込んでいます。無駄な努力ですが。
千夏さんも本作では不幸でしたね。仕方ないんや全部アセンブラとグングニールと別世界の君の幸せが悪いんや。


新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)

  • 白鳥さんから見た本編
  • 蛇足の蛇足(結婚式)
  • 蛇足の蛇足(失恋慰め回)
  • 蛇足(水面下の争奪戦)
  • ところで真ルートは?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。