こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
出典 The King of Fighters2001 イグニス
無事にノイ先生とレインを撒いた俺たちが何をしたかというと、俺がよく行くアパレルショップだったりする。
「このお店には桐島さんも?」
「確か一回くらいは連れてきましたけど、レインのイメージでは無いんですよね。彼女の場合、もう少し華やかなのが似合うというか。その点先輩はシックなのも似合いますし」
これはもう相性の問題で、六条クリスという少女はゴシック系の服も難なく着こなせる反面、白とかフリルの付いた服のイメージではない。
「それで、あなたが選んでくれるのかしら、ダーリン?」
「余りセンス無いですよ俺」
自分の服は何となくわかるというか、これだけ背丈のある男でガワがあれなら、単独ならなんでもOK、女性をエスコートするならそれに応じた格好をすればいい。対して他人のファッションに口出しできるかと言えば微妙だ。
「ジルベルト君、美術の成績はいまいちだもんね」
「知っていて頼みますか。では、姫が映えるように努力しましょう」
ダーリンとかいう単語は敢えて無視し、彼女が嫌がる姫という単語で応対する。どうも彼女相手だとペースが狂ってしまう。
そして気付いた事だが、彼女の買い物と言うのはレインと比較するとかなり短い。別に提案に対して全てイエスというのではない。全パターンを試してみるというのではなく、一つのパターンに対して最適なものを2、3用意して、試すというスタイルのようだ。もっとも、普通の経済観念でどれか一つを絞らざるをえないような財力ではないのは理解しているが、それでも鳳翔のお嬢様方に比べれば自分というものを持っているだけでありがたいといえるだろう。
「結構高かったけど、本当に良かったの?」
会計を済ませて、ブランドロゴの入った紙袋を先輩に手渡すと、彼女は申し訳なさそうに俺に言った。別に俺たちは恋人でもないし、俺が彼女を好きでもないのは明白であるので、高い物を買ってもらえることを遠慮したのだろう。
「後輩から先輩へのささやかな卒業祝いとでも思ってください」
それなりの店なのでかつての日本円にして6万くらい吹っ飛んだのだが、口止め料と言う名の臨時収入があるので、財布に関してはそれほど気にする事でもない。
「じゃあ、お言葉に甘えとくわ」
それからは道先でクレープを食べながら、昨今の経済状況がどうやら、最近話題のアセンブラについて語ったりして時間が流れていく。
「じゃあ、そろそろお暇しますか。どうでしたか先輩、一般人らしいデートは」
「悪い気分では無かったかな。でも、ジルベルト君。私もう一ヶ所だけ行きたいところがあるの」
「ホテルとかだったらお断りですよ、面倒ごとには巻き込まれたくないので」
「女としてプライドが傷つけられた気もするけどまあ、いいわ。私が行きたいのはあそこ」
指し示されたのはコンソールが置いてある店だ。
「ちょっと一緒に来てほしいところがあるの。デートは楽しかったけど、今日ジルベルト君を呼んだ理由はそこに一緒に行って欲しかったから」
「ネットに用事ならイーサーで待ち合わせでも良かったのに」
「それじゃあちょっと味気なさ過ぎでしょ。さて来てくれるわねジルベール・ジルベルト」
今まではどこにでもいるような可憐なお嬢様だった六条クリスが、鳳翔の支配者にして気高き姫と謳われる六条クリスに変化したと悟る。そうどこかサディスティックな彼女に。
「いいでしょう……これもデートの内と考えて」
ショッピングで買った物はロッカーに預け、俺たちはコンソールから仮想の海へとダイブすし、イーサーを経由して付いた先は鳳翔専用のアリーナ。
「今日は予め、私が招いた人以外は入れないようにしておきました」
「先輩、まさか鳳翔最強決定戦をするって訳じゃないですよね?」
鳳翔学園において最もシュミクラムを操るのに長けているのは六条クリスであるというのが俺の感想だ。近接モードと射撃モードをシフトすることで戦術の幅を広げて、詰み将棋の様に勝利の可能性を削いでいくグリムバフォメットに対抗できる同年代のシュミクラム使いといったら本気になった真ちゃんくらいなもの。
俺とてシュミクラム戦で易々と負けるつもりは無いが、遮蔽物の無い地形で彼女に勝てると思うほど慢心していない。だからこそ、ただ勝負するなら受けて立つつもりだったのだが、彼女の言葉を聞いて状況が一変した。
「それはそれで構いませんが、それはあなたの返答次第ですね、ジルベール・ジルベルトの皮を被った誰かさん?」
何を言っているのだ彼女は。
「例えばの話だけど大雪が降るはずの日の天候が完全に晴れたらどう思う。前倒しで勢いが弱まったとかならともかく、世界が一変したかのごとく晴れている。でもみんなに聞いて見たら最初から晴れの予報だったって言うの。私が知っていた天気予報ってもしかして偽りだったのかしら? それとも白昼夢?」
「……」
「私の予報が確かならクリスマスに大きな花火が上がるはずだったのよ。私は残念ながらヒーローじゃないから、全てを見捨てても生き残りたかった。幸いパーティは蔵浜から離れていたから逃げ出すのにもってこいだったしね」
彼女の言う花火とはアセンブラのことなのだろうか。だが、その日の蔵浜は万が一の時のためにグングニールの範囲調整や、緊急支援のための準備を行っていてクリスマスのクの字も出なかった俺たちと違ってクリスマスムード一色だったはずだ。
第一、裏事情を知っていたのも軍部では方面軍司令官隷下、政治家では州知事くらいなもので、富豪程度がこの件に触れられるはずがない。
「俺の認識では先輩は六条クリスであって、それ以上でもそれ以下でも無かったのですが、考えを改める必要がありそうですね」
何となく分かった違和感。今思い返すと、常に六条クリスはジルベール・ジルベルトに対して鳳翔らしさというものを問うて来た。そして、彼女の知るジルベルト像というのはもしかしたら遙か遠いどこかに行ってしまったジルベルトではないのだろうか。
「これはきっと八つ当たりなのよ。私が蓄えた力をぶつける先がどこにも無い。ならばあなたにぶつけるしか無いわよね、来訪者さん?」
はい決定。電脳チップに宿ったのか真っ当にやり直したのか知らないが、どうやら同輩のようだ。
「俺もいい加減巻き込まれるのに飽きたし、知らない間にストレス溜まっていたみたいだから可憐な美少女に八つ当たりしても文句言いませんよねご同輩?」
瞬間、俺たちはシュミクラムにシフトする。
「そもそも何よそのシュミクラム! 無難にノーブルヴァーチュ使って、半分雑魚扱いされてやられなさいよ!」
近距離に置いては盾、遠距離に置いては追尾される剣になる武装が厄介だ。追尾タイプに対してはこっちも追尾タイプと黒犬を放ち、牽制する。あの剣は、本体が呼び戻さない限りどこまでも追ってくるので盾に戻させなければ耐久力の関係でこちらが不利。同時に魔弾を展開し、時間差で魔弾を放つように調整。
「女性は猫を被るのは大前提とはいえ、根本的に違いすぎなんですよ先輩は!」
あの毒舌天使のまこちゃんがかわいく思えるほどの豹変ぶり。この人にとってはシュミクラムはストレスの発散方法なんだろうけど、ここまで素を出したら世間的評価がやばいだろう。
不可視の魔弾を射出し、ようやく剣を引っ込めたが、レッドラインにはきてないものの耐久力的はおぼつかない。黒犬は瞬殺されるし、神父といい彼女といい、どうして俺の周りには俺の上位互換の奴らばかり出てくるんだろうか。もう少し、力押しが得意な相手と戦わせるべきではないだろうかと心の中で愚痴をこぼしつつ、一時的にリミッターを限定解除。時間だと1分ぐらいが限界だが。
「増殖指定・対象・目の前のヒステリー娘のシュミクラム、セット……我がグリモアの名において食らい付けベルゼビュート!」
最近無理矢理覚えたナノ工学を利用して、ナノマシンを電子上の物として構築、データを1と0に分解する暴食の群体「ベルゼビュート」が射出する針も、剣も、盾すら瞬時に食い散らかし、グリムバフォメットに接近する。
「いや、ジルベルト君止めて、溶かされる、本気で装甲溶かしてるわよこれ!」
「大丈夫ですよ、電子体ダメージは無いはずですから」
破滅の魔弾は容赦なくやっちまうけど、ベルゼビュートはその辺問題ないというか、パーティジョーク用に組んだロジックだからそこまで問題ないというか、強いて言うと。
「除装すれば止まりますよ」
俺の忠告に従い、シュミクラムを除装した先輩だが、一つ問題があったことを思い出した。
「きゃあぁぁぁ!」
「そういや、元々服を溶かすプログラムだったの忘れてた」
眼下にはそれはもうスッポンポンの六条クリスの姿が。見た目より胸が大きいのを確認……っとそんなことをしている暇はないと頭を切り換えてすぐさま、ボックスにストックしてある服を投げつけ装備するように促した。
「はあ……もう散々。一応嫁入り前の肉体なのに見られちゃうし」
俺の電子アイテムは彼女の体格だとぶかぶかなので調整し、ようやく気分も落ち着いたのか、話ができる状態になった。
「改めて紹介するわ、六条クリスこと前世の名前は白鳥友梨。趣味はゲーム全般、まあ18歳未満お断りのゲームも愛のためならやるわ」
18歳お断りのゲームが男性向けなのか女性向けなのかは怖くて聞けないが話しを続ける。
「ジルベール・ジルベルトの外の人こと佐藤弘光です。趣味はそっちと大して変わりませんよ。職業のごく普通のサラリーマンでしたし」
「外の人? まあ、前世談義は置いといて、あんたねえ、どういう裏技使ったら『灰色のクリスマス』を防げるのか教えて欲しいんだけど」
「すまん、『灰色のクリスマス』って何だ? ホワイトクリスマスはこないだみたいに適度に雪の降るクリスマスだし、黒いクリスマスは豚足食べるものだと思ってるんだけど、灰色っていうのは吹雪の中で豚足でも食べるのか?」
「あー何だか話が見えてきたような。あのジルベルト君、ドミニオン教団とかノインツェーンとか知ってる?」
「この間ドンパチやったよ。ついでに言うと神父は完全に消滅して、ノインツェーンは裏取引で外宇宙行きが決まってる」
「どうやったらそんな超展開になるのか教えて欲しいんだけど、ジルベルト君、大前提として『バルドスカイ』っゲーム知ってるわよね?」
「いや、これバルドフォースの未来世界の話でしょ? バルドルってバルドフォースの前の作品のバルドヘッドに出てきた神とか何とか。ここからどうなるのか知らないけどバルドヘッドの時代に行くんじゃないのか」
彼女の問いかけに俺も何となく話が見えてきたというか、もしかしてとんでもなく取り返しの付かない話になっているのではないかと不安になってきた。
「一応聞くけど、あなたが死んだのって何年だったか覚えている、具体的な年数が分かればいいけど、事件とか発売したゲームとかでも覚えていれば」
「何しろ今の人生始めてから16年も経ってるからなあ」
家族のこととかはうっすら覚えているが、個々の事象など遠い彼方だ。ああでもない、こうでもないと記憶の本棚を整理して、ふと思い出したニュースを口にする。
「確か沖縄の空港で飛行が炎上爆発したニュースを見たような」
「ということは2007年ね。あのねジルベルト君、あの後時間でいうと2009年に続編が出たのよBALDRSKYってゲームがね」
「つまり俺たちが生きている世界はそのゲームが舞台?」
「正確にはその舞台になるはずだったのよ。アセンブラが暴走して、グングニールがなぎ払ってとか色々あるんだけど、原因となるアセンブラの暴走をあなたが解決しちゃったから」
それは確かに大雪警報が出ているはずなのに快晴になったという気分だろう。
「ちなみにそれってジルベルトも出てたんですか?」
「サディスティックなヘタレ悪役をやっていたわ。私の主観では間接的にゲームをクリア導いた英雄だし、カップリングも萌えるし」
脳内で逢ったジルベルトは、確かに強気な割にへたれっぽかったが、それより彼女の言うカップリングという単語の意味を聞きたくなかった。
「物心ついた時から、いつ灰色のクリスマスに巻き込まれるかと不安に怯えながらひたすらシュミクラムの修練をして、最悪久利原先生をやっちまおうと決意したのに、私が最上級生に進学して原作スタートしたと思ったらなぜか桐島レインと水無月真は星修組よりあなたと一緒にいるし、ケニッヒスなんて代替キャラは出てくるし。もしかして同輩? とか思って色々カマかけても、普通の優秀な学生で非常に困ったわ。12月になったから万が一のことを考えて行動してたけど結局アセンブラが成功して無事に正月まで進むし」
話の流れを想像するに俺たちってかなり危険な綱を渡っていたらしい。
「それはご苦労様です。まあ、俺から言えるのは物語はもう現実になっちゃってるんで適当に生きていくしかないんじゃないですか。別に事件が起きるの分かっているからってノストラダムスの大予言みたいに自棄にならなかったんなら」
成績は相変わらず学年首位だったのでそれは無いだろう。彼女の場合、デザイナーチャイルドのスペックをフルに活用できる希有な存在なのだから。
「まあね。つまり私はとりあえず不慮の事故か、突発的な病気にならない限り、命の不安にさらされる必要は無くなったのね」
「そうですね、もし良かったら俺が作ったチャットに来て下さい。ダメ人間ばっかりの集まりですがいい人ばっかりですよ。問題児ばっかりですが」
こうして、俺と六条クリスはノイ先生とは違う意味での運命共同体になったのであるが、別にお互い今更どうこうしようと思っていないので、男女関係とかには発展しないのは確定している。
「私の好みはガッシリした体格で、ジルベルト君はちょっと物足りないかな」
というのが彼女に対する俺の評価であり、俺としてもこれ以上面倒な女と関わり合いたくないというのが本心だ。
まあ余談だがチャット仲間に白鳥のHNを持つ人が増えsinさんこと真ちゃんとの舌戦を繰り広げるのは別の話だ。
ついでにどっかの大会で白い天使と黒い悪魔がそりゃ筆舌に耐えきれないような決戦を繰り広げるのも別の話としておきたいというか、機体にリミッター掛ける前に心にリミッター付けて戦えよお前達とその時の俺は思うのだがこの時点ではそんな未来と想定もしていなかったのである。
あと、クリス先輩の養父の方とはその後趣味友になって、お金持ちの人たちと一緒に色々遊んでます。
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