こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
クローン技術というのはSFでよく出てくる要素のひとつではあるが、クローンで蘇った人間はかなりの確率で死亡ないし敗北する。その理由のひとつとして、クローンとして蘇った人間はオリジナルと同じなのかという問題がある。設定として記憶の転写はされるものの、記憶があるからといってオリジナルと同じ思考に至るわけではない。しかし、蘇生をする側はクローンに対して先人と同じことを要求するのだからたまらない。
詰まるところ、俺が今やっていることもエゴだったりする。
「ジルベルト君、ちょっと外に行ってみたいのだけど」
季節は夏が終わり、そろそろ木々の緑が抜け落ちようとする秋。蔵浜の総合病院内にあるリハビリ施設で、生まれて6ヶ月の彼女はとんでもない要求をしてくれた。
「ダメですよ。今は敷地内だけで満足して下さい。それより前々から思っていたのですけど、ちょっと若すぎませんか? いやまあ、ご夫婦でそれでいいというなら構いませんが」
偉い人が病気になった時に入院する特別棟というものはこの病院にもあり、そこに帰る途中で大学生くらいの桐島エイダ(死亡年齢31)さんは宣った。レインが女として成熟すると多分こうなるのだろうと予測はしていたが、実物が目の前にいると俺の予測もあながち間違いではなかったようだ。
「愛にお金は要らないけど、愛を維持するためにはお金が必要になる。男はお金を稼ぐわけだけど、女は美しさを維持しなくてはならない。そんな感じでクローンに体を移したいという需要は女性に多いのよね。永遠に若い頃の自分を維持したいと言う理由で肉体を捨てようとした人もドミニオンにはいたわ。私はそういうのは興味無かったけど、子供を作るなら20代前半の方がいいからね」
どうやら桐島家には長女と18年くらい離れた同腹の弟か妹が生まれるようだ。知りたくもない現実だが。まあ、某社の女社長もリヴァイアサンの中では若かったようだが。
「後は、早く出た方が早く会えるからかな。母親としてして上げたいことたくさんあるもの」
「筋肉に関しては寝たきりで生命を維持してるエキスパートが開発した百年寝太郎君がありますから、問題ないですね。医者の話だと11月くらいには外出許可も降りると思いますよ」
肉体的な面に関してはそれほど心配していない。この研究の骨子は記憶とか精神分野の方であり、現在のところ支障が出てないので多分成功例として外に出るだろう。ただ、彼女の後に続く人物が出てくるかという話になると、予算との兼ね合いと、んな無茶苦茶なことができるのは俺かノインかというレベルになるのできっとしないだろう。実質的に彼女で最後だろう。クローニングはあくまで義体化した人や、不慮の事故で電子体だけが取り残された人に行われる行為であり、死者蘇生が可能となると世界に混乱がもたらされる可能性が極めて高いし。
スーパージルベルトワールド
afterstory4
魂の在り方後編
side 桐島レイン
木々の葉も大分色づき、冷たい飲み物より暖かい飲み物恋しくなった今日この頃。私がラ・ヴィータにドアを開けいつもの定位置でお湯を沸かしているマスターを確認すると、視線は何故か後ろに向き、その後不思議そうに首を傾げる。
「おやレインの嬢ちゃんじゃないか。ジルベルトとは一緒じゃねえのか」
「今日はジルベルトさんとは御一緒していませんが」
「いやな、午前中に仕入れに出たらジルベルトとお前さんにそっくりな金髪のねーちゃんが一緒に歩いてたからてっきりお前さんかと思っていたが、一人で来たからな」
「金髪ですか? 長髪でしたらクリス先輩も長髪ですけど」
「年は取ったが俺の視力はそんな悪かねえよ。まあ積極的に腕に絡みついてたし、レインじゃないと思って……」
あら、どうしてマスターはそんな顔を青ざめているのだろうか。おかしいですね、まるで悪魔が目の前にいるような。
「ちなみにジルベルトさんらしき人とその人はどちらに行きましたか」
「どうしたんだレイン君。マスターが蛇に睨まれたカエルのようなかわいそうな状態になっているぞ」
カラン、カランというドアが開き、同時に聞きなれた声が耳朶に響く。
最近身長が少しずつ伸び、体形も女性らしい丸みを帯びてきたノイ先生を見つけると、私は詰め寄った。
「ノイ先生、私に似た金髪の女性で、ジルベルトさんと仲のいい方に心当たりがありませんか」
「もう出ていたのか……外に出るなら郊外にしろと言っていたのに。そう、私の知り合いの奥さんがちょっとした難病で療養していたのだがつい最近退院の目処がついて、旦那も忙しいからジルベルト君が迎えに行ったのではないか。おっと済まないコールだ。……今はまずい、後でかけ直すから……いや娘の方が今こっちに」
「今なんて? 何かお父様からのコールですか」
「い、いや何、ちょっとした仕事の相談だったんだが、急ぎではないので」
女の勘が告げている。これは絶対に怪しいと。そもそも今年に入ってからのお父様の行動は怪しかった。
「いいです、私が直接お父様とジルベルトさんに聞きます。今二人はどこですか?」
「わ、私は知らんぞ。どっちかに直接聞いてくれ」
ここ数ヶ月の不審な行動を今こそ明らかにすべきです。
sideout
「レインに気付かれた?」
「俺達のことを誰かが見ていたようです。やっぱり俺と一緒の組み合わせというのが目を引いていたようで」
俺達を知っている人なら彼女をレインとして認識するだろうし、仮に俺が目撃する立場でもそう思うだろう。俺の友人の実の母親がこんなに若いはずがないを地で行っている霧島エイダ(23+@)さんはレインのお姉さんで十分通用するだろう。
「というか、別にもうサプライズとかいいじゃないですか。電子体が破壊されてもまあ何とかなる余地はある程度の研究結果出てますし」
ノインツェーンの中(バルドル)という限定された状況だからこそできたものなので、現実的に可能かどうかは分からないが、例えば崩壊したデータのバックアップができれば死亡はしない。問題はバックアップする仕組みだが、こればかりはあと50年ほど必要だろうか。
クリス先輩こと白鳥女史曰く、電子体だけでは生存が理論上は可能だが、現実的には不可能であるという結論を出されたことについては言及していない。自我融合が起きるらしいのだが、新世紀なんだかとかいうアニメで人間の情報が溶けて赤い海になったとか、混ざっている状態で、きっかけがあれば再構築されるらしい。
『仕方がない、私も腹を括ろう。ジルベルト君は言い訳を考えて欲しい』
「言い訳も何も、死んだ奥さんに瓜二つな人を見つけて、家族のいない彼女に同情して密かに面倒を見ている間に愛が芽生えた設定か、電子体が奇跡的に生きていて、クローン申請して通ったの二択じゃないですか。これはプロジェクトの一環ではありますが、こんがらがった糸をどうにかするのは桐島家の役割だと思うんですよね」
個人的に言えば、北海道とか長野辺りで静養してくれればばれることも無かったのだが、守秘義務の関係とかもあって水無月真とその家族の場合と異なり、一般人の桐島レインについては一切情報を渡すことができない。更に言うと戸籍上も桐島エイダは存在せずに、エイダ・リンクスという別の人間である。再婚した暁には桐島エイダになるが。
「一応、お嬢さんの前ではちょっと変わっていているけど、ギリギリ一般の学生という枠で交流してるんですけど」
「交際しているっていうなら良かったのに。私似の美人で胸だってもっと大きくなるはずだから……それとも少女趣味なの?」
「……美人なのも認めますが、まだ18にもなっていない若造が付き合うのにはちょっと重すぎます。ほら、お嬢さんと付き合うと自動的に、結婚、軍への仕官ルートが決定してしまうのが。軍と政府と企業のバランス的に、全く関係ない人と付き合いたいなと思うのはワガママでしょうか」
桐島さんほど積極的ではないが、橘社長も身内のどっちかを押しつけようかなと考えている節がある。ただ、特定の勢力に利するような動きがあると残りがうるさいということにようやく気付き始めた。
「そういえば、あなた結局どこに進路を決めたんだっけ? もっともあなたの場合、どこを希望しても推薦確実だと思うけど」
「星修系列の大学で、自分で研究室を立ち上げる羽目になりました。軍というかあなたの旦那さんが結構粘ったのですが、あなたの件もありますし、そもそも軍と関わる分野も少ないので、こういう形に」
ちなみにクリス先輩が一年早く入学しており、猫を被るのをやめた彼女は使えるスペックをフルに使って研究をする傍ら、白鳥名義で怪しげな作品を発表して注目を浴びている。なるべく学内では一緒に痛くないもとい、いると男よけに使われそうなので関わりたくない。もっとも、1年後には研究室にいることが容易に想像できるのであるが。
「八重さんもそうだったけど特殊な才能の持ち主って大変なのねえ」
「まあ門倉八重さんの場合は本業と才能が合致したのでしょうけど、俺の場合は本業が学生ですからね。まあ文句を言っても仕方が無いのは理解していますが、もう少しゆとりとか欲しいところです」
さらにエイダさんと話し込むこと20分、見覚えのある金髪の美少女が血相変えてこちらに向かって早歩きしてくる姿に合わせてスターウォーズのBGMが脳内で再生される。ついでにちょっと遅れて諸悪の根源の関係者ことノイ先生も付いてきた。
「ジルベルトさん!」
女は怒らせると恐い。というか今回は俺別に悪くない気がするんだけど。
「こちらの方を紹介して頂けないでしょ……そんな!?」
「エイダ・リンクスさん、北米出身でこちらに留学したという設定でしたっけ?」
「南米を訪れていた門倉さんが、知人に瓜二つだから連れてきたってという設定にすると聞いたけど」
「お、お母様?」
「何、レイン?」
「亡くなったはずでは」
そりゃ、目の前で自殺した母親がぴんぴんしてたら驚くだろう。
「技術の進歩ってすごいわよね。肉体が死んでも電子体が無事なら何とかなるんだから。それにしても大きくなったわね。勲さんに似て私よりも背高いんじゃない」
そしてエイダさんは娘をそっと抱き寄せる。
「ごめんなさいレイン」
声にならない嗚咽を漏らすレインとエイダさんを残して俺とノイ先生は公園を後にした。
side ノイ
「親はいつまでたっても親であり、子はいつまでたっても子である。私や水無月姉妹のように真に造られた存在には理解できない感情だな」
父親がアレな私としてはケンカできるレイン君は人間として正常なのだと思う。
「ノイ先生だって親になれば分かりますよ。まあ俺も親になったことがないので気休めですけど」
「人間というのは不完全で他人と一緒でいることでしか繁栄できない生き物だということを実感する。だが」
様々なファクターが複雑に絡み合うからこそ困難を打破しようと衆知を集めて歴史を作っていった。そして一人ひとりが違うからこそ私は人間を美しいと思うのだ。
「親になってみれば分かるというが、つまり君は私を母親にしてくれるということか」
「幼女体型とはもう言えませんね。もう少しお美しくなったら考えますよ」
その言葉に少し心音が高まるがすぐに冷静さを取り戻す。いいだろう、サイズがCを越えた暁には向こうから迫ってくるようなシチュエーションを用意してやるさ。
「これにて一件落着かな。一年間って意外と早かったですね」
そういえば去年の今頃は、アセンブラの件でてんやわんやしていたからな。だけど去年は楽しかった。
私の時は止まっていた。新しい出会いがあっても、彼らは成長し、老いて私を置いて行ってしまう。去年の一年もそんな年になるはずだった。ジルベルト君、いや佐藤君ともちょっとばかりのいい友達で、いつか別れが来ると思っていた。
でも今年は、前に進むための一年で、来年は更に前に進むことができる。永遠を求める人に行ってやりたい。未来に何があるか分からないけど、進める喜びに代わる物はないと。
ジルベルトワールドアフターストーリーも一応完結です。
アフター1が2月頃(レイン編)
アフター2の3月頃(白鳥編)
アフター3が5月頃(真編)
アフター4が11月頃(レイン編という名のノイ編)
ここからジルベルトとレインが卒業してクリス先輩の研究室に入り、
5月頃に異世界に召喚されて、4時間後に帰還します。
えせ救世主物語は土曜か日曜からの予定です。
あと気が向いたらクリスパパに
ジル「実は宇宙で活躍できるロボって興味あるんですよね」
パパ「うんうん、確かにシュミクラムは楽しいが、リアルで動くロボットにはロマンがある」
ジル「ちょっとあぶく銭あるんですけど、やりますか」
パパ「やっちゃおうか」
白鳥「待って」
みたいな話をどこかに入れるかもです。
新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)
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白鳥さんから見た本編
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蛇足の蛇足(結婚式)
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蛇足の蛇足(失恋慰め回)
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蛇足(水面下の争奪戦)
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ところで真ルートは?