こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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スーパージルベルトワールド2-3

 結局、料理の基本は水だと思う。水と塩、この二つ次第で料理は格別に美味くもなり、まずくもなる。後はさじ加減か、過分にしろ過小にしろ見極めを誤れば食べられたものでは無い。

 

 基本的なレシピを学び、それを会得してから自分好みの味にしていくのが手料理の醍醐味。決してチーズケーキは投げ捨てるものではないのだ。

 

「何だねそのチーズケーキは投げ捨てるものとは?」

 

「金を作るより、満足できるチーズケーキを作る方が困難な人間がいるってことですかねえ」

 

 なるほどと納得しているノイ先生だが、彼女は基本的に何もしない。

 

 ナノマシンをいじれる人物が料理が不得手というのが何となく面白いが、人間才能のある分野もあれば、ない方面だって当然あるだろう。

 

 彼女曰く、普通に作れなくはないのだが、手抜きできるならそれに越したことがないのだが、調味料代わりにナノを入れるようなマッド医師には食材を触らせないのがベター疑惑は置いておこう。

 

「準備できたです」

 

「ありがとう真ちゃん、いや助かったよ。独り暮らしで結構慣れているけど、同時にやるのは難しいから」

 

 そう言って真ちゃんの頭をなでる。

 

「ああ、ゴメンゴメン。つい弟と同じに扱っちゃって」

 

 俺と両親の共通認識としては弟がジルベルト家の跡継ぎなのだ。弟は歪まないで育って欲しいとは思っているが、どうなんだろうか。

 

「だいじょぶです」

 

「そう見ていると、君達は本当の兄妹のようだな」

 

「じゃあ、ノイ先生はダメな姉か、年の近い叔母ですね」

 

「失敬な、私だってやればできるんだぞ。あのナノだってもう少し改良を加えればだな」

 

 

「それがどうにかなったときは、食料事情が解決しそうな勢いですね」

 

 俺はどこか言い訳がましいというか、イタズラがばれた子どものような理屈を述べるノイ先生に苦笑する。だが、まさか開発中の調理用ナノマシン「ノイ印の万能調味料」から三世代経た「ノイ印の万能調味料EX」が本当に食料問題を解決するとは、この時の俺には想像もつかなかったのであった。

 

「まあ、私も他の人に使ってもらおうかと思って、料理下手な知り合いに……なに真君は青ざめているんだ?」

 

「おねちゃ、今日料理するって……」

 

「ははは、いくら空君でも君と一緒じゃなきゃそういうのは手を出さないように言っているのに、やるわけあるまい」

 

 豪快に笑い飛ばしてはいるが、帰宅後に「第一次如月寮の変」が起こったことを真ちゃんから聞かされたときはさすがに神妙な面持ちになり、さらなる改良を決意したそうだ。

 

 さて、俺は予定通りエビと白身魚の二種類の水餃子を作っているわけだが、真ちゃんは蒸し派らしく、小龍包(ショウロンポウ)と中華ちまきを用意してきた。皮の包み方といい堂にいっている。

 

 伊達にあの若さで料理をしているわけではないようだ。あれだけシュミクラムの才能があって、料理もうまいなんてどういうチートなんだこの子。ノイ先生も性格はアレだけど天才の部類だし、レイン嬢は言うまでもない才女。それと比較するとなんちゃってデザイナーズチャイルドの自分だけかなり地味な気がする。

 

 まあ、機体が最新でもOSが古いパソコンだと十二分にスペックを発揮できないわけで。この時代に生まれて早16年になるが未だに適応できないことが多すぎる。何といっても参考文献がバルドフォース(PC)とかいうのが。

 

 特殊な境遇で生まれた人間が事件に巻き込まれて活躍する話なんて参考になるわけがない。生い立ちはともかくジルベール・ジルベルトとしての自分は普通にカテゴライズされる人間なのだ。

 

 呼び鈴が数瞬の思考のループを止め、意識を佐藤弘光からジルベール・ジルベルトにシフトする。

 

「ノイ先生、悪いですけどドア開けてもらえますか。今手を離せないんで」

 

 

 

 sideノイ

 

 ジルベルト君に頼まれて、私はドアのカギを開け、扉を開いた。起伏のあるラインに艶やかな金髪が映える西洋的な美人だ。何よりちょうど目線近くになる二つの頂がすごい。

 

「しかし、ジルベルト君と同じ年でこの大きさか」

 

「あ、あの、ここってジルベルトさんのお部屋ですよね?」

 

「そうだが、君がジルベルト君の『お嬢さん』だな。私はノイ、仲間内では『先生』と呼ばれている」

 

「あなたが先生? その、先生の妹さんとかではなく?」

 

 失礼な娘だと思う反面、何故彼女がそのような考えに至ったのか興味を覚える。

 

「後学のために聞きたいのだが、ジルベルト君は私に対してどういうことを普段君に話しているのかね?」

 

「ええと、ちょっと問題があるけど立派な大人の女性だと」

 

 む……ジルベルト君は他人に対して私をそういう風に評価していたのかと思うと心音が早くなってきた。顔には出ていないだろうか。

 

「あの、私にも教えて欲しいのですが、普段ジルベルトさんは私のことをどういう風に仰っているのでしょうか?」

 

「手のかかる妹みたいなものだと言ってたな。まあ君くらい可愛らしければ手がかかっても役得だろうが」

 

 何かショックを受けている彼女を見て、ああ、つまりそういうことかと気付く。

 

「ジルベルト君に女を意識させるのは面倒だぞ」

 

「わ、私はそんなつもりでは」

 

「ならいいが、キッチンの光景を見て同じことが言えるならいいが……」

 

 失礼します、とキッチンに向かっていく彼女を尻目に私は確信を持った。彼女は彼に恋をしている。彼女は彼に救われたことを運命と捉え、それが恋心に結びついているのだろう。だが、残念ながらその程度の運命なら大なり小なり宝くじが当たるより多く転がっている。それを宝物のように感じるとは確かにごくごく普通の『お嬢さん』だ。

 

「だがジルベール・ジルベルトという人物に救われて運命を感じたのは余りいないか」

 

 そして私の中に渦巻いている感情が嫉妬であることに気づくと年甲斐もなく苦笑する。否、姿はどうあれ女は生まれてから死ぬまで女なのだと昔、誰かが言っていたことを思い出した。

 

 つまり、彼と同い年の少女が、理想に浸っていられる若さがある少女の恋に向かって邁進する様をある意味見せつけられたのだ。

 

「私も彼女のように生きたかったな」

 

 もっとも、そのような人物はノイではなく別の何かであり、生まれ育った過程を経たからこそ私は私でいられる。

 

「まあ、結局ジルベルト君は彼女には手が余るだろうが」

 

 彼女の人生がジルベール・ジルベルトによってある種の方向性を持ったように、ジルベール・ジルベルトが形成されるに当たって少なからず影響を与えた自負が自分にはある。

 

 リズムを整えて自分を再確認する。うん、私はいつものノイだ。この少しいい加減な日常こそが私の現在(せかい)なのだと。足取りを確かに、良い匂いがするキッチンに戻っていった。

 

sideout

 

 炒められた豚肉とキクラゲが卵によってふんわり包まれる。火力は大胆に、動きは繊細に。隠し味に甜麺醤を入れるのが俺好みだ。

 

 その隣では、器用に野菜を切る真ちゃん。青梗菜はちゃんと湯通しを欠かさないし、やっぱり料理好きなのかと感心させられる。何より少ない言葉のやりとりからわかったことだが、彼女の得意料理は和食系というのだから、やっぱりどの料理をするにしても基本をおろそかにしてはならないということだろう。

 

 横でその奥深さを改めて感じながら料理を続けていると、レイン嬢が飛び込んできた。

 

「早かったなレイン。お客さんなんだからそんなに急がなくてもよかったのに」

 

「い、いえ、何かお手伝いができればと」

 

「正直手伝いは要らないかなあ。ほら、主婦技能を持つ女子高生がいて、下手すると俺の出番まで取られそうだし」

 

 彼女やろうと思えば料理で食っていけるよなあ。でも考えてみれば星修出身だし、シュミクラムの腕も一流だからそっちの方が稼げるとは思うけど。

 

「やっぱり料理ができる女の子の方がいいんですね……」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「い、いえ。それより、これマフィンです。よかったら食べて下さい」

 

「ありがとう。へぇ、自分で作ったのか」

 

 ちょっと一部焦げたりしているが、見た目はフルーツの入った普通のマフィンだった。

 

「……本当は、お料理を持ってきたかったのですが、味見をした父が止めまして」

 

「まあ、それはまた今度の機会だな。マフィンは後でデザートと一緒に食べるとしよう」

 

「はい!」

 

 そして料理も終わり、テーブルに結構な量が並べられた。

 

「ジルベルト君と真君は学校を卒業したら料理屋を開いたらどうかね? 十分通用すると思うが」

 

 ノイ先生は見た目とは違い健啖家で、おいしそうに食べる姿は料理を作る者にしてみれば結構うれしい物だ。最初はレイン嬢も緊張していたようだが、馴染んだのかそれなりにノイ先生と会話を進めている。

 

 反面、真ちゃんとはうまく意思の疎通ができていない気がした。

 

 お互いに積極的じゃないからな。

 

「ところで、ジルベルト君はシュミクラムの試合に出てみる予定はあるのかね?」

 

「そうですね、同年代と自分の力量を比べてみたいという欲求はありますよ。今のところ、やってみたのが凄腕(ホットドガー)だから比較対象にはなりませんし」

 

「わたし、すごくないです」

 

「必要以上に自分を卑下するということは相手を侮辱していることにも繋がるから、あまりしない方がいいと思うよ」

 

「そうだな、君に必要なのは自信を持つことだ。君のお姉さんは……まあ、あそこまで元気になると君らしくないかもしれないが」

 

 彼女の人生に踏み込むつもりは毛頭無いが、年長者として軽くアドバイスをしてみたくなった。ノイ先生も思うところがあったのだろう。

 

「ジルベルトさん、シュミクラムをはじめたんですか?」

 

「うん、それで俺の師匠さんが彼女。今日は機体を設計してくれたノイ先生のためのお礼なんだけど言って無かったっけ?」

 

 そういえば、なし崩し的にスーパーに付き合ってもらって、なし崩し的に彼女も一緒に来ることになったから事情を説明してなかった気がした。

 

「うむ、それでだ。ニュービーズインパクトという大会があるのだが、ジルベルト君、真君と一緒に参加してみる気はないかね?」

 

「別に構いませんけど、それって3人参加前提ですよね?」

 

 情報が転送されて、内容に目を通す。

 

 アリーナで15戦以下は問題ないと思うが、3人1組だとあと1人必要になる。

 

「まあ、大会の主催者にコネがあるし、別に2人で参加しても」

 

「あの、私もシュミクラムやりたいです」

 

「ふむ、シュミクラムの経験は?」

 

「ありませんけど、がんばります!」

 

「まあ、良いんじゃないですか? 幸い大会まで時間がありますし、一週間に一回くらいの訓練で。別に優勝を狙う必要も無いでしょう?」

 

 そのおっとりした雰囲気に反して運動神経は良いし、何よりセカンドなので、経験を積ませればものになるとは思う。真ちゃんもコクコク頷いているし、楽しければ良いよね的なノリでがんばればいい。

 

「そうか、まあ優勝賞品の豪華ホテルでの旅行に心惹かれる物があったのだが……」

 

「ジルベルトさん、優勝を目指しましょう!」

 

「あ、ああ」

 

 レイン嬢がすごい張り切っているのだが、彼女の場合、金持ちなんだから自分で行けばいいのに。それとも、「親は親、自分は自分」で、その辺の区切りがきちんとできているご家庭なのだろうか? 

 

 こうして俺たちは、シュミクラム大会で優勝を目指すことになったのだが……監督(?)と新入部員のノリについて行けない俺と真ちゃんはちょっと苦笑いを浮かべるのだった。

ジルベルトワールド本編終わったらどちらを読みたいですか

  • 番外編→えせ救世主物語(DSクロス)
  • DIVEX(バルドスカイ本編再構成2)
  • ジルベルト系よりニラ小説書けよ
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