こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
「英雄とは自分の周囲にある小さな幸せを放棄して戦える存在、復讐者とは自分の望みが叶うまで戦える存在だと俺は考えているのですが、この二つの存在の共通点わかりますか?」
「妥協しないことかしら。まあ後者はともかく前者は妥協していたら歴史に名を残さないから当然なんだけど」
佐藤弘光も白鳥友梨も前世では政治とかに格段の興味を持たなかったが、グダグダ批判しても何とかなる政治システムって優秀だったことに気付く程度には人生を生きた後に転生を果たした。
「さて、英雄と復讐者と統治者がいるとします。一番相手として楽なのは統治者です。常に味方ではありませんが狂人じゃないので最大多数の利益が確保できるなら妥協が成立します。次に楽なのは復讐者ですね。復讐の原因を取り除けばいい。仕込みが要りますが多分何とかなります。問題は英雄です。効率的に言っちゃえば候補者全員謀殺ってのが手っ取り早いんですけど」
「私達が助かるだけって前提なら悪く無いわね。ただ、それは世界的に正しいかどうかの問題があるけど」
自分の時は情報を持っていなかったので好き勝手できたが、今回のケースは事前情報を持っているだけに慎重にならなければならない。なるほど、白鳥女史の苦悩も分かるというものだ。
「済まないが私にもわかるように説明して欲しいのだが」
「要するに誰と与するのが手っ取り早いかですね」
「俺達の第一目標は帰還することです。英雄の目標は今回を凌いで次回に繋ぐことです、これは統治者の民を守るという目標と合致しているので両者は現状結託しています。復讐者の第一目標は破壊することです」
「支配ではないのかね?」
「そこが問題と言いますか、復讐者の勢力の頭目の復讐目標はすでに亡くなっています。いい空気吸って子どもと孫に囲まれて天寿を全うしたわけです。つまり言い方はあれですが彼らがしているのは八つ当たりですね。で復讐者には協力者がいますが、有体に言えば暇人の憂鬱のメンツが好き勝手にやるみたいな感じで、破壊・破滅願望はあるとしても過程もゴールも異なるわけです」
名前忘れたけど、金髪ボインの姉ちゃんのお兄様とか、ムドウだっけか、忍者の仇とかと、メサイヤパーティ関係者では空気が違うというか、まじめに目的を果たそうと考えているのが赤本だけなのが泣ける。
「現実問題、復讐者の首領に関しては、復讐の要素を解消して、ちょっと統治者側が妥協してくれたら、1000年先まで先延ばしできるわけです。要するに久利原方式での解消ですね」
「悪役は悪役と連むのが妥当よね」
「嫌だなあ、俺たちは悪ではありませんよ。俺なんて学生なのに真っ当に税金を払っている選良ではないですか」
俺もクリス先輩もノイ先生も日常に適応した狂人に過ぎないのだから。
召喚された当日、人目のつかないところでダウニー先生と悪だくみを楽しむこととした。いや白鳥的な話ではないよ。白鳥は大河×セルかセル×ダウニーで悩んでいるところだから。俺には関係ない話である。
「俺があなたに切れるカードは一つです。一人だけなら死者を呼び出し、蘇生させる段取りを整えるということです。正確には俺が世界を誤魔化している間にネクロマティックで魂を呼び出して、ホムンクルスに固定すれば、死んだという前提が覆せる。つまり結果として最初から対象は死んでいないというカラクリですけど」
ネクロマティックは仮初めの生を与えるだけだ。封印されているなどの条件が無ければ肉体に固定化することは不可能。第一、違う器に魂を入れて維持するのが困難なはずだ。これは肉体と電子体の関係に似ている。
「その条件を満たせることができるネクロマンサーはロベリア・リードだけ。アルケミストはルビナス・フローリアスだけ。幸い、前者は現世に蘇り、後者も伝があります。ですから選んで下さい。あなたを奴隷に落として人生を破壊した貴族を蘇らせて復讐を果たすか、あなたの妹さんを蘇らせるか」
「復讐を否定しないのですね」
「大義やら信念やらで世界と心中しかけた人間を知っていますからね」
基本的に俺は巻き込まれ型であり、ヒーロー願望は無い。ヒーローなんてものは眺めて楽しむ娯楽であればいい。古代コロッセオで、奴隷同士や奴隷対猛獣の戦いを楽しんだ人間は当時市民から貴族まで数多いただろうが、自分がそれらと戦いたいと考える狂人はごく僅かなだったろう。
「気まぐれで殺し合いをさせる人間がいるのなら、気まぐれで人を蘇らせる人がいてもいいでしょう? 俺は手段を提案しただけで、実現するためには救世主側と破滅側の力が必要なので。別に世界なんて滅びる時に滅びますよ。やろうと思えば俺だって一週間くらいでできますし」
何しろアセンブラ―触れると死ぬ―を生成してばらまくだけで簡単に世界の生態系が吹き飛ぶからな。
「冗談ですよね」
「必要な設備さえあれば作れますよ。広域魔法でなぎ払えば防げますけど、1部でも残ればまた増殖し始めますから滅ぼすだけなら効率的ですよね」
「……私が問うのも滑稽ですが、あなた破滅願望無いですよね?」
「元の世界では働かなくても食っていける身分で、面倒だから行きつけのカフェのマスターのところでバイトしつつ、独立して料理屋なんかやりたいなと思っていますが」
「貴族か大商人の家のはみ出し者なんですか?」
「アイデアを売るので技術者になるのかな? うちのメンバーの中だと貴族のカテゴリーに入るのは銀髪の人ですね?」
今世紀最大のマッドサイエンティストの娘、高級軍人の娘、遡ると貴族に連なる名門のお嬢様、財閥の親戚の娘……ジルベルト家なんて金持ちに入ってはいるけれど、いや金持ちなんだけど、すでに俺個人のパテントの方が上だからなあ。
「私なんて、両親に先立たれ……」
何か愚痴モード入ったぞ。ジルベルト始めて何回目かなこのパターン。年上の愚痴聞くために生まれて来たわけじゃないんだけどなあ。
「『運命は我らを幸福にも不幸にもしない。ただその種子を我らに提供するだけである』」
「何ですかそれ?」
「俺の世界の400年以上前の思想家が言った言葉です。何なら王家乗っ取ります? マッチポンプでいいじゃないですか、活躍すれば英雄ですよ」
もしルビナス・フローリアスが生き残り、アヴァターに残っていたなら、民衆は傍系であるアルストロメリアではなく、ルビナスを中心とした新たな国作りをしただろう。正統性なんてものは乱世なら意味がない。
「君は……いやいいでしょう。どうせ学園長や王女様にも交渉をするのでしょう?」
「最初にあなたの元を訪れたことを評価してもらいたいんですけどね。あなたのお仲間なら時間、場所含めて全て調整できるじゃないですか? 俺達にしてみれば大きなアドバンテージなんですよね。ではそろそろ次の交渉相手の元に伺いましょう」
俺はダウニー先生に会釈をして部屋を去った。しかし……。
「どうして思いつめた人間の部屋って似ているんだろうか」
御大将こと、久利原直樹の部屋もそうだったが趣味らしいものが一つもない。まあ、こないだモニター越しに会った時は華やかとまではいかないが何となく潤いを感じることができた。部下にも慕われているし自分が斡旋した割にはいい環境なのだろう。何しろ、アセンブラを制御できた英雄で、統合宇宙軍の大佐待遇で勤務しているから女性からの人気もあるらしい。
「遅れて申し訳ありません。ちょっとダウニー先生と話し込んでいまして」
「ダウニー先生とですか」
「はい、世界間の常識についてです」
嘘は言っていない。まあ俺の常識が世界の常識だったら困るが。
「個人的には嵐が来る前に王都にある転移装置で送り戻して頂けると助かるのですが」
「現状では無理です。そもそもあの転送装置は隣接する世界を移動する為のものであって、世界を超越できるわけではないのです」
「学園長が次元の壁を渡って訪れざるを得なかった理由ですか。どちらにせよ我々は自分の世界の座標を知ることができません。地球ってご存じですか?」
「大河君と同じ世界ですね。ですが、あなたは次元世界に詳しすぎる」
「その大河という方がどなたか知りませんが、二、三百年も時間が離れていれば常識は変わります。まあ『千年』も離れているわけじゃないのですけど」
「つまりあなたの世界では破滅の脅威が迫っていることは衆知の事実ということですか?」
「一般人は知らないと思います。ですがそれなりの地位にある人間は知っています。そしてこちらの方針としては放置です」
当然嘘だ。他の世界ならできる可能性もあるが、俺達は結果を知っているに過ぎない。
「ですが、破滅がアヴァターを蹂躙すれば全次元世界が」
「学園長は水に石を投げたことがありますか?」
「子どもの頃に遊びとしてやりましたが」
「石によって波紋が起きますけど、基点から離れれば離れるほど影響が少ないですよね。つまり影響度が低い世界であればあるほど被害を受けない。つまりアヴァターの近くにある世界はアヴァターの状態が正常な状態では恩恵を受けることができますが、異常事態になれば当然その被害も受ける。辺境世界というか外周部はその辺影響受けないのでどうでもいいです。多分大地震で10万人が死ぬとか、干ばつで20万人餓死とか、戦争で30万人死ぬとかそんなレベルで終わりますよ」
それはそれで問題なのだが、人口が80億近くいると命って軽くなるし仕方が無い。加えて、人類滅亡がほぼ確定する災害の芽は摘んでしまったのでおそらく安全パイのはずだ。それこそ白鳥女史が知る世界(BALDRSKY)はアヴァターが壊滅した影響疑惑が浮かんでくるが。どうせ時間の流れなんてあって無いようなものだし、逆説的に自分たちが解決したから特に問題がなかったという結果の可能性もあるのだが。
「一週間分くらいの生活費貸してくだされば後は自活しますから放逐してほしいですね。自分の身は自分で守れます」
タイムラグ無しに武器を呼び出し突きつける。当然学園長も構えた。緊張感が漂うが、やがて俺は武器を消して両手を挙げた。
「冗談ですよ。あなたを殺してもメリットは皆無です。あと聞きたいんですけど、どうして彼女の封印を解かないんですか? 封印を手伝ったあなたが解除できないわけないでしょう?」
「……何のことですか?」
「じゃあ話を変えましょう。オルタラを知りませんか。イムニティとの交渉は難しいからまだ彼女の方が」
「待ってください、あなたは何を知っているのですが」
「あなたがメサイアパーティの一人であること、千年後のお祭りの時期に救世主がいなくてもやっていけるようにフローリアス学園を創設したこと、そしてオルタラの力の影響で本来の世界に戻ったこと、次元断層のせいで間に合わなかったこと」
どれか一つでも違えば歴史は変わっていたのだろうが、今更だ。
「正直その執念には感心しますが……あなたは救世主候補に言うべきでしたね。主になってはならないと」
「あなたに私の何が分かるのですか」
「あるいはミュリエル・アイスバーグを名乗り英雄の名ををもって戦うべきでした。その隠している態度が最終的に王家からの不審に繋がっているのではないですか」
「私だってあと20年、いえ10年早く来たかったですよ。滅びた世界で拾った娘は何の因果かライテウスに選ばれた。私は選ばれなかった。だから」
「ミス・アイスバーグ。これクリス先輩、銀髪の人の考えなんですけど、救世主候補に選ばれる存在は渇望している。そして現状を打破しうる力を望んでいるのではないかと。あなたがどのような理由で選ばれたかは分かりませんが、それより大切な物を得てしまったからライテウスは次の使い手を選んだのでは」
何しろ現状に満足できる人間は変化を望まないのだ。変化を望むのは現状が素晴らしいにもかかわらず、より前へ進むことを欲する一握りの超人か、現在を受け入れることができず、かといって改善することもできずに不平を漏らす愚者しかいない。娘を得たことで満たされたのか分からないが。
「召喚器は心の在り方によって出力が変わる武器です。まあ同時にアレから力を貰っているから監視されているも同然なんですけどね」
「それでは私達の時も」
「厳密に言えばアレは見ることできますが干渉はしません。干渉するのは導きの書というユニットです。ユニットは自分の主となる人物を見定めるまでは全ての候補者を閲覧できますが、決まってしまえばおそらく見ることはできません。ユニットは主を選ぶのが本能であり、定めてしまえば相手をのぞき見るのは競争させるという観点からは相応しくない。だから現状では相手方に漏れませんよ」
「私、自分の世界に戻ってからは次元移動の魔法を学ぶのに必死で、その後はここに来るのが目的だったから交渉とか根回しとかがそれほど得意じゃないのよ。そういうのはアルやルビナスに任せきりだったから」
錬金術師って材料集めるから交渉できないといけないからなあ。もっとも、世の中には王国騎士団長より強い錬金術師やら、ドラゴンを仕留めちゃう錬金術師がいるわけだが。
「その辺の愚痴は後日聞きますが、俺的にはルビナス・フローリアの復活を提案します。どうせロベリア・リードも蘇っているんだから同窓会でも開いて愚痴を言い合えばいいんじゃないですか?」
「その件については検討しましょう。最後に聞きますが救世主候補しませんか?」
「仲間を守るためなら世界が滅んでも構わないとか思っている人間に期待しないでください」
「残念です」
同年代だったら口説きたくなるくらい佳い女が、幸せを捨ててまで願うのは……いやそういうのは他人がくみ取ってやればいい。失礼しますと学園長室を俺は出た。廊下を歩きながら今後の予定を確認する。
「後は王女様だけどどうしたらいいのかねえ」
素直に密偵の人に仲介を頼むか、いっそのことアーグまで乗り込むか。
1日目終了
1日目にしたこと
・クリスと方針の決定
・ダウニーとの会合1回目(あと1回で光堕ちする)
・学園長との会合1回目(あと2回で協力してくれる※肉体関係と結ぶ、あるいはリィを説得すると短縮できる)
肉体関係ルートは一見手っ取り早く見えるのですが、終盤にノイ先生との3〇が発生して結果として長くなってしまうため、無難にリリィを説得するルートでの行動短縮を目指します。
一応RTAと銘打ってますから解説しないとね
あと活動報告で人物設定関係の募集みたいなの掛けてますので、モブキャラの詳細とか知りたいという奇特な声を頂ければできる限り反映したいとは思いますので興味ある方はそっちに投げてください。
新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)
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白鳥さんから見た本編
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蛇足の蛇足(結婚式)
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蛇足の蛇足(失恋慰め回)
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蛇足(水面下の争奪戦)
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ところで真ルートは?