こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
異世界召喚生活3日目
王都アーグの旧市街にある屋敷の一室。
表向きはとある貴族の邸宅であるが、その実王政府の非常時に仕えるセーフハウスの一つだそうだ。というかそれ俺が聞いていいのかね。
目の前のピングロンドの少女は、差し当たって俺が差し入れした菓子(毒味済み)を食べ、茶を飲んで一息つくと、舐めるように俺を見た。表情こそ興味津々だが、目はモノを見る、キチンと交渉できるタイプだ。
「お主が新たに現れた救世主候補か」
「別にそんな大それたものではありませんよ殿下、いえ陛下ですか?」
もちろん事前に情報は知っているが、何せ召喚生活3日目で詳しすぎると怪しいのでそれでいいのだ。
「統治者であるが、破滅の影響で即位がなし崩しになってしまってな。敬称も王女陛下なる奇妙なもので固定されてしまった。面倒だからクレシーダあるいはクレアとでも呼んでくれ」
将来美人になる少女の目が死んでおられる。
「ではクレシーダさんで。余計なものを背負わされるのって嫌ですよね」
同志見つけたって目をしないで。そういうのはクリス先輩としてほしい。
「お主も中々面倒そうな人生を……まあ、何の因果かこんなところに漂流するのだから普通ではないか」
何故俺がこんなところで、お偉いさんLV3の彼女と茶を飲みながら世間話をしているかというと、召喚生活2日目の朝に教師兼ボイン兼密偵さんにコンタクトを取ったところ、翌日ここに案内され、詰まらないものですが、と食堂を借りて仕上げた菓子を渡し、現在に至っている。
クレシーダ・バーンフリート。ノイ先生と違って見た目と年が一致する少女は中々苦労性なようだ。まあ俺の知っている偉いさんトップなんて苦労人か変人の二択だからなと思う。
「ちょっとファンタジーな世界で生きていくのは難しいので早めに自分の世界に戻りたい。ですが現状でそんなことをするのは難しいというのは重々承知なので自活まで一週間分くらいの生活費を頂きたいという交渉を学園長としているところです」
「お主は何ができるのか?」
「戦うこともできますけど、敵味方構わずフィールド内の全生物を殺し尽くす魔法とか使う人間って危険だと思いません?」
俺の瞳を覗いて、嘘でないことを確認し、それが誇張は入っても嘘ではないと知ると彼女は、両手を挙げた。
「全生物ということは一度使ったら以後マナを吸い上げて自動的に駆逐するタイプだな。最悪大陸全土が不毛の大地か。それこそ破滅だな」
クレシーダ王女は脳内でメリット・デメリットを計算し、どうやら天秤が赤字に傾いたらしい。
「普通の技能ですと医者とか、料理ができるとかですか。一応秘書の真似事とかもできますけど」
「では私が雇っても良いぞ。文官が足りないのでな。それで望む報酬は何か」
「協力いただけるのであれば地下の転移装置の使用ですね。一応別枠での交渉もしているところではありますが」
「転移装置か、確かにアレは私が承認しなければ難しいな。しかしお主は何者だ。確か3日前にこの世界に召喚された割に詳しいな。別枠といったが、ミュリエルではあるまい。あるいは破滅側か」
わざと口を滑らし過ぎたとはいえ、判別する知性はある。
「破滅という現象、破滅として活動する人間、現世に絶望して破滅に加わる人間の区分は必要だと思いますが」
「ジルベルトと言ったな、お主に聞きたい。どうすれば問題を解決できると思う」
「それは抜本的な解決方法ということでしょうか」
「正直、それは次回以降にしたい。いや私の代でどうにかなる問題ならそうしたいが」
自分は軍事の延長戦上である政治の専門家ではないと断った上で次のように述べた。
「知り合いの言葉を借りるわけではありませんが、備えよ常に。つまり破滅が来ることが分かっていながら準備が足りなかったことが初手で致命的でした。あとそちらは正体を知っている前提で話しますが、学園長と腹を割って話すことができないことで、身内なのに緊張感をもたらす謎の状態に陥ったのもまずかったですね」
現状、彼女には伝えることができないが、ミュリエルは召喚器を使えなくても、ルピナス・フローリアスを戦場に投入することができる。マスターの力は失っても、オルタラと組めば疑似マスターと導きの書ができる。何より彼女がひたすら錬金術をするだけで、味方の生存率とモンスターの殺傷率にかなり影響が出る。
「つまり次回の為に我々は何とか現状維持をしなければならないということか」
「破滅という現象によるモンスターの増加に関しては討伐、救世主クラスを投入すれば何とかなると思います。なんか強そうな人たちも何とかできると思います」
俺の想定だと、リードさんちがこっちに寝返るから。
「クレシーダさんは召喚器とその使い手たちをどのように考えていますか?」
「難しい質問だな。召喚器は強力な武器だ。確かに頼もしいが、扱う人間は多感な少女……まあ今回は男がいたが。異世界の少女に振り回されるリスクは常にあると思っている。
「怖いですか?」
救世主クラスがとは敢えて聞かない。
「お忍びでも見たし、近くでも何度か見たが、私が持つ力でも行使することに躊躇するのに彼女達、いや大河は男だがどうしてあれをふるって平気で居られるのかと思った」
召喚されるとき、あるいは召喚器を行使している間はそういう感覚がマヒしているのか。その視点は考えたことがなかったな。まあモンスターとはいえ生き物を平然と殺せる文明圏はそう多くないだろうし。
「多分伝承とかだと、破滅という現象が発生するから救世主が現れるというみたいな記述があると思うのですが、俺の考えはその反対で、救世主を作る為の経験値として破滅というモンスターが居るわけです。参加資格がある人間は当然召喚器を持っている救世主候補だけです」
「つまりアヴァターとはそれを成すための箱庭という訳か」
自嘲気味に笑う彼女を見て、彼女が後10年、いや5年でも早く生まれていれば今日の混乱は最低限に抑えられたであろうと残念に思う自分がいた。
「当麻大河に聞いてもいいと思うのですが、ここは蠱毒なんだと思うのですよ。救世主という次代の種を作るためにモンスターが人を殺し、救世主候補がモンスターを殺し、そして救世主候補が他の救世主候補や人を殺す。事実、壊滅的な被害があっても千年前を除いて語り部が残らなかったという事実は異常です。おそらくどこかの段階で勢力を二分するような事態に陥るのでしょう。あるいは生き残っても元の世界に戻されるか。今回対策ができたのはあなたのご先祖がここの出身かつ王族の出身で、対策を立てる権力を持っていたからです」
「これを知っている人間は?」
「私と同行者の一人、あなたには今話しました。後はあなたも知っている過去の亡霊。もちろんこれは断片的な情報を元に組み立てただけで確証なんて全くありませんが、現状はこんな感じでしょうか?」
これが真実であってもここにやってきて3日目の男の話など所詮世迷い言に過ぎない。
「そうだな、この後食事が来るのでそちらも楽しんでいただきたいのだが、どうしてジルベルト殿は私にこの話をしようと思ったのだ」
「統治者には限界がある。つまり妥協が成立するわけです。俺が考えたようなシステムの場合対処療法が一番じゃないですか? 神様か絶対者か知りませんけど次元を超越している相手をどうにかするって不可能ですし」
状況さえ許せば俺が何とかできそうなのは別として、この
「で、この状況について説明プリーズ」
「ちょっと遊んであげたんだけどまずかったかしら」
「まずいも何も、えげつないトラップ持ちの先輩と完全空戦仕様の真ちゃんが本気になったら普通の人間は無理ですって」
俺が学園に戻ってきて見たのは、死屍累々になっている救世主候補達と、傷が全然無いクリス先輩と真ちゃんだ。
「あ、あんたもあれぐらい強いのか」
青ざめている少年、セル……そう確かセルロイド君だったかの質問に対して一瞬迷ったものの。
「いや俺はあそこまで人間捨ててないといよ」
真ちゃんとか頑張ればガルガンチュア単騎攻略できそうだし。
「ていうか、どうして真ちゃんもできるようになってるんですか?」
「そりゃ自衛手段は与えてしかるべきじゃない。世の中には当麻大河みたいなペドがいるかもしれないし」
余談だが、現在のノイ先生は身長164にバストは83と、とうに真ちゃんを抜いてしまった。そして残念ながらノイ先生の場合は抑制されていただけで、適度な栄養と運動をした結果、2年で18cmも身長が伸び、カップに至ってはDと今やちんまい先輩の面影はほとんど無い。そして真ちゃんには努力が実らない場合もあるという事実が浮き彫りになってしまった。まあ別に死ぬほど小さいわけではないのだけど相対的に小さく見えるだけで、当然子どもができれば大きくなると思うが。
「救世主クラスの人間ってやっぱり違うんだな」
「あれは俺達の世界の固有技能。もちろんあの子の場合、70億の上から数えた方が早い部類だけどさ」
きっと魔法の世界ならドラゴンもまたいで通るぐらいの人間のレベルだけど。
「それに俺達、救世主候補として召喚されたんじゃなくて事故できたようなもんだから。多分数日以内にはここを出ていくと思う」
「そんなに強いのに?」
「正直な話、俺の世界はともかく、暮らす環境としてはあれは娯楽のレベルなんだよ。覚悟が無い人間が暴発して内部から崩壊することの恐ろしさ、あんたも一度くらいは体験したことあるだろ」
セルロイド君は納得してくれたようだ。
「当麻兄妹も拉致同然で連れてこられたと聞くけど、俺はともかく女性陣が戻らないと多分世界がえらいことになる」
ナビゲーターがいればほとんどの経過日数なんて数分の誤差なんだが真実を知らない人間にしてみれば、重大な事実として受け止めるだろう。
「……どっちかというとあなたが一年以上失踪すると軍拡とか紛争が再開しそうな気がするんだけど」
「いい加減、折衝する作業から解放されたいんですけど、ていうか先輩の実家までスクラム組んできたじゃないですか」
先輩の養い親である六条家は特定の分野に力を入れているというわけでは無いが、学園都市の出資者の一人であるため、何故か出席する羽目になった懇親会とかで会うことが多い。何というか別に娘に悪い虫が付かないか心配するような親とか、シスコンマッドな人とか、個性的な年長者が多い中、六条氏は常識的な大人である。まあ趣味の領域を越えている気もしないでもない『脳内チップに連動して動く1m位の人型ロボット開発』で俺に意見を求めて一緒にやる仲ではあるのだが。
「お義父さんの趣味ね。でもあれって最終的に宇宙で活動できる人型ロボットにする計画が確か立ち上がってなかったっけ?」
「個人的にはナ●シコのエステ●リス的なやつがいいと思うけど、冶金分野をもう少し発展してからだから現状ではお遊びだよ」
「私はオーソドックスにザ●とかMSが好きなんだけどな。どっちにしても初期モデルは戦闘というより作業用だし」
俺がエステ●リスを推すのは操作方法がシュミクラムの感覚と似ているからであり、先輩がMSを推すのは、作業用機械の延長として考えられるからだ。
「金持ちなのは何となく分かった」
「そもそも満たされている人間は救世主に向かないんだよ」
「それ、どういうことよ」
「召喚器は現状を覆すだけの力を求めるという強烈な感情の発露によって顕現する道具だ。普通の人間なら過ぎたる力を持つ事を恐れる。違いますか魔術師さん」
自分とよく似た色の髪を持つ少女に対して嗤うと瞬間的に魔法を出そうとした。彼女のグローブ型の召喚器『ライテウス』の宝玉が光輝くが、やがて光を失っていく。
「アヴァターでそれできるってえげつないわよね」
「根源世界だから全ての技能が使えるというのも考え物だよな」
「あ、アンタ! 何をしたの?」
「企業秘密かな。とりあえず君達が振るうような奇跡とかの類じゃなくて、純然たる技術による干渉による無効化だから安心しろ」
「ああ一応解説をしておくが、理論的にできるのと実際にできるは違うからな。そんなことできそうな異能は私の知る限り彼ぐらいなものだ」
ノイ先生の言うことは正しいのだが本当に身も蓋もない。
「そうね、あなた過去を取り戻したい?」
「過去?」
「取り返しの付かない出来事。例えばささないな言い争いでケンカとして仲直りをする前に相手が死んでしまったとか。家族が理不尽に殺されたとか。そういうときに無かったことにしたいと思うでしょ? 例え友人を殺してでも勝ち取りたいと思う人だけがきっと救世主になれるのよ」
「私は……」
「クリス君、それはちょっと言い過ぎだ。済まなかったな。だが私達はこの世界で生きるために戦うだけの志が無い」
「あるいは理不尽に対して復讐する要素がないのよ。まあ真なら願いがあるから救世主になれるかも」
「クリスさん、それどういう意味ですか?」
真ちゃんが黒い笑みを浮かべて笑い、クリス先輩は目を逸らしつつ胸を見ている。まあ奇跡でも起きない限りはどうしようも無いのかもしれないけど……別に極端に小さいわけでもないのにやんや言っている彼女達のおかげで緊迫した空気が解消したのは事実だ。
●真ちゃんの本気→ガルガンチュアを落とせるレベル
●佐藤さんの本気→神にアセンブラに植え付けて永遠に再生と破壊を繰り返させるレベル
●黒ビスチェを着たのいてんてーの本気→佐藤さんをやる気に向上させるレベル
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