こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
異世界召喚生活4日目
生命に対する研究に関しては、どこの世界でもそれなりにえげつないことをしていると思う。
思うに錬金術師はホムンクルスという存在を作るために、どれだけの命を犠牲にしてきたのか、死霊術師は魂の召喚と固定化という技術を確立するためにどれだけ殺して体系化したのか。身近な話で言えば、義理の父予定が生まれるまでにどれだけ殺したのかとか、その娘が生まれるまでにどれだけ弄ったのかとか。その果てに生まれたのがデザイナーズチャイルドである俺たちである。
「賢者の石を核としたホムンクルスに、ネクロマティックで魂を喚び出して定着させる。ダウニー先生、その場合の問題点は?」
「ネクロマティックの成り代わりは術者で無ければ成功しません。反魂の術は一時的に死体に定着させるだけで、長く保っても一週間が限度」
「それはチェックサム判定で弾かれているパターンですね。情報の改ざんをすれば上手く行きます」
現在進行形でサイバーパンクな世界が暮らしている為に忘れがちだが、佐藤弘光が日本人として20世紀と21世紀を生きていた頃、違法ソフト-コピー対策としてチェックプログラムがセットされていた。そのおかげか知らんが、定期的にCD入れるのは面倒だなと思ったのは良い思い出だ。というかウィルス対策ソフトにウィルス扱いされていてゲーム出来ないよな話だったりする。
さて、サイバーパンクやらサイエンスフィクションの世界に生まれ落ちた訳だが、自分が電脳世界に入るというトンデモなルール下であっても自分の複製を作って同じ自分として行動することは不可能という法則はある。ビット兵器ですら処理が面倒なのに思考分割して自分を二つ用意するとか無理なのだ。唯一知る限りそんなことをできるのは、肉体を捨てた神父であり、一が全、全が一になってしまっている。もはやあれは概念なのだとジルベルトたる俺は思った。
あるいは全次元レベルでそれを定めたルールがあり、矛盾が見つかると排除されるという可能性もあるが、概念から抽出して固定化させる手段。情報の改ざんは、桐島エイダという個の再生実験によって一応の成功を見せている。そして誤魔化すのは自分の全技能の中ではこれが一番得意といってもいい。どちらかというと、魂の呼び出しとかそれに耐えうる相性の良い肉体の創造とかの方が困難なのだが、幸いそれをどうにかできる
「ここまで話して何ですが、結局あなたはどの立場に立って戦いますか? 今ならマッチポンプで何でもできますよ。俺のお薦めは千年後に丸投げです」
何しろ準備が足りない。中途半端にカードがあるのが問題だ。消耗戦に突入するだけのプランがあるわけでもなく、玉砕前提の一発勝負をするのは難しい。俺が善人かどうかは別の話だが、異邦人の当麻大河という個人を犠牲にするよりは広く浅く負担すべきだと思う。結論からいうと自分の世界は自分で守ってやれということだ。
「滅びるなら華麗に滅びればいいのに」
「気持ちはわかるが自重しろ白鳥」
俺は識ってはいるが有効利用する方法に関しては、クリス先輩こと白鳥女史の方が信頼できる。これに関してはもう適材適所としかいいようがない。そう、例え彼女が割とネジが飛んだ人物であっても。
「
「私は酷い男です。妹を殺してまで生き残り、そして世界に復讐しようとして、それでもなお妹に執着する」
復讐やら悔恨という要素は、前世である佐藤弘光にも、またジルベール・ジルベルトの生の中にも無い。あったとしてもゲーム崩してなかったなとか、早く続編書いてください○○先生くらいしかない。ハンターはいや止そう。白鳥女史でも無理だったのだ。
「ヒトとはそういう生き物なんですよ。それこそ俺は気まぐれであなたに手を差し伸べましたが、サクッと殺した方が後腐れ無いと思っていますし」
素晴らしい志を持つ人間が本懐を遂げるのも、心半ばで倒れるのは美談であるが、実がなければ意味が無い。悪人が気まぐれで救った子の子孫が多大な貢献をしたなら現実に評価される訳ではないが、少なくとも俺はその悪人を評価する。
俺もノイ先生も、基本的に博愛とは無縁な利己主義の塊なのだ。それでも俺はあの世界では人類の活動圏の拡張に貢献しているし、ノイ先生も動機はともかく、結果的に毒物すらも食べられるようにしたナノマシンを開発している。
初志貫徹できる聖人などいたらそれこそ物語の登場人物だろうと、ジルベール・ジルベルトの外の人である俺は苦笑した。
side ミュリエル
男の救世主の登場以来、予定が狂いまくったが、ここに至り私は何もかも投げ出したくなった。
「今回の破滅は茶番でどうにかして千年後に丸投げするように段取りが付きました」
口に付けた紅茶を噴き出さなかったことに自画自賛しても良いだろう。
「アイスバーグ女史、改めて要望しますが、ルビナスを復活させてください」
この男やっぱり私の正体を知ってる。ルビナスのことまで
「彼女に何をさせたいのかしら」
「神すらも欺く壮大な欺瞞のお手伝いですかね。多分説明したら割といい感じにやってくれると思いますけど」
短いやり取りの中でわかったことだが、彼は当麻大河のように大言壮語を吐くタイプではない。
「例えば救世主候補を全員石にしてどうにかするという手も考えられますが多分無理でしょう。結局はオルタラとイムニティが助けてしまう。加えて一見法則性が無いように見えて、実は統御されている破滅のコントロールが不可能になるということは、数で不利な人間側にとって絶望的。唯一救いがあるとすればガルガンチュアが使われないくらいですが」
手持ちのカードを全て見透かされている上での交渉というのは精神衛生上よろしくないのだが、黒の要塞のことまで知っているとなるとそろそろ白旗を揚げたくなるが、私も元救世主候補としての意地がある。
「断ると言ったら?」
「あんまりやりたくはないですけど、墓まで行って記憶媒体掘り出してきて、総当たりですかね。一週間くらい掛かりそうなのと一応筋通しておかないとまずいと思ったからここにいるわけですが、効率を無視すればできますよ」
「私が妨害する可能性を考えなかったのですか?」
「しても良いですけど、政治的に意志統一されていない学園で動かせる手駒なんてないでしょう? 既にご存じかもしれませんが、限定的に魔法は防げますし、死なない程度にどうにかするのには慣れてますから」
魔法と経験に裏打ちされた戦術があれば未だに殻の付いた救世主候補に劣るとは思っていないが、前提が崩されると弱い。この世界の戦士程筋肉が付いているとは思えないが、かなりバランス良く引き締まった体躯。対して自分の肉体的なピークは既に過ぎているし、そもそも彼の獲物は銃だ。魔法を唱えるよりも早く動ける。
「一つ聞きたいのですが、あなたはこの問題を根本的に解決する手段に心当たりがあるのかしら」
「無いこともないですが、それが長期的に見て良いのかどうか。トラブルの結果巻き込まれた俺達はもちろん、当麻兄妹を含めて少女たちも結局は来訪者であって、アヴァターの未来はそこで暮らす人たちに委ねられるべきだと思うんですよ。個人レベルだと良いと判断してなりふり構わずやるでも良いんでしょうけど、全宇宙の命運をバクチに委ねるよりは対処療法を積み重ねて未来に紡ぐやり方の方が最弱たる人間らしい在り方でしょう?」
前提として紡ぎ出される答えが本当に正しいかを理論的に検証する為には、同程度の知識を持つ他者が必要になる。彼は彼の提案を感情ではなく理性として良しとした。
「良いでしょう、それで改めて伺いたいのですが私の親友を蘇らせてあなたは何をしたいのかしら」
「それについては後のお楽しみということで」
私は今のやり取りを、彼らが立ち去った後に、義娘に話した私は、かつての自分の経験を踏まえて次のように忠告した。
「ジルベール・ジルベルトという人は何も無ければ、ごくごく普通のトラブルメーカーなのよ。ただ、何かを成そうとした瞬間に利益と損益を計算して割とみんなが妥協できそうな答えをはじき出してしまう。みんなが何となく最終的には得をするかなという感情を抱くのよ」
「私にはそれのどこが問題なのかわかりませんが?」
「例えばですけど、私の目の前にあるカップが割れたとしましょう。それが百年後に与える影響を答えなさいと質問したとき答えられる?」
その時の私が飲んでいたカップはスミレの絵付けがされた王都の職人の手によるもので、それなりに価値のあるものの、王室御用達のものには遠く及ばない。
「そんなの無理よ! じゃなくて無理です」
「だけど彼は何となく答えを出すのよ。『パラメーターをぶっ込んで、それなりに繰り返せば妥当な答えは出るんじゃないですか?』ってね。あれはもう異能のレベル。だからリリィああいうタイプの人は下手に取り込もうと考えちゃダメよ。あなたは何となくダメな男に弱い気がするから」
「わ、私は大河のことなんか」
「あら? 私は大河君の事なんて言って無いわよ」
「破滅の影響が消えてお義母様、ちょっと性格が良くなったんじゃないですか?」
「年頃の女の子が気になる男の行動に一喜一憂しているのが健全なのよ。私が望んだ世界はそういうものなの」
例え未来に不安があるとしても、少しずつ頑張ればいつか実を結ぶことの重要性を伝え続けるために私はこの地に舞い戻ったのだから。
side クレシーダ
「ジルベール殿、私はどういう理由でこの集まりに参加させられているのか理解できないのだが」
「反乱勢力との和解交渉に政府側の代表呼ばないとか無いでしょう。まあ承認だけしてもらえれば反乱勢力を鎮撫して破滅から世界を救った名君とか尾鰭が尽きまくって後世に残りますよ」
彼は当麻と同じく地球人なのだが、思考が
「クレシーダさんも知っているかもしれませんが、千年前の
伝説の魔法使いミュリエル・アイスバーグが来訪した時は敢えて考えないようにしていたが、1000年前の人物が何で三人も存在しているのだろうか。
「そういうことができない人間は救世主候補には相応しくないということですよ。俺でも条件が揃えば1000年単位で自己保存できますし」
「電子体幽霊で1000年も生きたら自我融合してしまうからダメではないか」
「都合の良いときに起きれば良いだけです。ほら数億年前の虫が水与えたら生命活動再開したようなもんでしょ」
「人間はそこまでシンプルじゃないのだが……まあいいか。クレシーダ・バーンフリートに問おう。私たちの間では既に妥協が成立する所まで詰めているが、一つだけ君の了承が必要だ。とある貴族の一族を奴隷に落とした上、モンスターの中に放置したい」
その貴族の一族がこの中の誰に関わりがあるのか。消去方で言えば破滅の首領を名乗るダウニー・リード。
「彼らは善良なのか、悪辣なのか」
「今は亡き先の領主は家族にとっては良き父であった。ただ領民に取ってはあまり良い領主でなかった。そして彼自身は罰せられることなく召された。私たちの論理で言えば親の罪を子が継がなければならないのはナンセンスであるが、彼は領主の地位を持ってしてそれを行っていた。ならばその罪は領主としての地位を受け継ぐべきではないのか」
「私からしてみれば、あなたのご先祖様の戦後処理が失敗だったと思うのよ。虐殺かさっさと同化政策に踏み切るか、異世界に追放すれば良かったのに」
クリスと呼ばれた女の意見は正しい。ただ人間は神ではない、私はもちろん、我が先祖も、その戦友たちも、あるいは破滅に協力したかつての民達すらその時の状況に応じて行動したに過ぎない。そして私の決定も正しいかどうかわからない。それでも時という名の水は流れ続ける。
「その者達を連れてくるが良い。既に証拠は挙がっている以上決定は覆られぬだろうが、人の問題は人が裁かねばならん。望む望まぬとして私は統治者だが、絶対的な君主ではないのでな」
初代が英雄であっても1000年も経過すれば権力も弱まる。永遠なんてあるはずがない。
「俺の予想通りこのお嬢さんは人間らしい選択をした。名君の最低条件は、曲げる事ができても法を曲げないことだと俺は思う。じゃあ答えが出たし俺の案で最終調整をするとしましょうか」
「ジルベルト殿の案とは?」
「最前線で戦ってもらいましょう。運良く生き残れば良しということで。ああ、別にそこを集中的に狙うなんてつまらないことはしませんよ。正々堂々とはいきませんが、それくらい酌量の余地があってもいいでしょう?」
さて、どこまで累を及ぼさせるか思案のしどころのようだ。しかし、死ねば罪はそこで償われるが、生き残れば今回の破滅の引き金を引いた者として社会的に死ぬだろう。ああ、いっそのことこうしろと命令して欲しいが、それは彼の性格からしてない。だが、私とて抗弁はしたい、女王ではなく、一人の人間として。
「確か私はお茶会の招待を受けてここに来たはずだが、なぜそれが世界の命運を決める話に飛躍したのか教えて欲しいのだが」
「部外者が提案する世界をローリスク、ローリターンで次世代に丸投げする話、『オペレーション岡目八目』なんて茶とケーキでもないと息詰まりますからね。時間があれば手作りの点心とかも用意して飲茶でも良かったんですが」
ただ一つだけわかったことがある。この男にとってしてみれば、世界を救う手間は、料理の準備をする手間と同レベルであり、それは当事者でないからこそできる余裕なのだと。
すまん、まだ見ぬ我が子孫よ。私は今の民と世界の命運を担うのだ。なるべき手助けするつもりだが、後は任せた。そのような捨て鉢な考えが脳裏に浮かび、ふと、偉大なる英傑女王もこんな感じで子孫に丸投げしたのかと思い、腑に落ちる気分だった。
レインさんが一度も出ずタイトルコールしかしてないですね。
召喚生活5日目終了。これが一番早いと思います。
佐藤さんでもバックアップを受けた主(覚醒大河や覚醒未亜)は無理ですが、それ以外なら引き分けに持ち込めます。ロベリアさんは骸骨を召喚してがんばりましたが、こっちはワンコを構築して対応。召喚物量戦における彼に対抗できる存在なんて、バチェラさんくらいなものです。空間移動ができるダウニー先生は、ラグがあるために感知系のジルベルトさんは相性がいいです。逆に言うと、純火力系の物理が苦手、つまり爆弾大好きなルビナスはとても相性が悪いです。彼女の出身がグラッケンブルグ辺りの出身で無いことを祈るばかりです。
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ところで真ルートは?